【新腹部救急】症例9

【症例】70歳代女性
【主訴】発熱、倦怠感、血尿
【現病歴】10日位前から38℃の熱発あり、その後倦怠感、食欲低下が持続。7日前より肉眼的血尿の出現があり、近医受診。WBC 10000、CRP 7.7と炎症反応あり、尿路感染症の診断にてセフトリアキソン(CTRX)3日間投与。その後メイアクト内服で経過観察になっていた。その後も倦怠感、熱発、血尿が持続し再び近医受診。当院へ救急搬送となる。
【既往歴】副鼻腔炎、骨粗鬆症
【身体所見】意識清明、BP 108/64、HR 107、BT 37.6、SpO2 95%(RA)、abd:no sure pain,no tenderness
【データ】WBC 25500、CRP 27.36

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今回ちょっと病歴がややこしいですね。

尿路感染症で加療されている方で症状がよくならないので当院の泌尿器科に紹介となっています。

エコーで右の水腎症を認めており、急性腎盂腎炎が疑われるということで、尿管結石がないかをチェックする目的でCTが撮影されました。

CTを撮影すると右尿管結石を認めており、右水腎症を来しています。

ですので、同部に感染を起こして右腎盂腎炎を起こしていると診断され、緊急で右の尿管ステントが留置されました。

停滞し感染している尿を排泄するためですね。

 

泌尿器科的にはこれでやれやれなのですが・・・・・

 

入院直後から頻回の泥状便がありました。

 

よく見ると、下行結腸や上行結腸に3層構造を保った著明な壁肥厚を認めています。

周囲には脂肪織濃度上昇も認めています。

さらに壁肥厚は横行結腸にも及んでいます。

さらに壁肥厚はS状結腸にも認めており、特にS状結腸で目立ちます。

またS状結腸では粘膜がひだひだの蛇行を認めています。うねうねしていますね。

壁肥厚は直腸Rsにまで及んでいます。

つまり、直腸Rsを含んだ全結腸に壁肥厚は及んでいます。しかもその壁肥厚はかなり強い壁肥厚です。

 

診断:広範な結腸炎

 

このような著明な壁肥厚を認める場合に考えなければならないのが

  • O-157腸炎
  • 偽膜性腸炎

となります。

O-157腸炎については右半結腸に認めることが多いのですが、今回は全結腸に認めています。

また、尿路感染症に対して抗生剤が投与されているという重要なエピソードがあります。

そう、偽膜性腸炎の可能性が高まるエピソードです。

 

 

偽膜性腸炎の機序は、

高齢者や基礎疾患を有する患者に抗生剤を投与
→土壌や水中に普遍的に存在するClostridium difficileが菌交代現象として増殖し、毒素を産生。
広範な結腸炎を起こす。

というものです。

 

 

便培養でクロストリジウム・ディフィシル毒素・抗原ともに陽性となりました。

 

最終診断:偽膜性腸炎

 

※偽膜性腸炎では、このような著明な壁肥厚に加えて腹水を認めることが多いのですが、今回は認めていません。

※バンコマイシンシロップ投与開始。その後、消化器科転科となり、重症のCD腸炎と診断され、メトロニダゾールの静注用製剤であるアネメトロ投与開始となりました。

※その後、下痢症状は消失、発熱も改善し、入院から20日後に退院となっています。

関連:左側結腸の腸炎の鑑別診断は?虚血性腸炎、偽膜性腸炎とは?

その他所見:右尿管結石・水腎症あり。

【新腹部救急】症例9の動画解説

お疲れ様でした。

今日は以上です。

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