
先に結論:心エコーの正常値は男女で違う。数字は「どの基準の何年版か」を確認して、体格・年齢・測定のばらつきを踏まえて読む
| 項目 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 左室拡張末期径(平均±標準偏差) | 50.2±4.1mm | 45.0±3.6mm |
| 心室中隔の壁厚(正常範囲) | 0.6〜1.0cm | 0.6〜0.9cm |
| 左室駆出率(EF、正常範囲) | 52〜72% | 54〜74% |
| 左房径(前後径、正常範囲) | 3.0〜4.0cm | 2.7〜3.8cm |
(ASE/EACVI 2015年版の値。出典は本文参照)
この記事の数字はどの基準か
心エコーの正常値は、健康な人の分布から決めた参考範囲です。病気かどうかを決める診断基準ではありません。ASEとEACVIの2015年の推奨は、心臓の4つの部屋について、より多くの正常例を集めて正常値を更新し、以前の指針の細かな食い違いをなくすことを目的にまとめられました(Lang 2015)。2005年にも同じ学会の推奨(Lang 2005)があり、古い教科書や報告書では数値が違う場合があります。新旧の数字を混ぜないことが大切です。
この記事の数値は、2015年版(Lang 2015)の値を再掲した論文の表で確認したものです(Kim 2026、Barocelli 2026、Wu 2020、Rashid 2023)。施設の報告書の基準値が違う場合は、報告書に書かれた基準を優先してください。
左室の大きさ(内径と容積)
左室(全身に血液を送り出す心室)の大きさは、拡張末期(最も広がったとき)と収縮末期(最も縮んだとき)の内径、または容積で表します。2015年版の値は次の通りで、女性の方が小さいのが特徴です(Lang 2015、Kim 2026)。
| 項目(平均±標準偏差) | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 左室拡張末期径(LVEDD) | 50.2±4.1mm | 45.0±3.6mm |
| 左室収縮末期径(LVESD) | 32.4±3.7mm | 28.2±3.3mm |
| 左室拡張末期容積(LVEDV) | 106±22mL | 76±15mL |
| LVEDVを体表面積で割った値 | 54±10mL/m² | 45±8mL/m² |
| 左室収縮末期容積(LVESV) | 41±10mL | 28±7mL |
| LVESVを体表面積で割った値 | 21±5mL/m² | 16±4mL/m² |
(Lang 2015の値を再掲した表。Kim 2026)
平均値は「ちょうど真ん中」で、基準の上限ではありません。標準偏差の幅の中に入る人が多いと考えます。
壁の厚さと左室の重さ
心室中隔と左室後壁の厚さ(壁厚)は、拡張末期に測ります。心室中隔の厚さの正常範囲は、男性0.6〜1.0cm、女性0.6〜0.9cmです(Barocelli 2026がLang 2015の値を引用)。女性の方が壁は薄く、基準も低いため、男女で同じ数字を基準にすると、女性では異常の見逃しにつながるおそれがあると心アミロイドーシスの総説で指摘されています(Barocelli 2026)。
左室の重さ(心筋重量)は、壁厚と内径から計算し、体表面積で割った値で評価します。
| 項目 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 左室心筋重量係数の正常範囲 | 49〜115g/m² | 43〜95g/m² |
| 左室肥大の目安(線形法) | 115g/m²を超える | 95g/m²を超える |
(Kim 2026)
肥大があるときは、相対壁厚(RWT:後壁厚×2÷左室内径)で分けます。RWTが0.42を超えれば求心性、0.42以下なら遠心性で、心筋重量が正常でRWTだけ高い状態は求心性リモデリングと呼びます(Kim 2026)。壁が厚いからといって病名が決まるわけではなく、高血圧や心筋症などの原因は、他の所見と合わせて判断します。
左室駆出率(EF)
EF(ejection fraction)は、拡張末期の血液量のうち、1回の拍動で送り出される割合です。2015年版では、2方向の断面から求めるbiplane Simpson法(ディスク法)で、男性の平均は62±5%(正常範囲52〜72%)、女性の平均は64±5%(正常範囲54〜74%)とされます(Lang 2015、Kim 2026)。女性の方が正常範囲の上限も下限も高めです。
| 項目 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| EFの平均±標準偏差 | 62±5% | 64±5% |
| EFの正常範囲 | 52〜72% | 54〜74% |
(Lang 2015の値を再掲した表。Kim 2026)
一方、心不全の分類では、EFが50%以上は保たれた心不全、41〜49%は軽度低下、40%以下は低下とされ、この区切りは男女共通です(ESC 2021、Kim 2026が紹介)。
EFの数字は「ぶれる」
EFは測るたびに少し変わります。乳がん治療中の56人で、心機能が安定している期間のEFの変動を調べた研究では、造影なしの3Dエコーでは0.06程度、2Dの方法では0.10(10ポイント)を超える変動が、本当の変化がなくても起こりうるとされました(Thavendiranathan 2013)。前回との差が数ポイントというだけで、悪化や改善とは言い切れません。経過の評価は、同じ施設・同じ方法で比べるのが基本です。
左房径と左房容積
左房は肺からの血液を受ける部屋です。傍胸骨長軸像で前後径を測ると、2015年版の正常範囲は男性3.0〜4.0cm、女性2.7〜3.8cmです(Wu 2020がLang 2015の値を引用)。左房の大きさを容積で見るときは、体表面積で割った値(左房容積係数)が使われ、2015年版では34mL/m²未満が正常範囲の目安です(Lang 2015の値を再掲した表。Rashid 2023)。左房が大きいときは、左室の圧が高い状態や僧帽弁の病気などを反映していることがあります。
症例 20歳代男性 正常の傍胸骨長軸像

引用:Radiopaedia(Parasternal long axis view – normal)
傍胸骨長軸像で、左室(LV)、心室中隔(IVS)、左室後壁(PWLV)、左房(LA)、僧帽弁(MV)、大動脈(AO)が区別できます。症例ページでは、左第3肋間にプローブをあて、プローブの印を患者さんの右肩に向けて撮影した正常像(拡張早期)で、基準となる見本として載せられています。壁厚や左室内径はこの断面で測ります。
年齢・体格・性別でどう違うか
EACVIの正常値研究(NORRE)では、22施設で健康なボランティア734人(男性320人、女性414人、平均45.8歳)を調べ、心腔の大きさの参考範囲を出しました。結果は次の3点です(Kou 2014)。
| 要因 | 分かったこと |
|---|---|
| 性別 | 参考範囲の上限・下限は男性の方が高い。女性は体表面積が小さく、血圧も低かった |
| 体格 | 体表面積で割る(体格補正する)ことが必要 |
| 年齢 | 参考範囲は年齢で変わり、体表面積で補正した後でも、年齢による変化は多くの項目で残る |
(Kou 2014)
つまり、体格補正に加えて、性別と年齢を合わせて見るのが基本です。集団による違いもあります。インド北部(カシミール)の健康な成人2,245人(男性1,100人)の検討では、左室の大きさ、容積、心筋重量の絶対値が2015年版の値より小さく、左室駆出率は高めでした。この研究は、民族に合わせた基準値が必要だと述べています(Rashid 2023)。基準値は、自分の体格や集団に合うかを考えながら、参考範囲として扱います。
報告書を読むときのチェックリスト
- どの基準か:ASE/EACVIの何年版か、施設独自の基準か。古い版の数字と混ぜない。
- 性別:同じ数字でも、男性と女性で意味が違う(壁厚、EF、左室径)。
- 体格補正の有無:体表面積で割った値か、絶対値か。体格が大きい・小さい人では特に重要。
- 測定法:EFは何法で測ったか(biplane Simpson法など)。同じ方法の前回値と比べる。
- ばらつき:EFは2Dで10ポイント以上ぶれることがある。数ポイントの差で結論しない。
- 他の所見との組み合わせ:数字だけでなく、弁、壁運動、症状、他の検査と合わせて判断する。
心エコー以外の画像との関係は、心陰影の拡大(心拡大)と心胸比50%の意味、心不全の胸部レントゲン・CT画像診断、心臓CTの正常解剖も参考にしてください。エコー検査そのものの原理(Bモード・ドプラ)はエコー(超音波)検査の基礎、頸動脈エコーの正常値は頸動脈エコーの正常値と結果の見方で説明しています。
よくある疑問(Q&A)
Q. EFが50%台前半と言われました。異常ですか?
A. 2015年版の正常範囲は男性52〜72%、女性54〜74%です(Lang 2015、Kim 2026)。測定のばらつきが大きく(Thavendiranathan 2013)、数字だけでは判断できません。息切れなどの症状や他の所見とあわせて、主治医に確認してください。
Q. 壁の厚さが1.0cmと言われました。高血圧のせいですか?
A. 心室中隔の正常範囲の上限は男性1.0cm、女性0.9cmで、同じ1.0cmでも女性では正常範囲を超えます(Barocelli 2026)。壁が厚くなる原因は高血圧、心筋症、弁の病気などさまざまで、血圧や他の画像所見と合わせて判断します。
Q. 男性と女性で正常値が違うのはなぜですか?
A. 女性は体表面積が小さく、左室も小さいためです。参考範囲の上限・下限は男性の方が高く(Kou 2014)、EFは女性の方がやや高めになります(Kim 2026)。
Q. 心エコーで異常を指摘されたら、どうすればいいですか?
A. 息切れ、動悸、胸の痛み、むくみ、失神など気になる症状があるときは、循環器内科などの医療機関に相談してください。数字だけで自己判断せず、検査を行った施設の説明を聞くことが大切です。
あわせて読みたい:心臓MRIの見方
参考文献
- Lang RM, Badano LP, Mor-Avi V, et al. Recommendations for cardiac chamber quantification by echocardiography in adults: an update from the American Society of Echocardiography and the European Association of Cardiovascular Imaging. J Am Soc Echocardiogr. 2015;28(1):1-39.e14. PubMed
- Lang RM, Bierig M, Devereux RB, et al. Recommendations for chamber quantification: a report from the American Society of Echocardiography’s Guidelines and Standards Committee and the Chamber Quantification Writing Group, developed in conjunction with the European Association of Echocardiography, a branch of the European Society of Cardiology. J Am Soc Echocardiogr. 2005;18(12):1440-63. PubMed
- Kou S, Caballero L, Dulgheru R, et al. Echocardiographic reference ranges for normal cardiac chamber size: results from the NORRE study. Eur Heart J Cardiovasc Imaging. 2014;15(6):680-90. PubMed
- Kim SR, Park SM. Women’s heart and echocardiography. J Cardiovasc Imaging. 2026;34(1). PubMed
- Barocelli F, Canu E, Tassoni G, et al. Transthyretin Cardiac Amyloidosis in Women: Underdiagnosis, Sex-Specific Phenotypic Expression and Therapeutic Response. J Clin Med. 2026;15(15):6033. PubMed
- Wu VC, Wang CL, Gan ST, et al. Efficacy and safety of NOAC versus warfarin in AF patients with left atrial enlargement. PLoS One. 2020;15(12):e0243866. PubMed
- Rashid A, Shah AA, Rather H, et al. Echocardiographic Measurements in Normal Healthy Adult Population of North India. Cureus. 2023;15(10):e47449. PubMed
- Thavendiranathan P, Grant AD, Negishi T, et al. Reproducibility of echocardiographic techniques for sequential assessment of left ventricular ejection fraction and volumes: application to patients undergoing cancer chemotherapy. J Am Coll Cardiol. 2013;61(1):77-84. PubMed
画像診断を無料で学べるコンテンツ

腹部画像診断を症例で学ぶ
4日に1回、朝6時に症例が届き、実際に画像をスクロールして読影する講座です。90症例以上・1年以上続く講座で、医師・医学生・放射線技師・看護師など10,000名以上が参加中です。
講座に参加する(無料) →
