【胸部】症例19
【症例】50歳代 男性
【主訴】転倒
【現病歴】本日午前中に就労中に脚立より墜落し背部打撲した。疼痛認めるも就労は継続していた。仕事終了後18時に近医受診。当院転送となる。
【既往歴】糖尿病(放置)
【生活歴】喫煙歴:15本/日×20歳〜現在、飲酒:ビール1日1.5L
【身体所見】意識清明、BP 123/78mmHg、SpO2 95%(RA)、BT 36.8℃、P 78bpm、胸部:呼吸音 右で減弱、他雑音なし 心音:整、雑音なし 腹部:腸雑音良好、圧痛なし 四肢:浮腫なし
【データ】WBC 9700、CRP 1.28
画像はこちら
まずはレントゲンから見ていきましょう。
まず、左と比べて右上肺野に無血管領域があることがわかり、気胸があることがわかります。
収縮した肺の先端を探すと、第2肋骨前縁あたりに認めており、横隔膜まで到達するラインを認めています。
収縮した肺の先端が鎖骨より下にあり、かつ完全虚脱に近いとはいえませんので、中等度(Ⅱ度)の気胸と言うことになります。
また、右の肋骨横隔膜角(CP angle)がはっきりせず、かつニボー像を認めています。
血胸や胸水貯留が疑われます。
さらに、右8,9肋骨骨折、皮下気腫を認めていることがわかります。
次にCTを見てみましょう。
CTでは思った以上に広範な気腫を認めていたことがわかります。
また、気胸を認めており、右肺は収縮しています。
右下葉の浸潤影様所見は、肺挫傷を伴っている可能性もありますが、虚脱しているため無気肺を見ている可能性があります。少なくとも広範な肺挫傷はないことがわかります。
またレントゲンで認めたようにニボー像をCTでも右胸腔に確認することができ、貯留している液体貯留は通常の胸水よりは明らかに高吸収です。
CT値を測定してみると54HUと高く、単なる胸水ではなく血胸を起こしていることがわかります。
胸水なのか血胸なのかの目安ですが、腹腔内での血腫のCT値がおおよその目安となります。
腹腔内液体貯留のCT値は、
腹水 0-15HU
血性腹水 20-40HU
血腫・凝血塊 40-70HU
活動性出血 85-350HU
胆汁 0HU
尿 0-15HU
となります。(西巻、腹部外傷、日独放;vol51.No1.51-71,2006)
胸水もこれを参考にすると、通常の漿液性の胸水ならば10HU以下くらいが正常であり、20HUを超えてくるようだと血性の可能性がある、くらいで覚えておけばよいでしょう。
今回は60HUありますので、血腫・凝血塊に近い状態であると言うことを判断することができます。
また肋骨を丁寧に数えていくと右7-10肋骨で骨折を認めていることがわかります。
右10肋骨骨折のみ椎体寄りに認めていますが、やや離れた2カ所での骨折を複数肋骨で認めるflail chestの状態ではないことが画像からもわかります。
診断:外傷性血気胸+右7-10肋骨骨折+L1右横突起骨折+皮下気腫(筋膜間気腫がより正しい)±肺挫傷
※コメントを受けて少し追記しています。
※呼吸器外科入院となりました。同日、右血気胸に対して胸腔ドレーン留置。外傷性の血気胸であったため抗生剤投与。肋骨骨折に対してはバストバンドで対応。その後、胸部レントゲンで肺膨張を確認し、入院11日目に退院となっています。
関連:
【胸部】症例19の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
X-Pでの気胸の重症度評価の他に、CTでの重症度評価というのはあるのでしょうか? CTの方が詳細な評価ができそうなのですが…。
アウトプットありがとうございます。
CTでの重症度評価というのは聞いたことがないですね。カルテにもレントゲンでの評価のみ記載があります。
確かにCTでの方がより細かくできますが、例えば、「○%の胸郭が気胸となっている」とわかったところであまり治療方針などに役立たないのでしょうね。
お疲れ様です。
今日も症例提示ありがとうございます。
一つ質問なのですが、
肺挫傷か
虚脱している無気肺かは
このCTでは鑑別が難しい感じでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>一つ質問なのですが、
肺挫傷か
虚脱している無気肺かは
このCTでは鑑別が難しい感じでしょうか?
おっしゃるとおりです。
大変難しいところで微妙なケースも多々あります。
ただこの症例では胸膜沿いに板状無気肺があります。
また肺底部に受動性無気肺がありそうですね。
胸腔内の液貯留があるのでわかりにくいですが、肺挫傷が隠れている可能性はありますね。
肋骨骨折が難しい…
腹部でも重要でしたが、CT値はいつも注目しなければいせませんね!
アウトプットありがとうございます。
そうですね。
主には腹部でということになりますが、胸部救急の場合は、胸腔内の液貯留でとくにCT値が重要ですね。
救急でなければ、肺結節などでCT値を測定することがあります。過誤腫の診断などですね。
今日もありがとうございます。
気胸の画像にだいぶ慣れてきた気がします。Xpでの重症度分類をもう少し意識したいです。
アウトプットありがとうございます。
>Xpでの重症度分類をもう少し意識したいです。
治療方針(ドレナージするかどうか)にも関わるところですので、特にレントゲンしか撮影されていない場合は意識しましょう。
無気肺の可能性を考えず、いつも通り肺挫傷と決めつけてしまいました。これだけ虚脱や胸水・血胸があれば無気肺にも意識が必要でした。
アウトプットありがとうございます。
>無気肺の可能性を考えず、いつも通り肺挫傷と決めつけてしまいました。
虚脱している場合や、胸水などで押されている場合は、虚脱による無気肺や、受動性無気肺や板状無気肺の可能性も考えましょう。
ただし、肺挫傷との画像での鑑別は難しいこともしばしばあります。
いつも勉強になってます。ありがとうございます。
L1右横突起の骨折ありととったのですがいかがでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>L1右横突起の骨折ありととったのですがいかがでしょうか。
(;゚ロ゚)!!!
ありますね。追記します。ありがとうございます。
おはようございます、毎回勉強になる事がたくさんあり刺激を受けています、ありがとうございます!
皮下気腫ですが、一部筋肉の境界~筋肉内にも見えてしまいましたが、いかがでしょうか。境界にあったとしても皮下気腫という表現でよいでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>一部筋肉の境界~筋肉内にも見えてしまいましたが、いかがでしょうか。
おっしゃるとおりですね。厳密にはおっしゃるとおりなので、皮下気腫だけでなく(というか皮下気腫よりも筋肉間がほとんどですね)、それらの部位にも気腫があると記載するのが丁寧です。
右背部の筋膜間を中心にガスあり。とした方が正しいですね。追記します。
先日は肺水腫が中枢側優位に分布するのかに対する質問についての動画説明有難く拝見いたしました。
胸部画像診断でも最近は外傷が続いておりますが、外傷診療における全身CT検査(Trauma Pan-scan)の読影方法における第1段階であるFACTの読影手順など知りたいです。ごろ先生の場合最終読影をされる側でいらっしゃると思いますので、FACTはちょっと違う気がして恐縮ですが。。。
アウトプットありがとうございます。
>外傷診療における全身CT検査(Trauma Pan-scan)の読影方法における第1段階であるFACTの読影手順など知りたいです。
外傷診療において出血点をいかに早く見つけ、速く適切に制御するかが重要という考えのもと、3段階に分けて観察をするその第一段階がおっしゃるようにFACT(Focused Assesment with CT for Trauma)です。
これは3分で全身をスクリーニングをすることでまずは大まかな治療の方向性を決めるためにされます。
①頭部をまずチェック
緊急開頭を要するような頭蓋内出血がないかをチェック
②胸部をチェック
大動脈損傷(大動脈峡部〜弓部に好発)や広範な肺挫傷がないかをチェック
→血気胸や心嚢血腫がないかをチェック
③腹部をチェック
一気にダグラス窩までスクロールして、腹腔内出血がないかをチェック
→下から上がっていきながら骨盤骨折、後腹膜血腫がないかをチェック
→さらに上に上がって、実質臓器損傷や腸間膜血腫がないかをチェック
という順番で行います。
部位としては、
頭部→大動脈→肺底部→ダグラス窩→骨盤〜腰椎→上腹部
という順番で観察するものです。
>ごろ先生の場合最終読影をされる側でいらっしゃると思いますので、FACTはちょっと違う気がして恐縮ですが。。。
そうですね(^_^;)
私たちは実際はこの順番では見ないですね。
肺内血腫か、血胸かみわけがつきませんでした。
アウトプットありがとうございます。
肺野条件で見るとニボー像を認めているところに肺実質はなさそうなので、血胸がより疑わしいですが、肺挫傷および肺内出血を伴っている可能性もありますね。
ごろ〜先生
1つ言葉についてお伺いしたいのです。
「第2肋骨前縁」という言葉なのですが、これは第2前肋骨の下縁を指した表現なのか、
それとも第2前肋骨そのものを指した表現なのでしょうか?初歩的な質問で恐縮ですが、よろしくお願いいたします。
アウトプットありがとうございます。
>「第2肋骨前縁」という言葉なのですが、これは第2前肋骨の下縁を指した表現なのか、それとも第2前肋骨そのものを指した表現なのでしょうか?
今回のケースでは、第2前肋骨そのものを指して使っています。
上縁と下縁まで述べた方がよい場合は、第2前肋骨上縁、第2前肋骨下縁などと言葉を使えばよいですね。