
症例6
【症例】50歳代男性
【主訴】突然の右上腹部痛
【データ】WBC 9800,CRP 18.37
【身体所見】右上腹部にtendernessあり。defenseあり。blumberg徴候は陰性。
画像はこちら
肝表や上腹部の腹側に腹腔内遊離ガス(free air)を多数認めています。
消化管穿孔を疑う所見です。
上腹部に認めていますが、下腹部には認めていません。(この分布から下部ではなく、上部消化管穿孔が疑われます)。
穿孔している腸管と周囲の特徴としては、
- 腸管壁の肥厚・造影効果増強、壁の欠損。
- 周囲脂肪織濃度上昇。
- 消化管内容物の逸脱。(特に結腸からの便塊(dirty mass sign))
といったものがあります。
今回ややわかりにくい所見ですが、十二指腸球部から腸管外(腹腔内)に連続する索状の空気を認めています。
またこの周囲は脂肪織濃度上昇・液貯留を認めており、同部に炎症・穿孔が示唆されます。
十二指腸球部の消化管穿孔であることが疑われ、手術に同部からの穿孔が確認されました。
ちなみにfree airと穿孔部位の大まかな関係は、
- 大量→胃十二指腸、大腸
- 上腹部腹腔内のみ→胃、十二指腸球部
- 後腹膜→十二指腸下行〜水平脚
- 腸間膜内→結腸、小腸
- 骨盤内に限局→結腸、小腸
の穿孔という傾向があります。(あくまで傾向です。)
診断:上部消化管穿孔(十二指腸球部)
※外科コンサルトとなり、手術となります。
手術にて実際に十二指腸球部前壁に穿孔部位を認めました。
その他所見:右優位に少量胸水あり。
一流バリスタDr.Tの淹れ方
肝右葉の被膜の造影効果が僅かに疑われ、腸間膜の濃度上昇もあることから腹膜炎による変化を考慮します。
また右少量胸水は、穿孔および腹膜炎による反応性の胸水かもしれません。
症例6の解説動画
消化管穿孔について
補足動画 free airを認めやすい場所
free airを認めやすい場所をまとめて欲しいとご要望がありましたので、作成しました。
動画内の症例Fはこちらです。
症例6のQ&A
- 穿孔部位が分からず、頑張って探してはみたのですが見つけることができませんでした。
穿孔部位を見つけることが苦手で大抵見つけられずに終わってしまうのですが、なにかコツみたいなものはあるのでしょうか? - 穿孔している腸管と周囲の特徴を追記しました。
free airの分布とこれらの所見から探していくことになります。
- 消化管穿孔症例において、CTで穿孔部位はどの程度同定できるものなのでしょうか。
- どの程度というと難しいですが、上部か下部かをまず推測して、上部が疑われる場合は、
十二指腸球部や胃に穿孔している腸管と周囲の特徴がないかをチェックします。上部の場合は大抵はある程度わかると思いますが、
下部の場合はわからないこともあります。
- 肝周囲のフリーエアーなら分かりやすいのですが、腸管内のエアーと腸管の周りのフリーエアーをよく見間違えてしまいます。コツなどあれば教えていただきたいです
- 腸管内のairは連続性がありますが、フリーエアは連続性がなく、ポツンと存在します。
連続性をチェックしてみてください。
- Free airはCTを診る方々にとっては基本なのでしょうね・・・。がんばります。
今回、最初は臨床情報から消化管穿孔を疑って画像を見たのですが、十二指腸あたりから上手く画像を追うことができなくなり・・・とんちんかんな回答をしてしまいました。 - 基本とはいえ、救急の現場では見落とされることもあります。
症状が強く、画像を見返してみると・・・ということもあります。
条件を変えないとわからないので意外と難しかったりします。
- FreeAir見逃しました画像の基本ですね。気をつけます
- 基本ですが、見落とすこともあるのが穿孔なので、次回に生かしてください。
- 消化管穿孔の症例に関して、画像を提供する側として横断像だけではなく冠状断・矢状断など多断面及びfree airが少量の場合だとminIP(最小値投影法)を作成していますが、診断医としては効果的な画像とはやはり1mmスライス厚の横断像が良いのでしょうか?
- そうですね。今朝も1mmじゃないと穿孔部位が同定出来ない症例がありました。
- free air の傾向を教示していただき、今後の臨床に役立てようと思いました。free air に対するみたかの、引き出しが増えました。詳細な解説ありがとうございました。
- お役に立てて何よりです。
- 穿孔部位がわかりませんでした。腹側の胃壁が薄く、やぶれちゃいそうに見えましたが、あれはあんなものなんでしょうか?
- 確かにやや薄く見えますが、病的ではありません。
- 胃前壁に穿孔があると思ってしまいました。頑張って探そうとしてもなかなか壁の破綻を見るのは難しいです。
- 惜しいですね!
まずは上部消化管穿孔であることが推測できればOKです。
- フリーエア症例に関しては、勿論、連続画像であればうれしいですが、単一の画像でも構いません。
典型的な肝臓周囲のものや、それ以外の非典型例も、色々と見て慣れていければと考えております。
検討いただければ幸いです^^ - 解説部分に動画を追加しました。
- 胆嚢周囲にもfree airと腹水貯留あるように思うのですがどうでしょう?
- おっしゃるように胆嚢周囲にもfree airありますね。
胆嚢周囲は腹水貯留というよりは脂肪織濃度上昇の印象です。
- 消化管穿孔に関して、穿孔部位を見つけるのに苦手意識があったのですがだいたいの傾向があるのですね。
- そうですね。
・粘膜下層の肥厚が目立つ部位
・脂肪織濃度上昇が目立つ部位
・free airが目立つ部位などを参考に探してみてください。
下部消化管の場合は、壁肥厚が目立たない症例が多いですが、
糞便の逸脱所見などを認めることがあります。
- free airがあったので、消化管穿孔ということはすぐに分かりました。ただ穿孔部位を見つけるのが難しいです。
日常業務でも「消化管穿孔があります」と依頼医や読影医に伝えることはできても、穿孔部位がどこかを自信持って伝えることができてないのが現状です。とりあえず上部か下部かはしっかり伝えることができるように勉強したいと思います。 - 穿孔に気付かない依頼医もしばしばいますので、まずは穿孔がありますと伝えることが重要ですね。
その上で上部か下部かどちらが疑わしいか、さらにはここが疑わしいまで言えれば理想ですね。
- 肝右葉の皮膜のわずかな造影で腹膜炎とは判断されました。
フィツ フュー カーティス症候群でも、早期相で肝臓の周りが造影されますが、腹膜炎を判断するときは早期相を撮影したほうがわかりやすいのでしょうか? - 腹膜炎自体はおっしゃるように早期相で肝の辺縁の造影効果を認めることにより推測することはできます。
ただし、実際は臨床症状、身体所見から腹膜炎と診断されることが多いかと考えます。
画像はその裏付けですね。早期相を撮影した方が情報は多くなると思いますが、被曝も増えますので腹膜炎を疑う場合→早期相を撮影せよ!とはならないですね。
- free airがあることしかわかりませんでした。初歩的ですが、画像から穿孔部位がわかることを初めて知りました。手術する時に、穿孔している部分を探すのは大変だろうと思いましたがその情報があるだけでだいぶ違うでしょうね。
- 下部消化管穿孔の場合は分からない場合もありますが、上部なのか下部なのかを推測することは大事ですね。
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
空腸の壁肥厚があるように思ったのですが、特に有意なものではないのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
確かに空腸は壁が肥厚しているように見えますが、3層構造を保った粘膜下層の肥厚でなく、よく見られる所見です。有意ではありません。
立位X線でのfree airの検出率はどの程度のものでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
こちらに報告があります。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaem1984/8/4/8_4_491/_pdf
ですが、
腹部単純 X 線検査における横隔膜下遊離ガス像は,消化管穿孔に特異的な画像所見である。しかしながら立位撮影が困難な症例が多く,遊離ガスが少量の場合には腹部単純 X 線検査でこれを同
定することは困難である。また,遊離ガス像だけでは穿孔部位を同定することはできない。最近では迅速かつ低侵襲に腹部全体をスクリーニングし,客観性に富む多くのデータを得ることができる腹部 CT 検査が急性腹症患者に対して広く用いられている。
というのが最近の傾向だと思います。
出典はこちら
https://kenkyuukai.m3.com/journal/FilePreview_Journal.asp?path=sys%5Cjournal%5C20150715135151%2D5D56CDA55918C03F37DC100033D824B50BA6CB27A5EAD7B288A73F0427C8258C%2Epdf&sid=207&id=1909&sub_id=34047&cid=471
最近では腹部レントゲンを撮影せずにいきなりCTとなるケースが多いかもしれません。
私が研修医の頃は立位で見つけて、「本当にこうやってガスが見えるんだ」と感動してましたが。
立ったり寝たりして患者さんはかなり痛そうでした。その後CTで精査となり、やはり穿孔していると確認していました。
肺野条件の提示があったおかげでfree airに気づきました。
アウトプットありがとうございます。
そちらでウインドウ幅/レベルを変更できないので申し訳ないですが、できれば腹部条件でも肝表あたりで「あれ?おかしい」と気づいていただきたいところです。
free airも順序立てて考えることで、より読影しやすくなっていいですね!
発症から時間が経過しているとfree airが大量になり原因となる部位の推測が難しくなるということでしたが、痛みの部位や発症時間などをもとに考慮することも大事ですね!
アウトプットありがとうございます。
>痛みの部位や発症時間などをもとに考慮することも大事ですね!
そうですね。部位やいつから発症したのかも重要です。
小腸の壁肥厚があるように思えるのですがどうでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
他の方も書かれていますが空腸に壁が目立ちますが、虚血性腸炎や憩室炎のところであったような3層構造の肥厚ではないため、特に有意ではありません。これが粘膜下層の低吸収が目立つのならば話は別ですが。
十二指腸の肥厚があり、free airも指摘できましたので、十二指腸の穿孔と思われました。
憩室炎の症例の時もそうでしたが、脂肪織濃度の上昇がポイントのようで、炎症部位の同定に大切だとわかりました。
脂肪織濃度の上昇を指摘できるよう眼を凝らして行きます。
アウトプットありがとうございます。
>脂肪織濃度の上昇がポイントのようで、炎症部位の同定に大切だとわかりました。
その通りです。脂肪織濃度上昇を制するものが、腹部画像診断を制するといっても良いくらい重要です。
後腹膜に限局したfree airとはどのあたりのairになるでしょうか?今回だとモリソン窩のairだけでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
十二指腸や膵周囲、特に背側に認めた場合に後腹膜気腫を疑います。
ERCP後などで見られることがあります。
モリソン窩はややこしいですが腹腔内です。
関連
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/8131
小腸内の液貯留は正常範囲でしょうか。腹膜炎→麻痺性イレウスなどで貯溜したなどは考えられますか?
アウトプットありがとうございます。
>小腸内の液貯留は正常範囲でしょうか。
正常範囲です。
>腹膜炎→麻痺性イレウスなどで貯溜したなどは考えられますか?
この可能性は常に考える必要がありますが、今回は下腹部に小腸内の液貯留を一部で認めていますが、この可能性は低いと考えます。
windowレベルを調節することで、free airを見つけやすくなることを感じました。
アウトプットありがとうございます。
ですよね。
腹膜刺激症状があったり、臨床症状などから穿孔を疑う場合は積極的に調節してください。
そうでない場合(穿孔を疑っていない場合で、実は穿孔だったというケース)もあるかと思いますので、通常の腹部条件でも肝表などのairに違和感を持てるかが重要となります。
Axial 49〜59/180で腸間膜の血管がwhirl signに見えましたが、正常範囲なのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>Axial 49〜59/180で腸間膜の血管がwhirl signに見えました
これくらいの血管の回転はしばしば認めます。
今回、絞扼性腸閉塞や小腸間膜軸捻転などを示唆する所見はありませんし、whirl signは正常でも見られることがよくあるので、あまり取り過ぎには注意ですね。
free airと穿孔部位の大まかな関係についてまとめて頂いてありがとうございます。
質問なのですが、上行結腸や下行結腸は後腹膜臓器なのでairも後腹膜にとどまるのではないのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>上行結腸や下行結腸は後腹膜臓器なのでairも後腹膜にとどまるのではないのでしょうか?
補足ありがとうございます。
おっしゃるとおりです。
十二指腸下行〜水平脚の場合もそうですが、厳密にはこれらは穿通となることが多いですね。
十二指腸下行〜水平脚の周囲は、腹腔内なのか後腹膜腔なのかを意識しないと間違える場所なので注意が必要です。