脳腫瘍の治療法
- 脳腫瘍の治療の原則は、手術、放射線治療、化学療法の3つを用いた集学的治療。
- 膠芽腫を含む悪性神経膠腫の標準治療=手術+術後のテモゾロミド併用放射線治療。ただし、テモゾロミドはリンパ球減少→ニューモシスチス肺炎のリスクがあり、ST合剤の予防内服が推奨されている。
- 放射線感受性が高い脳腫瘍→髄芽腫と胚細胞腫瘍(特にジャーミノーマ(germinoma))
- 下垂体神経内分泌腫瘍(PitNET:pituitary neuroendocrine tumor)(機能性下垂体腺腫)→経鼻的経蝶形骨洞手術(TSS:trans-sphenoidal surgery)が第一選択。プロラクチン産生腫瘍では薬物治療(カベルゴリン(ドパミン作動薬))を行う。
- 転移性脳腫瘍は個数に応じて、放射線治療または手術が行われる。転移巣が4個以下の脳転移に対しては,全脳照射ではなく定位放射線治療が標準治療となりつつある。
脳腫瘍の治療後の画像診断のポイント
- 術後の腫瘍摘出範囲の評価は術後72時間(神経膠腫では48時間)以内の撮像が推奨されている。
膠芽腫(glioblastoma)
- MGMT遺伝子プロモーター領域のメチル化を認める症例では、テモゾロミドの有効性が高く、予後良好因子とされる。
- 悪性神経膠腫の再発評価で注意すべき病態は、放射線壊死(radiation necrosis)、テモゾロミド併用放射線治療後のpseudoprogression、分子標的治療薬ベバシズマブ投与後の pseudoresponseの3つがある。
- 放射線壊死(radiation necrosis)は治療後1~2年以内に発生する。MRIでは辺縁優位に造影効果を示し、内部は壊死を認め、周囲には浮腫性変化を認める。腫瘍再発の方が放射線壊死よりもADC低値を示す。灌流画像では、rCBV高値(> 2.6)であれば腫瘍再発,低値(< 0.6)であれば放射線壊死を示唆する。
- テモゾロミド併用放射線治療後のpseudoprogressionは放射線化学療法終了後から2~3か月以内に生じる造影領域の増大や脳浮腫の増悪。神経症状の悪化を伴わないのが特徴。画像は再発や放射線壊死に類似するが経時的に縮小することが多い。
- 分子標的治療薬ベバシズマブ投与後のpseudoresponseは、投与後に造影病変の著明な縮小や周囲のT2WI高信号縮小。短期間で改善している場合はこれを考慮するが、RANO基準では、画像改善が4週間持続しないとtrue responseとはしない。
転移性脳腫瘍(metastatic brain tumor)
- 造影MRIで造影効果を認めるのが通常であるが、肺癌の脳転移に対してベバシズマブ使用例に造影効果を認めなかったと言う報告があり要注意。
- 放射線壊死(radiation necrosis)は全脳照射の標準治療(30Gy)では稀。低放射線治療後では最大線量が照射される腫瘍近傍や脳室周囲の白質に多い。腫瘍と離れた部位にも発生することがある。
髄膜腫(meningioma)
- 症状がない場合はMRIによる経過観察が行われるが蝶形骨縁内側型に限っては視力障害発症後の回復が困難であるため,予防的な摘出術が勧められている。
下垂体腺腫(pituitary adenoma)
- 再発は非機能性腺腫のサイズが大きかったものについての検討が多く腫瘍を肉眼的に全摘出した症例であっても術後5~10年以内に10~20%が再発する。
原発性脳腫瘍の遠隔転移の画像診断
- 髄腔内転移を来しやすい原発性脳腫瘍→胚細胞腫瘍、上衣腫、髄芽腫など
- 胚細胞腫瘍で最多のジャーミノーマは放射線治療や化学療法への感受性は高いが13%に髄膜や脳室内に転移が生じたとされる。
- 上衣腫ではgrade2で9%、grade3で33%に認めたと報告があり、大部分は髄軟膜転移。
- 非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍(atypical teratoid rhabdoid tumor:AT/RT)は診断時に1/3で髄膜内転移あり。
- grade1の腫瘍でも転移を生じることがあり、毛様細胞性星細胞腫では12%に髄腔内転移を認めた。
- 原発性脳腫瘍のうち、中枢神経外へ転移を認める頻度は0.96%で、小児のgrade3,4の腫瘍に多く、大脳半球の腫瘍よりは、小脳や脳幹部、硬膜に生じた腫瘍で多い。転移先は、肺・胸膜>リンパ節、骨(中でも脊椎)、肝。
- 膠芽腫の虫垂神経外への転移としては肺>リンパ節、骨(中でも脊椎)。ベバシズマブ投与後では転移先に造影効果を認めないこともある。
- 髄膜腫の転移は0.1%以下。転移先は肺(境界明瞭な類円形の腫瘤)>肝、リンパ節、骨、胸膜、縦隔。
参考文献:画像診断 Vol.43 No.11 増刊号 2023 P8-18