脳MRIの鑑別 5つの問いで病変を絞る手順

脳MRIで病変は見つけられるのですが、そこから病名がいくつも浮かんでしまい、どう絞ればいいのか分かりません。何から考えればいいのでしょうか?
病名を当てにいく前に、「年齢・場所・信号・造影・経過」の5つの問いに順に答えると、候補が自然に絞れます。それぞれの問いで何を見るのか、間違えやすい点とあわせて整理します。

先に結論:病名ではなく「所見」を言葉にしてから、5つの問いで鑑別を絞る

順番 問い 絞り込みのポイント
1 年齢 この年代に多い病気か 小児は後頭蓋窩の腫瘍、若年成人は脱髄、高齢者は転移・膠芽腫・髄膜腫・梗塞が候補の中心
2 場所 脳の中か外か、どこに主座があるか 脳外病変か脳内病変か、血管支配域に沿うか、特定の部位に好発する病気か
3 信号 T1・T2・FLAIR・DWI・T2*でどう見えるか 液体・脂肪・出血・石灰化・拡散制限など、病変の「成分」を推定する
4 造影 造影されるか、どんな形か リングの厚さ、脳室沿い・髄膜沿い・脳回沿いなど増強の分布で候補が分かれる
5 経過 急性か慢性か、症状と合うか 数時間なら血管性、数日〜数週なら感染・炎症、数か月なら腫瘍などの見当をつける

なぜ「順番」で絞るのか

脳MRIの鑑別が難しく感じる一番の理由は、病変を見た瞬間に病名を探してしまうことです。ところが、腫瘍・炎症・血管性病変は、MRIでよく似た見え方をすることがあります。たとえば、側頭葉に広がる高信号を見て、「ヘルペス脳炎かもしれない」と思い込むと、画像にあるほかの手がかりを見落としやすくなります。

そこで、見えたものを「どこに、どんな信号で、造影されるか」という所見の言葉に置き換えてから、年齢と経過を重ねます。臨床の情報が少ない初回の読影でも、画像から主治医が気づいていない手がかりを引き出せることがあります。逆に、依頼票の診断名に引きずられすぎないためにも、まず画像だけで鑑別を挙げる習慣が役に立ちます。

なお、頭部MRIの各シーケンスを見る順番は頭部MRIの読み方にまとめています。この記事は、その次の段階として「見つけた病変をどう絞るか」を扱います。

問い1 年齢:頻度の高い病気が違う

年齢は、鑑別の最初の振り分けに使えます。脳腫瘍の登録データ(米国、2017〜2021年)では、原発性脳腫瘍の中で最も多い組織型は髄膜腫(全体の41.7%)で、悪性の中で最も多いのは膠芽腫(全体の13.9%、悪性腫瘍の51.5%)でした。髄膜腫は女性に、膠芽腫は男性に多いことも示されています(Price 2024)。また、脳転移は研究によって9〜17%の頻度とされ、肺癌・乳癌・黒色腫が原因として多く、脳転移をきたすがんの67〜80%を占めます。小児の脳転移はまれです(Nayak 2012)。

年代 考えやすい病変の例 注意点
小児 後頭蓋窩の腫瘍(髄芽腫・毛様細胞性星細胞腫・上衣腫など)、先天奇形、代謝性疾患 転移はまれ。腫瘍の好発部位が成人と違う
若年〜中年の成人 多発性硬化症などの脱髄、感染、低悪性度の神経膠腫 多発する白質病変は脱髄を最初に考える
中高年 転移、膠芽腫、髄膜腫、梗塞、リンパ腫 がんの既往があれば、単発でも転移を外さない
高齢者 小血管病、梗塞、転移、膠芽腫、硬膜下血腫 古い変化(ラクナ梗塞・白質変化)と新しい病変を分ける

この表は、あくまで考え始めの目安です。数字は国や集計方法で変わりますし、まれな病気が若年や高齢に出ることもあります。多発性硬化症の診断基準は2024年に改訂され(Montalban 2025)、視神経が5番目の診断に使える部位として加わりました。基準は更新されるので、診断にあたっては、その時点で有効な版を確認してください。

問い2 場所:脳の中か外か

最初に決めたいのは、病変が脳の中(脳内、intra-axial)にあるか、脳の外(脳外、extra-axial)にあるかです。ここが決まると、候補がおおきく分かれます。

見るところ 脳外病変を考える所見 脳内病変を考える所見
脳との境界 脳表との間に脳脊髄液や血管の隙間がある。脳が押されて内側に凹む 病変が脳実質の中から膨らむ。脳回が腫れる
硬膜との関係 硬膜に広く接する(広基性)。硬膜が帯状に増強される 硬膜との関係は薄い
白質の変形 白質が押されて内側にたわむ 白質に浮腫が広がる、または病変が白質を走る
代表的な病気 髄膜腫、硬膜下・硬膜外血腫、神経鞘腫、硬膜転移、類表皮嚢胞 神経膠腫、転移、膿瘍、梗塞、脱髄、脳炎

脳外の代表は髄膜腫で、硬膜を足場にして脳を押し広げます。脳内の病変では、皮質か白質か、血管支配域に沿うか、左右対称かを見ます。血管支配域に一致する病変は梗塞を第一に考えます。梗塞を腫瘍と間違える失敗は、血管支配域の知識があれば減らせます。亜急性期の梗塞は脳回に沿って増強されるため腫瘍に見えることがありますが、血管支配域に一致するかを確かめると区別の手がかりになります。

好発部位で考える

病変の部位そのものが、鑑別の強い手がかりになることがあります。

部位 鑑別の例
側頭葉の内側 単純ヘルペス脳炎、自己免疫性脳炎、神経膠腫、てんかん発作後の変化、海馬硬化。T2・FLAIRの高信号は、これらの病気で共通して見られる(Moon 2022)
小脳橋角部 神経鞘腫、髄膜腫、類表皮嚢胞
鞍上部・下垂体 下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫、胚細胞腫瘍
松果体部 松果体腫瘍、胚細胞腫瘍
脳室の壁・脳室内 リンパ腫、上衣腫、脈絡叢の腫瘍、感染性の上衣炎
両側の後頭葉・頭頂葉 可逆性後頭葉白質脳症(PRES)、低酸素、静脈洞血栓

側頭葉内側の高信号は、ヘルペス脳炎の最も多い所見ですが、ほかの感染症、自己免疫性脳炎、後大脳動脈の梗塞、けいれん重積などでも見られます(Moon 2022)。画像だけで決めず、経過と髄液検査などを合わせて判断する典型例です。

問い3 信号:病変の「成分」を推定する

信号は、病変の中身を推定する手がかりです。ここでは、脳MRIで使う主なシーケンスの読み方を簡単に確認します。

見え方 推定される成分・考える病気
T1低信号・T2高信号 水を多く含む組織(浮腫、嚢胞、多くの腫瘍・炎症)
T1高信号 出血(亜急性期)、脂肪、蛋白を多く含む液、メラニン、石灰化の一部
T2低信号 出血(ヘモジデリン)、石灰化、密な細胞、血流の速い血管(flow void)
DWI高信号でADC低下 拡散が制限される組織(急性期梗塞、膿、細胞密度の高い腫瘍、類表皮嚢胞など)
T2*・SWIで低信号 出血、石灰化、鉄沈着、静脈の拡張

DWIで高信号でも、梗塞とは限りません。ADCマップで確認し、T2 shine-throughと区別します。信号の詳しい読み分けは、頭部MRIの信号パターンから考える鑑別、拡散強調像(DWI)の高信号になる3つの理由、DWI高信号を見たときの鑑別診断が参考になります。

DWIが役立つ場面:膿瘍と壊死を伴う腫瘍

リング状に造影される病変が膿瘍か、壊死を伴う腫瘍(膠芽腫や転移)かを迷うとき、DWIがよく使われます。11件の研究をまとめた解析では、膿瘍と他のリング状増強病変をDWIで区別したときの感度は0.95、特異度は0.94でした(Xu 2014)。膿瘍、膠芽腫、転移の計53例の検討では、病変の嚢胞部分のADCを対側の正常白質で割った比が、腫瘍(平均2.45)より膿瘍(平均1.12)で有意に低く、閾値1.7で87%を正しく分類できました。ADC比に縁の画像所見を合わせると、53例中50例(94.3%)を正しく分類できました(Fertikh 2007)。

ただし、これは一部の研究の結果です。数値は装置や撮像条件で変わるので、1つの閾値で決めつけず、造影の形や臨床経過と合わせて判断します。

問い4 造影:増強の「分布」と「形」を見る

造影MRIでは、どこが、どんな形で増強されるかが鑑別の大きな手がかりになります(Smirniotopoulos 2007)。

増強のパターン 考える病気
薄くて平滑なリング 膿瘍(被膜ができた時期)
厚くて不整なリング 壊死を伴う腫瘍(膠芽腫、転移)
開いたリング(途切れたリング) 脱髄(多発性硬化症、腫瘤状の脱髄)、一部の低悪性度腫瘍
脳室の壁に沿う厚い不整な増強 原発性中枢神経系リンパ腫
脳室の壁に沿う薄い増強 感染性の上衣炎
脳回の表面に沿う増強 梗塞の亜急性期、再灌流、脳炎
軟膜(くも膜下腔側)に沿う増強 髄膜炎、髄膜脳炎
硬膜に沿う線状の増強 術後、特発性低頭蓋内圧症
皮質下の結節状の増強(多発) 血行性の転移、敗血症性塞栓

脳炎や髄膜炎は、造影されないこともあります。造影のあるなしだけで除外せず、ほかの問いと合わせて考えてください。造影が必要かどうかは頭部の造影が必要なときで整理しています。

症例 60歳代男性 脳膿瘍(左側頭葉)

脳膿瘍 造影T1強調像 軸位断像
引用:Radiopaedia(Cerebral abscess)

造影後のT1強調像です。左側頭葉に、薄く均一な輪状の増強を示す病変があります。症例ページでは、約20×16mmの病変で、周囲に脳浮腫を伴い、T1で低信号、T2とFLAIRで軽度高信号、造影で細いリング状の増強と記載されています。

脳膿瘍 拡散強調像 軸位断像
引用:Radiopaedia(Cerebral abscess)

同じ症例のDWIです。左側頭葉の病変が強い高信号を示しています。症例ページでは、著しい拡散制限があり、FLAIRでdouble rim sign(二重の縁取り)を認めると記載されています。リング状に増強される病変で、薄く平滑な縁とDWI高信号が揃うと、膿瘍を考える根拠になります。

問い5 経過:最後に時間軸を重ねる

経過は、ほかの4つの問いで挙げた候補を絞る最後の手がかりです。急に起きた症状(数分〜数時間)は血管性病変や出血を、数日〜数週間かけて進んだ症状は感染や炎症を、数か月かけて進んだ症状は腫瘍や変性を考えます。ただし、腫瘍の出血や、けいれんで始まる神経膠腫のように、急に見つかる腫瘍もあります。

初回の読影では、臨床の経過が十分に伝わっていないことも少なくありません。そのときは、画像から次の点を言葉にしておきます。

  • 病変は急性期(拡散制限あり)か、慢性期(拡散制限なし、萎縮や嚢胞化)か
  • 新しい病変と古い病変が混ざっていないか(小血管病・ラクナ梗塞を背景に新しい病変が重なる例は多い)
  • 追加すべき検査(造影、MRA、MRV、DWIの再検、MRS、髄液検査)

読影のあとに確認するチェックリスト

  • 病変は脳の中か外か。硬膜・脳表との関係は確認したか
  • 血管支配域に沿っているか、左右対称か、好発部位か
  • T1・T2・FLAIR・DWI(ADC)・T2*で、成分を言葉にできたか
  • 造影の形(リング、結節、脳室沿い、髄膜沿い)を記載したか
  • 年齢と経過に合うか。がんの既往、感染、免疫抑制、薬剤、妊娠・産褥はないか
  • 鑑別を3つ以内に絞り、1位から順に「次に何をするか」を書いたか

気になる症状(突然の頭痛、麻痺、けいれん、意識の変化など)がある場合は、すぐに医療機関を受診してください。

よくある疑問(Q&A)

Q. 鑑別診断は、いくつ挙げればよいですか?
A. 3つ前後に絞るのが一般的です。多く挙げすぎると、次に何をするかが伝わりません。1位から順に、その根拠となる所見と、確かめるための検査を添えると、主治医が動きやすくなります。

Q. 膿瘍と壊死を伴う腫瘍は、DWIだけで決められますか?
A. DWIの診断性能は高いものの、決め手にはなりません。膿瘍と他のリング状病変を区別する感度は0.95、特異度は0.94と報告されていますが(Xu 2014)、感染を伴う腫瘍など例外もあります。造影の形、周囲の浮腫、臨床経過と合わせて判断してください。

Q. 多発する病変は、どう考えればよいですか?
A. 大きさが似ていて皮質下に散らばる場合は転移や敗血症性塞栓、脳室周囲に並ぶ場合は脱髄、脳回に沿う場合は梗塞や脳炎を考えます。造影のパターン(Smirniotopoulos 2007)と、がんの既往・発熱・免疫状態を重ねると絞りやすくなります。

Q. 初心者は、どんな順番で練習するとよいですか?
A. まず、よく見る病気(梗塞、出血、転移、髄膜腫、膠芽腫、脱髄、膿瘍)の典型像を押さえます。そのうえで、症例ごとに「年齢・場所・信号・造影・経過」の5つを自分の言葉で書き出してから答え合わせをすると、考え方が身につきます。

あわせて読みたい:大脳皮質形成異常のMRI、脊椎MRIの読み方

参考文献

  1. Price M, Ballard C, Benedetti J, et al. CBTRUS Statistical Report: Primary Brain and Other Central Nervous System Tumors Diagnosed in the United States in 2017-2021. Neuro Oncol. 2024;26(Suppl 6):vi1-vi85. PubMed
  2. Nayak L, Lee EQ, Wen PY. Epidemiology of brain metastases. Curr Oncol Rep. 2012;14(1):48-54. PubMed
  3. Xu XX, Li B, Yang HF, et al. Can diffusion-weighted imaging be used to differentiate brain abscess from other ring-enhancing brain lesions? A meta-analysis. Clin Radiol. 2014;69(9):909-15. PubMed
  4. Fertikh D, Krejza J, Cunqueiro A, et al. Discrimination of capsular stage brain abscesses from necrotic or cystic neoplasms using diffusion-weighted magnetic resonance imaging. J Neurosurg. 2007;106(1):76-81. PubMed
  5. Smirniotopoulos JG, Murphy FM, Rushing EJ, et al. Patterns of contrast enhancement in the brain and meninges. Radiographics. 2007;27(2):525-51. PubMed
  6. Moon S. T2/FLAIR Hyperintensity in Mesial Temporal Lobe: Challenging Differential Diagnosis. Curr Med Imaging. 2022;18(3):285-291. PubMed
  7. Montalban X, Lebrun-Frénay C, Oh J, et al. Diagnosis of multiple sclerosis: 2024 revisions of the McDonald criteria. Lancet Neurol. 2025;24(10):850-865. PubMed

画像診断を無料で学べるコンテンツ

腹部画像診断を症例で学ぶ
無料講座

腹部画像診断を症例で学ぶ

4日に1回、朝6時に症例が届き、実際に画像をスクロールして読影する講座です。90症例以上・1年以上続く講座で、医師・医学生・放射線技師・看護師など10,000名以上が参加中です。

講座に参加する(無料) →
胸部レントゲンの正常解剖を31日で
無料講座

胸部レントゲンの正常解剖を31日で

1日3分、全31日で胸部レントゲンの正常解剖の基礎を学ぶ参加型の講座です。全日程に簡単な動画解説が付いています。

講座に参加する(無料) →
画像診断LINE公式アカウント
登録特典あり

画像診断LINE公式アカウント

新しい企画やモニター募集のお知らせを配信しています。登録すると特典として、脳の血管支配域のミニ講座に無料で参加できます。

LINEで友だち追加 →