肋骨骨折は、全骨折の中でも約10%を占める、大変頻度の多い骨折です。
しかし、どんな体勢でも痛みを伴い、自然とよくなるまで我慢するしかないと思っていませんか?
中には、合併症を伴うこともあります。
痛みを我慢せずに、病院を受診し、正確な診断を受けて治療することはとても大切なことです。
そこで今回は、肋骨骨折(「ろっこつこっせつ」英語表記で「Rib fracture」)について
- 症状
- 原因
- 合併症
- 診断
- 治療
など、詳しくお話し致します。
肋骨骨折とは?
肋骨とは、「ろっこつ」とも「あばらぼね」とも呼ばれますが、内臓(主に肺や心臓)を守るように存在し、左右に12対あります。
その肋骨が何らかの原因により折れてしまうことを、肋骨骨折と言います。
肋骨骨折の好発部位は?
好発部位は、肋骨の中でも中心付近に近い、第5〜8肋骨(第4〜9肋骨)です。
肋骨骨折の原因は?
胸部に、直達もしくは介達外力が加わることによって起こります。
例を挙げると、
- 転倒
- 交通事故
- スポーツ(ボールが当たった)
- 日常生活(タンスの角でぶつけた)
など、胸部を打撲したことによって起こることもありますが、中には
- 同一作業の繰り返し
- 咳
といった、疲労骨折や何気ない動作で起こることもあります。
骨粗鬆症や加齢によるものも原因となります。
肋骨骨折の症状は?
- 局所の疼痛
- 圧痛(押すと痛い)
- 運動時痛
この他、咳やくしゃみをした際に痛みが増強されるという特徴があります。
また、腫脹・皮下出血などの所見を確認できることもあります。
肋骨骨折の合併症は?
中には、上記の症状では済まない場合もあります。
一般的な合併症としては、
- 気胸
- 血胸
- 肺挫傷
- 皮下気腫
- flail chest
などが挙げられます。
flail chest(フレイルチェスト)とは?
肋骨骨折の中でも
- 5本以上連続する肋骨骨折
- 3カ所以上に分割される肋骨骨折(同一肋骨に2ヶ所以上骨折線がある場合)
の場合は、このflail chest(フレイルチェスト)の可能性があり、注意が必要です。
自発呼吸で上のように「2箇所以上の骨折により動く部位(動揺部)が吸気時に陥凹して、呼気時に膨張する」奇異呼吸と呼ばれる呼吸が起こるのが特徴です。
普通は息を吸う(吸気)ときには胸郭は大きくなり、息を吐く(呼気)ときには胸郭は小さくなります。
それと逆であるため奇異呼吸と呼ばれます。
そのため、診断には胸郭の奇異性運動の確認が必要です。
flail chest(フレイルチェスト)の治療には、
- 陽圧呼吸管理
- 疼痛コントロール
が基本となります。
疼痛コントロールとして、静脈麻酔や硬膜外麻酔、NSAIDsなどが用いられます。
そのほか、肺洗浄、プレートなどを用いて骨折部を外固定されることもあります。
さらに骨折部位によって起こりうる合併症にも注意が必要です。
骨折する部位により注意すべき肋骨骨折の合併症
さらに、骨折する部位により、
- 上位肋骨骨折(第1~8肋骨、特に1,2肋骨)では大血管損傷(大血管を損傷し、出血が見られる状態)、気管損傷、頸椎髄損傷、肺挫傷
- 下位肋骨骨折(第9~12肋骨)では腹部臓器損傷(特に右の場合は肝損傷・胆道損傷、左の場合は脾損傷など)
を生じることがあるので注意が必要です。
左下位肋骨骨折の20%に脾臓損傷が報告されています。
特に若年者の場合は、骨が柔軟であるため、骨折はないのに臓器損傷はあるということがあるので注意が必要です。
また、3本以上の肋骨骨折は無気肺や肺炎の合併を生じやすいとされています。
肋骨骨折の診断は?
胸部単純X線(胸部レントゲン)・CT検査・MRI検査・核医学検査などを行い診断します。
それぞれについてご説明します。
胸部単純X線(胸部レントゲン)検査
胸部単純X線(胸部レントゲン)検査により、骨折の場所を確認できます。
この検査で肋骨に骨折を確認できると、肋骨骨折となります。
ただし、骨折した骨の転位が少ない場合は胸部X線の正面像のみでは、骨折線の指摘が困難なことも多くあります。
そのために、必要に応じてCT検査も有用となります。
症例 50歳代 男性 脚立から左側に転落
胸部単純X線(胸部レントゲン)において、左の第4~6肋骨の骨折を確認することができます。
ただし、CTで精査したところ、実際は左3-9肋骨で骨折があり、レントゲンでは全ての骨折は把握できないことがわかります。
CT検査
X線では写りにくい骨折を、CTで確認できることもあります。
また、肺野条件と骨条件で撮影すると、合併症である血気胸や、大血管陰影、縦隔陰影をチェックすることができます。
症例 50歳代 男性 上と同一症例
上のように胸部CTの骨条件では、肋骨骨折を明瞭に把握することができます。
新しい骨折(新鮮骨折)は骨皮質の硬化などを認めずに鋭い骨折線となるのが一般的です。
一方で古い陳旧性の骨折は骨硬化を伴うことが多いです。
この胸部CTの骨を取り出して3D再構成するとさらに骨折の全体像が明瞭になります。
胸部の外傷では、胸部CTの骨条件と3D再構成像を組み合わせて診断することで見落としが少なくなります。
ちなみにこの症例では左の鎖骨骨折を伴っています。
症例 40歳代 男性 検診で左肺結節を指摘された。
胸部レントゲンにて左中肺野の外側に高吸収な結節を認めています。
CTによる精査で左7肋骨に骨の肥厚及び骨硬化を認めています。
陳旧性(古い)の肋骨骨折を疑う所見で、これがレントゲンでの結節の正体であることがわかります。
MRI検査
骨折により内臓を傷つけていないかを見るために、稀ですがMRIを用いた検査をすることもあります。
核医学検査
少量の薬(ガンマ線を放射する)を静脈注射し、体の内部の様子を撮影する方法(シンチグラム)です。
核医学検査をすることによって、X線では難しい疲労骨折や骨粗鬆症による骨折なのか、などを診断することができます。
肋骨骨折の治療は?
基本的には、
- 薬物療法(痛み止め・湿布薬)
- 胸部をコルセットで固定
- 局所安静(無理な姿勢、負荷をかけない)
などで、小さな骨折(ヒビ程度)ならば約2〜3週間という安静期間で症状は緩和され、状態を確認しながらリハビリを開始し、1〜2ヶ月ほどで完治となります。
しかし、骨折の状態や患者の年齢によっても完治までの期間は大きく異なります。
合併症を伴う場合はまた異なります。
血気胸や肺の損傷がある場合には、胸腔ドレナージを行い治療します。
参考文献:
すぐ役立つ救急のCT・MRI P127
Emergency Radiology 救急の画像診断とIVR P208
整形外科疾患ビジュアルブック P172〜175
全部見えるスーパービジュアル整形外科疾患 P346