先に結論:心不全の胸部レントゲン・CT

  • 左心不全で肺の静脈の圧が上がると、①上肺の血管が太くなる(血流の再分布)→②間質性肺水腫(Kerley線、気管支周囲の壁肥厚=peribronchial cuffing、葉間の胸水)→③肺胞性肺水腫(肺門中心の蝶形陰影)の順に進み、心拡大・両側胸水を伴うことが多いです
  • CTではなめらかな小葉間隔壁の肥厚・気管支血管束の肥厚・すりガラス影が重力のかかる側や肺門側に強く、胸水・心拡大・肺静脈の拡張を伴います。利尿薬などの治療で速やかに改善するのが肺炎や間質性肺炎との違いです
  • 肺血管陰影の読み方:上肺野の血管が太い・肺門周囲がぼやけるなら肺静脈圧の上昇(うっ血)、肺全体の血管が太いなら肺血流の増加(左右シャントなど)、肺門部の肺動脈は太いのに末梢が細いなら肺動脈圧の上昇(肺高血圧)を考えます
  • 確定と原因の評価には心エコー・BNPが重要です。なお、心不全の急性増悪で入院した約8.5万人の解析では、18.7%で救急外来の胸部X線にうっ血所見がなかったと報告されており、X線で肺うっ血がなくても心不全は否定できません

※息切れ・むくみ・横になると苦しいなどの症状があるときは、早めに受診してください。

心不全

・まず心不全は急性と慢性に分けられる。

心不全の分類:急性心不全(急に心機能障害に陥る)、慢性心不全(慢性的なポンプ機能障害:左心不全・右心不全)

急性心不全とは?

・急性心不全とは、

  • 心臓に器質的あるいは機能的な異常
  • →急速に心臓のポンプ機能異常
  • →それによる症状、兆候の出現したもの。

つまり、急に心機能障害に陥るもの。

・左心室ポンプ機能が急激に低下
→体循環系の心拍出量の減少(心拍出量の低下)
→肺循環系への過剰な血液のうっ滞(体循環系の手前の左室充満圧上昇→左房圧上昇)
→肺うっ血(肺血管性静水圧の上昇)
→肺の間質に水が溜まる(間質性肺水腫)
→肺の実質に水が溜まる(肺胞性肺水腫)

  • 原因としては、急性冠症候群、急性不整脈、高血圧、急性弁機能不全、慢性心不全の急性増悪、大動脈解離、心タンポナーデ、重度の急性心筋炎など。心臓以外では、感染症や、貧血、水分・塩分の摂り過ぎ、服薬中断なども誘因となる。
  • 重篤な状態であることが多く、治療は、心エコーを中心に、重症度を同定し、速やかな治療を行う。参考)心不全の治療薬は?

急性心不全の画像所見

胸部X線所見

  • 心筋梗塞の急性期などを除いては、一般的に心拡大を伴い、左室および左房の拡大を主体に認める。ただし拡大しないこともあるので注意。
  • また、大きく2つの機序による変化が起こる。
  1. 肺静脈圧亢進による所見。
  2. 肺水腫による所見。

・肺静脈圧亢進による所見:肺血流の再分布が起こり、本来下肺野の血管陰影が目立つのが正常だが、それが上肺野の血管陰影(動脈、静脈ともに)が目立ってくる。

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肺水腫による所見①(間質性肺水腫):

肺毛細血管圧の上昇→血管内から間質に水が漏れる(間質性肺水腫)。

  • 肺の深部(肺門に向かう)の間質・隔壁に漏出するとKerley A line(上〜中肺野の肺門に向かう長い線)、
  • 末梢の小葉間隔壁に漏出するとKerley B line(下肺野の外側で胸膜に垂直な1〜2cmの短い線)、
  • 胸膜下水腫=葉間裂の鮮明化
  • 気管支血管束へ漏出するとperi-bronchial cuffing、
  • 肺門部は不明瞭になり、ぼけ像(perihilar haze)が顕在化してくる。

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肺水腫による所見②(肺胞性肺水腫):
  • 間質から肺胞への水が漏出すると、肺胞性肺水腫に至り、肺門部に蝶形陰影を認めるようになる。
  • さらに胸水が貯留するようになる。

肺血管陰影の読み方:血管の太さと場所で循環の状態を推定する

肺の血管影は、肺門から末梢へ枝分かれしながら細くなっていきます。立位の写真では、重力の影響で上肺野より下肺野の血管のほうが太く見えるのが正常です。「どこが、どのくらい太いか」を見ると、うっ血(肺静脈圧の上昇)・肺血流の増加・肺動脈圧の上昇のどれが起きているかを推定できます。

パターン 血管の見え方 考える状態
肺静脈圧の上昇(うっ血) 上肺野の血管が太くなる(血流の再分布)。肺門周囲や下肺野の血管の輪郭がぼやける 左心不全、僧帽弁の病気など
肺血流の増加 肺門部も末梢も、血管が全体に太く数も多く見える。輪郭は保たれる 心房中隔欠損などの左右シャント
肺動脈圧の上昇 肺門部の肺動脈が太く、末梢へ向かって急に細くなる 肺高血圧(肺の病気や血栓塞栓など)
肺血流の減少 血管が全体に細く、肺野が黒っぽく見える 肺血流が減る先天性心疾患など(X線では見落としやすい)
  • うっ血:熟練した読影者6人が、右心カテーテルで測った肺毛細血管楔入圧が6〜38mmHgの50人の立位PA像から圧を推定したところ、推定値と実測値は相関しました(r=0.675。6人の平均では0.81)。判断の中心は血流の再分布・基底部と肺門周囲の血管のぼやけ・肺胞性肺水腫で、心拡大・Kerley線・胸水は追加の情報が少なかったと報告されています(Baumstark 1984)
  • リウマチ性心疾患120人の検討では、X線で圧が正常か異常かを分ける精度は高く(85%と78%の写真を正しく分類)、楔入圧が20mmHg以上かどうかも75〜78%で分けられました。一方、軽度・中等度・高度と細かく段階づけると一致は低く(52%と43%)、X線だけで圧の程度を言い切るのは難しいことがわかります(Sharma 1998)
  • 肺血流の増加と減少:先天性心疾患の小児120人の検討では、X線で血管が正常または増加したパターンを見分ける感度は84〜94%と高い一方、減少したパターンの感度は24〜68%と低いことが示されました(Tumkosit 2012)
  • 心房中隔欠損では、肺高血圧がない場合は中枢の肺動脈の拡張と末梢の肺血管の増加がみられ、肺高血圧を伴うと末梢の肺動脈が細くなると報告されています(Tsuji 1993)
  • 肺動脈の太さの目安:COPD患者61人の検討では、平均肺動脈圧が上昇していた46人のうち43人(93%)で右下行肺動脈が16mmを超え、左下行肺動脈が18mmを超えた人も43人でした。両方を組み合わせると45人(98%)を見つけられました(Matthay 1981)

血管の見え方は、臥位での撮影や息の吸い込みが浅いときにも変わります。立位で十分に吸った写真で判断するのが原則です(胸部レントゲンの撮影条件の確認)。

胸部CT

  • 間質性肺水腫→気管支血管束の肥厚、小葉間隔壁の肥厚、スリガラス陰影〜浸潤影。
  • 肺胞性肺水腫に至ると肺門部側優位に浸潤影を認める。肺水腫は静水圧上昇型と透過性亢進型などに分けられ、原因により分布が異なります。たとえば神経原性肺水腫では両側の比較的均一な浸潤影が約半数で上肺優位となるため(Gluecker 1999)、心原性と決めつけないことが大切です。

胸部CTで心不全を疑う所見(チェックリスト)

見る場所 心不全で見られる所見
肺(間質) なめらかな小葉間隔壁の肥厚、気管支血管束の肥厚(peribronchial cuffing)
肺(肺胞) すりガラス影〜浸潤影。肺門側・背側(重力のかかる側)に強い
胸膜 両側胸水、葉間の胸水・胸膜下の水腫
心臓 心拡大、左房の拡大、心膜液
血管 肺静脈の拡張、上肺の血管の目立ち
右心不全のサイン 下大静脈・肝静脈の拡張、造影剤の下大静脈・肝静脈への逆流、肝腫大、腹水、皮下浮腫

CTでの心拡大の見方

  • 胸部X線の心胸郭比(CTR)と同じように、CTの横断像でも「心臓の最大横径÷胸郭の最大横径(内側)」で心拡大の目安を測れます。
  • 101例の検討では、CTで測った心胸郭比は胸部X線の心胸郭比とよく相関し(r=0.802)、CTの心胸郭比が0.49未満なら左室肥大の可能性は低いと推定されました(Gollub 2012)。
  • ただし心臓の大きさは呼吸や撮影条件でも変わるため、心機能の評価は心エコーで行います。

心不全(肺水腫)と肺炎・間質性肺炎の違い

心不全による肺水腫 肺炎 間質性肺炎
分布 両側・肺門側や背側に強い 片側や区域性が多い 両側の下肺・胸膜直下に多い
小葉間隔壁 なめらかに肥厚 目立たないことが多い 不整な網状影・蜂巣肺
胸水・心拡大 伴うことが多い 少ない 少ない
経過 利尿薬などの治療で速やかに改善 抗菌薬で数日〜数週 慢性に経過

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症例 70歳代 男性 左心不全

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慢性心不全とは?

慢性心不全:種類(左心不全・右心不全)、原因(虚血性心疾患・高血圧・弁膜症・心筋症)・一方、慢性心不全とは、

  • 慢性的に心臓のポンプ機能障害があり、血液を体の隅々まで運べない状態。
  • →血液を送りたくても送れないので、心臓の手前の肺循環、その前の体循環にはうっ血があり、日常生活に支障を常に来す。
  • 慢性心不全には、大きく右心不全と左心不全がある。
  • 原因は、虚血性心疾患、高血圧、弁膜症、心筋症など。
  • 治療は、体重管理、塩分制限、適度な運動のほか、重症度や原因に応じた内服薬にてコントロールする。

慢性心不全の画像所見

  • 左心不全の画像所見は、基本的に急性心不全と同様。
  • 右心不全の画像所見は、肝腫大、下大静脈の拡張、下肢の浮腫、腹水などを認める。他、下の例のように、periportal collarや胆嚢の漿膜下浮腫を来すことがある。
症例 右心不全

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心不全の画像でよくある疑問(Q&A)

Q. 胸部X線が正常なら心不全ではないですか?
A. 否定できません。急性増悪で入院した心不全の約5人に1人(18.7%)は、救急外来の胸部X線にうっ血所見がありませんでした(Collins 2006)。症状や心エコー・BNPとあわせて判断します。

Q. CTで下大静脈が太いと言われました。
A. 下大静脈の拡張は右心系の圧が高いこと(右心不全など)を示す所見の一つですが、呼吸や撮影のタイミングでも太さは変わります。肝静脈の拡張や胸水・腹水などの所見とあわせて判断し、気になるときは循環器内科で相談してください。

Q. 「肺血管陰影が増強している」とはどういう意味ですか?
A. 肺の血管の影が通常より太く、または多く見えるという意味です。肺静脈圧の上昇(うっ血)でも、左右シャントなどによる肺血流の増加でも起こるため、血管の見え方(上肺野が太いか、全体が太いか、肺門だけ太いか)で区別します(Baumstark 1984, Tumkosit 2012)。息切れやむくみなどの症状があるときは、早めに受診してください。

Q. 上肺野の血管が目立つと、心不全と決まりますか?
A. 決まりません。X線の血管の見え方だけでは、圧の程度までは言い切れません(Sharma 1998)。心拡大・胸水・症状・BNP・心エコーとあわせて判断します。

心不全の画像所見まとめ

心不全の画像所見:急性心不全(心拡大〈左室・左房〉・肺血流の再分布・間質性肺水腫〈Kerley線など〉・肺胞性肺水腫〈蝶形陰影〉・胸水)、慢性の左心不全(急性心不全と同様)、慢性の右心不全(肝腫大・下大静脈の拡張・腹水・下肢の浮腫)

参考文献

  1. Gluecker T, Capasso P, Schnyder P, et al. Clinical and radiologic features of pulmonary edema. Radiographics. 1999;19(6):1507-31. PubMed
  2. Hansell DM, Bankier AA, MacMahon H, et al. Fleischner Society: glossary of terms for thoracic imaging. Radiology. 2008;246(3):697-722. PubMed
  3. Collins SP, Lindsell CJ, Storrow AB, et al. Prevalence of negative chest radiography results in the emergency department patient with decompensated heart failure. Ann Emerg Med. 2006;47(1):13-8. PubMed
  4. Gollub MJ, Panu N, Delaney H, et al. Shall we report cardiomegaly at routine computed tomography of the chest? J Comput Assist Tomogr. 2012;36(1):67-71. PubMed
  5. McDonagh TA, Metra M, Adamo M, et al. 2021 ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure. Eur Heart J. 2021;42(36):3599-3726. PubMed
  6. Baumstark A, Swensson RG, Hessel SJ, et al. Evaluating the radiographic assessment of pulmonary venous hypertension in chronic heart disease. AJR Am J Roentgenol. 1984;142(5):877-84. PubMed
  7. Sharma S, Bhargava A, Krishnakumar R, et al. Can pulmonary venous hypertension be graded by the chest radiograph? Clin Radiol. 1998;53(12):899-902. PubMed
  8. Tsuji M. [Evaluation of pulmonary arterial trunk on frontal chest radiograph in patients with atrial septal defects]. Nihon Igaku Hoshasen Gakkai Zasshi. 1993;53(6):667-78. PubMed
  9. Tumkosit M, Yingyong N, Mahayosnond A, et al. Accuracy of chest radiography for evaluating significantly abnormal pulmonary vascularity in children with congenital heart disease. Int J Cardiovasc Imaging. 2012;28 Suppl 1:69-75. PubMed
  10. Matthay RA, Schwarz MI, Ellis JH Jr, et al. Pulmonary artery hypertension in chronic obstructive pulmonary disease: determination by chest radiography. Invest Radiol. 1981;16(2):95-100. PubMed

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