特に若い女性の下腹部痛の場合、外せないのが卵巣出血です。
卵巣出血は下記のように分類されます。
診断において大事なのは
- 月経周期をチェックし、今何期なのかを把握すること。
- 大出血の原因になる黄体出血が大部分であること。
- CTを撮影して、おかしいと思ったらとにかく骨盤底の腹水のCT値を測ること。
ということです。
黄体出血(最多)
- 大多数が黄体期中期(月経中期〜後半の黄体期≒月経予定の1週間前)に黄体嚢胞の破裂として発症する。
- 黄体嚢胞は豊富な新生血管の増生により出血を来しやすい状態であり、破綻すると大量の出血によりショック状態に陥ることもある。
- 12歳以上に多く右卵巣優位。
- 性交、外傷などが発症原因となる。
- hMG-hCG療法の過排卵刺激による易出血性や、人工授精のための卵胞穿刺、出血傾向を来す血液疾患を有する場合や、抗凝固療法などの薬物治療が原因となることもある。特発性のこともある。
- 下腹部痛で発症し、卵巣内出血では通常数時間で軽快するが、腹腔内に破裂すると腹腔刺激による激痛を来す。
- 自然止血が期待できるので、超音波検査にて推定される腹腔内出血量が500-600ml以内であり、バイタルサインが安定していれば、保存的治療が原則となる。
- CTでは血性腹水が認められるので、画像のみでは子宮外妊娠との鑑別が必要となる。
卵胞出血
- 排卵時(月経開始2週間後程度)の破綻出血で、出血量は少ないとされる。
- よって元来、性成熟期に好発するが、近年、抗凝固療法の普及に伴い中年から更年期での本症の発症が増加している。
妊娠黄体出血
- 妊娠初期に生じることが多い。超音波にて子宮内に胎嚢が確認されない場合、子宮外妊娠との鑑別が必要である。
卵巣出血の画像所見
CT所見:
- 血性腹水を見逃さない!!骨盤底やdouglas窩の腹水の値を測る。
→血性腹水は20-40HU、血腫は40-70HUと水濃度より高濃度を呈する。
腹腔内液体貯留のCT値
- 腹水 0-15HU
- 血性腹水 20-40Hu
- 血腫・凝血塊 40-70HU
- 活動性出血 85-350HU
- 胆汁 0HU
- 尿 0-15HU
西巻、腹部外傷、日独医放;vol51.No1.51-71,2006
症例 20歳代女性 左下腹部痛にて救急受診
単純CTにおいて、左卵巣に高吸収のニボー像(液面形成)あり。卵巣内出血が疑われる。
MR所見:
急性期(発症1-7日)の血腫
- T1強調像で筋肉と同程度(低〜中等度)
- T2強調像では低信号(デオキシヘモグロビンを反映)。ただし、超急性期は軽度高信号。
- メトヘモグロビンの増加に伴い、T1強調像で血腫の辺縁より高信号となる。
- 反応性の腹水あり。腹腔内血腫に近接して卵巣嚢腫を認めた場合は本症を疑う。
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症例 20歳代女性 腹痛
造影CTにおいて、血性腹水を疑う所見。右卵巣は周辺の造影効果あり。
MRIにおいてはT2強調像で子宮の右側にニボーを有する嚢胞性病変があり卵巣出血の疑い。T1強調像では血性腹水を疑う所見あり。
症例 30歳代女性 腹痛。左黄体出血の破裂。
腹部造影CT:高吸収腹水を認めており、血性腹水を疑う所見です。左の卵巣は緊満感が失われており、弛緩しています。破裂が疑われる所見です。また辺縁には造影効果を認めており、黄体嚢胞が疑われます。
MRI:T1強調像で高信号を示す腹水があり、血性腹水を疑う所見です。造影脂肪抑制T1強調像では造影CTと同様に黄体嚢胞の破裂を疑う所見を認めています。
症例 20歳代女性 腹痛(動画)
症例 20歳代 女性 右下腹部痛
造影CTで右付属器に血腫?
さらには偏在しているが血性腹水を疑う所見あり。
MRIで、右チョコレートのう胞があることがわかります。
それが押されるように左側に血腫を認めています。
T2WIで超急性期の出血を示唆するネズミ色の血腫が破綻して腹腔内に漏出している様子がわかります。
左卵巣出血の破裂(破綻)及び腹腔内出血と診断されました。
骨盤の腹水が、いつもより淡いな、いつもと違う気がすると思ったら、CT値を測る癖をつけましょう。
生理周期による下腹部痛の鑑別診断
月経からの日数(28日周期として)
- 1-5日 子宮内膜症
- 5-13日 卵胞嚢胞破裂
- 13-15日 排卵痛、排卵出血
- 15-28日 黄体嚢胞破裂
- 28日以降 子宮外妊娠、流産
Emergency Radiology 救急の画像診断とIVR P203より引用
参考文献)