腸管壁気腫には、良性なものと致死的なものがあり、両極端です。
- 臨床的に予後が良好なものを良性気腫(benign pneumatosis)
- 予後不良なものを致死性気腫(clinically worrisome,life-threatening pneumatosis)
と言います。
頻度としては、経過観察でよい良性のものが圧倒的に多いとされますが、致死的な絞扼性イレウスなどの結果生じる腸管壁気腫を見逃すのは問題です。
今回は、良性なほうの腸管壁内気腫(腸管気腫症、嚢状腸管壁気腫)についてまとめました。
腸管壁気腫、嚢状腸管壁気腫(pneumatosis intestinalis cystoides)
- 腸管壁気腫は、腸管気腫症や嚢状腸管壁気腫(pneumatosis intestinalis cystoides)とよばれ、一般に無症状で特に臨床的には問題にはならないことが多い。
- また縦隔気腫などから続発する腹膜気腫(free air,pneumoperitoneum)も臨床的には問題にならない。
- ただし、腸管壊死に伴う粘膜損傷が原因となることもあり、安易な判断は禁物!両者の鑑別としては、臨床症状などを参考にする。腸管壊死を伴わない場合は、症状が比較的軽微なのに対して、腸管壊死を伴う場合は、急性腹症として強い腹痛で発症するケースが多い。
- すべての消化管に発生しうるが、腸間膜側に発生することが多い。
- 特発性と続発性がある。
続発性の腸管気腫症の原因
- 内圧上昇や腸管脆弱性(腸管狭窄、閉塞、虚血)
- 感染性腸炎
- 潰瘍性大腸炎、クローン病
- 腸閉塞
- 鈍的外傷
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
- 喘息
- 呼気終末陽圧(PEEP:positive obstructive pulmonary disease)
- 膠原病(ステロイド投与)
- 薬剤(ステロイド、αグリコシターゼ阻害薬、ラクツロース)
- 抗癌剤(分子標的治療薬を含む)
- 臓器移植
- AIDS
- 医原性 など
- 一般に無症状だが、症状としてあるならば、悪心、嘔吐、腹部膨満、腹痛、下痢、便秘。
- 特に特発性腸管壁嚢状気腫および慢性閉塞性肺疾患に伴う腸管壁気腫は無症状のことが多い。
- 治療は対症療法で良好な予後となる。高圧酸素療法を行なうこともある。
腸管壁気腫の画像所見
- CTでは、腸管壁内囊状〜線状ガス、腹腔内遊離ガスを認める。
- 腸管虚血〜壊死の判断には造影CT(+単純CT)が必要。
- ただし、広範な不規則な線状の腸管壁気腫は壊死性腸炎、細菌性腸炎、虚血性腸炎、絞扼性イレウスなどによるびまん性の腸粘膜破綻を示す所見で、臨床的にきわめて重要であり、厳重な評価、フォローが必要。
- 門脈〜腸間膜静脈内にガスを認めることあり。
致死的気腫を示唆する画像所見
- 小腸病変
- 罹患部位の拡張
- 壁の菲薄化
- fat stranding
- 造影CTでの壁濃染不良
- 門脈ガス、腸間膜ガス
- 中等度の腸間膜浮腫
※一方で、大腸病変(とくに右側結腸)は良性を示唆すると報告されている。
致死的気腫を示唆する臨床的背景
- 腸疾患の存在
- 腸閉塞の存在
- 血性乳酸値が2m mol/L以上の上昇
動画で学ぶ腸管気腫症(60代女性)
▶キー画像
小腸壁に壁内気腫を認めています。
自覚症状なく、臨床的にも問題なくフォローにて壁内気腫は消失した症例です。
腸管壁気腫を認めた場合原因があるのか、ないのかを正しく評価しましょう。腸管壊死を生じているのに、予後は良好だから大丈夫などと判断しないように、単純+造影CTを撮影して壁内気腫を生じている周辺の腸管をくまなく観察しましょう。
参考)
- ここまでわかる急性腹症のCT
- 臨床画像 vol.34 No.10増刊号、2018 P191