一般によく耳にするくも膜下出血は、脳動脈瘤が原因で起こることが多いものですが、外傷が原因で起こるくも膜下出血もあり、それを外傷性くも膜下出血(Traumatic subarachnoid hemorrhage)と言います。
今回はこの外傷性くも膜下出血について
- 症状
- 画像診断
をイラストや実際のCT、MRIの画像を提示しながら、分かりやすく解説しました。
外傷性くも膜下出血とは?
通常のくも膜下出血は動脈瘤の破裂によるものが多いですが、外傷性の場合は外傷を受けることが原因でくも膜下腔に出血をきたした状態です。
下のイラストの水色の部分がくも膜下腔であり、主に架橋静脈の破綻により出血が起こります。
ちなみにくも膜下出血は英語で、subarachnoid hemorrhageであり、頭文字をとってSAH(読み方は、そのままエスエーエイチ、もしくはザーと呼ぶこともあり)と呼ばれることがあります。
外傷によるSAHは上のイラストにも記載しているように外傷性SAHと記載されることがあります。
外傷性くも膜下出血の症状は?
症状には以下のものがあります。
- 激しい頭痛
- 嘔吐
- 意識障害
症状は、通常のくも膜下出血同様、殴られたような激しい痛みを伴う頭痛が特徴です。意識障害を起こし気を失ってしまうこともあります。これが外傷を受けた後すぐから現れます。
外傷性くも膜下出血の原因は?
頭部に強い衝撃を受けたことによって、上のイラストのようにくも膜下腔の静脈(架橋静脈)が破綻したことが原因であることが多いですが、硬膜下血腫や脳挫傷に伴う出血によりくも膜下腔に穿破することが原因で起こることもあります。
ただ、目撃者がいなければ、くも膜下出血を起こした後に倒れて外傷を受けたのか、外傷によるくも膜下なのか、見た目には分からないため検査が必要です。
外傷が原因でない場合のくも膜下出血だと、前大動脈や内頚動脈、中大動脈が好発部位としてありますが、外傷性の場合はそれに関係せず、異なった部位に起こるのが特徴ですが、中には外傷により動脈瘤が破裂することもあります。
外傷性くも膜下出血の診断は?
画像診断が必須です。
外傷を受けた部位(直接損傷(coup injury))、またはその対側に出血(対側損傷(contrecoup injury))が認められます。
CTで診断を行い、出血の確認や脳挫傷の合併を診断することは可能ですが、分かりにくい場合にはMRIのFLAIRがくも膜下出血の描出に有効です。
CTやMRIの画像の読影に際して注意する点としては、
- 上に示したような直接損傷(coup injury)だけではなく対側損傷(contrecoup injury)のチェックをする。
- 脳挫傷や硬膜下血腫、びまん性軸索損傷などを伴うことがある。
という点です。
外傷性くも膜下出血単独で生じることもありますが、外傷に伴う他の種類の出血を合併することがあるので、それらの見落としには注意が必要です。
それでは実際の症例の画像を見ていきましょう。
50歳代女性 頭部外傷
頭部CT 横断像
右前頭側頭部に帽状腱膜下血腫(〜皮下血腫)を認めています。ややわかりにくいですが、両側のシルビウス裂、左側の脳溝に沿った外傷性くも膜下出血を認めているのがわかります。
頭部CT 冠状断像
冠状断像においても同様の所見を認めています。両側にあれば一見見落としてしまいそうですが、この症例では左で出血がやや目立ちます。
40歳代男性 頭部外傷
頭部CT 横断像
この症例は先程よりは血腫がわかりやすく、右シルビウス裂を中心にくも膜下出血を認めています。
ちなみにくも膜下腔の解剖はこのようになります。
高吸収(白い)部位を探すことも大事ですが、本来見えるべきくも膜下腔が見えないことを探すという点も重要です。
頭部MRI 横断像
この症例のMRIのFLAIR像でも右のシルビウス裂に異常な高信号を認めています。くも膜下出血を疑う所見です。
60歳代男性 交通事故
頭部CT 横断像
右島槽に高吸収あり。外傷性くも膜下出血を認めています。
頭部CT 冠状断像
右シルビウス裂を中心に外傷性くも膜下出血を認めています。
外傷性くも膜下出血を認めた場合は、CTで血腫の広がりがないかをフォローする必要があります。
同日のフォローCT 横断像
同日に撮影されたフォローCTでは、両側前頭葉脳底部にSalt and pepper状の脳挫傷の出現を認め、右のシルビウス裂を中心に認めていた外傷性のくも膜下出血も鞍上槽、両側大脳谷槽、左側のシルビウス裂にかけて広範に広がっています。
さらに急性硬膜下血腫まで出現しています。
同じ症例とは思えないほど一気に増悪していますね。
出血を認めた場合は、フォローしなければならないということがよくわかりますね。
外傷性くも膜下出血の治療方法は?
- 保存療法が一般的
- 手術はしない
- 例外がある
脳動脈瘤が原因ではないため、一般的には手術の対象とはなりません。但し、外傷によって動脈瘤破裂が起こってる場合や、脳挫傷を合併している場合には手術適応となることがあります。
保存療法
- 止血
- 脳の圧力を低下させる
- 脳の浮腫を抑える
- 再出血予防
薬剤を投与して安静にする保存療法が一般的で、血液は時間の経過と共に自然に吸収されます。ですが、脳圧亢進や浮腫、血腫がひどい場合には再出血をしてしまうことも予測できるため、減圧術や脳室ドレナージといった処置を行うこともあります。
最後に
- 激しい頭痛や嘔吐、意識障害が外傷を受けた直後に現れる
- 外傷単独の場合と、脳挫傷やびまん性軸損傷、橋・延髄部横断損傷などを伴う場合がある
- 外傷を受けた側、またはその対側に出血が見られる
- 画像診断が有効で、MRIのFLAIRが鮮明に診断できる
- 一般的に手術の対象とはならず、保存療法を行う
- 脳挫傷の合併があるかどうかで、治療方法や予後も異なる
くも膜下出血の場合、好発年齢は50代〜60代に多いものですが、外傷性の場合は関係なく、子供でも起こります。
外傷性くも膜下出血は、回復までに時間はかかることはあっても、脳挫傷など大きな合併を起こしていなければ予後は良好です。