
【頭部】症例60
【症例】40歳代男性
【主訴】頭部外傷、意識障害
【現病歴】本日、125ccのバイクに乗り職場に向かっている途中で乗用車と接触し、転倒受傷。本人は衝突した時の記憶ははっきりしないが、乗用車運転手によると左折しようと停車していた際に乗用車右後方に衝突してきたとのこと。
【既往歴】4歳までに2回熱性痙攣あり、以後なし。
【内服薬】なし。
【身体所見】見当識徐々に改善しており、診察時にはclear(救急隊対応時は日付を言えず)、受傷時の記憶に関してははっきりしないまま。SBP 130-140mmHg程度。神経学的所見に異常なし。四肢MMT:full
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MRI
左Sylvius裂は明瞭だが、右Sylvius裂は不明瞭で高吸収を認めています。脳溝に沿っても高吸収を認めています。
また、左Sylvius裂~大脳谷槽は明瞭(内部に中大脳動脈あり)ですが、右側には高吸収の血腫を認めています。
いずれも、外傷性くも膜下出血を疑う所見です。
急性硬膜下血腫、急性硬膜外血腫、脳挫傷を疑う所見は認めません。
また、反対側のくも膜下腔などにも明らかな血腫はみとめていないことがわかります。
診断:外傷性くも膜下出血
外傷性くも膜下出血は症例4でやりましたね。
その復習という意味もありますが、今回見ていただきたいのがMRIです。
DWIおよびADCにおいてははっきりとした異常信号は一見分かりにくいですが、左Sylvius裂は明瞭に同定できますが、右ははっきりしませんね。
はっきりしないという所見がくも膜下出血では重要でしたね。
次に、FLAIR像を見てみましょう。
DWIやFLAIRでは「はっきりしない」という所見を有所見として取らなければなりませんでしたが、FLAIRでは、右のSylvius裂を中心に異常な高信号を脳溝に沿って認めていることがわかります。
前回の症例59では、アミロイドアンギオパチー疑いで左頭頂部にくも膜下出血を認めており、その際にもFLAIRで高信号として認めていました。
症例59も症例60もCTでも同定可能でしたので、FLAIRのありがたみがあまり分からないかも知れませんが、
- CTではっきりせず、FLAIRでしか同定出来ないくも膜下出血
もありますので、FLAIRできちんと脳溝が低信号として追えるかどうかはチェックするようにしましょう。
そして今回さらには、SWIも撮影されています。
FLAIRもくも膜下出血などで非常に有用ですが、やはりSWIには勝てませんね。
SWIでは、左Sylvius裂〜大脳谷槽に明瞭な無信号域として認めています。
一目瞭然ですね。
FLAIRでこのような脳溝に沿った高信号を認めるのはくも膜下出血以外に、
- 髄膜炎(感染性、癌性)←症例49のウイルス性髄膜炎がありましたね。
- 脳溝の狭小化
- 静脈のうっ滞
- アーチファクト
- 数分以上の高濃度酸素吸入中
などが知られています。
これらの場合との鑑別には、SWIやT2*WIを併用し、くも膜下腔が無信号になることを確認することで出血であると確認することができます。
今回は、くも膜下出血は、FLAIRやSWIでどのように見えるのかということを覚えておいてください。
翌日のCTです。
翌日のCTでは、右側のSylvius裂の明らかな高吸収はわずか1日でかなり軽減しています。
左Sylvius裂は同定できますが、右ははっきりしません。
繰り返しになりますが、このくも膜下腔がはっきりしないというのは有所見です。
ただし、Sylvius裂あたりを、上下にスクロールすると一部で高吸収として同定できる血腫の残存も認めています。
CTではこのように1日でかなり吸収され、数日後には指摘できない状態になりますが、FLAIRでは同定できることがあります。(この症例ではこの後MRIを撮影されていませんorz)
1ヶ月後には血腫は完全に消えており、右側のSylvius裂も左と左右差なく描出されている様子が分かります。
関連:
【頭部】症例60の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
SAHのときに異常信号ばかり探していると、今回のDWIや経過後CTのように信号変化が少ないときに見逃してしまいそうです。
「脊髄腔がはっきりしないことは有意所見」というのを意識し、徹底的に左右差や脳溝を確認していきます。
アウトプットありがとうございます。
>今回のDWIや経過後CTのように信号変化が少ないときに見逃してしまいそうです。「脊髄腔がはっきりしないことは有意所見」というのを意識し、徹底的に左右差や脳溝を確認していきます。
そうですね。左右差や脳溝を意識しないとわかりにくいものや発症から時間が経過している際には見落としそうですね。
その点FLAIRは高信号として描出されるので強い(わかりやすい)ですね。
ジジさんのコメントにもあるようにコントラストが少ないときというのは難しいですね。プロトン密度強調とかルーチンにすればいいのにって思ってしまいます。いつもながら出血に関して異常発見には強そうですね。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。
今回は初回のCTで明らかな高吸収で、CTで診断可能ですが、
時間が経過したSAHや非典型的な場合などは、
CTで指摘が困難であったり、有所見として微妙なケースがあります。
通常出血自体はCTの方がMRIの方が強い(指摘しやすい)のですが、
そういったときに、MRIの方が強いことがあるということを思い出しましょう。
今日もありがとうございます。
DWIおよびADCで右Sylvius裂の脳溝の消失を見落としました…異常信号だけにとらわれないように注意しなければ…
アウトプットありがとうございます。
>DWIおよびADCで右Sylvius裂の脳溝の消失を見落としました
今回はDWIやADCよりも他のシークエンスで同定できれば十分です。
DWIやADCはあえて解説したみたという感じですので。
FLAIRで脳槽や脳溝に沿った高信号を認める場合はSWIにおいて出血と判断できますが、FLAIRで高信号がはっきりしない場合にSWIのみで出血なのか静脈の拡張なのかを判断できるのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>FLAIRで高信号がはっきりしない場合にSWIのみで出血なのか静脈の拡張なのかを判断できるのでしょうか?
それはきついかもしれませんが、
脳溝部分であることが確認できれば、SWIのみで判断できるかと思います。
いつも勉強になっております。非常に基本的なことで申し訳ないのですが、「swiで無信号」との表記がありますが、低信号という言葉とどのように使い分けがなされているのか教えていただけたら、と思います。
アウトプットありがとうございます。
すいません、低信号と無信号を混在して使っておりややこしくしてますね(^_^;
低信号というのは相対的に低信号
無信号は真っ黒で信号を拾っていない
と言う意味なのですが無信号に対して低信号というのは問題ないと思います。
真っ黒ではない低信号に無信号というのはちょっと問題があるかもしれません。
ですが、基本(大体)同じと考えていただいて大丈夫です。
ありがとうございます。使い分けがわかりました。あまり原理を理解していないため、swiの低信号はむしろ出血の信号を拾って低信号になっているのかと勘違いしてました。
いつもありがとうございます。
今回事故時のエピソードがはっきりしないということでSAH→交通事故の可能性と、外傷性SAHの可能性2つを考えたのですが
SAH以外に脳挫傷や硬膜外・下血腫などがなく、外傷性という確証が持てませんでした。
外傷性SAHと通常の動脈瘤破裂によるSAHの画像上の鑑別点などございましたらご教示頂ければ幸いです。
アウトプットありがとうございます。
>SAH以外に脳挫傷や硬膜外・下血腫などがなく、外傷性という確証が持てませんでした。
外傷性SAHと通常の動脈瘤破裂によるSAHの画像上の鑑別点などございましたらご教示頂ければ幸いです。
まず外傷のエピソードがあるということですね。
それからSAHの分布があまりに右だけに局在していると言う点ですね。
動脈瘤破裂の場合は通常は、このように局在せず左にも広がります。右の動脈瘤破裂ならば右で血腫が目立つことはあっても正中部や左側にも広がるの一般的です。一方外傷性の場合は、ピンポイントで右側の脳表などに局在することが多いです。
あくまで傾向ですが、それらの点から外傷性と考えるのが今回はよさそうです。
いつもお世話になっております。
動画中でFahr病の診断基準の1の( )内に「長径で10mm以上のものを班状」と有りますが「”斑”状」の単なる誤植ではないでしょうか?
単なる誤植です。失礼しました。
って、別症例ですね。