【新腹部救急】症例36
【症例】30歳代 女性
【主訴】左下腹部痛
【現病歴】本日仕事終了後、18時頃から左下腹部に激痛が走り、トイレで倒れ込んでいるところを発見され救急搬送となる。
【既往歴】なし
【身体所見】意識清明、BP 97/64mmHg、HR 66bpm、BT 36.9℃、SpO2 100%(RA)、腹部:平坦・軟、左下腹部に圧痛あり、筋性防御(-)、反跳痛(-)、腸蠕動音:正常
【データ】WBC 4300、CRP 0.02、Hb 12.7
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CT
子宮の腹側に造影効果不良な腫瘤を認めています。
腫瘤と子宮との連続性ははっきりせず、子宮との間にはやや造影効果を認める軟部影を認めています。
また腹水貯留を中等度認めています。
子宮との連続性があれば漿膜下子宮筋腫の捻転が考えられますが、連続性ははっきりしません。
腫瘤と子宮との間に軟部構造を認めていることからここが捻転茎となっている卵巣腫瘍の捻転の可能性が考えられます。
左腎静脈に還流する左卵巣静脈を見てみると、やや細く造影効果が不良であることがわかります。
左卵巣腫瘍が捻転を起こしており、左卵巣静脈の血流が少なくなっていると考えることができます。
次にMRIが撮影されました。
MRI
T2WIでは一部低信号を含む腫瘤で、子宮との連続性はやはり認めません。
低信号を示す腫瘤であり、線維腫や莢膜細胞腫などが疑われます。
腫瘤の背側には浮腫性肥厚を疑う高信号部位と捻転茎を疑う軟部構造を認めています。
右側の正常卵巣は同定できます。
脂肪抑制のT1WIの造影前後を並べて見ると、子宮は造影されているにもかかわらず、やはり子宮腹側の腫瘤は造影されていません。
その間にはやや造影効果のある軟部構造を認めています。
これらからやはり、左卵巣腫瘍茎捻転が疑われます。
診断:左卵巣腫瘍茎捻転 (卵巣腫瘍は線維腫や莢膜細胞腫などが疑われる)
※左卵巣腫瘍切除術が施行されました。左卵巣腫瘍が720°回転していました。
その他所見:右腎にくびれあり。瘢痕疑い。
【新腹部救急】症例36の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
初回のESPRESSO腹部救急では手も足も出ませんでしたが、繰り返しのESPRESSOのおかげで今回はなんとかそれらしいところまでは答えられました。
症状と右卵巣が明瞭だったことが助かりましたが、遷移が右側で一瞬戸惑いました。しかし卵巣由来の腫瘤による捻転・虚血のラインまで指摘できたことは素直に嬉しいです。。。
アウトプットありがとうございます。
>繰り返しのESPRESSOのおかげで今回はなんとかそれらしいところまでは答えられました。
それはよかったです(^^)
>遷移が右側で一瞬戸惑いました。
子宮の偏位が右側ということですかね?
捻転側に引っ張られることが多いですが、今回はそうではありませんでしたね。
>しかし卵巣由来の腫瘤による捻転・虚血のラインまで指摘できた
これで十分です。
「造影不良の腫瘤影」と「腫瘤影に接した茎と思われる索状影」、「索状影に続く卵巣静脈」と言うことで病態が考えやすかったです。
アウトプットありがとうございます。
>「造影不良の腫瘤影」と「腫瘤影に接した茎と思われる索状影」、「索状影に続く卵巣静脈」と言うことで病態が考えやすかったです。
さすがです(^^)
全然でした。CTにおいて左卵巣腫瘍内がまだらでちょっと古い血腫なのかと思ってしまいました。時間のある時にここ4症例ほどをじっくり復習します。ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>CTにおいて左卵巣腫瘍内がまだらでちょっと古い血腫なのかと思ってしまいました
CTだけですと少し分かりにくいかもしれませんね。
婦人科領域はやはりMRIが重要でわかりやすいですね。
>時間のある時にここ4症例ほどをじっくり復習します。ありがとうございました。
腹部救急画像診断でも難易度の高いところですので、是非復習してください。
造影効果がないことから捻転とはわかりましたが、そのあとの原因の鑑別が自信がもてません
こうなってるはずだ、というような自信を持って答えれるようになりたいですが。
アウトプットありがとうございます。
>造影効果がないことから捻転とはわかりました
これで十分です。
この部位で捻転し急性腹症を来すとしたら、卵巣腫瘍か漿膜下子宮筋腫ですので、そのどちらだろうと子宮との連続性や卵巣との位置関係、卵巣静脈との関係をチェックしましょう。
ですが、捻転とわかり、婦人科コンサルトできれば救急での対応は十分だと思います。
造影MRIで正中の背側より腹側へ向かって2時方向へ蛇行する脈管が造影されています。DWIでは左腹側の丸い構造とつながっています。アブノーマルと思いました。これは血管と小腸ですか?
アウトプットありがとうございます。
>造影MRIで正中の背側より腹側へ向かって2時方向へ蛇行する脈管が造影されています。
確かに造影効果は目立ちますが、下行結腸の粘膜と繋がるのでこの造影効果はS状結腸の粘膜の造影効果を見ていると考えます。
今日も勉強になりました。
実際は待機的なMRIではなく、すぐMRI、手術するべきなのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
症状との兼ね合いですかね。慢性的にねじれたり戻ったりを繰り返している場合は待機的でよいと思いますが、今回のように突然急激にとなると戻りにくいかもしれません。無理を言ってMRI検査をできるだけ早く入れてもらう感じですね。