2015年に急性膵炎診療ガイドラインが改定されました。
急性膵炎のCT画像診断において、2012年にアトランタ分類が改訂されたことを受け、これまで使われていた用語が変更されて、新たな用語が用いられるようになりました。
そこで、今回は、最新のガイドラインに基づいたCT画像診断のポイントについてまとめました。
急性膵炎の画像所見に基づく分類
まずCT画像所見に基づく分類では、急性膵炎は
- 間質性浮腫性膵炎
- 壊死性膵炎
に大別されます。
間質性浮腫性膵炎(interstitial edematous pancreatitis)とは?
膵臓に炎症が起こると、膵臓がむくみます。いわゆる浮腫の状態です。周囲に炎症所見を認めることもあります。
ただし、間質性浮腫性膵炎とは膵臓実質に壊死を伴なわない状態で、多くは発症1週間以内に症状は改善します。
症例 70歳代女性 胆石性急性膵炎
造影CTにおいて、膵臓周囲に広範な液貯留を認めていますが、膵臓に壊死を疑う所見は認められません。間質性浮腫性膵炎の所見です。
壊死性膵炎(necrotizing pancreatitis)とは?
一方で膵臓に炎症が起こり、膵臓がむくむだけでは済まずに膵実質に壊死が起こるのが壊死性膵炎です。
壊死が起こるとその部位の膵組織には血流が途絶えますので、造影CTで造影不良域として描出されることになります。
ただし急性期の場合は、虚血状態でも造影不良域となることがあるので、最終的に壊死と診断できるのは1週間程度経過してもなお造影不良域が残っている場合です。
造影CTで膵実質の虚血域はCT値が70HU未満、壊死部は30HU未満が目安、脂肪壊死と浸出液貯留の目安として、脂肪壊死はCT値が40HU以上、浸出液は40HU以下と報告されています。(INNERVISON(31・6)2016P81)
当然、間質性浮腫性膵炎よりも、壊死性膵炎の方が重篤であり、感染症など合併症の発生率も高くなります。
症例 50歳代 壊死性(特発性)急性膵炎
造影CTにおいて膵周囲に液貯留を認め、膵腫大あり。さらに膵体部において造影効果不良あり。
壊死性急性膵炎を疑う所見です。(1週間後のCTにおいてさらに壊死の進行あり(非提示))
急性膵炎に伴う液貯留の分類(局所合併症)
改訂アトランタ分類により、膵臓及びその周囲の局所合併症としての液体貯留を発症からの時期により分類されました。
まずは発症から
- 4週間以内か
- 4週間以上か
で分類し、それぞれ2つずつに分類されます。
さらに、それらに感染を伴っているかどうかで分類されますので、合計8種類の分類があるということになります。
発症から4週間以内の場合
発症から4週間以内の場合、
- 急性膵周囲液体貯留(APFC : acute peripancreatic fluid collection):壊死を伴わない膵周囲液貯留。
- 急性壊死性貯留(ANC : acute necrotic collection):膵及び周囲の壊死を伴う液貯留。
に大きく分けられます。
急性壊死性液貯留の液貯留は造影CTで被包化は起こっていません。
それぞれ、上の1症例目がAPFCに、2症例目がANCに相当します。
発症から4週間以降の場合
発症から4週間以降の場合、
- 膵仮性嚢胞(PPC : pancreatic pseudocyst):膵臓外に存在して、炎症が起こった後に作られた壁により境界される液貯留。境界は明瞭で円形が多い。壊死は伴わない。
- 被包化壊死(WON : walled-off necrosis):膵臓内外に存在して、炎症及び壊死が起こった後に作られた不均一な液体及び非液体による構造。
に大きく分けられます。
これまでのガイドラインでは、仮性嚢胞と分類されてきたもののかなりの割合が、この後者である被包化壊死(WON)であると言われています。
被包化壊死(WON)では、壊死物質のドレナージ術や除去術が有効とされていますので、しっかりと被包化壊死(WON)と診断することは重要です。
症例 50歳代 壊死性(特発性)急性膵炎 (上の2症例目と同様の症例)
膵体部を中心に壊死を疑う造影不良域を認めていましたが、慢性的な経過で、被包化された膵および膵周囲の液状化壊死組織を認めており、いわゆるWON(Walled-off necrosis)の状態となっています。
参考文献)急性膵炎診療ガイドライン 2015
最後に
これまでのガイドラインと比較してあまりに大きな変更点はありませんが、4週間以降の液貯留において、これまで仮性嚢胞と診断されてきたものの一部には、重症度の高い被包化壊死(WON)が含まれていたというのは注目すべき点です。
典型的な仮性嚢胞でないものに対して、経過からも被包化壊死(WON)を疑うことが重要と言えます。