【頭部】症例22-2 解答編

【頭部】症例22

【症例】70歳代女性
【主訴】右上下肢麻痺、失語
【現病歴】三女と2人暮らし。もともとADLは自立していた。数分前までは全く普通の状態であったが、三女が部屋に行ったとき、意識レベルが低下して、全く動けない状態になっており、救急搬送となる。
【既往歴】特になし。
【身体所見】BT 36.8℃、BP 144/90mmHg、P 90bpm 不整(Af)、SpO2 100%(5l)、JCS-Ⅱ 20、瞳孔は両側3mm大で左右差なし、対光反射に異常なし。左共同偏視あり。右顔面神経あり。発語なし。MMT:右上下肢の脱力あり(右上肢1、右下肢2)

画像はこちら

左中大脳動脈閉塞による超急性期脳梗塞と診断され、t-PA静注療法が開始されました。

2時間後のCTです。

さて、2時間後どう変化したでしょうか?

来院2時間後のCTでは、左レンズ核のさらなる不明瞭化、島や前頭葉・側頭葉の一部の皮髄境界の不明瞭化の進行を認めています。

側脳室体部レベル(放線冠レベル)においても、左中大脳動脈領域に一致して皮髄境界の不明瞭に加えて、浮腫性変化を認めており、右側に比べて脳溝が不明瞭になっています。

初回のCTではearly CT signを指摘するのはやや難しいかもしれませんが、2時間後のCTでは確実に指摘できる必要があります。

17時間後のCTです。

t-PA療法が施行されましたが、反応は不良(治療終了後は19点と改善を認めておらず)で、左中大脳動脈領域に一致した脳梗塞が完成しています。

低吸収域のさらなる明瞭化、浮腫の進行を認めています。

20時間後のMRIです。

左中大脳動脈領域に一致して、

  • 拡散強調像(DWI)で高信号
  • ADC信号低下
  • T2強調像で高信号

を認めています。かなり明瞭な所見です。

また、

  • アテローム血栓性脳梗塞→時間を掛けて動脈硬化が進行した結果起こる→側副路の発達により皮質は保たれる傾向にある。
  • 心原性脳梗塞→主に左心耳に形成された血栓が突然飛んできて起こる→側副路の発達はなく皮質も梗塞に陥る

という傾向があります。

今回も皮質は保たれず、梗塞に陥っていることから心原性などの塞栓性脳梗塞が疑われます。

※その後、頸動脈エコー上狭窄やプラークを認めず、心電図上、心房細動があり、心原性脳塞栓と診断されました。

 

最終診断:左中大脳動脈領域の心原性脳梗塞

 

ちなみに、脳梗塞の発症からの経時的はCT,MRI画像の変化は以下の通りです。

今回の

  • 拡散強調像(DWI)で高信号
  • ADC信号低下
  • T2強調像で高信号

というパターンはT2強調像で高信号であるため、急性期である1−7日に相当します。

しかし実際には、20時間しか経過していません(来院20時間ではじめてMRIが撮影されましたが10時間などで撮影していてもT2強調像である程度は高信号を示していたと予測されます)。

つまり、上の表はあくまで目安であり、実際の梗塞の程度によって時間は異なってきます。
今回は、塞栓が飛び広範にとても強い梗塞を認めていますので、目安時間よりも早くT2強調像で高信号になっていると言えます。

 

またMRAでは左の内頸動脈〜中大脳動脈に広範な欠損を認めており、血流が途絶えていることがわかります。

 

脳梗塞後の合併症として覚えておかなくてはならないのが、出血性梗塞です。

出血性梗塞とは、梗塞部に出血を起こすものです。

特に今回のような心原性脳梗塞の場合はかなりの頻度で起こります。

ただしこの出血性梗塞には2種類あり、

  • 脳梗塞直後(2-5日後)
  • 亜急性期(2週間前後)

の2つの時期に出現するものに分けられ、前者が重症化しやすいのに対して、後者は予後不良因子となることは稀とされます。

今回の強い心原性梗塞の場合は、前者の出血性梗塞のリスクが高いといえますが、幸い前者の出血性梗塞は起こりませんでした。

ただし、来院15日後のCTが以下です。

梗塞部の浮腫性変化は軽減していますが、梗塞部の主に皮質下に高吸収を認めています。

亜急性期の出血性梗塞を疑う所見です。

その後重症化することはなく、血腫は吸収されていきました。

※かなり強い脳梗塞でしたが、幸い致死的にはならず、無事退院されました。退院時の所見では、意識レベルはJCSⅠ-3、発語なし、挙手、開閉眼といった簡単な命令であれば言語による従命可、右上下肢の完全麻痺を認めた。右上肢は軽度拘縮を認めたとのことです。

関連:

【頭部】症例22の動画解説

心原性脳梗塞の動画解説

early CT signの動画解説

今回の症例を用いて解説しています。

お疲れ様でした。

今日は以上です。

今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。