心臓・心膜腫瘍 場所と性状で見分ける

心臓腫瘍とは、心臓や心膜にできる腫瘍の総称で、心臓から生じる原発性はまれで、ほかの臓器のがんからの転移のほうが多い病気です。心臓に腫瘤が見つかったとき、実際には腫瘍より血栓や疣贅のほうがよくあります。研修医のハジメくんと一緒に、「場所」「性状」「年齢と背景」の3つで、粘液腫・血栓・血管肉腫・小児の腫瘍を見分ける手順を整理します。

先に結論

  1. 心臓腫瘍とは心臓・心膜にできる腫瘍で、原発性はまれ。剖検では転移のほうが多い。心臓の腫瘤でいちばん多いのは血栓と疣贅。
  2. 種類は場所(左房の卵円窩=粘液腫、右房=血管肉腫・転移・カテーテル血栓、弁=乳頭状線維弾性腫、小児の心室=横紋筋腫・線維腫)と性状で絞る。
  3. まず血栓かどうかを確かめる。血栓は造影されず、MRIの遅延造影で長い反転時間にすると黒い。大きい・不均一・浸潤・血性の心嚢液は悪性を疑う。確定は組織。

目的から読む: 心臓腫瘍とは / 場所で絞る(好発部位) / 粘液腫のCT・MRI / 悪性を疑う所見(血管肉腫・転移) / 血栓との見分け方 / 心エコー・CT・MRI・PET-CT / 読影のチェックリスト

心臓の腫瘤の早見表

項目 ポイント
頻度 原発性心臓腫瘍はまれで、剖検では転移性のほうが多い(Aggeli 2020)
最多の良性腫瘍 粘液腫。左房の心房中隔(卵円窩)から茎で付く像が典型(Hrabak-Paar 2024)
悪性を疑う所見 大きい、内部が不均一、周囲への浸潤、早期の造影、血性の心嚢液(Aggeli 2020、Hrabak-Paar 2024)
血栓との区別 血栓は通常造影されない。MRIの遅延造影で長い反転時間を使うと黒く見える(Hrabak-Paar 2024)
確定診断 組織検査。画像は種類の推定と広がりの評価(Bussani 2020)

心臓腫瘍とは? 心臓の「腫瘤」に含まれるもの

心臓の腫瘤(cardiac mass)は、心腔の中や心膜に接して場所をとる病変の総称です。腫瘍のほかに、血栓・疣贅・石灰化など腫瘍に似た病変も含みます。腫瘍は「心臓から生じた原発性(良性・悪性)」と「ほかの臓器からの転移性」に分けます(Aggeli 2020)。

ハジメハジメ(研修医)
先生、心エコーで左房に腫瘤があると言われた患者さんです。心臓の腫瘍って、やっぱりがんなんですか?
ごろ〜ごろ〜(指導医)
その前に、ひとつ聞きます。心臓の中に「何かある」と言われたとき、いちばん多いのは何だと思いますか?
ハジメハジメ(研修医)
腫瘤というくらいだから…腫瘍ですよね?
ごろ〜ごろ〜(指導医)
じつは血栓と疣贅(ゆうぜい)です。心房細動・僧帽弁狭窄・心筋梗塞のあとの血栓や、感染性心内膜炎の疣贅のほうが、腫瘍よりずっとよく見つかります。腫瘍の中でも、手術で取られる原発性のものは大半が良性です。「腫瘤=がん」と短絡しないことが出発点です。
図1 心臓の腫瘤の内訳 心臓の腫瘤は血栓・疣贅がもっとも多く、腫瘍では手術例の約9割が良性でその8割が粘液腫です。剖検では転移が原発の約20倍みられます。
図1 心臓の腫瘤の内訳 心臓の腫瘤は血栓・疣贅がもっとも多く、腫瘍では手術例の約9割が良性でその8割が粘液腫です。剖検では転移が原発の約20倍みられます。

最も多いのは、心房細動・僧帽弁狭窄・心筋梗塞に伴う血栓や、感染性心内膜炎に伴う疣贅です(Aggeli 2020)。腫瘍としては、次のように整理できます(Aggeli 2020)。

分類 内容
原発性・良性 手術で取り出された原発性腫瘍の約90%は良性で、そのうち粘液腫が80%。残りは乳頭状線維弾性腫、線維腫、脂肪腫など
原発性・悪性 手術例の約10%。多くは肉腫かリンパ腫
転移性 剖検では心臓腫瘍の多くが転移。原発性との比は約20対1。乳癌や肺癌の直接浸潤、血行性・リンパ行性の転移がある

転移の頻度は、心臓以外に悪性腫瘍がある人の剖検で2.3〜18.3%と報告に幅があります(Aggeli 2020)。がんの既往がある人の心臓の腫瘤は、まず転移や、カテーテルに伴う血栓を考えます。

心臓腫瘍の症状と、見分ける3つの手がかり

症状は腫瘍の組織型より、できた場所で決まります。多くは無症状か軽い症状で、ほかの目的の検査で偶然見つかります。見分けるときは「場所」「性状」「年齢と背景」の3つを使います(Aggeli 2020)。

ハジメハジメ(研修医)
症状がないなら、急ぐ必要はないですよね?
ごろ〜ごろ〜(指導医)
そこが落とし穴です。動く腫瘤は、ちぎれて飛べば塞栓症になりますし、弁の口をふさげば失神の原因にもなります。症状の有無より、「何がどこにあるか」を先に決めましょう。

心不全症状、胸痛、失神、不整脈のほか、塞栓症は心臓腫瘍の患者の約4分の1に起こります(Aggeli 2020)。

手がかり 見ること 例
場所 どの心腔・弁・心膜か。どこに付着しているか 左房の中隔側なら粘液腫、右房なら血管肉腫や転移・カテーテル血栓、弁なら乳頭状線維弾性腫
性状 形・茎・可動性・石灰化・脂肪・造影効果 茎があり動く→粘液腫。造影されない→血栓。脂肪濃度→脂肪腫
年齢・背景 小児か成人か、がんの既往、カテーテルや人工物、心房細動・梗塞 小児なら横紋筋腫・線維腫。がんの既往なら転移や血栓

場所で絞る:心臓腫瘍の好発部位

腫瘍には好発部位があります。粘液腫は左房、血管肉腫は右房、横紋筋腫と線維腫は心室、乳頭状線維弾性腫は弁に多く、転移は下大静脈を伝って右房に進む例が多いとされます(Aggeli 2020)。

ハジメハジメ(研修医)
左房の腫瘤なら、粘液腫と決めてしまっていいですか?
ごろ〜ごろ〜(指導医)
左房は粘液腫の指定席ですが、肉腫も左房に多いので、手術の前に粘液腫と間違えられることがあります。場所は「候補を並べる」道具で、決め手は性状です。付着しているのが卵円窩か、茎があるか、まわりにしみ込んでいないかまで見ます。
図2 心臓腫瘍の好発部位 四腔の心臓に、粘液腫は左房の卵円窩、血管肉腫と転移は右房、横紋筋腫と線維腫は心室、乳頭状線維弾性腫は弁、と好発部位を書き込んだ図です。
図2 心臓腫瘍の好発部位 四腔の心臓に、粘液腫は左房の卵円窩、血管肉腫と転移は右房、横紋筋腫と線維腫は心室、乳頭状線維弾性腫は弁、と好発部位を書き込んだ図です。

粘液腫は左房に多く、肉腫も左房に多いため、術前に粘液腫と間違えられることがあります。血管肉腫は右房に多く、横紋筋腫と線維腫は心室、乳頭状線維弾性腫は弁に生じます。転移性腫瘍はどこにでもできますが、下大静脈を伝って右房に進む例が多いです(Aggeli 2020)。

小児の腫瘍

小児では横紋筋腫が最も多く、次が粘液腫・線維腫とされます(Aggeli 2020)。18歳以下の78例の多施設報告(組織診断または結節性硬化症の診断あり)では、線維腫が最も多く(30例)、次が横紋筋腫(14例)、悪性腫瘍(12例)でした。MRIを盲検で読んだ医師の診断は97%で組織診断と一致しましたが、鑑別診断を併記した例も42%あり、悪性を画像だけでは確定的に除外できない例がありました(Beroukhim 2011)。

ハジメハジメ(研修医)
小児で横紋筋腫がいちばん多いのに、MRIの多施設報告では線維腫のほうが多いんですね。
ごろ〜ごろ〜(指導医)
よく気づきました。その報告は組織診断か結節性硬化症の診断がある例だけを集めているので、全体の頻度とは違う集団です。数字は「どんな人を集めたか」と一緒に読みましょう。心室の壁の中の腫瘍を見たら、結節性硬化症の有無も確認します。

粘液腫のCT・MRI所見:卵円窩に茎で付き、動く

粘液腫は左房の心房中隔、とくに卵円窩から茎で付く可動性の腫瘤が典型です。CTでは血液よりやや低い濃度で、ときに石灰化があり、造影効果はわずかで不均一です(Hrabak-Paar 2024)。

ハジメハジメ(研修医)
造影CTで左房の中が黒く抜けていて、ほとんど染まっていません。染まらないなら血栓ですか?
ごろ〜ごろ〜(指導医)
粘液腫も、動脈相では「造影欠損」に見えて、あとの時相でわずかにまだらに染まる程度です。そこで見るのは付け根です。卵円窩から茎でぶら下がって、心臓が広がるときに僧帽弁のほうへ入り込むなら、粘液腫らしい動きです。
図3 粘液腫の動き 四腔像で、卵円窩から茎で付く左房の粘液腫が、収縮期は左房にとどまり、拡張期には僧帽弁を越えて左室へ入り込むようすを2つ並べた断面図です。
図3 粘液腫の動き 四腔像で、卵円窩から茎で付く左房の粘液腫が、収縮期は左房にとどまり、拡張期には僧帽弁を越えて左室へ入り込むようすを2つ並べた断面図です。

粘液腫

心エコーでは、粘液腫の75〜80%が左房の可動性のある腫瘤として見え、心房中隔(卵円窩)から茎で付着しています。約15〜20%は右房に生じ、弁や心室に生じるものはまれです(Hrabak-Paar 2024)。CTでは、造影前に血液よりやや低い濃度で、10〜30%に出血に伴う石灰化があり、右心系の粘液腫のほうが石灰化は目立ちます(Hrabak-Paar 2024)。MRIでは、初期造影が乏しく、あとから不均一に造影される傾向があります(Hrabak-Paar 2024)。粘液腫の詳しい画像は心臓粘液腫とは?CT画像診断のポイントは?にまとめています。

症例 左房粘液腫(CT)

左房粘液腫 心臓CT 単純・動脈相・静脈相
引用:Hrabak-Paar M, et al. Rev Cardiovasc Med. 2024;25(6):204(Figure 2)、CC BY 4.0(図は加工していません)

  • 単純CT(A):腫瘤(M)は血液よりやや低濃度です。
  • 動脈相(B):心房中隔に付着する大きな左房の造影欠損として見え、拡張期に僧帽弁へ嵌り込んでいます。
  • 静脈相(C):わずかに不均一な造影効果があります。
マルオマルオ(技師)
撮る側からひとことです!心臓の腫瘤は、息止めと心電図同期で撮ります。まず単純CTで石灰化と造影前のCT値を見て、造影は動脈相に加えて、右心系がよく染まる遅めの時相も撮ります。弁を越える動きまで見たいときは心周期全体を撮る方法もありますが、被ばくがかなり増えるので、依頼に「何を見たいか」を書いてもらえると助かります!(Hrabak-Paar 2024)

悪性を疑う所見:血管肉腫と転移

大きい、内部が不均一、まわりへしみ込む(浸潤)、早い時相から造影される、血性の心嚢液を伴う、という所見は悪性を疑う手がかりです(Aggeli 2020、Hrabak-Paar 2024)。原発性の悪性腫瘍で最も多いのは血管肉腫で、右心系に多い腫瘍です。

ハジメハジメ(研修医)
右房に腫瘤があって、心嚢液もたまっています。心嚢液はよくある所見なので、腫瘤とは別に考えていいですか?
ごろ〜ごろ〜(指導医)
ここはつなげて考えます。心臓の腫瘤に血性の心嚢液が一緒にあれば、悪性を強く疑う手がかりになります。腫瘤の付け根が広く、壁や心膜にしみ込んでいないかも見てください。
図4 良性と悪性を疑う形 小さく均一で茎があり境界がはっきりした良性の形と、大きく不均一で広い基部から壁と心膜にしみ込み心嚢液を伴う悪性の形を並べた断面図です。
図4 良性と悪性を疑う形 小さく均一で茎があり境界がはっきりした良性の形と、大きく不均一で広い基部から壁と心膜にしみ込み心嚢液を伴う悪性の形を並べた断面図です。

血管肉腫と転移

血管肉腫は原発性の心臓悪性腫瘍で最も多く、右心系に多い腫瘍です。内部の不均一さ、隣接構造への浸潤、心嚢液を伴うことがあり、心臓の腫瘤に血性の心嚢液を伴えば悪性が強く疑われます(Hrabak-Paar 2024)。PET-CTは悪性腫瘍の代謝活動を調べるのに使えます。FDGの集積がなければ、多くの場合で悪性は除外できます。ただし炎症、感染、手術や放射線治療後の変化、褐色脂肪でも偽陽性があります(Aggeli 2020)。心筋の生理的な取り込みを抑えるため検査前の食事の準備が要り、具体的な方法は検査施設の手順に従います。

心臓血管肉腫の画像は心臓血管肉腫とは?で症例と合わせて見られます。

血栓との見分け方:腫瘍ではない腫瘤と正常構造

心臓の腫瘤でいちばん大切な区別は、血栓かどうかです。血栓は抗凝固療法の対象で、腫瘍とは対応が違います。血栓は茎のない広い基部で付き、造影されません(Hrabak-Paar 2024)。

ハジメハジメ(研修医)
血栓と粘液腫は、どちらも左房にあって、どちらもあまり染まらないんですよね。どこで分ければいいですか?
ごろ〜ごろ〜(指導医)
いい質問です。血栓が好むのは左心耳や左房の後ろの壁、梗塞後の左室心尖部、カテーテルの入った右房です。付き方は茎がなくべたっと広く、ほとんど動きません。そして血管がないので、ふつうは内部が染まりません(器質化した古い血栓では、ふちがわずかに染まることがあります)。粘液腫の「わずかにまだら」とは、染まり方の質が違います。
図5 血栓と粘液腫の比べ方 左心耳に広い基部で付き造影されない血栓と、卵円窩に茎で付きわずかにまだらに染まる粘液腫を、付き方・動き・造影効果の3点で比べた図です。
図5 血栓と粘液腫の比べ方 左心耳に広い基部で付き造影されない血栓と、卵円窩に茎で付きわずかにまだらに染まる粘液腫を、付き方・動き・造影効果の3点で比べた図です。
項目 血栓 粘液腫
好発部位 左心耳、左房後壁、梗塞後の左室心尖部、カテーテル・ペースメーカーのある右房 左房の卵円窩
付着の仕方 茎がなく広い基部(sessile) 茎で付く
可動性 少ない 大きく動き、弁を塞ぐことがある
造影効果 血管がなく通常は造影されない わずかにまだらに造影される
背景 心房細動、僧帽弁疾患、心筋梗塞 特になし

(Hrabak-Paar 2024をもとに作成)

ハジメハジメ(研修医)
MRIの遅延造影なら、染まらない血栓は黒くなるから一目でわかりますね。
マサマサ(技師)
……ふつうの遅延造影の反転時間だと、心筋を黒くする設定なので、血栓との差が出にくいんですよね。反転時間をうんと長くして、1.5テスラで600ミリ秒くらい、3テスラだと875ミリ秒くらいにすると、血管のない血栓だけが黒く残ります。造影剤が入らないものだけが黒くなる、というわけです。(Hrabak-Paar 2024)
ごろ〜ごろ〜(指導医)
ありがとうございます。腫瘍のように血管のある組織は、同じ設定で灰色から白に見えます。「長い反転時間で黒いか」を確かめてから血栓と言いましょう。遅延造影の基本は心臓MRIの遅延造影(LGE)とはで、心筋梗塞・心筋症のパターンと合わせて確認できます。
図6 反転時間で変わる血栓の見え方 ふつうの反転時間では心筋が黒く、長い反転時間(1.5テスラで約600ミリ秒)では血管のない血栓だけが黒く、腫瘍は灰色から白に見えるしくみ図です。
図6 反転時間で変わる血栓の見え方 ふつうの反転時間では心筋が黒く、長い反転時間(1.5テスラで約600ミリ秒)では血管のない血栓だけが黒く、腫瘍は灰色から白に見えるしくみ図です。

MRIの遅延造影では、血栓は反転時間を長くすると黒く見えます(1.5テスラで約600ミリ秒など)。腫瘍のように血管のある組織は灰色から白に見えます(Hrabak-Paar 2024)。この方法で、がん患者の心臓の腫瘤を腫瘍(造影される)と血栓(造影されない)に分けた研究では、血栓の78%が右房にあり、18例中17例は中心静脈カテーテルに関連していました。腫瘍のある人は血栓のある人より死亡の危険が高く、ハザード比3.13でした(Chan 2017)。

症例 左心耳血栓(CT・MRI)

左心耳血栓 造影CT SSFP 遅延造影MRI
引用:Hrabak-Paar M, et al. Rev Cardiovasc Med. 2024;25(6):204(Figure 15)、CC BY 4.0(図は加工していません)

  • 造影CT(A):拡張した左心耳に血栓(矢印)があります。血栓の典型的な位置です。
  • 2腔像のSSFP(B):同じ血栓を確認できます。
  • 位相感受性反転回復法の遅延造影像(C):血栓は血管がなく黒く見えます。
ハジメハジメ(研修医)
右房の壁に小さな出っぱりがありました。これも腫瘍を疑って報告していいですか?
ごろ〜ごろ〜(指導医)
報告の前に、正常構造かどうかを確かめます。右房には分界稜、左房には左心耳と左上肺静脈のあいだのひだ(coumadin ridge)があって、どちらも腫瘤に見えることがあります。心房中隔が脂肪で厚くなったものや、僧帽弁輪の石灰化も腫瘍とまぎれます。各心腔・心耳の位置は心臓CTの正常解剖で確かめられます。
図7 腫瘍とまぎれる正常構造 四腔像に、右房の分界稜、左心耳と左上肺静脈のあいだのひだ、卵円窩を避けてダンベル型に厚くなる心房中隔の脂肪腫様肥厚を書き込んだ図です。
図7 腫瘍とまぎれる正常構造 四腔像に、右房の分界稜、左心耳と左上肺静脈のあいだのひだ、卵円窩を避けてダンベル型に厚くなる心房中隔の脂肪腫様肥厚を書き込んだ図です。

ほかに、腫瘍と間違えやすいものを次に示します(Hrabak-Paar 2024)。

病変 見分けるポイント
左房のcoumadin ridge 左心耳と左上肺静脈の間にある、左房壁のひだ(正常構造)
右房の分界稜(crista terminalis) 上大静脈から下大静脈の開口部の間を走る筋性の隆起(正常構造)
僧帽弁輪の乾酪性石灰化 後部の僧帽弁輪にある楕円〜半円状の腫瘤。辺縁が石灰化し、内部は高濃度で造影されない
脂肪腫・心房中隔の脂肪腫様肥厚 CTで脂肪濃度、MRIでT1・T2とも高信号で脂肪抑制で信号が落ちる。肥厚は心房中隔に生じ、卵円窩を避けるダンベル型
血管腫 T2で高信号。早期に辺縁の結節状の造影があり、遅れて中が埋まる
乳頭状線維弾性腫 小さく、弁に付着。粘液腫より均一に造影される

心エコー・CT・MRI・PET-CTの役割

最初は経胸壁心エコーで形・位置・動きを見て、小さく動く腫瘤や弁の病変は経食道心エコー、性状はCTとMRI、悪性の疑いと全身の広がりはPET-CTで評価します(Aggeli 2020、Shah 2010)。

ハジメハジメ(研修医)
MRIがいちばん性状がわかるなら、最初からMRIだけ撮ればいいですか?
ごろ〜ごろ〜(指導医)
MRIは得意・不得意がはっきりしています。脂肪や血液成分、血栓との区別は得意ですが、石灰化には弱く、小さくて速く動く腫瘤は見逃すことがあります。石灰化はCT、動きはエコー、と道具を組み合わせて考えます。
図8 検査の進め方 経胸壁心エコーで見つけ、小さく動く腫瘤や弁の病変は経食道心エコー、性状はCT・MRI、悪性の疑いはPET-CT、最後に組織で確かめる流れ図です。
図8 検査の進め方 経胸壁心エコーで見つけ、小さく動く腫瘤や弁の病変は経食道心エコー、性状はCT・MRI、悪性の疑いはPET-CT、最後に組織で確かめる流れ図です。
検査 得意なこと 苦手なこと
経胸壁心エコー 形・位置・可動性・血行動態への影響。最初に行う 視野が狭く、組織の性状評価が難しい。音響窓の影響を受ける
経食道心エコー 小さく動く腫瘤、弁の病変、心房腫瘍と周囲の関係 侵襲がある
CT 石灰化、脂肪、血管、全身の病期評価、人工弁近傍の腫瘤 被ばくと造影剤。軟部組織の性状はMRIに劣る
MRI 組織の性状(脂肪・浮腫・血液成分)、血栓との区別、浸潤の範囲 石灰化に弱く、小さく動く腫瘤を見逃すことがある。撮影時間が長い
PET-CT 悪性か良性かの代謝評価、全身の転移の検索 炎症・感染・褐色脂肪で偽陽性

(Aggeli 2020、Shah 2010をもとに作成)

MRIでは、T1で等〜低信号、T2で高信号を示すものが良性・悪性腫瘍の多くを占めます。T1が高信号でT2が低信号なら悪性黒色腫の転移を考え、T1高信号は脂肪腫でも見られます(Aggeli 2020)。悪性を示す指標としては、腫瘍の大きさ、信号の不均一さ、局所への浸潤、初期の造影増強が最も信頼できるとされます(Aggeli 2020)。MRIは、本物の腫瘤と偽腫瘤(pseudomass)の区別、腫瘍と血栓・脂肪腫様肥厚の区別にも役立ちます(Shah 2010)。

最終診断は組織検査です。画像だけで診断できる例が増えましたが、診断が難しい場面では病理が欠かせません(Bussani 2020)。

心臓MRIの基本断面(短軸・四腔・二腔)と撮り方は心臓MRIの見方で確かめられます。

心膜の腫瘍

心膜の腫瘍もまれで、心膜から生じるものと、ほかから転移して心膜に及ぶものがあります。鑑別の範囲を知っておくことが速い診断につながります(Maleszewski 2017)。

心膜嚢胞は右心横隔膜角に好発する良性の嚢胞で、心膜嚢胞のCT・MRI画像所見にまとめています。心膜への転移は心膜転移(転移性心膜腫瘍)の画像診断で整理しています。

心臓の腫瘤の読影チェックリスト

位置と付着部→茎・動き・石灰化・脂肪→造影の有無(血栓か)→正常構造との区別→背景→悪性の手がかり、の順に確かめます。

ごろ〜ごろ〜(指導医)
ハジメくん、最初の左房の腫瘤、もう一度読んでみてください。
ハジメハジメ(研修医)
左房の卵円窩に茎で付いていて、拡張期に僧帽弁のほうへ動く。造影はわずかにまだら。心房細動はなし…粘液腫を第一に考えて、血栓は否定的、ですね。
ごろ〜ごろ〜(指導医)
そのとおりです。どれも「手がかり」で、最後は組織で決まります。迷うときは「血栓との区別にMRIの遅延造影を」と次の検査まで書いておきましょう。
図9 心臓の腫瘤を読む順番 位置と付着部、茎と動き、造影されるか、正常構造ではないか、心房細動やカテーテルなどの背景、浸潤や心嚢液の有無を順に確かめる流れ図です。
図9 心臓の腫瘤を読む順番 位置と付着部、茎と動き、造影されるか、正常構造ではないか、心房細動やカテーテルなどの背景、浸潤や心嚢液の有無を順に確かめる流れ図です。
  • 腫瘤の位置(心腔・弁・心膜)と付着部を言葉にした
  • 茎の有無、可動性、石灰化、脂肪を確認した
  • 造影の有無を確認し、血栓の可能性を検討した(造影されなければ血栓や乾酪性石灰化)
  • 左心耳、coumadin ridge、分界稜など正常構造との区別をした
  • カテーテルやペースメーカー、心房細動、心筋梗塞、がんの既往を確認した
  • 浸潤、心嚢液(血性か)、転移の有無を評価した
  • 小児では横紋筋腫・線維腫を考え、結節性硬化症の有無を確認した

よくある勘違い

Q. 心臓の腫瘍と言われたら、がん?

いいえ。手術で取り出される原発性の心臓腫瘍は約90%が良性です(Aggeli 2020)。ただし剖検では、ほかの臓器のがんの転移のほうが多く見つかります。がんの既往がある人では、転移とカテーテルに伴う血栓を先に考えます。

Q. 造影されない左房の腫瘤は、すべて血栓?

粘液腫も動脈相では造影欠損に見え、あとの時相でわずかにまだらに染まる程度です(Hrabak-Paar 2024)。付着部(卵円窩・茎)と動きを見て、迷えばMRIの長い反転時間の遅延造影で、黒く残るかを確かめます。

Q. 症状がなく画像で良性らしければ、組織までは要らない?

症状がなくても、塞栓症や弁を塞ぐ危険があるため、腫瘤の種類を確かめます(Aggeli 2020)。画像で多くは推定できますが、確定は組織検査で(Bussani 2020)、小児のMRIでも悪性を画像だけで確実に除外できない例がありました(Beroukhim 2011)。

今日のまとめ

  1. 心臓の腫瘤で多いのは血栓と疣贅。腫瘍では原発性はまれで、剖検では転移が多い。
  2. 場所で候補を並べ(卵円窩=粘液腫、右房=血管肉腫・転移・カテーテル血栓、弁=乳頭状線維弾性腫)、性状(茎・動き・造影)で絞る。
  3. 造影されなければ血栓を考え、長い反転時間の遅延造影で確かめる。大きい・不均一・浸潤・血性心嚢液は悪性を疑い、確定は組織。

根拠(もう少し詳しく)

  • 小児の心臓腫瘍のMRI(Beroukhim 2011):15施設・4か国から集めた18歳以下の78例。内訳は線維腫30例、横紋筋腫14例、悪性腫瘍12例、血管腫9例、血栓4例、粘液腫3例、奇形腫2例ほか。画質がよく撮影の項目がそろっているほど、診断の正確さが高くなりました。
  • がん患者の心臓の腫瘤(Chan 2017):MRIを受けた全身の悪性腫瘍の患者126例のうち、腫瘤ありは63例(腫瘍32%、血栓18%)。腫瘍は血栓より大きく、腫瘍のある人の死亡の危険はハザード比3.13(95%信頼区間1.54-6.39)でした。シネMRIでの大きさでは予後を分けられませんでした。
  • 剖検での頻度(Aggeli 2020):原発性心臓腫瘍は剖検の約2000人に1人、転移性は約100人に1人で、転移と原発の比は約20対1です。
  • MRIの長い反転時間(Hrabak-Paar 2024):腫瘍と血栓を分けるには、1.5テスラで約600ミリ秒、3テスラで約875ミリ秒の長い反転時間で遅延造影を撮ります。ふつうの反転時間(1.5テスラで約280ミリ秒)は、生きている心筋の信号を消す設定です。

あわせて読みたい:先天性心疾患の画像診断入門、羊水量の異常の画像診断、卵管癌・原発性腹膜癌の画像診断

参考文献

  1. Aggeli C, Dimitroglou Y, Raftopoulos L, et al. Cardiac Masses: The Role of Cardiovascular Imaging in the Differential Diagnosis. Diagnostics (Basel). 2020;10(12):1088. PubMed
  2. Hrabak-Paar M, Muršić M, Balaško-Josipović T, et al. Multimodality Imaging of Cardiac Myxomas. Rev Cardiovasc Med. 2024;25(6):204. PubMed
  3. Bussani R, Castrichini M, Restivo L, et al. Cardiac Tumors: Diagnosis, Prognosis, and Treatment. Curr Cardiol Rep. 2020;22(12):169. PubMed
  4. Shah DJ. Evaluation of cardiac masses: the role of cardiovascular magnetic resonance. Methodist Debakey Cardiovasc J. 2010;6(3):4-11. PubMed
  5. Beroukhim RS, Prakash A, Buechel ER, et al. Characterization of cardiac tumors in children by cardiovascular magnetic resonance imaging: a multicenter experience. J Am Coll Cardiol. 2011;58(10):1044-54. PubMed
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症例画像は各図の引用元のとおりです。

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