
症例46 参考症例
【症例】90歳代女性
【主訴】意識レベル低下、血圧低下
【現病歴】介護施設に入所している。今朝呼びかけに反応せず、血圧低下(SBP:50mmHg)を認めたため救急要請となった。
【既往歴】脊柱管狭窄、認知症、高血圧
【身体所見】痛い痛いという発語あり、呼びかけで開眼 GCS E3V4M5、BP 92/55mmHg、SpO2 87%(15Lリザーバー)
【データ】WBC 7300、CRP 0.02
画像はこちら
肝臓に認める異常所見とその理由は?
肝臓にperiportal collarを認めています。
肝炎や胆管炎でもあるのでしょうか?
(フフフ、ESPRESSO救急画像診断でやったやつだ。)
「periportal collarあり!急性肝炎や胆管炎の可能性あり!(ドヤ!)」
で消化器内科に入院手続きでも進めてたら、エラいことになります。
ESPRESSO救急画像診断作ったやつ出てこい!となります。
上行大動脈に偽腔閉鎖型の大動脈解離を認めています。
内膜に存在する石灰化が内腔に偏位していることからも明らかですね。
解離腔が上行大動脈に及んでいるので、Stanford A型の大動脈解離です。
さらに気づかないといけないことがあります。
心嚢液貯留を認めており、心タンポナーデの状態となっています。
左室壁は肥厚し、内腔は虚脱していることが分かります。
しかし、なぜ心タンポナーデになったのでしょうか?
急性心タンポナーデの原因には以下のものが知られています。
- 急性心膜炎(細菌性、結核性、尿毒症性、結合組織異常)
- 心膜腔血腫(心筋梗塞に伴う心破裂、大動脈瘤の心膜腔への破裂、大動脈解離の心膜腔への逆行性解離、心膜の血管性腫瘍、胸壁外傷、抗凝固療法、胸部手術後)
- 悪性腫瘍の心膜転移
今回は、
- 大動脈解離の心膜腔への逆行性解離
ですね。
Stanford A型、B型と分けられ、A型がより重篤なのはこれが原因です。
つまり、解離腔が大動脈の基部に及ぶと、
- 心タンポナーデ
- 狭心症、心筋梗塞
- 分枝血管還流障害
などが起こるリスクがあるためです。
急性の心タンポナーデの状態では、心臓が拡張できなくなり、心臓に血液が返ってこれなくなりますので、右心不全となります。
今回、上大静脈(IVC)の拡張も認めています。
関連:急変フィジカル(医学書院のページ)
ようやく、肝臓の所見と結びついてきましたね。
つまり、心タンポナーデにより右心不全を起こしていることが原因でperiportal collarを来していると考えることができます。
今回起こった事を経時的にまとめると次のようになります。
- 上行大動脈の大動脈解離
- →解離腔が大動脈基部に及ぶ
- →血性滲出液貯留による心タンポナーデ
- →右心不全
- →periportal collar
また、コメント欄で指摘いただきましたが、右腎下極に造影不良を認めており、右腎梗塞がありそうです。
診断:上行大動脈の大動脈解離による心タンポナーデによる右心不全によるperiportal collar+右腎梗塞疑い
※ということで、「臨床的には」periportal collarはどうでもよくて大事なのは前半ですね。
あと、右鼠径ヘルニアを認めていますね。
鼠径ヘルニアあり。だけでもよいですが、下腹壁動静脈の外側にヘルニア門がありますので、外鼡径ヘルニアを疑う所見ですね。腸管の逸脱も認めていますが、腸閉塞を疑う所見は認めません。
関連:
その他所見:
- 両側少量胸水あり。
- 石灰化子宮筋腫あり。
- 右腎梗塞疑い。右腎嚢胞あり。両側腎はやや萎縮傾向。
- 少量腹水あり。
- 左内腸骨動脈瘤あり。
- 右鼠径ヘルニア(外鼠径ヘルニア)あり。
- 動脈硬化あり。
症例46 参考症例の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
「肝臓に認める異常所見とその理由は?」という問いなのに、periportal collarのことを記載し忘れました。すいません^^;(言い訳になりますが…解答の途中で仕事の呼び出しがあったもので…)
periportal collarは組織学的には門脈域に生じた炎症性変化、リンパ浮腫ということですが、肝臓/胆嚢系の疾患だけでなく、リンパ浮腫を反映した心うっ血にも注意して読影したいと思います。
アウトプットありがとうございます。
>「肝臓に認める異常所見とその理由は?」という問いなのに、
救急画像診断では基本「所見と診断は?」という問いですので、今回のようなイレギュラーな問いはスルーしていまうかもしれないですね。
>肝臓/胆嚢系の疾患だけでなく、リンパ浮腫を反映した心うっ血にも注意して読影したい
ですね。原因が離れたところにある心うっ血も常に考慮にいれましょう。
いつも勉強させていただいております。
質問があります。
大動脈解離はStamfordABで治療方針が変わるわけですが、弓部をかんでいる解離はA、Bどちらに属するのでしょうか。
また、PAU,ULPの見分け方はあるのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>弓部をかんでいる解離はA、Bどちらに属するのでしょうか。
上行大動脈にあればA,なければBとなりますので、弓部にある場合はどちらの場合もあります。
>PAU,ULPの見分け方はあるのでしょうか?
・PAUは動脈硬化をベースにできたプラークにできた潰瘍性病変であり、組織病理学的概念。
・ULPは偽腔閉鎖型大動脈解離に起こる病態であり、画像診断上の概念。
という点で異なります。
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/35500
ですので、PAUは基本CT画像診断で用いる用語ではないのですが、実際は使われることもあります。
PAUは動脈硬化であり、解離ではないので、解離があるかどうかでまずは鑑別できます。
ただし、PAUから解離に及ぶこともあり、そうなれば鑑別は厳しいですね(^_^;
46-2偽腔を心嚢液だと思い、解離に気づくことが出来ませんでした。
46の症例の日にたまたまA型の解離の患者さんが来たので、正解することが出来たのですが、単純で解離を見つけるのは良く見ないとわからないので難しいです。
アウトプットありがとうございます。
>単純で解離を見つけるのは良く見ないとわからないので難しい
そうですね。内膜の動脈硬化の石灰化の内腔への偏位や、高吸収な偽腔があればわかりやすいですがそうでない場合は単純だけでは厳しいこともあります。
逆に、解離腔が小さい場合は造影のみでも厳しいことがあります。
ですので、解離を疑う場合や除外する場合は、単純+造影の組み合わせが欲しいですね。
総胆管結石や尿管結石もそうですけど、造影が必ずしも単純よりも検出に優れているわけではないという疾患がいくつかあって、解離もその一つですね。
肝臓ばかり見ていると大事な所見を見落としてしまいますね。画像の読影はもちろん大事ですが、目の前の患者さんの治療の優先順位をつけるのが大事ですね
アウトプットありがとうございます。
>目の前の患者さんの治療の優先順位をつけるのが大事
ですね。CTは死のトンネルとも言いますからね。
エントリーのみ(偽腔閉鎖型)、リエントリーも見られる(偽腔開存型)と理解してよろしいでしょうか。重症度としては偽腔開存型>ULP型>偽腔閉鎖型でよろしいでしょうか。よろしくお願いいたします。
アウトプットありがとうございます。
>エントリーのみ(偽腔閉鎖型)、リエントリーも見られる(偽腔開存型)と理解してよろしいでしょうか
おっしゃるとおりですが、画像で見られるかどうかはまた別問題です。
>重症度としては偽腔開存型>ULP型>偽腔閉鎖型でよろしいでしょうか。
同じ部位で、同じ範囲ならばそれでよいと考えます。
解離の範囲にもよりますので、Stanford分類+その3型を考慮というこになります。
「心膜に沿う全周性の心嚢液貯留はそこそこ見かけるし、心エコーでD-shapeになるような右心系拡大っぽくもないし、どうも心タンポナーデではなさそうだな…」と判断してしまい、periportal collarと関連づけられませんでした。CT画像を見直すと、Axialでリング状に見えるの心嚢液の内輪側が境界明瞭に見える(って言って伝わるでしょうか…)ので、それが単なる心嚢液貯留と心タンポナーデになるような多量の心嚢液貯留の判断の境目なのかなあと思いました。
アウトプットありがとうございます。
>心膜に沿う全周性の心嚢液貯留はそこそこ見かけるし
そうですね。量としてはそこまで多くないですね。
>Axialでリング状に見えるの心嚢液の内輪側が境界明瞭に見える(って言って伝わるでしょうか…)ので、それが単なる心嚢液貯留と心タンポナーデになるような多量の心嚢液貯留の判断の境目なのかなあと思いました。
伝わります。血性心嚢水との境界ですね。
造影なので少し分かりにくいかもしれませんが、やはり通常の心嚢水にしては高吸収ですね。
右腎下部に造影効果の低下を認めているように感じたのですが、虚血とは言えないものなのでしょうか…?
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるように造影不良がありますね(^_^;)
腎嚢胞を拾っておいて、なぜこれをスルーしたのか・・・。
腎梗塞がありそうです。追記します。
終盤にきて、今まで勉強してきたことが役立つ症例と思いました。 嬉しくなってきます。