症例46 解答編 その2

症例46その2

【症例】60歳代男性
【主訴】両足が動かせない、感じない、歩行不可能、背部痛。
【身体所見】意識清明、BP 164/92(左右差なし)、上肢:motor/sensory:n.p、臍下(Th11以下)からの完全運動・感覚障害、挙睾筋反射・肛門括約筋反射消失
【データ】WBC 7500、CRP 0.09、D-Dダイマー 115.8

画像はこちら

単純CTで血栓閉鎖型の大動脈解離が疑われ、造影CTが撮影されました。
画像は動脈相のものです。

すると単純で予想された通り、偽腔に造影効果を認めず、偽腔閉鎖型の大動脈解離のようです。

(※ちなみに時間の経過した器質化血栓には造影効果を認めませんが、十分な器質化が得られていない血栓の場合は、平衡相で血栓内に造影効果を認めることがあります。)

ところがよく見ると、真腔から偽腔に突出する所見を認めています。

これをULP型の大動脈解離と言います。

ULPとはulcer like projectionの略です。日本語では「潰瘍様突出像」となります。

このULP型の大動脈解離と、偽腔閉鎖型の大動脈解離は別物として扱います。

なぜなら、ULP型は、

  • 解離腔が拡大したり、瘤化する。
  • 再度解離をする。
  • 大動脈が破裂する。

というリスクが他のタイプよりも高いとされているためです。

ですので、大動脈解離には、

  • 偽腔開存型
  • 偽腔閉鎖型
  • ULP型

の3つのタイプがあることになります。

それぞれのタイプのシェーマとCT所見の関係をまとめると次のようになります。

※ちなみに今回の症例では、この突出像が真腔と繋がっていないようにも見えますが、thin sliceで見ると繋がっているように見えます。(thin sliceを提示したのは実はそのためです(;゚ロ゚))

大動脈解離を見たときに、

  • 大動脈の解離の範囲
  • 偽腔の血流状態の評価(済)
  • 大動脈主要分枝の評価

などが重要となります。

ご存じのように大動脈解離はStanford分類で以下のように分類されます。

分類する理由はStanford A型は手術適応となるためでしたね。
※最近はStanford A型でも血栓閉鎖型の場合は保存的に加療されることもあります。

今回の症例では、

上行大動脈に解離腔は及んでいませんので、Stanford B型となります。

また解離腔を尾側に追っていくと、

右側の総腸骨動脈をへて大腿動脈まで解離腔が及んでいることがわかります。

そのほかに、大動脈の主要分枝が偽腔、真腔いずれから分岐しているかをチェックする必要があります。
偽腔から分岐している場合は虚血に陥る可能性があるためです。

とくに、

  • 冠動脈
  • 弓部3分枝
  • 腹腔動脈
  • 上腸間膜動脈
  • 腎動脈
  • 総腸骨動脈

などをチェックします。

今回、

左の腎臓に造影不良を認めており、腎梗塞が疑われます。

よく見ると左の腎動脈に解離腔が及んでいることがわかります。

ほかは、右の大腿動脈まで解離腔が及んでいる以外は、大動脈の主要分枝はいずれも真腔から分岐しています。

では、今回の主訴の1つである、両下肢の麻痺や身体所見で記載されている臍下(Th11以下)からの完全運動・感覚障害、挙睾筋反射・肛門括約筋反射消失はなぜ起こったのでしょうか?

これらは、脊髄梗塞を示唆します。

脊髄梗塞の原因1)としては、

  • 不明(最多)
  • 動脈硬化・大動脈手術によるAdamkiewicz動脈の血流障害
  • 大動脈・椎骨動脈解離
  • 血管炎
  • 塞栓症
  • 脊髄動静脈奇形
  • 全身低血圧
  • 潜函病
  • 麻酔術の合併症

などがあります。

では、どうして大動脈解離で脊髄梗塞になるのでしょうか?

それが、これです。

Adamkiewicz artery(アダムキービッツ動脈)が閉塞したためです。

Adamkiewicz artery(アダムキービッツ動脈)とは、脊髄の2/3を栄養する前脊髄動脈に血流を送る血管で最も太いものです。

ですので、この動脈が閉塞すると脊髄虚血・梗塞に陥る(対麻痺となる)可能性があり、Th8~L1の間で左側から起始する頻度が高く、太さは0.8~1.3mm程度であり、前脊髄動脈と合流する際に上の図のような特徴的な”ヘアピンカーブ”を形成します。

今回この動脈自体を画像で同定することはできませんが、解離によりこの動脈が虚血に陥り、脊髄梗塞を起こしたと推定することができます。

診断:ULP型大動脈解離(Stanford B型)+左腎梗塞(+前脊髄動脈閉塞による脊髄梗塞)

参考文献:
1)すぐ役立つ救急のCT、MRI P121

関連:大動脈解離まとめ!症状・治療・CT画像所見のポイントは?

その他造影CTのみで認める所見:ドーム下肝にAP shuntなど偽病変の疑い。

症例46その2の造影CTの解説動画

大動脈解離について

お疲れ様でした。

今日は以上です。

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