【胸部】症例18
【症例】20歳代女性
【主訴】左胸痛
【現病歴】本日バイクで走行中に交差点内で自動車と接触転倒し受傷。救急搬送となる。
【内服薬】なし
【身体所見】意識清明、BP 99/51mmHg、SpO2 88%(RA)、BT 36.9℃、P 88bpm、著明な皮下気腫認めず、胸郭動揺認めず。
画像はこちら
まずはレントゲンから見ていきましょう。臥位での撮影です。
左下肺野に浸潤影を認めていることがわかります。外傷後ですので、肺挫傷の可能性がありますが、肺炎や肺腫瘍の可能性もこれだけでは否定できません。
また左第7肋骨に骨折を認めていることがわかります。
次にCTの肺野条件を見ていきますと、左気胸があることがわかります。
舌区にすりガラス影があり、こちらは肺挫傷を疑う所見です。
左下葉にはすりガラス影に加えて嚢胞および液貯留を疑う所見を認めています。こちらは単なる肺挫傷ではなく、肺の肺腔構築が破壊され、連続性が失われた状態で、外傷性肺嚢胞に加えて、肺内出血を来していることが示唆され、これを肺裂傷と言います。
また骨条件にすると、左第6,7肋骨に骨折を伴っていることがわかります。
診断:外傷性気胸、肺挫傷(舌区)、肺裂傷(左下葉)、左第6,7肋骨骨折+左第3-5前肋骨骨折、左血胸(もしくは胸水)、
※肺挫傷も肺裂傷もまとめて肺挫傷としてもよいと思いますが、厳密にはこのように分けられます。
※呼吸器外科に入院となりました。
※コメントを受けて一部追記しました。
【呼吸器外科医より本人への説明内容】
- 肋骨骨折:自然癒合を待ちます。3-6ヶ月程度かかります。
- 肺挫傷:感染症予防の抗菌薬を使用しながら経過を見ます。自然に改善していくことが多いです。
- 外傷性気胸:気胸の程度は軽度な様子をみますが、今後の経過で気胸が進行した場合には治療のため胸腔ドレナージがひつようとなります。
気胸の進行がなければ、来週半ばには退院できると思われます。
おおよその経過の理解に役立ちますね。
その後、2日後のレントゲンで気胸の進行があり、胸腔ドレナージ施行。
その4日後ドレーン抜去。その2日後(入院8日目)に経過良好で退院となりました。
【胸部】症例18の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
deep sulcus signは分かりませんでしたが、そもそもこのサインすら知らなかったことを考えると探しに行けただけでも成長した気がします。
アウトプットありがとうございます。
>deep sulcus sign
は今回は微妙ですね。
>そもそもこのサインすら知らなかったことを考えると探しに行けただけでも成長した気がします。
そうですね。習得したことをどんどんその目で見ていきましょう。
おかしなバイアスがかかってしまうこともありますが(^_^;)
前回の参考資料で挫傷と裂傷の違いを読んでいたのですが…すっかり、裂傷の事を忘れていました(^^;)
所見には「内部に嚢胞変化を認め、縦隔条件にて高吸収を呈する(挫傷/血腫)」と記載したのですが…。今後、重症の違いを表現するためにも挫傷と裂傷を使いわけて行きたいと思います。
アウトプットありがとうございます。
>すっかり、裂傷の事を忘れていました(^^;)
まあ、ぶっちゃけ裂傷は細かい話なので、挫傷と言うことが分かればいいかと思います。
この方の加療後のCTが気になるところですが、これ以降CTの撮影はありませんでした。
気胸の存在診断は比較的難しくないと思ってましたが、重症度を表す言葉に気を付けていきたいです。ちなみに肺裂傷は胸部に関わらないお医者さんにもわかる言葉ですか?
アウトプットありがとうございます。
>ちなみに肺裂傷は胸部に関わらないお医者さんにもわかる言葉ですか?
いえ、普通分からないと思います(^_^;)
肺挫傷なら分かると思います。
今日もありがとうございます。
前回の解説のリンクのおかげで肺裂傷の存在を知っていましたが、実際の画像を見たのは今回が初めてなので勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
>前回の解説のリンクのおかげで肺裂傷の存在を知っていましたが、実際の画像を見たのは今回が初めてなので勉強になりました。
おっしゃるようになかなか肺裂傷だと分かる症例は少ないかも知れませんね。
肺挫傷で一括してまとめて覚えておいてもよいと思いますが、このような分類があることをぜひこの機会に覚えておきましょう。
前回肺裂傷について学んだのに、そこまでしっかり見ることができていませんでした。反省です。
肺挫傷!で片付けてもよいのですが、嚢胞を作っている、血液が貯留しているという病態も覚えておきましょう。
いつも役立つ情報をありがとうございます。今回も勉強させていただきました。
前回の勉強で外傷による肺挫傷、それに伴う浸潤影までは書けましたが内部の低吸収ををAirと勘違いしてしまいました。嚢胞や血液などの液体貯留を見抜けるようによく見ていきたいと思います。
アウトプットありがとうございます。
>嚢胞や血液などの液体貯留を見抜けるようによく見ていきたいと思います。
そうですね。
肺挫傷!で終わりでもいいと思いますが、肺裂傷という分類がありますので、この機会に覚えておきましょう。
今回の症例で、そう言えば、”肺挫傷=何となく肺を損傷した状態”というように曖昧に使っていたなと反省です。
肺挫傷とは、肺組織に対する鈍的外力や肺胞内圧の急激な上昇により、肺胞や毛細血管が断裂し、肺胞やリンパ路に出血をきたした状態。
肺裂傷とは、肺胞構築が破壊され、外傷性嚢胞を生じた状態。内部に血腫などの貯留を認めることがある。
注:すぐ役立つ救急のCT・MRI(改訂第2版)を参考にまとめてみました。
結局のところ、外傷性嚢胞があるかないか が鑑別ポイントなのかなと思いました。
国試の勉強をしていても、自分では知っているつもりの疾患を言葉で全然説明できなくて、”何となく分かったつもりで、実は分かっていないなぁ”としみじみ感じますね。
アウトプットありがとうございます。
>そう言えば、”肺挫傷=何となく肺を損傷した状態”というように曖昧に使っていたなと反省です。
多くの方はおそらくこうなのでそれでも大丈夫ですが、分類されているのでどうせならば覚えておきましょう。
>国試の勉強をしていても、自分では知っているつもりの疾患を言葉で全然説明できなくて、”何となく分かったつもりで、実は分かっていないなぁ”としみじみ感じますね。
最初は何となくで、繰り返すうちにという感じですね。国試の場合も。
いつも楽しく勉強させて頂いております。
アキシャルで見るとTh12など椎体骨折しているように見えるのですが、これは正常ですかその目で見るとおおくの椎体に線状の切れ目が見えてしまいます。アキシャルでの椎体の評価は難しいですね笑
アウトプットありがとうございます。
>アキシャルで見るとTh12など椎体骨折しているように見えるのですが、これは正常ですかその目で見るとおおくの椎体に線状の切れ目が見えてしまいます。
Th12の前方の線は一見骨折のように見えるかもしれませんが、血管の通っている穴ですね。
椎体の血管の解剖はこちらのfigure1を参照ください。
https://www.ajronline.org/doi/pdf/10.2214/ajr.158.6.1590123
>アキシャルでの椎体の評価は難しいですね笑
おっしゃるとおりです。今回は骨条件は、横断像のみしかありませんが、椎体骨折の評価には矢状断像や冠状断像の骨条件が欲しいところです。
いつも勉強になっています。
質問なのですが、
骨条件で215 / 525 のスライスで椎体の骨折線のようなのものを認めたのですが、
これは椎体骨折でいいのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
別の方にもコメントしましたが、Th12の前方の線は一見骨折のように見えるかもしれませんが、血管の通っている穴ですね。
今日もどうもありがとうございます。
3点気になることがあります。
・左第4.5前肋骨にも骨折があるように見えます。気のせいですか?
・縦隔、左主気管支、左上葉気管支、左下葉気管支の周囲のガス像は、全部まとめて『縦隔機種』と表現すればいいですか?
・右S8の線状のコンソリデーションも肺挫傷かと思ったのですが、これはなんですか?
アウトプットありがとうございます。
>・左第4.5前肋骨にも骨折があるように見えます。気のせいですか?
気のせいではないですね(^_^;)ありがとうございます。
追記します。
左第3−5前肋骨に骨折がありそうですね。
最も明瞭なのが5前肋骨ですね。
>・縦隔、左主気管支、左上葉気管支、左下葉気管支の周囲のガス像は、全部まとめて『縦隔機種』と表現すればいいですか?
そうですね。わずかにありますね。縦隔気腫で問題ありません。
>・右S8の線状のコンソリデーションも肺挫傷かと思ったのですが、これはなんですか?
非特異的ですね。おっしゃるように肺挫傷かもしれませんが、受傷部位ではないのでおそらく違うでしょうね。フォローするしかないですね。
胸部レントゲンでは気胸がわからず、CTでは気胸がかなりあります。
時間的な経緯もあるでしょうか。
気管の右方偏位が指摘されていますが、心陰影も右方偏位はどうでしょうか。
緊張性気胸ということはないのでしょうか。
この程度の気胸では緊張性気胸になり得ないのでしょうか。
第8肋骨も骨折していませんか。(223/525)
それにしても第3-5前肋骨の骨折をよく見つけましたね。
アウトプットありがとうございます。
>胸部レントゲンでは気胸がわからず、CTでは気胸がかなりあります。時間的な経緯もあるでしょうか。
経時的な変化もあるかもしれませんが、それほどCTでも気胸が目立つというわけではありません。
その目で見てみると今回レントゲンは臥位で撮影されていますので左のdeep sulcus signが見えているようですね。
>心陰影も右方偏位はどうでしょうか。緊張性気胸ということはないのでしょうか。
そこまでの所見は認めません。今回の気胸により心臓など縦隔が偏位しているということはなさそうです。
>第8肋骨も骨折していませんか。(223/525)
何度か確認してみましたが骨折線はなさそうです。
所見に書くのを忘れましたが、剣状突起?(胸骨とは少し離れていますが)は割れていますか?。皮質が不連続で、間の軟部濃度が血腫のようにも見えます。
受傷機転が謎ですが、前方あるいは側方から胸骨が落ち込むような方向の外力があれば、あり得るでしょうか。
deep sulcus signは今回私もその眼で見てみましたが、対側も同じように見えてしまいました(肝心なところは心電図のリードの接続部に隠れて見えませんが)。肋骨縁が紛らわしく、いまいちdeep sulcus sign自体が私には難しいです。
重箱ばかりですみません。
アウトプットありがとうございます。
>所見に書くのを忘れましたが、剣状突起?(胸骨とは少し離れていますが)は割れていますか?。
横断像で見るとそのように見えますが、矢状断(非提示)で見ると特に骨折はしていないようです。
同部はしばしばこのように見えるので注意が必要ですね。
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/training/wp-content/uploads/2021/07/eccase18sag.png
>対側も同じように見えてしまいました(肝心なところは心電図のリードの接続部に隠れて見えませんが)。肋骨縁が紛らわしく、いまいちdeep sulcus sign自体が私には難しいです。
確かに対側も同じように見えますね・・・・(^_^;)