【胸部】症例37
【症例】40歳代男性
【主訴】意識障害
【現病歴】本日朝10時頃、トイレに行っても帰ってこず、10時半にトイレで倒れているところを同僚に発見され救急搬送された。
【既往歴】糖尿病、高血圧、高脂血症
【内服薬】なし
【身体所見】JCS 300、E1V1M1、SBP 230mmHg、HR 130bpm、瞳孔径 2mm/2mm、対光反射-/-、いびき様呼吸、
【データ】WBC 10900、CRP 0.12
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まず頭部CTから見ていきましょう。
かなり派手な所見がありますね。
大脳半球は著明な浮腫を認めており、くも膜下腔が非常に狭くなっています。脳溝が不明瞭化しています。
両側シルビウス裂には高吸収を認めており、くも膜下出血を疑う所見です。
また脳室内には著明な血腫を認めていることがわかります。
両側側脳室の下角は著明な拡張を認めています。脳圧亢進を示唆する所見です。
また橋を始め脳幹は全体的に低吸収化しており、本来脳幹周囲に見えるべきくも膜下腔がはっきりしません。
くも膜下出血を示唆する所見です。
血腫は中脳水道から第4脳室まで鋳型状に認めている事が分かります。
明らかな急性水頭症の所見であり、脳室ドレナージによる除圧が必要です。
正常の40歳代男性の頭部CTと比較してみてください。
- 本来見えるべきくも膜下腔が全然見えていない。
- 脳室が拡大している。
と言う点がよく分かると思います。
さて、くも膜下出血を認めた場合は動脈瘤の破裂を第一に疑い、どこの動脈瘤が破裂したのかを推定します。
ESPRESSO頭部救急に参加された方は復習になりますが、原因動脈瘤を推定する方法としては、
- クモ膜下出血の部位
- 脳実質内血腫の部位
- filling defect sign
が知られています。
しかし、今回はこのいずれもはっきりしません。
むしろ血腫は脳室に目立っており、脳室内の血腫がくも膜下腔に流入した可能性があります。
脳室内血腫を認めた場合は、
- 原発性脳室内出血
- 脳室周囲の(主に高血圧性)脳出血の脳室内穿破
の2つが考えられます。
で、その目で見てみると、側脳室内の血腫は左優位であり、脳室外と思われる尾状核から出血しているように見えます。
尾状核出血は高血圧性出血の好発部位ではありませんが、出血を起こすと容易に脳室内穿破することで知られています。
同日、脳血管造影が行われましたが、やはり動脈瘤は見つかりませんでした。
診断:左尾状核出血脳室穿破による急性水頭症
急性水頭症ですので、ドレナージ術が必要です。
同日両側脳室ドレナージ術が施行されました。
~~~~~手術記録からの抜粋~~~~~~~~
左前角穿刺をまず行ったところ、圧は非常に高く、50cmH2Oを超えるほどであった。
右前角穿刺は外側を狙ったが、脳脊髄液の逆流を認めなかったため、やや内側に穿刺したところ、血性髄液の逆流を認めた。脳室内を洗浄し、ドレーンを固定し、手術終了とした。
術後 JCS 300、瞳孔:両側散大、対光反射-/-
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関連:
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
(茶番終了)
で、ここからが本題。
次に胸部レントゲンを見てみましょう。
ポータブルで臥位で撮影されていますが、心陰影の拡大を認めています。
また、両側中枢側上肺野優位に斑状影を認めています。
血管の賑やかさは、上肺野:下肺野=1:1.5~2が正常といわれていますが、上下同じくらいの血管の賑やかさです。
次にCTを見てみましょう。
両側上葉では、小葉間隔壁の肥厚を認めています。広義リンパ路病変を疑う所見です。
またやや中枢側優位にすりガラス影を認めています。
両側下葉では小葉間隔壁の肥厚に加えて中枢側やや背側優位にすりガラス影〜一部で浸潤影を認めています。
これらはいずれも広義リンパ路に水がたまった状態である肺水腫を疑う所見です。
どうして肺水腫が起こったのでしょうか?
心不全の既往もありません。
脳出血+肺水腫→神経原性肺水腫
が起こることが知られています。
交感神経系の著明な亢進により肺毛細血管内圧が上昇し、血管透過性が亢進する為に生じると考えられています。
診断:神経原性肺水腫
※神経原性肺水腫自体は、通常は予後良好で1−2日で改善すると言われています。
翌日の胸部CTです。
1日後には肺水腫所見は軽減していることが分かります(左下葉の無気肺をやや認めています。)
【胸部】症例37の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
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新年初問題に早速解答させて頂きました^^
頭部画像では、出血部位がはっきりせず…くも膜下出血としましたが、尾状葉出血からの穿破だったのですね。尾状核の点状の出血は気にはなっていたのですが、出血原とははっきり言えませんでした。
神経原性肺水腫の方は、以前先走って、コメント上で質問をさせて頂いたので…迷うことはありませんでしたが、一応、左房拡大や下大静脈に拡大がないことを確認して所見としました。
新年早々回答提出ありがとうございます。
>出血部位がはっきりせず…くも膜下出血としましたが、尾状葉出血からの穿破
出血部位は難しいですね。おそらく尾状核だと思われます。
>神経原性肺水腫の方は、以前先走って、コメント上で質問をさせて頂いたので…迷うことはありませんでしたが
ですね(^^)
明けましておめでとうございます
頭部は交通渋滞位置から脳幹出血(橋)かと思いましたが別部位でした。
肺は状態が悪くなったから誤嚥性肺炎かと答えましたが上葉はどうも説明できない状況でした。解答を見てなっとくです。本年も宜しくお願いいたします。
あけましておめでとうごさいます。今年もよろしくお願いします。
>交通渋滞位置から脳幹出血(橋)かと思いましたが別部位でした。
確かに中脳水道や第4脳室に血腫は目立ちますが、上の方もかなり目立ちますね。
>肺は状態が悪くなったから誤嚥性肺炎かと答えましたが上葉はどうも説明できない状況でした。解答を見てなっとくです。
是非この機会に神経原性肺水腫を覚えておきましょう。
あけましておめでとうございます。今年もよろしくおねがいします。
元々神経原性の肺水腫は知りませんでしたが、以前の質疑応答のくだりをコソ見していたおかげで回答できました。今年は良い1年になりそうです。
あけましておめでとうごさいます。
>以前の質疑応答のくだりをコソ見していたおかげで回答できました。今年は良い1年になりそうです
コメントで学べたということですね。
よい1年になりますように(^^)
あけましておめでとうございます.今年もよろしくお願いいたします.
神経原生肺水腫は有名ですが,実際ここまでの症例にはあまり出会ったことがないですね.当然,心原性などは除外の上の話になるのですね.
あけましておめでとうごさいます。
こちらこそ今年もよろしくお願いします。
>神経原生肺水腫は有名ですが,実際ここまでの症例にはあまり出会ったことがないですね
SAHの方で、胸部まで撮影されていたらたまに見られるのかと思います。
>当然,心原性などは除外の上の話になるのですね.
そうですね。除外が必要になりますね。
いつもありがとうございます。
尾状核出血からの脳室内穿破に気づけませんでした。SAHは脳室内血腫が逆流したのが原因だったのですね。
SAH→脳室内穿破を考えてしまうと思うのですが、動脈瘤を疑う所見がないことと脳室内血腫が多すぎることから否定的ということでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>SAH→脳室内穿破を考えてしまうと思うのですが、動脈瘤を疑う所見がないことと脳室内血腫が多すぎることから否定的ということでしょうか。
そうですね。血腫の分布が脳室内に多くあり、脳底槽や両側のシルビウス裂、谷にはあまり認めないと言う点から脳室内からルシュカ孔・マジャンディ孔を経て脳表に出て行ったと考えられます。
頭部CTの11/35で両側のルシュカ孔に血腫を認めていますね。
なお動脈瘤の有無はサイズが大きなものでないとCTではわかりません。
本日もありがとうございました。
今日の症例は特に勉強になりました。
神経原性肺水腫、初耳でした。どうやら肺水腫っぽいのは分かりましたが、じゃあなぜ起こっているかは見当がつかなかったですね。おそらくヒントとなるのは、収縮期血圧が非常に高いことだろうと思いましたが、、これも交感神経の異常な興奮によるものだったんですね。
質問なのですが、肺野条件のCTにおいて肺尖部や肺背側部はcrazy paving patternと表現してもいいですか?
アウトプットありがとうございます。
>収縮期血圧が非常に高いことだろうと思いましたが、、これも交感神経の異常な興奮によるものだったんですね。
そうだと推測されますね。
>肺野条件のCTにおいて肺尖部や肺背側部はcrazy paving patternと表現してもいいですか?
難しいところですが、crazy paving patternは小葉間隔壁の肥厚では説明がつかない線状影を認めるのが特徴です。
今回は肺尖部などでは、あくまで見えているのは小葉間隔壁の肥厚なので、今回はcrazy paving patternとは言いません。
ただし肺水腫でも認めることがある所見であり、thin sliceでみると小葉間隔壁ではない線状影が見えるかもしれませんが(^_^;)
あくまで、今回の厚みで、私ならばcrazy paving patternとは書きません。
こちらにcrazy paving patternの動画追加しました。
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/training/chmo
いつもわかりやすい解説ありがとうございます。
2点質問がございます。
1.「そもそもSAHが脳室内に穿破する」という機序がよくわかりません。
くも膜下腔と脳室は第4脳室のルシュカ孔とマジャンディ孔でのみ(?)交通していると思っていたのですが、SAHが起こり、くも膜下腔に出血がおこり、それがルシュカ孔とマジャンディ孔を通って第4脳室にはいり、中脳水道、第3脳室、側脳室と上にあがっていくのでしょうか?しかし実際にはSAHや比較出血などで側脳室にのみ少量穿破しているという画像所見によく遭遇します。くも膜下腔にたまった出血が側脳室の壁(?)を圧で破っているのでしょうか?
2.神経原性肺水腫とARDSの機序の違いがよくわかりません。
前者は「交感神経系の著明な亢進により肺毛細血管内圧が上昇し、血管透過性が亢進する為に生じる」とありますがARDSはサイトカインストームによって血管透過性が亢進して肺胞レベルで大洪水がおこり肺水腫になると理解しております。どちらも血管透過性の亢進による肺水腫という点では共通しているが、その亢進した原因が交感神経の亢進によって血管が収縮したことなのか、サイトカインストームによっておこったのかによって区別できるという解釈でよろしかったでしょうか。
長文失礼いたしました。
アウトプットありがとうございます。
>「そもそもSAHが脳室内に穿破する」
SAHが脳室内に穿破するとは通常言わないと思います。同じ髄液が存在する場所ですので。
>しかし実際にはSAHや比較出血などで側脳室にのみ少量穿破しているという画像所見によく遭遇します。くも膜下腔にたまった出血が側脳室の壁(?)を圧で破っているのでしょうか?
この場合は、ルシュカ孔とマジャンディ孔経由で逆流して、脳室内に認めているのだと考えます。(別のルートがもしかしたらあるのかもしませんが。)
>どちらも血管透過性の亢進による肺水腫という点では共通しているが、その亢進した原因が交感神経の亢進によって血管が収縮したことなのか、サイトカインストームによっておこったのかによって区別できるという解釈でよろしかったでしょうか。
おっしゃるとおりですね。
ともに血管透過性が亢進するものによる変化ですが、その原因が異なるということですね。
脳出血があり、両側上葉のすりガラス影があり、下葉の浸潤影があり、ということで、嘔吐して誤嚥性肺炎を起こし、ARDSに至ったのかと思いました。
大分ずれてしまいました。
ただ、頭部CTの勉強もやっていきたいというモチベーションは十分に上がりました。
アウトプットありがとうございます。
>脳出血があり、両側上葉のすりガラス影があり、下葉の浸潤影があり、ということで、嘔吐して誤嚥性肺炎を起こし、ARDSに至ったのかと思いました。
今回は知っているか知っていないかですね。
ただし、本日発症で、いきなり誤嚥してARDSへ至るというのは少し考えにくいかもしれません。
>ただ、頭部CTの勉強もやっていきたいというモチベーションは十分に上がりました。
頭部の症例としても重要な要素が盛り込まれた症例といえますね。
・上行結腸の壁肥厚のようなものは有意ではないでしょうか。近傍に認めるのは肝臓でしょうか。
・後頭葉に見える左右対称の腫瘤のようなものは部分容積効果によるものでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
上行結腸には壁肥厚はなさそうです。
虫垂は術後のようですね。
肝の下縁は169/228辺りになります。
>後頭葉に見える左右対称の腫瘤
26/35前後で左右に見える高吸収で周りが低吸収なものは動画で解説しているように脳室内血腫が脳内に一部入り込んだものと思われます。