転移性脳腫瘍(brain metastasis、脳転移)とは?
- 脳腫瘍全体の15-25%。
- 40歳代から頻度が高くなり、特に50〜70歳代に多い。
- 原発巣としては、肺癌(半数)>大腸・直腸癌>乳癌>腎癌>胃癌。
- 前立腺癌が脳内に転移することは稀。
- 2~14%の脳転移は原発不明。
- 転移形式は血行性転移がほとんど。(脳にはリンパ組織が存在しない。)
- 欧米では悪性黒色腫、アジアでは肝細胞癌も多いと言われる(J Neurooncol 91:307-313,2009)。
- 予後不良で、無治療での生存期間中央値は1〜2ヶ月。全脳照射後の生存期間中央値は3〜6ヶ月。(J Neurol 249;1357-1369,2002)
- 初発症状は頭痛、嘔吐。占拠部位に関連する神経脱落症状。無症状(肺癌、悪性黒色腫など)のこともある(Rofo 180:143-147,2008)。
- 好発部位は、皮髄境界(髄質動脈が皮髄境界部で急激に細くなり、腫瘍細胞が狭小化部分にトラップされやすいため)。MCA領域(脳灌流領域が最も広いため)。脳白質病変の存在下では脳転移が発生しづらいことが知られており、これは硬変肝に肝転移が生じにくいことと共通している。
- 前頭葉(31.3%)、小脳(24.6%)、頭頂葉(15.0%)、側頭葉(10.7%)、後頭葉(10.4%)の順で脳転移の頻度が高い領域である。(このため小胞はサイズの割に転移の頻度が高いことがわかる。)
- 皮膚癌の転移はほとんどがテント上に生じる。
- 乳癌の転移は後方循環系の支配域に高い親和性を示す。
- 悪性黒色腫は脳実質内の既存の血管を引き込むため血管周囲に転移しやすいのに対し、肺癌細胞は血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)を介し血管新生を行う傾向が知られている。
- 治療方針は十分に確立されていない。
- 3cm未満、4個以下→定位放射線治療+全脳照射>定位放射線治療。
- 15個以上でも定位放射線治療の適応ありとの報告あり。
- 単発ならば手術+定位放射線治療の選択肢もあり。
転移性脳腫瘍の原発巣として、頻度の多い組み合わせを一つ選べ。
- 肺癌、肝癌、膵癌、子宮頸癌
- 前立腺癌、膵癌、胆嚢癌、悪性黒色腫
- 肺癌、大腸・直腸癌、乳癌、腎癌
正解!
不正解...
正解は肺癌、大腸・直腸癌、乳癌、腎癌です。
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転移性脳腫瘍の好発部位として正しいものは?
- 大脳白質
- 皮髄境界
正解!
不正解...
正解は皮髄境界です。
髄質動脈が皮髄境界部で急激に細くなり、腫瘍細胞が狭小化部分にトラップされやすいため、転移性脳腫瘍は皮髄境界に好発する。
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転移性脳腫瘍のMRI画像所見
- T1強調像で低信号、T2強調像で高信号。
- 周囲への浸潤傾向のため、辺縁はしばしば不明瞭。
- 周囲には広範な浮腫(血管性浮腫)を伴う。ただし、伴わないこともある。
- 中心壊死を反映し、DWIで低信号、ADCで高信号。
- FLAIR像での異常信号が近接する皮質に及びにくい。及ぶ場合は、神経膠腫の方がより疑われる。
- 造影では、内部は壊死、液状変性、出血などにより不均一で、リング状増強効果。小さなものはしばしば点状、結節状に造影される。
症例 画像で学ぶ転移性脳腫瘍
▶キー画像
MRIのT2WIで右の前頭葉に高信号腫瘤複数あり。周囲に浮腫性変化あり。左にもあり。
T1WI造影にて脾髄境界にリング状に造影される結節が明瞭化されます。
典型的な転移性脳腫瘍の所見です。
非典型な転移性脳腫瘍
- T1WIで高信号
- T2WIで低信号
- DWIで高信号、ADC信号低下
- 石灰化を有する転移
- 嚢胞を有する転移
- 稀な部位への転移
- 髄膜転移① 硬膜転移
- 髄膜転移② 軟髄膜転移(癌性髄膜炎)
にわけてそれぞれ見ていきます。
転移性脳腫瘍の非典型的な信号パターン(T1WIで高信号)
- メラニンを含有する悪性黒色腫。メラニンが常磁性体であるため。ただし含有量少なければ等〜低信号(Radiographics 21:625-639,2001)。出血を来すこともある。CTで高吸収となる。
- 出血しやすい腫瘍。腎癌、肝癌、甲状腺癌、悪性黒色腫、絨毛癌などの富血管性なもの、肺癌。T1強調像で高信号、T2強調像やT2*強調像で低信号。
- 原発性脳腫瘍でもグリオーマなどで腫瘍内出血をきたすことがある。
- 脳実質内出血との鑑別としては、さまざまな時期の出血を反映し内部不均一、血腫の吸収過程が遅延、造影効果を有する実質部分あり、といった特徴あり。
- 他、高蛋白、石灰化を伴うもの。
転移性脳腫瘍の非典型的な信号パターン(T2WIで低信号)
- 出血、石灰化、高い細胞密度、高い核・細胞質比、豊富な線維性間質、高蛋白、flow voidを含むもの。
- 高蛋白なものとしては、結腸癌などのムチン産生腫瘍。コロイド産生腫瘍である甲状腺癌。T2強調像で低信号が目立つ場合がある。(Neurol Med Chir 46:302-305,2006)
- 転移巣自体のT2緩和時間短縮効果を呈するものとしては、腺癌(肺癌、乳癌、消化器癌)。
転移性脳腫瘍の非典型的な信号パターン(DWIで高信号、ADC信号低下)
- 肺小細胞癌などの細胞密度の高い病変。
- 担癌患者の場合非細菌性血栓性心内膜炎に伴う脳梗塞に注意。
- 一般に、高分化腺癌ではDWI低、ADC高で、低分化腺癌や小細胞癌で逆となる。
症例 60歳代女性 肺小細胞癌
右後頭葉にDWI高信号、ADC低値の腫瘤あり。
肺小細胞癌の転移に矛盾しない所見です。
症例 60代女性 肺小細胞癌
右側頭葉皮質下にDWI高信号の腫瘤を認めている。
肺小細胞癌の転移に矛盾しない所見です。
石灰化を有する転移
- 以前は脳転移における石灰化の発生が稀だとみなされていたが、2021年の研究で、脳転移のうち少なくとも9.5%に石灰化が存在することが明らかにされた。この研究では、Rebellaらが190件の脳転移症例のCTスキャンを分析し、そのうち34件(17.9%)で石灰化(>85HU)が確認され、18件(9.5%)は放射線治療を受けていない状態であった。
- 原発巣は肺腺癌(56%)>浸潤性乳管癌(20%)>肺小細胞癌(11.8%)>大細胞神経内分泌癌(large cell neuroendocrine carcinoma:LCNEC)・扁平上皮癌・卵巣粘液癌・Li-Fraumeni症候群(各2.9%)であった。Li-Fraumeni症候群の症例については乳癌・肺癌・胃癌の三重癌があり、原発巣の特定に至ってない。
- 石灰化を示した34例の脳転移症例の中で、原発巣にも石灰化が見られたのは3例に過ぎず、多くの症例では原発巣に石灰化が見られないことが報告されている。
嚢胞を有する転移
- 肺癌と乳癌の脳転移で嚢胞が見られるという報告が多いが母数が多いためと考えられる。
- 乳癌ではトリプルネガティブ乳癌は、嚢胞性や壊死性の転移を形成する傾向があることが知られている。
- 肺癌による脳転移が嚢胞性である場合、EGFRの変異やALKの陽性率が高い(77%)ことが知られている。
転移性脳腫瘍の非典型的な信号パターン(稀な部位への転移)
- 松果体部への転移は稀(0.3%)(J Clin Neurosci 12:691-693,2005)。原発巣としては、肺癌、乳癌、食道癌、胃癌など。症状は、頭痛、Parinoud症状、水頭症など、無症状のことも。
- 下垂体への転移も稀(下垂体腫瘤の1%)。(J Clin Endocrinol Metab 84:3859-3866,1999)後葉が50%、前葉と後葉が34%、前葉が15%。(Neurochirurgia(Stuttg)33:127-131,1990)男性は肺癌、女性は乳癌が多い。後葉への転移では一般に中枢性尿崩症を呈する。下垂体腺腫との鑑別は困難。転移では下垂体柄の腫大と増強効果や浸潤性の発育が見られる。(J Neurosurg 89:69-73,1998)
転移性脳腫瘍の非典型的な信号パターン(髄膜転移① 硬膜転移)
- 頭蓋内への転移のうち1%以下。進行癌患者の9%に起こる。
- 原発巣としては、乳癌、前立腺癌、肺癌、頭頚部癌に多い。
- 頭蓋骨転移からの浸潤>血行性転移。つまり、一見硬膜転移と見えても、頭蓋骨転移の硬膜浸潤である場合が多い。
- 孤立性、多発性、びまん性など多彩。
- 硬膜転移は髄膜腫とは鑑別困難なことも多い。
硬膜優位に造影効果を認めるDAパターンで、頭蓋骨や大脳鎌、小脳テント表面に沿った弓状直線状の造影効果を示します。
症例1 70歳代女性 乳癌、硬膜転移・骨転移
→骨転移からの浸潤が疑われる。
症例2 60歳代女性 肺小細胞癌硬膜転移
矢状断像においても硬膜の不整な肥厚及び造影効果を認めています。
硬膜転移を疑う所見です。
▶動画でチェックする。
転移性脳腫瘍の非典型的な信号パターン(髄膜転移② 軟髄膜転移(癌性髄膜炎))
- 軟髄膜転移(leptomeningeal metastasis)は担癌患者の5〜8%に起こる。
- 転移性脳腫瘍の10%前後に認められる。
- 癌性髄膜炎(meningitis carcinomatosa)とも言われる。
- 血行性転移、頭蓋内腫瘍からの播種、頭頚部癌からの脳神経に沿った直接浸潤を呈する。
- 原発巣としては、悪性黒色腫>肺癌>乳癌>胃癌、頭頚部癌、急性リンパ球性白血病など。
- 多くは交通性水頭症を伴い、頭痛など頭蓋内圧亢進症状を生じる。
- 軟膜下の血管周囲腔から脳内に進展して、脳転移を起こすこともある。
- 白血病や悪性リンパ腫では、脳神経への浸潤を起こすことあり。
- MRIでは、FLAIR像で脳溝に沿った高信号、造影T1強調像で脳表や脳神経に沿った結節状、線状の増強効果が見られる。
- 原発巣に特異的な診断は難しいことがほとんどであるが、単純CTで高吸収・T1強調像で強い高信号・T2強調像で低信号は、出血が除外されればメラニンを示唆する組み合わせ。
- 下垂体柄、内耳道内、脳神経の増強効果もチェックが必要。
- 脳幹部の造影されない軟髄膜転移は肺腺癌で頻度が高い。
軟髄膜優位に造影効果を認めPSパターンと呼ばれるタイプです。
硬膜ではなくて、脳溝や脳底部の脳槽を縁取る造影効果を示します。
症例 70歳代女性 肺癌
軟髄膜に沿った異常造影効果、微小結節あり。
癌性髄膜炎を疑う所見です。
症例 50歳代女性 肺癌
軟髄膜に沿った異常造影効果を示す結節あり。
症例 60歳代男性 肺癌
脳表の軟膜に沿った異常造影効果あり。脳表の軟膜に沿った異常造影効果あり。
脳表の軟膜に沿った異常造影効果あり。癌性髄膜炎を疑う所見です。
転移性脳腫瘍と膠芽腫の鑑別
- 特に単発のときはしばしば困難。
- ともにリング状増強効果を示すが、より不整なのが膠芽腫。
- より浮腫が強いのが膠芽腫。ただし転移も結構強い。
- gliomaでは時にT1WIで周囲の白質が高信号になることがある。
- 転移では、T2WIで壊死巣が低信号を呈することがある(腺癌など)
参考文献)
- 画像診断 vol.43 No.13 2023 P1219-29
- 画像診断 vol.30 No.2 2010 P140-147
- 画像診断 vol.31 No.8 2011 P766-774
肺癌(半数)>大腸・直腸癌>乳癌>腎癌の順に頻度が高いことが知られている。