
症例17
【症例】50歳代女性
【主訴】心窩部痛
【診察所見】左下腹部・心窩部に圧痛あり。自発痛あり。
【データ】AMY 6456、膵型AMY 6347、リパーゼ 11140、カリウム2.8、WBC 21300、CRP 0.04
※子宮の石灰化壁を有する子宮筋腫を疑う所見は今回は無視してください。
病歴から疾患は推測されますね。
造影CTで膵はびまん性に腫大し、膵周囲には著明な液貯留および脂肪織濃度上昇を認めています。
症例3にもありました急性膵炎を疑う所見です。
急性膵炎を見たときには、CTにおけるgrade分類を行うために、
- 膵自体(壊死を疑う所見はないか。)
- 膵周囲(炎症はどこまで広がっているか。)
の2点を確認する必要があります。
今回膵周囲の炎症所見は、腎下極よりも尾側(腎下極以遠)にも及んでいることがわかります。
(また横行結腸間膜根部への炎症波及も認めています。)
また、膵自体は、画像をスクロールしていただけるとわかりやすいかと思いますが、膵体ー尾部に造影不領域を認めています。
したがって、急性膵炎のCT gradeでは上のように grade3(~2)に相当します。
かなりの重症膵炎であることがわかります。
膵炎は命に関わる疾患であり、grade2以上の重症急性膵炎の場合は、動注療法により有意な死亡率の低下が報告1)されています。治療方針を決める意味でもCT gradeで重症度を判定することは重要といえます。
診断:急性膵炎 CT grade3(~2)
この症例においても、動注療法が施行されました。
その4日後の画像です。
造影不良がより明瞭化しており、膵頭部にも及んでいます。
関連:
その他所見:
- 肝嚢胞あり。
- 子宮に粗大な石灰化子宮筋腫の疑い。
症例17の動画解説
急性膵炎の画像診断のポイント
症例17のQ&A
- 膵炎のCT gradeの判断が、簡単なようで結構難しいなといつも感じます
- そうですね。gradeが上がると難しいケースがありますね。
覚える必要はないと思いますが、gradeの表がすぐに見られるようにしておいた方がいいですね。
- 前回gradeを見た際は、ちょっと無理…、と思ってしまいあまり理解できませんでしたが、今回はわりとスッと理解できました。画像を見慣れてきたおかげでしょうか。次に急性膵炎の画像を見た際は、診断だけでなく能動的にgradeをつけるよう心がけたいと思います。
- 治療方針にも関わってくるので、grade分類するようにしてください。
- gradeを大きく間違えていました。炎症の波及に関するgradingを後腹膜から背側にどれだけ深く浸潤しているかで決めるものと勘違いしていました。
- 背側ではなく尾側ですね。
- 急性膵炎では、一部造影されない領域がありそこで虚血性の膵炎か膵癌かの鑑別で間違えました。主膵管の拡張もあったので、素直に急性膵炎と纏めればよかったのかな。と反省です。
- 膵がんが隠れている可能性はもちろん考えなければなりませんが、救急的にはまずは目の前の膵炎+膵壊死を考えなければなりません。
- 液貯留と脂肪識濃度上昇を区別できていなかったことに気づきました
- 炎症がある部位にともに認めますので、とくに膵炎の場合、厳格に区別する必要はないのかもしれません。
- 見るポイントはあっていたので少しうれしかったです。
- 造影不領域と炎症の進展範囲の2点を見るようにしてください。
- 急性膵炎は分かってもまだgrade分類は難しく感じましたがgradeによって重症度が変わるということなので身に着けていきたいです。
- gradeの表に当てはめていく習慣をつけてください。
- 膵炎の症例は、早期相、後期相ともに造影不良を認めるので、壊死性膵炎と言うことでいいでしょうか?
- そうですね。この症例では早期相ではちょっとわかりにくいですが、後期相で造影不良を認めていますので、この時点では壊死性膵炎疑いとなりますね。
で、4日後のCTで画像的には確定ですね。
- 急性膵炎は前回も出題があったので着眼するポイントを意識しつつ読影するのを心がけました。しかし、横行結腸間膜の炎症は指摘できたのですが、腎下極まで炎症が至っていることを指摘できませんでした。
- 今回は前回の症例と違ってかなり炎症が派手で重症度が高く、また治療法にも関わるので、
是非腎下極も意識しましょう。冠状断像も参考になります。
- 今回単純+ダイナミックが選択された主科の狙いはなんだったのでしょう?
膵腫瘍のルールアウトでしょうか?
造影一発(上腹部〜骨盤部)、ではまずいですか? - 膵炎そのものの判定には造影CT一発でも良いと思います。
ダイナミックをする意義としては、おっしゃるように膵腫瘍の除外や、膵壊死の評価ができる点が大きいですね。
あとは仮性動脈瘤とかその破裂などがある場合はダイナミックでextravasationおよびその広がりを見ることもあります。ただ、何でもかんでも単純+ダイナミックが撮影するのも考えもので、被曝の問題などもありますね。
今回の症例は夜中に呼ばれて動注までやったのでよく覚えているのですが、
消化器内科の先生が最初からオーダーしたのと、この方が病院関係者の親族の方だったのもあり、
手厚く撮影されたのかもしれません。
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
いつもありがとうございますとある大学の放射線科1年目です。動注療法の適応はどう決められていますか?注釈の文献がみれずでした。
一週間前の夜中に当直をしていて、画像ではgrade2の重症膵炎で動注しました笑。当院では画像状重症であれば適応としています。
お忙しい中恐れ入りますが、ご指導いただけたら幸いです。
アウトプットありがとうございます。
>動注療法の適応はどう決められていますか?
基本消化器内科の依頼があればやりますので明確な適応の基準は当科ではありませんが、膵壊死があれば1区域であれ、すぐに主治医に電話して相談するようにしています。
このGradeはわかりやすく1−3となっていますが、同じ2であっても、3寄りの2と、1寄りの2とでは重症度はかなり異なるので注意が必要ですね。
今回は膵壊死を指摘できたのですが、Gradeの判断において2区域に及ぶかどうかで悩みました。
基本的な解剖で申し訳ないですが、膵頭部・膵体部・膵尾部の判断はCTにおいて何をメルクマールに判断するか教えていただければ幸いです。
アウトプットありがとうございます。
>Gradeの判断において2区域に及ぶかどうかで悩みました。
確かに悩ましいところですね。
>膵頭部・膵体部・膵尾部の判断はCTにおいて何をメルクマールに判断するか教えていただければ幸いです。
膵癌取扱い規約第7版では以下の様になっています。
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/37045
ただし、これに従うと膵体部がかなり狭くなりますので大まかで良いと思います。
腹水は血性でしょうか??
腹水が血性だと思い込み、出血点を探しました。
また、WBCとアミラーゼから膵臓または膵臓周囲の炎症と考えましたが、CRPが高くないのはなぜでしょうか??
アウトプットありがとうございます。
ダグラス窩などには腹水は認めておらず、肝表や右傍結腸溝などに少々量見られます。
多くは後腹膜の浮腫および液貯留です。血性とは言えないです。
>また、WBCとアミラーゼから膵臓または膵臓周囲の炎症と考えましたが、CRPが高くないのはなぜでしょうか??
遅れて上がってくるのでしょうか。
http://www.crc-group.co.jp/crc/q_and_a/97.html
WBCとCRPの検出機序が異なるため、解離するのですね
ありがとうございます。
怪しいなと思いながら、造影不良域無しとしてしまいましたので浮腫性膵炎のgrade2としてしまいました。後からみると確かに造影不良でした。
アウトプットありがとうございます。
造影不良は時間が経過すれば明瞭な低吸収として見られることもありますが、発症から時間があまり経過していない場合は不明瞭な低吸収として認めることがありますので注意深く観察&フォローしましょう。
前回の膵炎の症例の良い復習となりました。しかし膵臓の造影不良域がどれほど黒いかをもって造影不良域と判断するかがわからず自信をもって造影不良域があるとはいえませんでした。
そこで質問ですが、膵臓の造影不良域はどれくらい黒かったら(造影不良だったら)造影不良域とみなすメルクマールのようなものはありますでしょうか?(例えば、肝臓より黒かったら造影不良域 とか)
アウトプットありがとうございます。
>膵臓の造影不良域はどれくらい黒かったら(造影不良だったら)造影不良域とみなすメルクマールのようなものはありますでしょうか?
メルクマールはあるとすれば、周りの正常に造影される膵実質と比較するしかありません。
初期は指摘しにくいこともありますが、注意深く壊死になりそうなところがないかをチェックすることが重要です。
いつもお世話になっております。
質問ですが、本症例の低K血症の原因は下痢や嘔吐でしょうか?利尿薬内服歴などありますでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
低K血症の原因についてはまた確認しておきます。
また何か分かればこちらに追記します。
調べたところ、下痢や嘔吐、内服薬については記載がありませんでした。
翌日には3.9に補正されており、以後も低K血症は認めておりませんでした。
他の方も質問していますが、膵の造影効果が悪いというのは微妙ですね。その気で見ないと見落としてしまいます。今回の急性膵炎の炎症が及んでいる範囲の見方をしっかり反芻していきます。
アウトプットありがとうございます。
>膵の造影効果が悪いというのは微妙ですね。
同じように思われる方がおられるので、引っかけるのが難しい所見なのかもしれません。
初期は造影不良がわかりにくいこともありますが、今回くらいの周りの膵実質と比べて落ちている場合は有意と取ります。
急性膵炎のCT Gradeについては勉強不足だったので、復習したいと思います。
アウトプットありがとうございます。
膵自体の変化
炎症所見の広がり
この2点に分けて評価するようにしてください。
膵周囲の小腸にやや拡張と液体貯留を認めるかなと思ったのですがあまり有意な初見では無いでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
確かに認めており、局所的な麻痺性イレウスといってもよいと考えます。