
症例64
【症例】40歳代 女性
【主訴】腹痛、嘔気・嘔吐
【現病歴】朝から腹痛を自覚、10回以上嘔吐あり。生ものの摂取なし。
【身体所見】意識清明、BP 123/79mmHg、P 93bpm、BT 37.2℃、腹部:平坦、やや硬い、腸雑音減弱、下腹部正中を中心に広範囲に圧痛、反跳痛あり。
【データ】WBC 15400、CRP 0.87
画像はこちら
小腸の拡張、液貯留、ニボー像を認めています。
小腸イレウス(腸閉塞)を疑う所見です。
閉塞機転はどこかを考えて、腸管を見ていくと・・・
右下腹部に腸管が急に細くなり、回転している部位があることがわかります。
同部が閉塞機転となり腸閉塞を起こしていることが推測されます。
なお、closed loopを疑う所見は認めていません。
すなわち、上のように、何らかの索状構造が原因となり、口側の腸管が拡張を来している機械性イレウス(機械性腸閉塞)の状態が推測されます。
ところが、閉塞機転となっているところをよくよく見てみると・・・・
クルンと回転して細くなっている腸管の他に、拡張した口側の腸管と連続性のある構造物があることがわかります。
周りの小腸と比較すると壁の造影効果が弱く、またこの構造物は上下に連続性を確認できず盲端となっていることがわかります。
つまり、次のような状態となっているのではないかと推測することができます。
すなわち、拡張した腸管と連続し、盲端となった腸管が存在し、それが索状物のような働きをして、肛門側の腸管が締め付けられていると言う状態です。
締め付けられた腸管はCT画像上はclosed loopとしては同定できませんでしたが、小さなclosed loopを作っているのではないかと推測することができます。(ちょっとこじつけですが(;゚ロ゚))
左側は術中写真です。
腸管から飛び出すような形で、管腔構造が出ており、手術記録によるとこれが腹壁に癒着していたということです。
では、これはなにでしょうか?
もし締め付けられていなかったら、こんな構造であることが推測されます。
これはなにでしょうか?
盲端といえば虫垂でしょうか?
それとも何らかの憩室が小腸にあるのでしょうか?
そう!!!
Meckel憩室(メッケル憩室)です。
Meckel憩室(メッケル憩室)とは?
- 卵黄腸管の遺残で、一部が閉塞せずに腸間膜付着部の反対側に発生した真性憩室。
- 最も頻度が高い腸管奇形。
- 頻度は1-2%。
- 男性に多く2歳以下が半数以上。
- 回盲部から50~100cmまでの口側に存在し、その大きさは数〜5cm。
- 23-50%に異所性胃粘膜の混在を認める。
- 大部分は無症状だが、4-40%が合併症を契機に発見される。
- 腸閉塞・腸重積、出血、憩室炎、穿孔、ヘルニア、悪性腫瘍などにより発症する。
- 小児は出血、成人例では腸閉塞が多い。
手術記録より抜粋:
索状構造は腸間膜対側に付着しており、腸管組織であるためMeckel憩室と考えられた。Meckel憩室は回盲部から70cmのところで認め、先端部は前腹壁正中部右側まで伸張していた。
診断:絞扼性腸閉塞(Meckel憩室により形成されたバンド(索状構造)による)
※今回CT画像上はclosed loopの形成はありませんが、腸間膜の浮腫、腹水貯留、beak signを認めており、クルンと回転している肛門側の腸管に虚血があったことが手術記録(索状構造が小腸の一部を絞扼していると考えられた。(中略)。索状構造の間から腸管を引き上げると、腸管の色調も改善したため、腸切はしない方針とした)からも疑われます。
ですので、個人的には、先ほど申し上げたようにCTでは見えない小さなclosed loopを形成していると考えることで理解しやすいと考えています。
保存的に加療していても、このMeckel憩室により形成されたバンドから解除される可能性は低く、後日手術となることが推測されます。
※今回術前にMeckel憩室を言い当てるのはなかなか困難だと思われます。絞扼性イレウスと言うことがわかればOKです。
今回この症例を提示したのは、
- 絞扼性腸閉塞の復習
- Meckel憩室がこのように腸閉塞を起こす原因となることがあるということを知って欲しい
という2つの意図があります。
関連:
その他所見:とくになし。
症例64の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
見返してみると明らかな誤診ですね(;’∀’)
ICD診断したい病の主症状と思われます。
検索で、”backwash ileitis “を見つけてしまった日にはもうターミナルでした(;’∀’)
でも実際、とても簡単というわけではないような気がします(・・;)
closed loopを見つけることができなかったのはまず大きい理由と思いますが、 さらに、
そもそも、メッケル憩室に気が付きませんでした。
やっぱり、メッケル憩室の壁はペラペラですか?
全体に腸間膜に腹水があるので、メッケル憩室を「腸管(憩室)」だと思わず、
ただの腹水として完全スルーしてしまいました(-_-;)
今回は意外と正診率は低いのではないでしょうか(;’∀’)?
beak signに気付ければ、オペ適くらいはわかりましたかね~(・・;)
あるいは、小腸がこんなにパンパンなのに、結腸は落ち着いている(これにすら気付かなかったですが(-_-;))、
ということを冷静に考えても、もう少しは近づいたのかもしれません。
ちなみに、回盲部付近の結腸がちょっと肥厚しているように見えますが、これは腹水でこう見えているだけですか?
粘膜下層の肥厚はあんまりですかね?(・・;)
アウトプットありがとうございます。
>やっぱり、メッケル憩室の壁はペラペラですか?
取り出された標本をみてもそれほどペラペラという訳ではないと思います。
画像上はかなりペラペラにみえますね。
>全体に腸間膜に腹水があるので、メッケル憩室を「腸管(憩室)」だと思わず、
ただの腹水として完全スルーしてしまいました(-_-;)
確かに壁の染まりが他の腸管よりも良くないので、不自然だと思いながらも腹水が局所的に溜まっているという風にも見えますね。
>今回は意外と正診率は低いのではないでしょうか(;’∀’)?
今回はかなりの難問だと思います。
あえてそれでも出したのはMeckel憩室という項目を網羅するためです。
最後にも記載しているように、今回この症例を提示したのは、
・絞扼性イレウス(腸閉塞)の復習
・Meckel憩室がこのように腸閉塞を起こす原因となることがあるということを知って欲しい
という2つの意図があります。
とくに後者の意図が強いですね。
>ちなみに、回盲部付近の結腸がちょっと肥厚しているように見えますが、これは腹水でこう見えているだけですか?
粘膜下層の肥厚はあんまりですかね?(・・;)
巻き込まれた(回腸の先の腸管)影響だと思います。
今回は絞扼性イレウスだと何となくわかりました。
かなり時間がかかりましたが(汗)
メッケル憩室は名前しか知らなくて、
こういうイレウスの、原因にもなるのですね。
覚えておかないとですね。
十二指腸水平部から
上行部、空腸あたり
まで粘膜肥厚が、あるように見えるのですが正常でしょうか?
> 今回は絞扼性イレウスだと何となくわかりました。
かなり時間がかかりましたが(汗)
普通にすごいと思います (^▽^)/
分かる方が多数派なんですか?(;’∀’)
焦る(;’∀’)
正直に言いますと、最初ぜんぜん分からずわかるまでに3時間かかりましたので
多分すごくないと思います(笑)
お世話になっています。
難しい問題でした。メッケル憩室に造影不良があるため「液体貯留」と判断して、腸管構造があると認識できませんでした。貴重な症例ありがとうどざいます。
1つ確認ですが、骨盤腔の子宮と膀胱の間に見られる小腸は浮腫状で、他の小腸とは見え方が違います。また、その浮腫状の小腸はクローズドループを形成しているように見えるのですがどうでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>1つ確認ですが、骨盤腔の子宮と膀胱の間に見られる小腸は浮腫状で、他の小腸とは見え方が違います。また、その浮腫状の小腸はクローズドループを形成しているように見えるのですがどうでしょうか?
確かに「巻き込まれそうになって」と動画で解説していますが、やや巻き込まれているのかもしれませんね。
するとおっしゃるように同部でclosed loopを形成していると判断してもいいかもしれません。おっしゃるように、
腸管は浮腫状で腸間膜の浮腫も認めています。
より時間が経てばここの部分の液貯留がさらに進み、腸管が拡張して、より明瞭なclosed loopを形成したかも知れませんね。
貴重なご意見ありがとうございます。
ご回答ありがとうございます。
先生の意見を聞いて再考してみましたが、口側小腸の拡張が高度なのに対して、骨盤内の浮腫状小腸に拡張がほとんど見られないことにアンバランスを感じます。時間的に考えて、もしclosed loopがあったとすれば、浮腫状小腸に拡張がもう少しあってもよいような気がします。メッケル憩室に「巻き込まれそう」という見解の方がより正しいと思います。ありがとうございました。
>もしclosed loopがあったとすれば、浮腫状小腸に拡張がもう少しあってもよいような気がします。
そうなのですが、やはり腸間膜浮腫も少しありますので、緩いclosed loopを作っているもしくは、初期である可能性はあります。
腸間膜の浮腫があるということは、ある程度、血管の締め付けが予想されるということですね。
どんな疾患も初期の状態で発見すことが大切ですので、今回の問題は、いろいろと勉強させていただきました。ありがとうございます。
さすがにメッケル憩室とはわからなかったのですが,腹水・腸間膜浮腫があり,外科手術適応と判断できてよかったです.
上行結腸もやや浮腫状と感じましたが,有意ではないでしょうか.
アウトプットありがとうございます。
>腹水・腸間膜浮腫があり,外科手術適応と判断できてよかったです.
それはよかったです。
>上行結腸もやや浮腫状と感じましたが,有意ではないでしょうか.
盲腸部は影響を受けていると思います。たしかに上行結腸もやや浮腫状ですがこれくらいならば正常範囲と考えます。
コメント拝見しました。
>腹水・腸間膜浮腫があり,外科手術適応と判断できてよかったです
なるほどなぁ~と思いました(^▽^)/
closed loopはおろか、beak signすらよくわからなかったのですが、そうやって判断する方法もあるんですね。
腸管壁の造影効果増強は気づいていましたが、いわゆる機械性の腸閉塞では目立たない所見ですか?
上行結腸周囲の局所的な脂肪織濃度上昇あり(横断像スライス40)としたのですがこれは腹水ですか?もしくは正常範囲でしょうか?
よろしくお願いします。
アウトプットありがとうございます。
腹水で良いと思います。
毎日ありがとうございます。
①今回は小腸がびまん性に拡張していて、多くの腹水が認められることから腸閉塞が頭によぎりました。
②そこで閉塞機転は何なのか検索しようとしたのですが、何人かの受講生の方がおっしゃっていたように、上行結腸に壁肥厚があるようにまず思われて、そこにとびつきました。
③三層構造の保たれている上行結腸のこの構造が閉塞起点となって小腸にも拡張が及んでいる?と短絡的に考えてしまいました。
小腸の連続性を丹念に追うことを怠らなければこのような間違いをきたすことはなかっただろうと思います(いつも直腸から回盲部までしか腸管の連続性を追っていなかったのがあだとなりました)。また、回盲弁を通り越して小腸に拡張をきたすほどの影響がある所見ではないと今となっては感じています。
しっかり復習しておきます!
アウトプットありがとうございます。
>①今回は小腸がびまん性に拡張していて、多くの腹水が認められることから腸閉塞が頭によぎりました。
OKですね。
>②そこで閉塞機転は何なのか検索しようとしたのですが、何人かの受講生の方がおっしゃっていたように、上行結腸に壁肥厚があるようにまず思われて、そこにとびつきました。
これもおっしゃるように目に付きますね。
>③三層構造の保たれている上行結腸のこの構造が閉塞起点となって小腸にも拡張が及んでいる?と短絡的に考えてしまいました。
となると、回腸末端が拡張しているはずですね。ところが、クルンと巻き込まれるようなかたちで狭窄しています。
>いつも直腸から回盲部までしか腸管の連続性を追っていなかった
回腸も末端は追えますので、次回から回腸末端部まで追うようにしましょう。
症例提示ありがとうございました。
症例提示をありがとうございました。
1)腸管の増強不良や局所の異常造影がない。
2)ビークサインの局在
3)腸間膜の脂肪組織の濃度上昇
4)腹水
を画像所見から指摘できました。
しかし1)の所見より腸管の虚血を積極的に疑うことができず単純性腸管閉塞と判断してしまいました。2)〜4)の所見をひろうことができていたので絞扼性指摘できなければいけませんでした。
アウトプットありがとうございます。
>
2)ビークサインの局在
3)腸間膜の脂肪組織の濃度上昇
4)腹水
これらはいずれも絞扼性イレウスで見られる所見ですので、あと一歩ですね。
やばい(手術が必要な)イレウスと診断しましょう。
造影不良がはっきりしないケースはよくあります。
Meckel憩室初めて見ました。というより、初めて認識しました。勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
>というより、初めて認識しました。
そうなんです。こんなものがあったと認識できることが大事ですね。
イレウス(腸閉塞)などがあり、かつ何か通常の腸管ではどうしてもおかしい、説明がつかない→まさか・・・・
ですね。
他の先生も指摘されていますが、回腸起始部の、ある程度の長さの小腸の壁肥厚と狭窄(横断像31~40、217~259/482、冠状断像6~20/61)が今回の腸閉塞の原因かと思ってしまいました。(しかも回腸起始部とはわかりませんでした。)狭窄部の小腸の造影効果も強いし、ここは問題ないのでしょうか。
拡張腸管の追跡もうまくできませんでした。
今回の症例は2日がかりで画像を見て、頭がふらふらしてしまいました。
先生の10分越えの激動画を見ても難しい症例だなあ、って思っています。
アウトプットありがとうございます。
>ある程度の長さの小腸の壁肥厚と狭窄(横断像31~40、217~259/482、冠状断像6~20/61)が今回の腸閉塞の原因かと思ってしまいました。
こちらは拡張した口側の腸管がここまで拡張しており、拡張が及んでいない空腸の近位端を見ています。
空腸はこのように正常でもあたかも壁肥厚しているように見えることがあるので注意が必要ですね。
■CTで腸管壁肥厚と解釈してしまいがちな箇所
・空腸
・胃幽門部
・直腸
(ビギナーのための腹部画像診断 P128)
と記載があります。
このうち、胃幽門部があたかも壁肥厚様に見えることがある点については症例57で質問があり、記事にしました。
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/37798
>今回の症例は2日がかりで画像を見て、頭がふらふらしてしまいました。
お疲れ様です!今回の症例は最難関症例の1つだと思います。まずは絞扼性腸閉塞と診断できることが重要ですね。
拡張腸管を追う際に通常の腸管の走行では説明がつかない構造がある場合にMeckel憩室を思い出しましょう。
空腸が壁肥厚のように見えることがある点も今回の症例を用いて記事にしました。
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/37809
詳しい解説をありがとうございました。ためになります。