気胸(pneumothorax)の臨床像
気胸とは胸腔内の空気:機序は様々であるが、胸膜の全層性損傷が本態
【気胸の分類】
- 自然気胸
①特発性気胸(ブラ・ブレブの破裂)
②続発性気胸(肺基礎疾患の合併症) - 外傷性気胸 ・医原性気胸
気胸の症状
- 発症は大半が急激な胸痛で発症する。虚脱が高度の場合、胸痛はかえって軽減する。
- 肺の虚脱の程度に伴い、さまざまな程度の呼吸困難が生じるが、高度の虚脱でも臨床症状が乏しく、偶発的に画像で発見されることもある。
- 聴診では患側の呼吸音減弱が見られる。
特発性自然気胸
- 特発性というものの、ブラ・ブレブの破裂。なぜ破れるのかわからないので特発性。
- 圧倒的に男性に多い。
- 気胸体型(長身、痩せ型、胸板が薄い)
- 伸長が高いほど、肺尖部の胸腔内圧が低下し、ブラ・ブレブが形成されやすいとされる。
- 痩せ形では胸腔から肺内に向かう圧力がより小さいので、肺は拡張しやすいとされる。
胸膜の構造
- 胸膜表面には中皮細胞(M)が一層に並び、その下層に薄い内胸膜(EN)がある。内胸膜と胸膜下層(Sub)とは弾性線維(E)で境される。胸膜は小葉間隔壁(I)に連続する。
- 壁側胸膜は豊富な痛覚線維をはじめとする表在知覚線維があり、臓側胸膜には交感神経を経由する痛覚線維がある。一方で、肺組織は無痛領域。
ブラとブレブ(bulla and bleb)
- 病理学的な名称であり、画像ではブラとブレブを分ける事は不可能。意義も乏しい。
- CTではブラとブレブの区別はつかない。ブラ(bulla)と記載する。
- ブラは肺胞が破壊された肺実質内の気腫。胸膜近くに見られる事が多いが、胸膜から遠く離れてできることもある。
- ブレブは肺胞が破れて胸膜内にできた気嚢であり、表面に肺実質は存在しない。一種の間質性肺気腫。
自然気胸の初期治療
- 軽度(Ⅰ度):肺尖が鎖骨レベルより頭側。→経過観察。
- 中等度(Ⅱ度):軽度と高度の中間程度→胸腔ドレナージが望ましい。
- 高度(Ⅲ度):全虚脱またはこれに近いもの→胸腔ドレナージが必要。
(自然気胸治療ガイドラインより)
緊張性気胸(Tension pneumothorax)
- 縦隔が健側に偏位して吸気相にもその復位がないか、cardiorespiratory embarassment(呼吸困難・血圧低下・頻脈など)を示している場合をいう。
- 画像的に緊張性気胸でも症状が軽い事も多い。
- 呼気では縦隔偏位があっても、吸気にてairがleak pointから肺内に戻るものは緊張性気胸に入れない。
胸腔の解剖
胸膜と胸膜腔
- 臓側胸膜:肺実質を多い、葉間に及ぶ。
- 壁側胸膜
- 胸膜腔はこれら胸膜の間の腔。肺と生理的胸水を格納している。
その他:
- 生理的胸水
- 肺靭帯:
–肺門下部で臓側胸膜と縦隔壁側胸膜が飜転し、下葉を縦隔に固定する。
-2枚の胸膜の間にリンパ組織(#9)と結合組織を挟む。
気胸の画像所見とピットフォール
気胸の画像所見(立位の場合):基本通り、肺尖部から外側の胸膜線を丹念に探す。
- 肺は萎縮するが元々の形態を保とうとし、萎縮した肺の濃度はあまり変化しないことが多い。→立位の場合、肺尖部からの外側の胸壁に沿った臓側胸膜線とその外側の無血管領域。
- 少量の胸水による二ボー。
- 虚脱した肺の濃度上昇。
- 皮膚や衣服のしわが気胸に見えることがあるので注意。
気胸の画像診断(臥位):気胸の検出は難しい。立位とは思考法を切り替える必要がある。
- Free airは前後の厚みが薄くなり、肺組織との濃度差としてなかなか見えてこない。
- 肺の虚脱が前後方向優位におきるため、胸膜線が描出されないことも多い。
- 臥位撮影自体が条件が悪い。
- 臥位でairが貯まりやすい部位の透亮像や胸膜線を探す。
- Deep sulcus signなどの間接所見に注意する。
▶Deep sulcus signとは?
- 通常のCP angleは閉鎖されたスペース(胸膜腔)に空気が入り込む所見であり、臥位撮影の信頼できる間接所見。
- 気胸の初期所見ではなく、すでに大量のairがあることを意味する。
- 臥位のポータブルは胸腔内airの増減の把握は困難。昨日あったDeep sulcusが消えたからといって必ずしも空気の量が減ったわけではない。
症例 40歳代男性 胸痛
自然気胸に合併する血気胸
- 自然気胸の1〜8%と比較的稀。
- どの程度の出血を血気胸と呼ぶか、定義はない(少なくとも400ml以上とする提案がある。)
- 気胸の発症により、壁側胸膜と肺の癒着部位がはがれて、その部位の血管(癒着による新生血管?)より出血するため発生するという説が多い。原因血管は動脈とも静脈とも言い難い増生血管由来がほとんど。
- ドレーン挿入後に出血増加するものがある。気胸のairが増えて胸腔内圧上昇により止血していたものが、胸腔ドレーンを留置した事により胸腔内圧が低下して再出血すると考えられる。
再膨張性肺水腫(Reexpansion pulmonary edema)
- 肺の虚脱が大きく、長時間虚脱していたものを急速に再膨張させたときに生じやすい。
- 患側が主体であるが、両側性もみられる。
- 原因は統一的ではない→血流の急速な増加によるとの初期の説は、血流はむしろ低下するとの報告により否定的。
- ドレナージ施行後の急激な咳嗽、泡沫状喀痰、胸痛、喘鳴など。
続発性気胸の原因
:気胸をきっかけとして特異的診断に至ることもある。特に女性の気胸には注意をする。
- 肺気腫
- 嚢胞性線維症
- 気管支喘息
- 肺炎、肺膿瘍、肺結核
- 肺線維症
- 肺梗塞
- 転移性腫瘍(特に肉腫)
- Pulmonary Langerhans cell histiocytosis(PLCH)
- Lymphangioleiomyomatosis(LAM)
- 月経随伴性気胸
- (AIDSに伴う)ニューモシスチス肺炎
- 肺吸虫症
- 遺伝性疾患(Marfan症候群、Ehlers-Danlos症候群)
Catamenial pneumothorax
- 月経周期に一致する繰り返す気胸
- 生殖可能年代の女性の右気胸、とくに再発例では第一に考えるべき。
- 横隔膜胸膜の異所性子宮内膜(横隔膜のdefect由来または血行性)の穿孔を介して、経膣的に腹腔内に入ったairが胸腔内に移動する?という説がある。
- 右>>左。
- 横隔膜のブルーベリー斑。胸腔胸で診断される。治療は外科的切除。
AIDS患者のPCP
- 通常のPCPより嚢胞形成が多く、高頻度に気胸を起す。
- 上葉に好発し、炎症による細気管支のcheck valve機構や肺実質の破壊により生じるとされる。
Ehlers-Danlos症候群
- 横隔膜ヘルニア
- 汎小葉性肺気腫+ブラ形成(位置や形態が通常のブラとはやや異なる)
- 気管気管支拡大+気管支拡張症