症例30 解答編

症例30

【症例】60歳代男性
【主訴】(重症心不全にて循環器科入院中) 全身がしんどい、お腹が張っている

【データ】WBC 11400、CPR 10.53、ALP 1083、LDH 375、Cr 1.36、BUN 38.6、Alb 1.70

さて、30症例目です。

まず目につくのが、両側胸水、心臓が大きいことですが、その下の肝臓には、

肝臓の辺縁優位に枝別れするガス像を認めています。

肝臓にairを認めた場合は大抵はpneumobiliaと言って、肝内胆管内のガス像ですが、もう一つ注意すべきなのが、

  • 門脈内ガス

です。

  • 門脈は肝門部→末梢へ流れている。
  • 胆管は末梢→肝門部へ流れている。

ので、門脈内ガスはより肝臓の辺縁に分布するのが特徴です。今はまさにその門脈内ガスを疑う所見です。

そのまま下にスクロールしていくと・・・・

ひたすら見えにくい腸管があります。

これは、腸管壁が菲薄化していることを示唆します。
これは症例27にもあったように、腸管虚血の可能性がある所見です。
(今回は単純CTですので、腸管の造影効果はわかりません)

見えにくいので濃度を変えたくなりますね。

すると・・・

広範に小腸壁内にガスを認めていることがわかります。

そして症例27に学んだSMAとSMVの径の比較をしてみると・・・

SMAとSMVの径がほぼ同じで、かつSMV内にairがあることがわかります。

さらにSMVの末梢を見てみると、

SMVの末梢の静脈にもairがあることがわかります。

腸管壁内ガス(腸管壁気腫)は、ステロイド投与などにより、一過性に生じることもありますが、常に考えないといけないのが広範な腸管壊死による腸管壁内ガス(腸管壁気腫)です。

なぜ広範な腸管壊死が起こるのでしょうか?

症例27の復習ですが、腸管虚血の原因には上のものがあります。
今回も腸管の捻れや虚血性腸炎を疑う所見ではありません。

となると、

  • 血管が詰まる・細くなる
  • 血管が攣縮する

ことによる腸管虚血の可能性があります。

今回は、単純CTですので、症例27にあったような上腸間膜動脈閉塞症を否定することはできません。

ただし、重症心不全があることからも、NOMI (non-occlusive mesenteric ischemia:非閉塞性腸管虚血)の可能性が高いと推測されました。

診断:広範な腸管壊死(NOMI (非閉塞性腸管虚血)疑い)

※症例30については、正確な正解はわかりません。造影すると上腸間膜動脈閉塞症があったかもしれません。
ただし、門脈ガスがあり、腸管壁内ガスがあり、臨床的にも広範な腸管虚血ー壊死が疑われる!と診断できることが重要です。重症心不全があり、手術適応ではなく、翌日亡くなりました。

関連:

その他所見:

  • 気切あり。人工呼吸管理下。
  • 両側胸水貯留および受動性無気肺あり。
  • 心拡大著明。心嚢水貯留あり。冠動脈石灰化あり。
  • 胆摘後。
  • 右そけい部液貯留あり。
  • 腹膜透析用のチューブ留置あり。
  • 総腸骨動脈分岐部直上に腹部大動脈瘤あり。
  • 十二指腸水平脚に金属ペッツあり。
症例30の動画解説

NOMIについて

症例28-30の過去の解答ページはこちら(passは、wV4qFzBN)

症例30のQ&A
NOMIの診断は非常に難しいといつも思います。
同じくです。
腸管気腫症と勘違いしてしまいました。腸管気腫症と腸管壊死とでは緊急度があまりに違いすぎるので実臨床では許されないミスですし、勉強不足を痛感しました。
画像上での区別はなかなか難しいですね。最終的に両者の鑑別は臨床情報が重要となります。
肝臓のair濃度のものがairだと自信を持てませんでした。門脈内ガスなんですね、普通は胆管内ガスだとも知りませんでした。腸管壁内のガスもわかりませんでした。
見落とすとやばいガスの一つですので、覚えておいてください。
腸管壊死はわかりましたが、NOMIの概念がまだ自分の中で、根付いていないと、いろいろ気づきがありました。
まずは腸管壊死が推測できれば大丈夫です。
門脈ガスがヤバイというのは知っていたので気づくことができて良かったです。
OKデス!
所見が多く、読んでいて非常に面白かったです
pneumobilliaは見たことがあったのですが門脈内ガスは初めて見ました
SMV内のairに気づかず、また腹膜透析用チューブをドレーンチューブと誤認しました
門脈内ガス重要ですので覚えておいてください。
「NOMI (非閉塞性腸管虚血)」と記載していただけるとより丁寧かもしれません(;’∀’)w
今回はNOMIをGoogle検索しました(;’∀’)ww著明な小腸拡張を認め、
「イレウスや!今日こそ閉塞起点を!!」
と思ったのですが・・笑
勉強しても勉強しても、一定期間たつと原点回帰ですね(;’∀’)
そこが医学の面白いところでもあります(^^♪ w今回の胸水は基本的には心不全からのものと思っていいですか?
やや高吸収の被膜(?)もよく見る気がします。
胸水が固まった(・・;)、みたいな感じでしょうか?ww
>「NOMI (非閉塞性腸管虚血)」と記載していただけるとより丁寧かもしれません(;’∀’)w

そうですね。追記しました。

>勉強しても勉強しても、一定期間たつと原点回帰ですね(;’∀’)
そこが医学の面白いところでもあります(^^♪ w

ですね。何度も反復が必要ですね。

>今回の胸水は基本的には心不全からのものと思っていいですか?

そうですね。基本は心不全によるものだと思われます。

>やや高吸収の被膜(?)もよく見る気がします。
胸水が固まった(・・;)、みたいな感じでしょうか?ww

たしかに血性胸水もあるのかもしれませんね。
あとは胸水貯留に伴う受動性の無気肺が両側にありますね。

確かにNOMIですね.腸管気腫症と門脈ガスから腸管壊死は思いつきましたが,NOMIまで言えるようにしておきます.
腸管壊死・門脈ガスが拾えたらまずはOKです。
この症例も良性の腸管壁内ガスはみたことがあったのですが、
腸管壊死の際のガスには今後も十分に気を付けたいと思います。
門脈内ガスと胆管のガス(peumobilia)の違いも意識してみてください。
先日の症例解説のおかげで症例30はNOMIと答えることができました。しかしSMV内のairには気がついておりませんでした。
NOMIがでてきたらOKです。SMVから門脈内ガスも意識してみてください。
解答を見て「これがNOMIか!」と、診断間違えたのに気分が上がりました!
よくノミノミ名前は聞いていたのにまったくわからなかったので、これを機に病態から勉強します!
頻度は少ない疾患ですが、ここぞというところで鑑別に挙げられるかですね。
NOMIを第一の鑑別にあげることができました。しかし腸間膜内のガスといった、細かい所見は挙げられなかったので勉強になりました。portal system gasは以前一度見たら忘れないですね!!次はもっと自信をもって答えられる気がします。
そうですね。pneumobiliaと違い、救急で見たら焦る必要がある所見です。
単純CTだったので、NOMIを疑うところまではたどりつきませんでしたが、今回は大目にみて、よしとします(汗)。
そうですね。NOMIとは断定できないので腸管壊死が指摘できれば大丈夫です。
腸管虚血、イレウスなどで
小腸壁内にガスや
門脈内ガスなどが発生する機序が
わからないのですが…
これについては、良性の腸管壁気腫もあり、良性の場合は機序がいまだにわかっておりません。
致死性の場合、腸管壊死におちいるとガスが発生します。
門脈内にガスがあるのは
壊死した腸管の血管内でガスが発生して
門脈内にたどり着く感じでしょうか?
そうですね。
壊死した腸管壁にガスが発生
→静脈内に入る
→上腸間膜静脈(SMV)
→門脈へ到達
やはり救急で画像を読影することが多い身としては,致死的・緊急を要する所見をいかに漏らさないかをしっかり意識しないといけないなと感じました.
そうですね。ここ2日で見てきた、絞扼性イレウス、上腸間膜動脈閉塞、NOMIいずれも命に関わりますからね。
重要な所見を丁寧に拾っていきましょう。
NOMIの門脈気腫は臨床で痛い目にあったことがあるので「ああ、これか・・・」と思いました・・・
そうなんですね。門脈気腫とpnemobiliaの違いをこれを機に復習しておいてください。

お疲れ様でした。

今日は以上です。

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