【胸部】症例33
【症例】70歳代女性
【主訴】発熱、喀痰、咳嗽
【現病歴】12月4日より発熱、咳あり、12月7日他院受診。CRP 4.09、WBC 7400と軽度の炎症反応とCT上、両肺に浸潤影を散見し肺炎と診断された。同日よりクラビット内服、12月10日よりユナシン点滴+クラリス内服、さらにその12月14日よりジスロマックSR内服にて加療するも38℃台の発熱続き、本日(12月16日)採血でもCRP 7.14、WBC 10140と軽快を認めないため、当院呼吸器内科に紹介受診となる。他院での痰培養では病原菌検出なし、Tbは塗抹、PCRともに陰性、寒冷凝集素、マイコプラズマ抗体陰性だった。
【既往歴】肺結核、胃癌、膿胸にて左肺切除、腸閉塞、高血圧、糖尿病
【生活歴】喫煙 25年前まで20本/日×35年、飲酒:機会飲酒、ペット飼育:なし、粉塵ばく露:なし
【身体所見】意識清明、BP 140/80mmHg、P 82回/分、BT 38.6℃、SpO2 96%(RA)、胸部:呼吸音 clear、no rale、その他身体所見に特記すべき異常所見なし。
【データ】WBC 11900(好酸球 30%)、CRP 6.85
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※この症例では●月▲日、●月▲+6日、などと表現するとわかりにくいと感じたため、12月4日などと表記しています。
まず今回のレントゲン写真から見ていきましょう。
左優位に両側上肺野〜中肺野、右優位に両側下肺野にやや末梢優位に濃度上昇を認めています(上のピンクをつけていない部位にも濃度上昇を認めています)。
また左肋骨横隔膜角やや鈍です。
次にCTを見てみましょう。12月7日分と、12月16日分を対比させながら見ていきます。
すると、末梢優位に斑状の陰影を認めており、12月7日分と、12月16日分とで全く分布が異なることが分かります。
いわゆる、「陰影が移動している(wandering pneumonia)」状態です。
※実際に移動しているわけではなく、陰影の軽減〜消失と新たに出現した陰影したものを見ています。
この現象は、両側肺野のあらゆる部位で認めています。
また、12月7日分では区域を無視した線状の陰影の広がりを認めています。
陰影は基本的に末梢優位に斑状の陰影として認めていることがわかります。
このような
- 末梢優位の多発する斑状影
- 陰影の移動
を認めた場合に考えなければならないのが、
- 器質化肺炎(COP/OP)→症例32
- 慢性好酸球性肺炎
となります。
今回は末梢血の好酸球の増加を認めています。
また、来院翌日の12月17日に気管支肺胞洗浄(BAL)が施行され、肺胞洗浄液に好酸球を多数(好酸球分画 90%)認めました。
診断:慢性好酸球性肺炎
※ステロイドによる治療が行われました。
12/17,18,19 ソル・メドロール 125mg div
12/20- PSL 30mg/日
12/27- PSL 25mg/日
12/29退院。
今後は外来にてプレドニンのテーパリングを行いつつ、フォローアップしていく。と記載がありました。
関連:
【胸部】症例33の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
短期間での陰影の増加と減少は、特徴的な画像所見だと思いました。
アウトプットありがとうございます。
ですね。移動する(ように見える)非区域性で末梢優位なものは、慢性好酸球性肺炎とCOP/OPをまずは考えましょう。
心臓の悪くない肺水腫様の陰影を見たら、好酸球性肺炎を考えるとおしえられました。
ちょっとずつ肺炎にも慣れてきました。
アウトプットありがとうございます。
>心臓の悪くない肺水腫様の陰影を見たら、好酸球性肺炎を考えるとおしえられました。
それは急性好酸球性肺炎ですね。
若年者が喫煙を始めたら呼吸苦で、というエピソードが多いやつです。
今回はそちらではなく、慢性好酸球性肺炎で、レントゲンでは肺水腫とは真逆のネガ様と言われるものです。
急性好酸球性肺炎かなり探したのですが、症例が見つかりませんでした(^_^;)
慢性は割とみつかるのですが。
慢性好酸球性肺炎と急性好酸球性肺炎では、それぞれ特徴的な画像所見があるのですね。私はどちらも知らず全然分かりませんでしたが、好酸球の増加と肺水腫様またはネガ様所見があれば急性・慢性の好酸球性肺炎だと指摘しやすいのでしょうね。勉強になりました。
私は新しく出現する病変や線維化、軽度牽引性気管支拡張があるようにも見えARDSかと思ってしまいました。(本人の状態が良すぎるなとは感じましたが。)
アウトプットありがとうございます。
>慢性好酸球性肺炎と急性好酸球性肺炎では、それぞれ特徴的な画像所見があるのですね。
ややこしいですがそうなんです。
>好酸球の増加と肺水腫様またはネガ様所見があれば急性・慢性の好酸球性肺炎だと指摘しやすいのでしょうね。
おっしゃるとおりです。
ARDSとは臨床像が異なりますね。
単純写真で左横隔膜にjuxtaphrenic peak signがあるように見えたのですがいかがでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
板状無気肺があるので、それが形成しているのかもしれませんが、下行大動脈のラインによってそのように見えている可能性もありますね。
COPと慢性好酸球肺炎の鑑別ポイント等はありますでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
OP/CEP(慢性好酸球性肺炎)パターンなどと表現されるくらい同じような陰影パターンとなるので、両者の鑑別は画像だけでは厳しいです。
ありがとうございます、いつも大変勉強になっております!
縦隔リンパ節腫大が目立って認めていることが気になりました。CEPによる反応性でこのようなリンパ節腫大になるのですね。
細反応性リンパ節腫大は、一般的に、感染症、間質性肺疾患、そのほか炎症が大きい病態であればいずれも来しうるという認識でよいでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>細反応性リンパ節腫大は、一般的に、感染症、間質性肺疾患、そのほか炎症が大きい病態であればいずれも来しうるという認識でよいでしょうか?
そうですね。炎症が大きくなくても来しうるので炎症の大きさはあまり考えなくてよいです。
反応性リンパ節腫大の場合は、縦横比が大きい傾向にあります(多くは長径/短径>2)が、リンパ節転移の場合は円形に近い傾向にある点も重要です。
「陰影が移動する」というのは、ある所の陰影が良くなって、また別の所に新たな陰影ができるということですが、一つ一つの陰影は直りやすい、ということはいいことだ。でも他の所にできてくるというのは厄介だ。抗生剤治療でもある部位をみれば軽快しているということは勝手に?良くなってしまった。でも繰り返すからステロイドで治療する、というイメージでいいでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>抗生剤治療でもある部位をみれば軽快しているということは勝手に?良くなってしまった。でも繰り返すからステロイドで治療する、というイメージでいいでしょうか。
そうですね。
抗生剤である箇所の陰影は消えているのに、別のところに出ていることから、単なる肺炎ではないと考える必要があります。