
症例60
【症例】50歳代 男性
スクリーニング
画像はこちら
両側の前腹部の皮下に軟部影を認めています。
ほぼ左右対称にも見えます。
一体何でしょうか?
下腹部を見てみると、両側輸精管の石灰化を認めています。
これは懐かしの症例1で見たように、糖尿病との関連を示唆する所見でした。
この方は糖尿病がありそうだということがわかりました。
ただし症例1のように腎萎縮があり、透析をしているというわけではなさそうです。
糖尿病があり、皮下に軟部影がある。
そう、インスリン皮下注射をしており、その瘢痕であることがわかります。
インスリン皮下注射をしている方で割と見られる所見です。
病歴を確認すると、10年前から糖尿病、脂質異常症、高血圧症があり、インスリン皮下注射をしています。(ログ16-18-18、ランタス眠前20)。
診断:インスリン注射による皮下の変化
※正確な表現の仕方がわからず、このように表現しています。この言い回しの方が的確ではないかというのがありましたら、教えていただければ幸いです。
なお、この方は皮下の変化が軽度ですが、強くなると、索状影を形成したり、腫瘤を形成したりします。
すると、インスリン吸収障害を来たし、インスリンが効きにくくなります。
この状態をインスリンボールと言います。
インスリンボールは、限局性アミロイドーシス(アミロイドーマ)と報告されており、アミロイド沈着によりMRIでT1WI、T2WIともに低信号を示すと報告されています。
参考症例を一つ見てみましょう。
先ほどの症例に比べて、皮下に石灰化を伴う腫瘤状です。
どこからがインスリンボールと診断するのかは明確ではありませんが、先ほどの症例よりはインスリンボールの状態といえます。
先ほど述べたように、インスリンボールがあるとインスリン吸収障害があり、インスリンが効きにくくなります。
ですので、インスリン投与量を増やしても血糖コントロール不良が持続する場合、悪性腫瘍や抗インスリン抗体の存在のみでなく、このインスリンボールがないかを疑う必要があります。
インスリンボールがあり、それでインスリン吸収障害があると診断された場合、どうすればいいかというと、注射場所を変えればいいと言うことになります。
その際に注意することは何でしょうか?
普段の量だと、インスリンが効きすぎるということですね。
参考:
画像診断 Vol.35 No.11 増刊号 2016 P26,27
臨床画像 Vol.33, No.10,2017 P1197
関連:
その他所見:
- 脂肪肝あり。
- 両側腎嚢胞あり。
お疲れ様でした。
今日は以上です。
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いつもお世話になってます!
副所見についてなのですが、尿膜管遺残はありますでしょうか?
sagiがなく正確な評価は難しいのですが、膀胱頂部から索状影が出てるように見えるのですが。。(途中で消えます)
アウトプットありがとうございます。
>尿膜管遺残はありますでしょうか?sagiがなく正確な評価は難しいのですが、膀胱頂部から索状影が出てるように見えるの
おっしゃるように膀胱頂部から索状影が出てるように見えますね。
ただし膀胱性の膀胱憩室を作っている様子はなく、いわゆる「正常の尿膜管遺残」でよいと思います。
関連:
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/2102
参考:
腹部画像解剖 徹頭徹尾-画像解剖を極め診断能を向上させる P135-137
おはようございます。
インスリンボール答えられました!
先週も患者さんのインスリンボールを見つけたばかりでした…!
輸精管の石灰化も良い復習になりました。
糖尿病の患者さんの画像では、大血管合併症を評価するのに、血管の石灰化等も確認するように心がけています。
インスリン注射している方で効きが悪い人がいたら、腹部の診察を疎かにしないようにしたいです!
アウトプットありがとうございます。
>先週も患者さんのインスリンボールを見つけたばかりでした…!
それはタイムリーでしたね(^^)
>インスリン注射している方で効きが悪い人がいたら、腹部の診察を疎かにしないようにしたいです!
そうですね。
インスリンボールと鑑別を要するものに、皮下脂肪過形成(lipohypertrophy)があります。
外観だけではわかりにくいかもしれませんが、触診により、こちらは脂肪腫様に柔らかい点でインスリンボールと鑑別が可能です。
画像を撮影しても鑑別は可能です。
参考:画像診断 Vol.36 No.11 増刊号 2016 P27
以前患者様に、皮下の濃度上昇について、「お腹を打ったことがあるのか」と訪ねたときに、「インスリン注射」を行っていると教えて頂いたことがありました…(^^;)
アウトプットありがとうございます。
問診から理解したということですね。それは忘れられないですね(^^)
言われるとなるほどという感じですね!
こういう細かい所見にも気付けるようになりたいです.
アウトプットありがとうございます。
そうですね。
今回のは指摘してもしなくてもよいと思いますが、サイズが大きなものは指摘したいですね。
その際にインスリン使用の有無をチェックしたいところです。
いつも詳細な解説、有難うございます。
腹部のCT診断という本題から外れて申し訳ありませんが、話題提供です。
私は核医学、特にPET/CTが本業なのですが、インスリン注射部位にはFDGも集積するようです。 また、乳癌や前立腺癌の患者さんのホルモン注射部位も皮下脂肪層のCT値上昇やFDG集積がみられ、こうした変化はインスリンの場合よりも広範囲かつ明瞭な印象を受けます。
どちらの場合も、FDGが集積するということは異物に対する炎症反応でも起きているのかな? と予想していますが、ホルモン注射部位にもアミロイドーマが形成されるとしたら、ホルモン治療の効果にも影響が出るかもしれませんね。
アウトプットありがとうございます。
>インスリン注射部位にはFDGも集積するようです。 また、乳癌や前立腺癌の患者さんのホルモン注射部位も皮下脂肪層のCT値上昇やFDG集積がみられ、こうした変化はインスリンの場合よりも広範囲かつ明瞭な印象を受けます。
そうなんですね。勉強になります。貴重な補足ありがとうございますm(_ _)m
いろんな知識が有機的に結びついているという感じですね。
今まで見えなかったものが少しずつ見えてくるといいなあ。
アウトプットありがとうございます。
>いろんな知識が有機的に結びついているという感じ
それはよかったです。
今指導している研修医の先生もどんどん読めるようになっているのでまさにそんな感じです(^^)
インスリンボール応えられました!
インスリンボールの画像を初めて見ましたので、今後の参考にさせて頂きます。(今までは単に見逃していたのかもしれません)
アウトプットありがとうございます。
>今までは単に見逃していたのかもしれません
その確率が高いかも知れませんね(^_^;)
見ようとしないとスルーするところかもしれませんので。
輸精管の石灰化・・・忘れてましたっっ。
症例1で240日くらい前に出てきましたねっっ。
いつも貴重な症例をありがとうございます。
注射後変化の画像診断に関連付けて、最近ではコロナウイルスワクチン接種後の腋窩リンパ節腫大およびFDG集積が有名でしょうか。
本症例は皮下注射でコロナは筋肉注射ですが、管理人先生の寛大さに甘えさせていただき、コメントしてみました(笑)
アウトプットありがとうございます。
>最近ではコロナウイルスワクチン接種後の腋窩リンパ節腫大およびFDG集積が有名でしょうか。
そうですね。片側の腋窩リンパ節腫大は、FDGーPETに限らずCTでも認め、ワクチン接種後でしょうか?と記載したりですね(^_^;)
コロナウイルスに限らず、例年ですとインフルエンザウイルスワクチンもですね。