内頸動脈の走行異常 咽頭後壁と中耳を通る血管

CTで「内頸動脈が咽頭のすぐ後ろを通っている」と書いてありました。のどの奥の腫瘤と間違えられることもあるそうですが、どういうことですか? 耳の奥にも異常な血管が通ることがあると聞きました。
内頸動脈は頸部をほぼまっすぐ上る血管ですが、曲がりくねって咽頭の壁に寄ることがあります。また、まれに中耳の中を通る先天的な走行異常もあります。どちらも「血管そのもの」で、腫瘤と思って生検や手術をすると大出血につながります。見え方と見分け方を整理します。

先に結論:咽頭後壁に寄る内頸動脈も、中耳を通る異所性内頸動脈も、「腫瘤に見えたら先に血管を疑う」。生検・切開の前に造影CT(CTA)かMRAで確認する

項目 ポイント
咽頭後壁に寄る内頸動脈 蛇行・kinking(急な屈曲)で咽頭粘膜の下に近づく。年齢とともに増える。粘膜下の拍動性の膨らみに見える
中耳を通る異所性内頸動脈 まれな先天異常。鼓膜の奥の拍動性の腫瘤に見え、聴力低下や拍動性耳鳴の原因になる
見分けるコツ 造影CTで「腫瘤」が内頸動脈とつながり、同じ造影効果を示すかを確認する。耳ではCTで頸動脈管の形を見る
してはいけないこと 血管と確認する前の生検・鼓膜切開・咽頭の処置。見つけたら主治医と手術チームに伝える

内頸動脈の「走行異常」には2つのタイプがある

内頸動脈は、総頸動脈が分かれたあと、頸部では枝を出さずに上へ進み、頭蓋底の頸動脈管から頭蓋内に入ります。頸動脈管の位置や通るものは頸動脈管はどこ?場所と通るものをCT画像で、血管の区分は内頸動脈の解剖と分岐にまとめています。ここで「走行異常」と呼ぶのは、次の2つです。

咽頭後壁に寄る内頸動脈 中耳を通る異所性内頸動脈
場所 頸部(咽頭の外側から後ろ) 頭蓋底から中耳(鼓室)
成り立ち 後天的な伸びと蛇行が中心(加齢) 胎生期の血管の形成異常(先天性)
見つかるきっかけ CTで偶然、咽頭の粘膜下腫瘤、のどの違和感 鼓膜の奥の赤い拍動性の腫瘤、拍動性耳鳴、難聴
危ない場面 扁桃・咽頭の手術、経口的な生検、咽頭の切開 鼓膜切開、中耳の手術、中耳の生検

咽頭後壁に寄る内頸動脈(咽頭後部のkinking・蛇行)

どのくらいの人にあるのか

頸部CT 509例を調べた韓国の研究では、内頸動脈の形は蛇行(tortuous)51.4%、直線41.2%、kinking 6.9%、coiling 0.5%でした(Jun 2012)。咽頭壁との距離は、直線型で最も長く、屈曲が強いほど短くなり、下咽頭のレベルで最も近づきました。年齢が高いほど、また女性で距離が短い傾向があり、60歳以上の女性にkinkingが多いとされています(Jun 2012)。

型 形のイメージ 頻度(Jun 2012)
直線(straight) ほぼまっすぐに上る 41.2%
蛇行(tortuous) S字・C字のゆるやかな曲がり 51.4%
kinking 血管が折れ曲がったように急に角度がつく 6.9%
coiling 輪を作るように巻く 0.5%

3歳から94歳までの471例のCTを測った別の研究では、内頸動脈が咽頭粘膜に近づく程度は年齢との相関が強く、「粘膜までの距離3mm以下、または正中までの距離5mm以下」と定義した高度の内側偏位は14.0%に見られました。年齢の目安は70歳以上でしたが、これは探索的な単施設の解析で、手術のリスクを予測できると確かめられた基準ではない、と著者らも述べています(Çelik 2026)。数字は「年を取ると多くなる」という方向を示すもので、自分の施設の判断基準として使うものではありません。

症状と、腫瘤に間違えられる理由

多くは症状がなく、頸部や頭部のCT・MRIで偶然見つかります。粘膜のすぐ下まで来ると、口を開けて見たときに咽頭後壁の拍動する粘膜下の膨らみに見えます。ここを「粘膜下腫瘤」と考えて針を刺したり切開したりすると、血管を傷つける危険があります。

54歳女性で、片側の耳の痛みとのどの焼けるような不快感が3年続き、外耳炎や咽喉頭逆流症として治療されても改善しなかった例があります。頸部造影CTで右内頸動脈が咽頭粘膜に近づいていることが分かり、軟性喉頭鏡で咽頭後壁に拍動する粘膜下の膨らみが確認されました(Rivero 2026)。症状は他の病気に似て診断が遅れることがあり、治療しても治らないのどの症状では血管の位置も一度確認する価値があります。

症例 50歳代女性 咽頭後壁に寄る右内頸動脈

咽頭後壁に寄る右内頸動脈 造影CT 軸位断像
引用:Rivero K, et al. Cureus 2026;18(7):e113031 (Figure 3)。CC BY 4.0、PMC(図は無加工、WebPをJPEGに変換)

軸位断の造影CTで、右の内頸動脈(矢印)が咽頭後壁に沿って内側に寄っています。左の内頸動脈は、より典型的な頸部外側の位置を保っています。報告では、右内頸動脈は咽頭粘膜に最も近い所で約1mmまで近づき、動脈瘤や解離はなく、保存的に経過をみています。

CTで確認するところ

確認すること 見方
咽頭後壁の膨らみ 造影CTで、膨らみの中に血管と同じ高さに濃染する管状構造があるか
血管との連続性 連続する断面(冠状断・矢状断)で、頸部の内頸動脈からそのままつながっているか。つながるなら腫瘤ではなく血管
咽頭粘膜までの距離 軸位断で粘膜面から血管壁までの最短距離を測る。数値はレポートに書く
左右差・正中への寄り 両側とも寄っている例もある。正中近くまで来ているかを見る
動脈瘤・解離の合併 屈曲部に血管瘤や壁の異常がないか(内頸動脈の走行異常と動脈瘤の合併は症例報告がある)

3例の報告では、咽頭壁までの最短距離は約3.3〜4.9mmで、報告した著者らは血管損傷の危険が高いと位置づけています。また、血管の位置は一定ではなく、時間とともに変わることがあるとも述べられています(Garrido 2020)。手術の直前の画像で確認することが勧められます。

中耳を通る異所性内頸動脈(aberrant ICA)

成り立ちと症状

中耳を通る異所性内頸動脈は、胎生期に内頸動脈の最初の区間ができなかったために、下鼓室動脈などの側副路を通って血流が確保された先天異常です。48編の報告をまとめたレビューでは、症状は非特異的で、難聴が47.7%、拍動性耳鳴が30.0%と多く、耳鏡では鼓膜の前下方に拍動する赤い腫瘤が見えることがあります(Rusu 2026)。拍動性耳鳴の鑑別全体は拍動性耳鳴の原因と画像検査にあります。

CTで見る所

診断の中心は側頭骨の高分解能CTです。レビューでは、正常の垂直部の頸動脈管とその頭蓋外の開口がないこと、下鼓室小管が太くなっていることが特徴とされています。同じレビューは、似た変異である「外側に寄った錐体部内頸動脈」(近位の太さが正常で、中鼓室の前方に入るが下鼓室小管は関与しない)と区別すべきだと述べています(Rusu 2026)。側頭骨の正常構造は側頭骨CTの正常解剖で確認できます。

症例 引用元の図 中耳を通る異所性内頸動脈の軸位CT

中耳を通る異所性内頸動脈 側頭骨CT 軸位断像(4症例)
引用:Spörlein A, et al. J Clin Med 2025;14(15):5285 (Figure 1)。CC BY 4.0、PMC(図は無加工)

側頭骨CT(軸位断)で、中耳の鼓室内を通る異所性内頸動脈(赤矢印)を4症例(A・B、C・D、E・F、G・H)で示した図です。いずれも、蝸牛の外側、鼓室岬の前方を、後方から前内側へ向かって通っています。

鼓室内の赤い腫瘤の鑑別

鼓膜の奥に赤い、または拍動する腫瘤が見えるときの鑑別は、異所性内頸動脈のほか、遺残アブミ骨動脈、鼓室グロムス腫瘍、高位の頸静脈球(裂開)などです(Sullivan 2019)。古くからの報告でも、異所性内頸動脈のCT所見は、高位頸静脈球、グロムス腫瘍、コレステロール肉芽腫と対比して整理されています(Swartz 1985)。

疾患 CTでの見え方の目安
異所性内頸動脈 垂直部の頸動脈管がなく、血管が鼓室内を横切る。頸動脈管の形が変わっている
鼓室グロムス腫瘍 鼓室岬上の軟部腫瘤。頸動脈管は通常の形を保つ。詳しくは鼓室グロムス腫瘍とは
高位・裂開した頸静脈球 頸静脈球が鼓室の方へ突出し、骨の壁がない
遺残アブミ骨動脈 鼓室内を通る細い血管で、型ごとに所見が異なる

中耳の処置で傷つけたとき

鼓膜切開や中耳の手術で異所性内頸動脈を傷つけると、大量の出血が起こり得ます。出血した4例と文献20例を合わせた系統的レビューでは、外耳道のパッキングだけで止まったのは37.5%で、62.5%はコイルやバルーンによる閉塞、ステントなどの血管内治療が必要でした。神経の合併症は25%に起こり、著者らは、まず外耳道パッキングを行い、全例でCT血管撮影を行うことを勧めています(Spörlein 2025)。事前に気づくことが最も大きな予防になります。

画像診断で伝えるときのポイント

場面 レポートや依頼元への伝え方
咽頭の粘膜下腫瘤を疑う依頼 「内頸動脈が咽頭粘膜に近接し、拍動性の粘膜下膨隆に相当する」と明記し、距離(mm)と左右を書く
鼓膜の奥の腫瘤の依頼 「頸動脈管の形態から異所性内頸動脈を疑う」と書き、鼓膜切開・生検は避けるよう連絡する
他の目的の頸部・頭部CT 偶然見つかった走行異常も、咽頭や中耳の処置が行われうる領域なら記載する

該当する所見があれば、主治医と耳鼻咽喉科・手術を行う科に直接伝えることが、手技の安全につながります。

よくある疑問(Q&A)

Q1. 内頸動脈が蛇行していると言われました。病気ですか。

蛇行は加齢とともに増える変異で、それだけで治療が必要になるものではありません。Jun 2012の509例では、まっすぐな型は41.2%で、蛇行が最も多い型でした。ただし、咽頭や耳の手術・生検を受けるときは、担当医に位置を共有してもらうことが大切です。気になる症状があれば医療機関に相談してください。

Q2. のどの奥に拍動するふくらみがあります。自分で触ったり、つついたりしてよいですか。

自分で強く押したり、器具でつついたりするのは避けてください。拍動する膨らみは、内頸動脈が粘膜のすぐ下に来ている場合があります。気になる症状があれば、耳鼻咽喉科などの医療機関を受診してください。

Q3. 異所性内頸動脈は治療が必要ですか。

診断後の対応は、症状や生活への影響によって個別に決まります。画像診断の側で最も大切なのは、診断がついていない状態で鼓膜切開や中耳の手術が行われないようにすることです。術前に認識されていることが、大出血を避ける主な防御策とされています(Rusu 2026)。

Q4. 異所性内頸動脈は、頭の血流に問題を起こしますか。

異所性内頸動脈では、血流は下鼓室動脈などの側副路を通して保たれています(Rusu 2026)。ただし、手術で血管が傷つくと、閉塞による脳梗塞が起こった報告があります(Spörlein 2025)。ご自身の症状や検査結果については、主治医にご相談ください。

参考文献

  1. Rusu MC. Aberrant ICA in the middle ear. Eur Arch Otorhinolaryngol. 2026. doi: 10.1007/s00405-026-10500-9. PubMed
  2. Sullivan AM, Curtin HD, Moonis G. Arterial Anomalies of the Middle Ear: A Pictorial Review with Clinical-Embryologic and Imaging Correlation. Neuroimaging Clin N Am. 2019;29(1):93-102. PubMed
  3. Swartz JD, Bazarnic ML, Naidich TP, et al. Aberrant internal carotid artery lying within the middle ear. High resolution CT diagnosis and differential diagnosis. Neuroradiology. 1985;27(4):322-6. PubMed
  4. Spörlein A, Arndt S, Jakob TF, et al. Management of Aberrant Internal Carotid Artery Injury Caused During Otologic Procedures: Systematic Review and Multicenter Case Series. J Clin Med. 2025;14(15). doi: 10.3390/jcm14155285. PubMed
  5. Jun BC, Jeon EJ, Kim DH, et al. Risk factors for decreased distance between internal carotid artery and pharyngeal wall. Auris Nasus Larynx. 2012;39(6):615-9. PubMed
  6. Çelik A, Irmak S. Age-associated medialization of the cervical internal carotid artery: CT morphometric findings and an exploratory combined mucosa-midline grading framework. Eur Arch Otorhinolaryngol. 2026. doi: 10.1007/s00405-026-10624-y. PubMed
  7. Garrido MB, Jagtap R, Hansen M. Retropharyngeal internal carotid artery: a review of three cases. Oral Maxillofac Surg. 2020;24(2):255-261. PubMed
  8. Rivero K, Girishkumar H, Masella F, et al. Retropharyngeal Internal Carotid Artery Presenting as Chronic Otalgia and Throat Pain Mimicking Laryngopharyngeal Reflux: A Case Report. Cureus. 2026;18(7):e113031. PubMed

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