【胸部】TIPS症例54
【症例】60歳代女性
スクリーニング
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異常所見と今後のマネージメントはどうする?
今回気づくべきは、甲状腺ですね。
甲状腺右葉に内部不均一な腫瘤性病変を認めています。
径は3cmを超えています。
甲状腺右葉の腫瘤は明らかな浸潤所見は認めませんが、上下方向にサイズが大きいことがわかります。
また左葉にも一部小さな低吸収域を認めています。
さて、甲状腺右葉の腫瘤はCTでは不均一であり、一見悪性のものに見えてしまいますが、基本的にCTやMRIでは質的診断ができず、超音波検査(エコー)に負けてしまいます。
では、どのようなときに、超音波検査での精査をすればいいのでしょうか?
何か日本甲状腺学会によるガイドライン的なものがあればいいのですが、現状ありません。
アメリカの放射線学会より以下が推奨されています。
これによると、
- 甲状腺癌を疑う所見があるかどうか
- 甲状腺癌の有無が予後に影響するかどうか
- 35歳以上か未満か
- 35歳未満ならサイズが1cmあるかどうか
- 35歳以上ならサイズが1.5cmあるかどうか
に着目しましょうということです。
なお、甲状腺癌を疑う所見というのは、
- 異常リンパ節(嚢胞変性、石灰化、増強効果を伴う)がある。
- 結節の被膜外浸潤がある。
場合です。
さて、今回はどうでしょうか?
まず甲状腺癌をCTで疑うような明らかな浸潤所見や異常リンパ節は認めていません。
その上で、
- 健常人
- 年齢60歳>35歳
- 径3.3cm>1.5cm
ですので、超音波で精査をしましょう。となりますね。
診断:甲状腺右葉に径3.3cm大の腫瘤あり。超音波検査が推奨される。
※FNAが施行され、病理で悪性疑いと診断されたため、甲状腺右葉切除および甲状腺周囲脂肪織(リンパ節)切除が施行されました。病理の結果は、腺腫様甲状腺腫(adenomatous goiter)でした。
※このようにCTでは被膜外浸潤はないとはいえ、結構不均一な濃度で悪性のような感じもしますが、CTでは質的な診断は基本できないということを覚えておきましょう。
【胸部】TIPS症例54の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
回答の最後にMRIを足してしまったのは蛇足でした。今回のようにマネジメントのフローチャートがあるもの以外でも、画像所見に○○で精査してくださいとか、○○科にコンサルしてください、とか記載している先生の所見は人気がある気がしています。『結局どうすればよいねんっ』という主科の要望に応えておられる姿を見るとかっこいいと思います。私は画像所見を描く立場ではないですがシステマチックに話ができるようになりたいものです。ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>今回のようにマネジメントのフローチャートがあるもの以外でも、画像所見に○○で精査してくださいとか、○○科にコンサルしてください、とか記載している先生の所見は人気がある気がしています。
確かに検査の限界を理解した上で、次の一手を記載することは重要ですね。
特にオーダー科と疾患が別の科である場合はそうですね。
CT→MRIで精査として、結局MRIでもよくわからないというブーメランもたまにありますが(^_^;)
偶発甲状腺結節のマネージメントは知っていまいたが…実際、甲状腺に結節がある患者は多く、読影補助として依頼医に報告するのは、リンパ節腫大がある場合や不整が強い腫瘤影にとどめています…。
アウトプットありがとうございます。
>実際、甲状腺に結節がある患者は多く、読影補助として依頼医に報告するのは、リンパ節腫大がある場合や不整が強い腫瘤影にとどめています
おっしゃるとおりですね。
甲状腺LDAを全部精査に回すわけにはいかないので、
サイズ・形状
リンパ節腫大
あとは年齢などで、ある程度絞る必要がありますね。
甲状腺にはエコーというイメージはありましたが、それは検査の簡便性によるものと思っていました。質的にもCT/MRIでは厳しいのですね。
アウトプットありがとうございます。
もちろん簡便で侵襲性がないという利点もエコーにはありますが、甲状腺の場合は質的にもエコーが上回りますね。
なんとなく甲状腺腫瘍は超音波検査のイメージがありましたが、ctでは質的診断ができないのですね。
穿刺あささにあるというのもありますね。
アウトプットありがとうございます。
>ctでは質的診断ができないのですね。
そうですね。リンパ節腫大や明らかな浸潤所見がない場合は、なかなかCTでは良悪性は言えないです。
こんばんは。いつもありがとうございます!
甲状腺癌のTNM分類は45歳でがらっと変わりますが、偶発甲状腺腫瘤のフォローも35歳を境に変わってくるのですね。
エコーを行った上で、さらに甲状腺腫瘍における悪性腫瘍のリスク因子を評価してFNAを施行するかどうか決めるということも勉強しました!
※甲状腺腫瘍における悪性腫瘍リスク因子
第一度近親に分化型甲状腺癌患者がいる
小児期に放射線療法、小泉源治療歴がある
以前の組織検査、細胞診にて甲状腺癌の診断がされている
男性
PETにて集積が認められている
MEN2や家族性甲状腺髄様癌の既往や家族歴がある
血清カルシトニン>50ー100pg/mL
原子力発電所事故現場の近隣住人
参考:N Engl J Med.2015 Dec 10;373(24):2347-56
アウトプットありがとうございます。
>甲状腺癌のTNM分類は45歳でがらっと変わりますが、偶発甲状腺腫瘤のフォローも35歳を境に変わってくるのですね。
そうですね。日本のガイドラインはないのですが、概ねこれを指標にして評価していくのがよいと考えます。
ただ偶発甲状腺腫瘤はかなり頻度が高いのでどこまで指摘するのかというのは難しいところでもありますね。
>エコーを行った上で、さらに甲状腺腫瘍における悪性腫瘍のリスク因子を評価してFNAを施行するかどうか決めるということも勉強しました!
補足ありがとうございます。
甲状腺腫瘍に関して、エコー検査と比べてCT検査の限界を示してくれて頭の中で整理できました。
乳腺腫瘍に関しても同様と思われます。
今回の症例は、上下方向にサイズが大きいですが、縦長の腫瘤は悪性が多いという傾向はありますか。
(昔聞いた記憶がありますが。)
アウトプットありがとうございます。
>縦長の腫瘤は悪性が多いという傾向はありますか。
いえ、そのようなことは聞いたことがありませんが(^_^;)
逆にそのような文献などあれば教えてください。
腫瘤の縦横比も良性、悪性を鑑別するのに参考にされているようです。
http://www.beluga-cl.com/column/detail.php?id=325
http://igakukai.marianna-u.ac.jp/idaishi/www/321/11-32-1MQ.pdf
調べていただきありがとうございます。
乳腺腫瘍の場合は確かにそうですね。
関連
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/12764
甲状腺腫瘤を疑った場合、FT3,FT4,TSHとか調べた方がいいんでしょうか?(結局は主治医判断になっちゃうんでしょうけど)(甲状腺腫大とか甲状腺濃度低下ならば調べるとは思いますが)
アウトプットありがとうございます。
そうですね。腫瘤がある場合は調べた方がよいと思います。
気管が右から左側に圧排されている様子がよく分かり面白かったです。些細なことかもしれませんが、先生の解説により、今後、細部にわたって、気付けるようになる気がします。ありがとうございます。
アウトプットありがとうございます。
気管の偏位は軽度ですが、結構大きな甲状腺腫瘤ですね。
一見悪性のようにも見えますが、甲状腺腫瘤の場合は、浸潤所見やリンパ節腫大ないと、CTだけでは基本的に判断できないということを覚えておいてください。