後天性腎嚢胞症(Acquired Cystic Disease of the Kidney: ACDK)とは?
- 後天性腎嚢胞症(ACDK)は、末期腎不全(ESRD:End-Stage Renal Disease)に伴い萎縮した腎に発生する両側性、多発性の嚢胞性病変である。
- 長期間の血液透析を受けることで発症頻度が高まり、透析歴3-5年で40-60%、5-10年で90%以上、透析10年以上の患者ではほぼ100%の症例で認められる。
- ACDKの発生原因としては、腎間質の線維化やシュウ酸カルシウム結晶による集合管の閉塞が関与していると考えられている。
- 一般的に嚢胞のサイズは5〜20mm程度と小さく、腎移植後には縮小するものの、腎癌の発生リスクは低減しない。
後天性腎嚢胞の画像所見
ACDKの特徴的な画像所見は以下の通り。
- 両側の萎縮腎に多発小嚢胞(5〜20mm)を認める。(末期腎不全患者で1腎臓あたり3個以上の嚢胞または腎実質の25%以上を占める嚢胞と定義されている)
- 出血、感染、結石、腎癌(発生率3〜6%(健常人に比べると41-100倍のリスク))を合併することがある。
透析期間が長くなると腎癌の発生率も上昇し、多発性かつ両側性に腫瘍が生じる可能性がある。病理組織型としては、淡明細胞癌(clear cell carcinoma)や顆粒細胞癌が主に認められる。
透析患者の腎癌では、後天性嚢胞随伴腎細胞癌(ACD-associated renal cell carcinoma)や淡明細胞型乳頭状腎細胞癌(CCPRCC:clear cell papillary renal cell carcinoma)の頻度も高くなり、透析歴が長いほど頻度が高くなる。
症例 50歳代男性 透析患者
両側腎萎縮および多数の腎嚢胞、石灰化を認めており、後天性腎嚢胞症(ACDK)を疑う所見。悪性を示唆する所見は認めません。
後天性腎嚢胞の鑑別診断
ACDKの診断は、末期腎不全や透析歴、腎の萎縮、多発嚢胞の存在から比較的容易であるが、以下の疾患との鑑別が必要である。
疾患名 | 画像所見の特徴 |
---|---|
後天性腎嚢胞症(ACDK) | 萎縮腎に多発する小嚢胞(5〜20mm)を認める |
常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD) | 両腎が腫大し、多数の大小異なる嚢胞が分布 |
多発性単純性腎嚢胞 | 腎機能が正常で、腎実質が比較的保たれる |
腎乳頭状腺腫 | 画像での術前診断が困難(15mm以下であれば腎乳頭状腺腫、それ以上であれば腎癌の可能性) |
後天性腎嚢胞の対応とスクリーニング
ACDKに併発する腎癌は多くの場合無症状であり、偶発的に発見されることが多い。『腎癌診療ガイドライン2017年版』では、CTや超音波検査による定期的なスクリーニングを推奨しているが、使用するモダリティや検査頻度に関する確固たるエビデンスは存在しない。
推奨される対応
- 透析患者でACDKを認めた場合、年1回のCTや超音波検査による評価を検討する
- 嚢胞内に充実部が疑われた場合は、MRIや造影超音波検査による質的診断が有用
- 腎移植患者では、免疫抑制による腎癌の進行や遠隔転移のリスクも考慮する
まとめ
- ACDKは長期間の透析を受ける患者に高頻度で発生し、腎癌の発生リスクが高いことが特徴。
- 透析患者では定期的な画像診断によるスクリーニングを行い、腎癌の早期発見と適切な管理を行うことが重要。
参考文献:
- 画像診断別冊KEY BOOKシリーズ 知っておきたい泌尿器のCT・MRI改訂第2版 p158.159
- 画像診断 Vol.42 No,11 増刊号2022 A126.127
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