【頭部】症例35 解答編

【頭部】症例35

【症例】70歳代男性
【主訴】右片麻痺
【現病歴】起床時に右側麻痺があり、救急搬送。
【既往歴】脳梗塞、高血圧、脂質異常症、糖尿病
【内服薬】プラビックス、アロチノロール、リピトール、タリオン、レクチゾール、トコフェロールニコチン酸
【身体所見】不明(記載なし)

※当院へはリハビリ目的で他院入院後1ヶ月で転院となりました。画像はいずれも他院のものです。

画像はこちら

MRI

頭部MRIで明らかな病変を認めず、症候性てんかん、脳梗塞の可能性があり治療開始された。

入院後、右片麻痺の悪化、失語の出現あり、3日後に頭部MRIを撮影した。

まずは来院時(他院)のCTから見ていきましょう。

両側に基底核に陳旧性ラクナ梗塞を疑う小さな低吸収域が散見されます。

左は基底核から放線冠レベルに縦方向に長い低吸収域を認めており、これは陳旧性の分枝粥腫型梗塞(アテローム血栓性脳梗塞に分類される)を疑う所見です。

※分枝粥腫型梗塞については症例32,33で扱いました。

また両側脳底部の前頭葉に空洞(低吸収域)を認めています。

場所から陳旧性の脳挫傷後の変化が疑われます。(病歴に記載がなく詳細は不明です。)

頭部CTでは陳旧性脳梗塞や脳挫傷を疑う所見を認めていますが、頭蓋内出血や占拠性病変、明らかなearly CT signといった所見は認めていません。

拡散強調像(DWI)では異常な高信号は同定できず、ADCにおいても信号低下は認めていません。

ですのでこの時点では脳梗塞が起こっている!とは拡散強調像からは言うことはできません。

FLAIRにおいてはCTで認めたように両側基底核に陳旧性ラクナ梗塞を疑う抜け+周囲高信号を認め、左側には陳旧性の分枝粥腫型梗塞が疑われます。

また脳底部の前頭葉はやはり抜けており陳旧性の脳挫傷後の変化が疑われます。

橋前槽や中脳水道が高信号であり、くも膜下出血(SAH)と紛らわしいですが、同部は脳脊髄液の流れ(CSF flow)を見ており、FLAIRやT2WIで認められる偽病変ですので注意しましょう。

 

と、一見、この時点では、拡散強調像(DWI)などから、陳旧性脳梗塞・脳挫傷のみ!!!

 

としてしまいそうですが、よくよく見てみましょう。

 

FLAIRで左前大脳動脈末梢に高信号を認めています。

これは、これまでやってきたようにintraarterial signalといって、血流が低下していることを示唆する所見でした。

 

またT2*強調像では、左の前大脳動脈のA2に相当すると思われる部位に低信号を認めています。

これはSWI同様、塞栓子を示唆する所見であり、susceptibility signと呼ばれるものです。

これらのサインが閉塞動脈の同定のヒントとなりますので合わせて復習しておきましょう。

撮影法 評価部位 正常の動脈血流 動脈閉塞
T2強調像 内頸動脈、椎骨脳底動脈、皮質動脈近位部 flow void flow voidの消失→高信号
MRA 脳動脈全体 TOF信号 TOF信号の消失
FLAIR 皮質動脈、脳底動脈 正常動脈は認識できない intraarterial signal(塞栓子や血栓および末梢側の低灌流が高信号)
T2*強調像 皮質動脈 正常動脈は認識できない susceptibility sign(塞栓子や血栓が低信号)
磁化率強調画像(SWI) 皮質動脈 正常動脈は認識できない susceptibility sign(塞栓子や血栓が低信号)
還流異常領域からの還流静脈 正常静脈は低信号 還流静脈の低信号の増強(デオキシヘモグロビン濃度が上昇するため)

ここまでわかる頭部救急のCT・MRI P263引用改変

 

MRAはどうでしょうか?

MRAでは

  • 椎骨動脈合流部
  • 左中大脳動脈(M2分岐部)
  • 右内頸動脈(サイフォン部)

に狭窄を認めています。

そして、左前大脳動脈(ACA)のA2がはっきりしないことに気付かなくてはなりません。

前大脳動脈のうちA1は正常変異として低形成のこともありますが、A2は必ず確認できなくては異常です。

MRAの元画像を確認してみましょう。

そうすると、右のACAが末梢で追えるのに対して、左のACA(A2)は途中から信号が低下することがわかります。(さらに追っていくと再び信号が上昇します。)

つまり、左のACA A2に狭窄や血栓などがあり、血流が少なくなっていることが示唆されます。

 

この時点で拡散強調像には信号変化として出ていませんでしたが、

  • FLAIR
  • T2*強調像
  • MRA

からは、右の前大脳動脈(ACA)のA2に塞栓子が存在し、血流が低下していることがわかります。

 

しかし、頭部MRIで明らかな病変を認めず、症候性てんかん、脳梗塞の可能性がありとして、治療開始されました。(詳細な治療については不明です。)

 

そして入院3日後に右片麻痺の悪化、失語の出現があり、再び頭部MRIが撮影されました。

この時点では拡散強調像で左の前大脳動脈の皮質枝領域に一致して皮質を含んだ広範な梗塞像として捉えることができ、ADCもそれに合致して低下しています。

基底核ー放線冠レベルにおいても同様です。

FLAIRにおいても広範な高信号を認めており、浮腫性変化も認めていることがわかります。

このような皮質を含んだ広範な梗塞を見た場合にまず考えなくてはならないのが、

  • 心原性脳梗塞(心原性塞栓)

でしたね。主に左心耳にできた血栓が突然飛んでくる脳梗塞です。

ところがこの方は、Afもなければ心エコーで血栓なども認めませんでした。

次に考えるのが、アテローム血栓性脳梗塞の中でも塞栓性のものです。

塞栓性は主に内頸動脈起始部にできた不安定プラークが飛んでより末梢の血管が詰まるというもので、Artery to Artery embolismとも呼ばれるものでした。

この場合はアテローム血栓性脳梗塞に分類はされますが、心原性のように、皮質を含んだ広範な脳梗塞となることもあります。

今回頸動脈エコーで、

  • 両側総頸動脈分岐部〜内頸動脈起始部にかけて石灰化を伴う複合病変あり。
  • 右側:面積狭窄率 49%
  • 左側:面積狭窄率 61%

と診断されましたが、不安定プラークよりは安定プラークのようでした。

 

ですので結局、心原性塞栓なのか、アテローム血栓性脳梗塞の塞栓性なのかはわかりません。

もちろんもともと左ACAのA2にアテローム硬化があった可能性もありますね。

また、安定プラークだから飛ばないわけでもないようです。

 

個人的には、アテローム血栓性脳梗塞の塞栓性>心原性なのかなと考えていますが、正解はないですし、3日後の画像だけみたら心原性でしょと考えたくなりますね。

このように、心原性なのかアテローム血栓性なのかさえも鑑別できないこともあります。

 

診断:左前大脳動脈皮質枝領域梗塞(アテローム血栓性脳梗塞>心原性、超急性期〜急性期の過程)

 

とします。

この症例では、前大脳動脈皮質枝の血管支配域に一致して脳梗塞を起こしています。

前大脳動脈の支配範囲を今一度確認しましょう。

関連:

 

【頭部】症例35の動画解説

お疲れ様でした。

今日は以上です。

今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。