【新腹部救急】症例10
【症例】40歳代男性
【主訴】腹痛
【現病歴】最近、空腹時に心窩部痛がある。本日18時頃突然強い腹痛があり、救急外来を受診。痛みは持続痛で、前屈みになると軽減する。黒色便や赤い便はなし。最終食事は朝。排便は朝にあり。
【既往歴】なし
【身体所見】意識清明、BT 35.8℃、BP 120/89mmHg、P 75回/分、SpO2 97%(RA)、腹部:腹部全体に筋性防御あり。右上腹部に限局した圧痛と反跳痛あり。
【データ】WBC 12500、CRP 0.05
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肝表に腹腔内遊離ガス(free air)を認めています。
消化管穿孔を疑う所見です。
また、肝S7の表面には腹膜ネズミを疑う石灰化を認めています。
さて、消化管穿孔を見た場合、どこが穿孔しているのか、
- 十二指腸よりも口側の上部消化管
- 空腸より肛門側の下部消化管
のいずれであるのかをまず考えましょう。
穿孔部位のヒントとしては、腹腔内遊離ガス(free air)が
- 少量の場合、穿孔している部位はその近く。
- 上部のみにしか認めない場合、穿孔部位は上部。
- 下部のみにしか認めない場合、穿孔部位は下部。
である傾向があります。
一方、腹腔内遊離ガス(free air)が大量の場合は、上部、下部両方あり得るので決め手にはなりません。
また穿孔部位の消化管や周囲に起こる変化としては、
- 穿孔部位の消化管の壁肥厚(ただし下部消化管では認めないこともある)
- 穿孔部位の周囲の脂肪織濃度上昇
といったものがあります。
では、今回の症例はどうでしょうか?
まず、今回は腹腔内遊離ガス(free air)は上腹部にしか認めていませんので上部消化管穿孔が疑われます。
さらに、穿孔部位はどこでしょうか?
十二指腸球部前壁に壁肥厚および脂肪織濃度上昇が目立ち、腹側への突出像を認めています。
十二指腸潰瘍が疑われ同部からの穿孔が疑われます。
診断:十二指腸潰瘍穿孔疑い
※手術はできるだけ受けたくないという意向に加えて、発症早期で所見も限局している点から保存的(絶飲食、胃管挿入、輸液、抗生剤)に加療されました。
※1週間後に退院となっており、内視鏡検査では潰瘍は瘢痕化していました。
関連:
その他所見:
- 右副腎に嚢胞性病変あり。
- ダグラス窩に腹水貯留あり。
【新腹部救急】症例10の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
過去のレクチャーのおかげで穿孔部位まで考えることができました。ありがとうございます。過去に消化器の先生に腹腔内に酸性の胃内容物が漏れると激痛で、後腹膜くうだとそうでもない、と聞き、保存的にいける場合があることを知ったのと同時に、激痛以外もあり得るということを知り、今回もそのパターンだったようですね。騙されないように気を付けます。
アウトプットありがとうございます。
>穿孔部位まで考えることができました。
素晴らしいですね(^^)
今回も腹腔内への穿孔です。
レントゲンでの右横隔膜下のガスもチェックしたいですね。(今回は非提示ですが、はっきりしませんでした。free airの量が少ないためと考えられます。)
通常、空気が見えるウインド画像は、作成されていない場合が多く、忘れずに確認していかなければいけないと感じました。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。疑わしい場合は積極的にairの条件で見るか、作ってもらうべきですね。
やはり穿孔部位は治療方針に関わるため、画像診断で同定したいところですよね。
難しい場合も多いですが、しっかり確認したいと思います。
アウトプットありがとうございます。
>やはり穿孔部位は治療方針に関わるため、画像診断で同定したい
そうですね。free airを見つけたら、上部ぽいのか、下部ぽいのかをまず推測することが大事ですね。
何より重要なのはfree airを見逃さないことではありますが。
今日もありがとうございます。
上部消化管の穿孔でも意外と腎下極以遠のスライスまでfree airは広がるのですね。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。穿孔からの時間や、体位によって上から下まで広がることはありますね。
こうなるとどっちかわからないですが、壁肥厚や脂肪織濃度上昇、dirty mass signなどから上か下かを推測したいところです。
小腸穿孔などでは穿孔部位がわからないこともありますね。