硬化性被包性腹膜炎(Encapsulating Peritoneal Sclerosis: EPS/Sclerosing encapsulating peritonitis:SEP)とは?

  • 硬化性被包性腹膜炎(EPS/SEP)は、腹膜透析における重篤な合併症の一つ。
  • 腹腔内および腸管周囲に線維化が進行する疾患。
  • 長期間にわたる腹膜透析(平均5〜10年)の後に発症し、腸管が癒着して繊維化が進むことで、持続的または間欠的な腸閉塞を引き起こす。
  • 腹膜透析患者の0.7%に起こると報告されているが近年は透析液の改善により、より割合は低い可能性がある。
  • 腹膜透析を8年以上受けている場合、発生率は20%に増加すると報告されている。
  • 初期には症状がほとんどみられないが、進行すると腸管が圧迫され、腹痛や嘔吐、下痢、腸閉塞・イレウスといった症状が現れる。

硬化性被包性腹膜炎(EPS/SEP)のCT画像診断

EPS/SEPの診断にはCTが重要であり、以下の所見が特徴的である。

(1) 腹膜の肥厚と石灰化

  • 腹膜がびまん性に肥厚する。2mm以上の肥厚。
  • 石灰化が広範囲に認められ、結節状や平滑な形態を示す。

(2) 腸管の癒着と被包化

  • 腹膜の肥厚により腸管が被包化され、小腸が限局的に収縮する。
  • フィブリンを主体とした炎症性被膜により被包化された腸管の形態が「cocoon(繭),abdominal cocoon」と表現されることがある。
  • 小腸の拡張や壁肥厚が伴い、腸閉塞・イレウスの原因となる。

(3) 限局性液体貯留

  • 腹膜に囲まれた局所的な液体貯留がみられる。
  • 腹膜透析液の残留と区別するため、透析終了後の時間経過を考慮する必要がある。

(4) 非特異的な所見

  • EPS患者の約15%では画像上の異常所見が認められないため、慎重な診断が求められる。

症例 40歳代男性 末期腎不全(ESRD)のため、持続携行式腹膜透析(CAPD)を施行中

 

腹膜の広範な肥厚および石灰化を認めています。

引用:radiopedia

被包化された腸管の形態が「cocoon(繭)」のように見えます。

硬化性被包性腹膜炎(EPS/SEP)を疑う所見です。

硬化性被包性腹膜炎の鑑別診断

EPS/SEPと類似する画像所見を示す疾患には以下がある。

 腹腔内石灰化を伴う病変

  • 腹腔内遊離体(腹腔ねずみ): 腹膜垂の遊離により形成される境界明瞭な結節状構造。
  • 落下結石: 腹腔鏡下胆嚢摘出術や虫垂炎手術後に腹腔内へ落下した結石。
  • 悪性腫瘍による腹膜播種: 特に卵巣癌(漿液性癌)や大腸癌で多くみられ、充実成分を伴う。
  • 寄生筋腫(parasitic myoma): 子宮筋腫が腹腔内で遊離・生着し、石灰化を伴うことがある。

 まとめ

EPS/SEPは腹膜透析患者に特異的な疾患であり、CTによる早期診断が重要となる。

腹膜の肥厚や石灰化、腸管の被包化、限局性液体貯留が主な所見であるが、他の疾患との鑑別が不可欠である。

透析歴や臨床経過を踏まえ、総合的な判断が求められる。

関連記事:腹部CTで石灰化をみたときの鑑別診断は?

参考文献:

  • 画像診断別冊KEY BOOKシリーズわかる!役立つ!消化管の画像診断 P321
  • 画像診断 Vol.41 No,4 増刊号 2021 P167

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