症例5(差し替え前)解答編

症例5

【症例】80歳代男性
【主訴】右季肋部痛、発熱
【データ】AST/ALT=96/122,ALP 496,LDH 352,LAP 145,γ-GTP 316,T-bil 1.89,D-bil 0.92,CRP 7.38,WBC 16000

画像はこちら

(ちょっとわかりにくい所見ですが)早期動脈相で胆嚢床に早期濃染を淡く認めています。

また、胆嚢内には体部および頚部に高吸収な胆石があることがわかります。

胆嚢は腫大し、壁肥厚を認めています。

胆嚢頚部に高吸収域あり。結石による嵌頓が疑われます。

急性胆嚢炎を疑う所見です。

急性胆嚢炎は下のように多くは胆石が嵌頓して起こりますが、無石性の場合もあります。

また急性胆嚢炎を示唆する画像所見としては以下のものがあります。

今回、胆嚢底部は右の前腎筋膜と接しており、同部や周囲の腹膜の肥厚を認めています。
局所的な腹膜炎を疑う所見です。

肝辺縁や骨盤内に少量腹水貯留を認めています。

診断:急性胆嚢炎

※消化器内科もしくは外科コンサルトが必要です。今回は外科で手術されました。

関連:急性胆嚢炎の画像診断、症状、治療、手術、ガイドライン

その他所見:

  • 肝嚢胞・腎嚢胞複数あり。
  • 総肝管の壁がやや肥厚し、造影効果増強あり(ERCP後の影響か)
  • 前立腺内にシード挿入されており、放射線治療後。
  • 副脾あり。
  • 左副腎やや腫大あり。わずかに低吸収部位あり、脂肪の含有が示唆され腺腫が疑われる。
  • 消化管内に造影剤あり(ERCP施行後)
症例5の解説動画

急性胆嚢炎の画像所見

なぜこの症例を差し替えたのか?

病歴に記載していなかったのですが、消化管内に造影剤があることからもこの方はERCP後の方でした。

ですので、ERCP後に胆嚢炎を起こしたということになります。

ただし、ERCP後ですので、どうしても画像においてもその影響を受けてしまいます。

総胆管壁もやや造影効果を認めています。

肝臓の早期濃染も胆嚢床を中心に認めているとはいえ、やや肝臓全体にもまだらに造影されているようにも見えます。

つまり、ERCP後の影響や胆管炎を合併している可能性があり、綺麗な胆嚢炎症例ではないため、差し替えました。

 

症例5のQ&A
胆嚢炎による壁肥厚と胆嚢壁漿膜下浮腫の鑑別に悩むことがあります。
私も悩むことがあり、断定できないこともあります。
漿膜下浮腫の場合は、壁の外側に低吸収域が目立ちます。
胆管も開いているように見えましたが、あれくらいでは開いていないのですね。
肝内胆管は若干開いていますね。
胆嚢炎の症例に関して、当院では胆嚢壁の連続性を評価してもらうため、拡大再構成でスライス厚/スライス間隔:2mm/2mmで画像提供しています。
おっしゃるように壁の連続性も重要ですね。
肝臓周囲の石灰化はたまたまでしょうか?前立腺癌の治療中なので、金マーカーあんなところに飛びませんが、気になりました。
シードとは濃度が異なるので石灰化で良いと思います。
とくに意味はないと考えます。
腸管内に造影剤がたまっているように見えるのですが、気のせいでしょうか?何がそう見えているのでしょう?
すいません、この方ERCP後であり、その造影剤です。
胆嚢炎の胆石は、胆嚢内にだけ結石が見られるだけでよいのでしょうか。胆嚢管に必ず結石がはまっている必要はないのでしょうか。胆嚢内に結石があるだけでこんなに腫大するのか、と考えてしまいます。
急性胆嚢炎は頚部にも結石があることが多いですが、無石胆嚢炎もあります。
また結石は今回のように高吸収ではないこともあります。
早期動脈相での胆嚢床の軽度造影効果は全く気づきませんでした
胆嚢頸部にも胆石があるように見えてしまいました…
>早期動脈相での胆嚢床の軽度造影効果は全く気づきませんでした

今回の症例ではそれほど目立たない所見でもあります。

>胆嚢頸部にも胆石があるように見えてしまいました…

そうですね。頚部にも高吸収があるので結石があるかもしれません。

本CTにおいては、結石のかんとんは認められないのでしょうか。そこそこの大きさの結石を複数持っている方が、体位などによってかんとんしたり解除されたりで、症状があってもCT上でかんとんを認めない症例があるとは聞いたことがあるのですが、本症例もそのような感じなのでしょうか。
おっしゃるように頚部に結石がありそうですし、嵌頓しているかもしれません。
またその場合が多いです。
いずれにせよ胆嚢炎があるということが重要です。
普段は、結石については単純CTで評価していることが多いのですが、造影のほうがよい理由などありますでしょうか。
おっしゃるように結石は単純CTの方が評価しやすいです。
とくに総胆管結石は単純CTで見えていても、造影CTで不明瞭になることがあります。
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/18333
ですので、単純+造影CTの組み合わせがベストです。
が、今回は単純CTが撮影されていません。
胆のう壁の粘膜の厚みに差があるように思い、破れていないかが心配になって「菲薄化」と書いてしまいましたが、たしかにこれは壁肥厚ですね・・・。
そうですね。壁の連続性を追うことは胆嚢炎では大事ですが、今回は途絶はなく壁肥厚ですね。
胆嚢炎・胆管炎の症例はいつも読影が難しく,判断に迷う印象があります.今回も胆嚢の腫大などは認めるので胆嚢炎でいいのだろうけど,総胆管の拡張もあって・・・と.
エコーや病歴など総合的な判断でしょうが,なかなか難しいですね.
そうですね。我々も悩むことが多いです。
ガイドライン的にも画像のみで診断するものではないので、おっしゃるように総合的な判断ですね。
胆嚢頸部の結石を総胆管内の結石と間違えてしまいました。胆嚢がかなり腫大していたので、総胆管に嵌頓したのかと思ってしまいました。
総胆管に嵌頓すると胆嚢も腫大することもありますが、総胆管や肝内胆管が拡張がもっと目立つことが多いです。
その他の所見で
小腸内部に液体貯留があり
主膵管拡張もあると思うのですが
やはりERCP後だからでしょうか?
主膵管は少し目立ちますが拡張というほどではありません。
小腸の液貯留はERCPとは関係ないと思いますが、
造影剤はERCP後のものですね。
急性胆嚢炎ってかなって答えは想像できたのですが、横断像だけを見て立体的な解剖を想像する力がないので、どこに胆嚢管が見えているのか分かりませんでした。早期濃染しているのは肝内胆管ですか?
早期濃染しているのは肝実質です。
肝内肝管に関して
肝内肝管は正常所見ではほとんど指摘できないくらいのものなのでしょうか?逆に指摘できるなら拡張
があると考えてよろしいでしょうか?
おっしゃるとおりです。とくに問題がなくてもやや拡張を認めることがありますが、
それでも一応は指摘しますね。胆摘後に肝内胆管〜総胆管が拡張することがあり、このケースで見られることが最も多いです。
胆嚢壁の肥厚を表現する際、今回のように胆嚢の壁全体が肥厚している場合はどのように表現すれば良いでしょうか?(「全周性」?「全体的に」?)
胆嚢腺筋腫症の時に「限局性の壁肥厚」と表現するように、胆嚢炎の時の壁肥厚の表現を教えていただけましたら幸いです。よろしくお願い致します。
>胆嚢壁の肥厚を表現する際、今回のように胆嚢の壁全体が肥厚している場合はどのように表現すれば良いでしょうか?(「全周性」?「全体的に」?)

そうですね。「びまん性」とかですかね。

>胆嚢腺筋腫症の時に「限局性の壁肥厚」と表現するように、胆嚢炎の時の壁肥厚の表現を教えていただけましたら幸いです。

おっしゃるとおりですね。
胆嚢炎の場合に限局性の壁肥厚という言葉は使わず、胆のう腺筋腫症で用います。
ですので、胆嚢炎の場合は単に壁肥厚あり。と記載し、
胆のう腺筋腫症のときに「限局性」の壁肥厚あり。と記載することが多いですかね。

つまり、胆嚢の場合に限りですが、

・(びまん性の)壁肥厚あり。→胆嚢炎
・(胆嚢底部に)限局性の壁肥厚あり→胆のう腺筋腫症

という感じでしょうか。

「全周性」とすると消化管みたいでちょっと合わないですね。
「全体的に」は用いても良いと思います。

胆嚢炎であることはわかったのですが、壁の肥厚ととるべきところを、壁が薄く緊満して内圧が非常に高まっている状態なのではないのか、と考え、また壁も一部ぼやっとしているところが見られたのもあって、壊疽性胆嚢炎を起こしていたらどうしよう…と心配になってしまいました。
おっしゃるように、壊疽性胆嚢炎を意識することは非常に重要です。
今回は造影効果のある粘膜を追うことができますので、いわゆる浮腫性胆嚢炎でよいですね。
胆嚢が腫大しているのはわかりましたが嵌頓している石は見えなかったので、急性胆嚢炎で良いのか迷いました。見えないこともある、ということを学べて良かったです。
>見えないこともある、ということを学べて良かったです。

そうですね。CTは胆石に弱いです。

お疲れ様でした。

今日は以上です。

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