
症例75
【症例】70歳代 男性
【主訴】なし
【現病歴】B型肝炎でフォロー中。エコーで肝腫瘤を指摘された。
【既往歴】直腸癌術後、結核
画像はこちら
画像所見と診断は?
肝S6より突出する腫瘤を認めています。
腫瘤は早期でモザイク状に濃染し、平衡相ではwashoutされています。
また辺縁には被膜様構造を認めており、典型的な肝細胞癌を疑う所見です。
(※腫瘤の辺縁に低吸収域があり、脂肪の含有を示唆する所見ですが、その後のMRIで嚢胞であることがわかっています。)
診断:肝細胞癌疑い
EOB-MRIが撮影されました。
- T1WI(in-phase)横断像
- T1WI(opposed-phase)(横断像)
- 脂肪抑制T1WI(横断像)
- DWI/ADC(横断像)
- T2WI(横断像)
- T2WI(冠状断像)
- ダイナミック
- 肝細胞相(冠状断像)
症例46の副腎腺腫でやったように、脂肪の含有を確認するにはMRIのin-phaseからopposed-phaseにかけて信号低下を確認すればいいのでした。
しかし今回はin-phaseで既に低信号で、opposed-phaseで低信号が増大するわけでなく、脂肪ではなさそうであることがわかります。
T2WIで腎嚢胞と同程度の明瞭な高信号であり、嚢胞であることが分かります。
またダイナミックMRIでは、早期濃染されwashoutされている様子が分かります。
さらに肝細胞相で明瞭に抜けを認めており、同部には正常な肝細胞が存在しないことが示唆されます。
典型的な肝細胞癌です。
単発であり、手術が施行され、中分化型の肝細胞癌(Hepatocellular carcinoma,moderately differentiated)と病理学的にも診断されました。
その他所見:
- 腎嚢胞あり。
- 微小肝嚢胞あり。
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
いつも勉強させていただいています。
平衡相で腫瘤の周囲が濃染しているのを、コロナ濃染というのは一般的ではないのでしょうか?
またこれが見られたら肝細胞癌の可能性が高いという理解で大丈夫でしょうか?
アウトプットありがとうございます。
コロナ濃染の場合は、もう少し周囲に染み出すような形で楔状になるのが一般的で、偽被膜が形成される中分化型肝癌で見られることがあります。
この腫瘍がもう少し進行するとより明瞭なコロナ濃染を来すようになるのだと思います。
これが見られたら肝細胞癌という目安ではなく、肝細胞癌ならば、偽被膜が形成されている中分化型肝癌を示唆する所見と言えます。
偽被膜が形成されることで腫瘍血洞と周囲肝類洞との吻合が消失し、偽被膜内に残存する門脈細枝との連続のみが流出血管となることで認める所見とされています。
参考:肝の画像診断(第2版)P91
肝臓に悪性腫瘍を疑ってダイナミックCTを撮って早期濃染+遅い相でwashoutまで認めても、肝細胞癌「疑い」までしか言えないということなのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
典型例ですので、まず肝細胞癌なのでしょうけど、個人的に腫瘍については基本的に画像のみで断定しない方針ですのでこのような表現になっています。
人によっては断定で良いと思いますし、肝細胞癌(中分化型疑い)でもいいかもしれません。
いつも勉強させて頂きありがとうございます。
EOB-MRIのように動脈後期相に濃染をみとめ、門脈相から平衡相にかけて吸収値が低下していく所見がwash outだと思っていたのですが、門脈相で吸収値が上昇しても平衡相で低下していればwash outとしても良いのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
申し訳ありません。このCTの門脈相が後期動脈相に近いタイミングで撮影されているためだと思います。
ですので、タイミング的にはMRIの方を参照してください。
肝細胞癌、肝内胆管癌、転移性肝腫瘍、血管腫などが頭に浮かびました。
肝血管腫は辺縁から造影されていき、だんだんと内部が染まっていくので
違うなと思いましたが、他のものとの鑑別は、
肝細胞癌では早期相でまだらに(モザイク状に)濃染され、平衡相ではwashoutされているのが特徴なのですね。勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
>肝細胞癌では早期相でまだらに(モザイク状に)濃染され、平衡相ではwashoutされているのが特徴なのですね。
肝細胞癌でも多段階発癌で中分化〜低分化型のHCCがこのようないわゆる古典的肝細胞癌(classical HCC)といわれる造影パターンを示します。
早期のHCCなどはEOB-MRIなどでしか同定できないものもありますので、その点はご注意ください。
すべてのHCCがこのように見えるわけではないということです。そこがややこしいところですね(^_^;)
いつも勉強させて頂きありがとうございます。
膿胞を合併しておりますが、全体としては典型的なHCCパターンと思います。
典型例の場合、肝生検は播種の危険性があるので施行せずに治療に入ります。今回はS6の単発例であるので手術が施行され、病理結果にて中分化型の肝細胞癌と判明した、という経緯でしょうか。
非典型例の場合は肝生検も選択肢に挙がってくると思われます。
アウトプットありがとうございます。
>今回はS6の単発例であるので手術が施行され、病理結果にて中分化型の肝細胞癌と判明した、という経緯でしょうか。
おっしゃるとおりです。肝生検は術前には施行されておりません。