【新腹部救急】症例37
【症例】20歳代 女性
【主訴】腹痛、右側胸部痛
【現病歴】昨日までは体の不調はなかった。本日朝4時頃から下腹部痛出現あり。自宅にて安静臥床で様子を見ていたが、徐々に左肩、右胸部の疼痛を伴うようになり、痛みのため臥床していられなくなっため、当院救急外来受診。昨日性交あり。
【既往歴】なし
【身体所見】仰臥位で右肩・右側胸部周囲に激しい疼痛(立位・座位では自覚しない)。腹部:平坦、やや硬、下腹部に強い圧痛(+)、反跳痛(+)、排便・ガスあり、軟便。
【データ】WBC 8600、CRP 0.06、Hb 10.2、妊娠検査:陰性
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CT
まずはCT(単純)から見ていきましょう。
腹水を認めていますが、特に子宮の周囲に濃度の高い液貯留を認めています。
腹腔内出血が疑われます。
今回は明らかに高吸収ですが、わかりにくい場合は、
- 膀胱内の尿
- 胃内の液貯留
- 腎嚢胞
と肉眼的に濃度が高くないか比較することも重要です。
また、最も確実なのはCT値を測定することです。
皆さんの環境では測定できませんが、CT値を測定すると平均で70HUでした。
- 腹水 0-15HU
- 血性腹水 20-40Hu
- 血腫・凝血塊 40-70HU ←
- 活動性出血 85-350HU
- 胆汁 0HU
- 尿 0-15HU
(西巻、腹部外傷、日独医放;vol51.No1.51-71,2006)
これは血腫や凝血塊を示唆するCT値となります。
出血源はどこでしょうか?
下腹部に高吸収が目立ちますので、下腹部での出血が疑われます。
女性の場合、下腹部で腹腔内出血を起こす頻度が高いのは卵巣出血です。
子宮の右背側に嚢胞性病変を認めており、右卵巣嚢胞が疑われます。
やや形がいびつであり、右卵巣出血およびその破綻の可能性があります。
次にMRIが撮影されましたので見てみましょう。
MRI
腹腔内の血腫は腹水と比べてT1WIで淡い高信号、 T2WIでは全体的に淡い高信号であり、発症24時間以内の超急性期血腫を疑う所見です。
またT2WIではいびつな嚢胞を認めており、右卵巣のう胞の破綻が疑われます。
造影前後で比較すると、子宮の右側に緊満感の欠如した嚢胞を認めており、辺縁に造影効果を認めています。
このような壁の造影効果を認める卵巣のう胞は、黄体のう胞を疑う所見です。
右卵巣出血および黄体のう胞の破綻による腹腔内出血と診断されました。
診断:右卵巣出血および黄体のう胞破綻による腹腔内出血
※肝表などにも腹腔内出血の波及を認めており、かなり量が多かったのですが、保存的に加療(入院の上、補液+フェロミア、アドナ・トランサミン内服)されました。
関連:
その他所見:左卵胞内出血あり。
【新腹部救急】症例37の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
左卵胞内に破綻はしていないものの、黄体期で出血を起こしている所見から、「常に生理周期に合わせて、卵胞内では出血が起きているんだな」と感じました。
アウトプットありがとうございます。
毎回出血を起こしているわけではないと思います。
黄体のう胞は出血を伴いやすいですが。
出血していることまではわかるのですが・・・解説を見て理解できましたが復習しないとという感じです。ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
若い女性で腹腔内出血といえば、第一に卵巣出血の破綻(中でも黄体のう胞からの出血)を考えたいですね。
出血量から黄体嚢胞出血を疑えましたが、右肩痛、右胸部痛に対し肝臓の造影画像はないもののFitz-Hugh-Curtis Syndromeの可能性を考えてしまいました。
そう思えば黄体嚢胞が膿瘍にも見えてきて、黄体出血だけでなくPIDの併発 → 肝炎と無理やり結びつけてしまいました。
ちなみに出血成分から感染が広がることもあるのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>黄体出血だけでなくPIDの併発 → 肝炎
かなりややこしい病態ですね(^_^;)
おっしゃるように、Fitz-Hugh-Curtis Syndromeは造影CT、なかでもダイナミックCTの早期相でないと診断は難しいですね。
>ちなみに出血成分から感染が広がることもあるのでしょうか?
そのようなことは聞いたことがありませんね(^_^;)
パッと見たときに腸管がよくわからないのは血性腹水を疑うきっかけにしなければならないのですね.
これだけ派手に出ることもあるのに保存で見ることもできるのですね.
CTだけでは,出血源の同定までは難しいのですね.
アウトプットありがとうございます。
>パッと見たときに腸管がよくわからないのは血性腹水を疑うきっかけにしなければならないのですね.
そうですね。なにかいつもより腸管が見えにくいという所見をそういう人(腸管が見えにくい人)なのかもしれないと思うのではなく、それこそが所見であるということですね。
>これだけ派手に出ることもあるのに保存で見ることもできるのですね.
他の腹腔内出血の場合は、基本緊急止血術となりますが、卵巣出血の場合は出血量が多くても、保存的になることが多く、個人的には卵巣出血の止血術はやったことがありません。