【胸部】TIPS症例51
【症例】70歳代男性
【主訴】呼吸困難
【現病歴】半年前から労作時の呼吸困難あり、階段の登り降りで息苦しさを感じていた。近医にてSpO2 90%前後でありCOPDが疑われ、スピオルトを投与された状態で当院へ紹介となる。
【既往歴】高血圧、B型肝炎、脂質異常症
【生活歴】喫煙 20-30本/日×50年、3年前に禁煙、飲酒なし。
【身体所見】意識清明、BT 36℃、SpO2 91%(RA)、BP 130/60mmHg、PR 80/min、RR 20/min、眼球結膜:黄染、眼瞼結膜:貧血(-)、頚部:頚静脈怒張(-)、リンパ節腫大(-)、胸部:呼吸音 左右差なし。両下肺野背側にfine crackles。心音 整、心雑音なし。腹部:平坦、軟、圧痛なし。
【データ】KL-6 3180↑ 、SP-D 417↑
画像はこちら
異常所見と診断は?
小葉中心性の肺気腫に加えて、末梢に網状影(reticulation)が散見されます。
※網状影とは、気管支や肺動静脈や小葉間隔壁などの既存の構造と関連づけることができない線状陰影の集合を言い、細いもの、太いもの、まっすぐなものや、曲がっているものなどさまざまな形態を含みます。
さらに下の方を見ていきましょう。
すると、まず気管支が牽引されて拡張している牽引性気管支拡張(traction bronchiectasis)を認めています。
これは、気管支周囲の肺の線維化により引っ張られるという機序で起こります。
また両側下葉末梢優位に、胸膜直下から多数の蜂巣肺を疑う所見を認めています。
肺底部ではほぼ蜂巣肺に置き換わっていますがこのレベルでは、蜂巣肺とあまり変化がなく正常に近い肺実質が隣接していることがわかります。これを空間的・時間的に不均一な分布と言います。
これらの所見は、通常型間質性肺炎(UIP:usual interstitial penumonia)のパターンに合致します。
診断:UIPパターンの間質性肺炎
※今回上肺野優位に気腫性変化を認めています。上肺野に肺気腫を認め、下肺野優位に間質性肺炎を認める今回のようなパターンを気腫合併肺線維症(combined pulmonary fibrosis and emphysema:CPFE)と呼ぶこともあります。
次に縦隔条件を見てみましょう。
肺動脈が上行大動脈よりも明らかに肥大しており、サイズを測ると正常上限の3cmを超えています。
これは肺高血圧を示唆する所見です。
心エコーが行われ、心エコーにおいても肺高血圧症が指摘されました。
肺高血圧症臨床分類(ニース分類[2013年])では、肺高血圧症の原因は、
- 肺動脈性肺高血圧症
- 肺静脈閉塞性疾患および/または肺毛細血管腫症
- 新生児遷延性肺高血圧症
- 左心性心疾患に伴う肺高血圧症
- 肺疾患および/または低酸素血症に伴う肺高血圧症
- 慢性血栓性肺高血圧症
- 詳細不明な多因子のメカニズムに伴う肺高血圧症
が知られています。
中でも、今回関係のありそうな、肺疾患および/または低酸素血症に伴う肺高血圧症はさらに、
- 慢性閉塞性肺疾患
- 間質性肺疾患
- 拘束性と閉塞性の混合障害を伴う他の肺疾患
- 睡眠呼吸障害
- 肺胞低換気障害
- 高所における慢性曝露
- 発育障害
と分類されています。
今回は、間質性肺炎がありますので、これによる二次性の肺高血圧症が疑われます。
心疾患除外のために、心臓カテーテル検査が施行されましたが、心疾患は否定的であり、肺高血圧の程度は、mean PAP = 28mmHgと軽度であったため、やはり二次性の肺高血圧症と診断されました。
診断:UIPパターンの間質性肺炎+それに伴う二次性の肺高血圧症
また副所見ですが、前縦隔に境界明瞭な単房性嚢胞性病変を認めています。
症例29であったような胸腺嚢胞や心膜嚢胞を疑う所見です。
また下部右気管傍リンパ節の腫大を認めています。間質性肺炎に伴う反応性腫大が疑われます。
※特発性肺線維症(IPF)と診断され、HOT導入および薬物療法(抗線維化剤であるピレスパ)が導入されました。
関連:通常型間質性肺炎(UIP/IPF)のCT画像診断のポイントは?ガイドラインは?
【胸部】TIPS症例51の動画解説
肺動脈の拡張を認めたらどう記載するか?
肺動脈の拡張を認めたらどのようなカルテやレポートを書くべきか?参考になるツイートがありましたので紹介させていただきます。
普段のCTで肺高血圧を疑う所見
・肺動脈幹の径 ≧30mmhttps://t.co/6EwHInPnvv
・右室径/左室径 ≧1.0https://t.co/7am7RMFNSp
・肝静脈の拡張:主観的判断https://t.co/PWWV99F1av個人的には、肺動脈幹拡張を35mmくらいのカットオフにするとかなり特異度上がる感じがしています。 pic.twitter.com/X03bkfSCNT
— オレガノ卿@放射線科医 (@oregano_cvi) April 28, 2020
このツイートのやりとりで記載されていますが、
私は「〇〇な所見があり、肺高血圧症の可能性があります。心エコー等での精査もご検討ください」と書くようにしています。
というのがとりあえずbetterだと考えます。
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
間質性肺炎を客観的に判断できるよう解説いただきありがとうございました。あやふやなイメージが項目となり認識できました。もちろん知らないものもあり、勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
間質性肺炎は非常に難しいですね。同じ画像を見ても専門医でもどのパターンなのか割れるようです。
こちらがUIPパターンだと記載しても呼吸器の先生は別のパターンを考えていたりします(^_^;)
今回は中でも典型的だろうというものを呼吸器の専門の先生に確認した上で出題させていただきました。
確かに肺動脈の拡張を認めます。読影ルーチンに肺動脈の確認を含めたいと思います。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。肺動脈も本幹が上行大動脈と比べて太いときは、サイズを測るようにしたいですね。
肺静脈を確認していませんでした。肺高血圧症だと心疾患をイメージしますが、肺が線維化することで狭くなったり弾性が無くなれば血圧は上がりそうですね。
アウトプットありがとうございます。
肺動脈ですかね。
横断像で上行大動脈と並んでいるので見比べるようにして、サイズが大きいかもと思ったら測定するようにしましょう。
間質性肺炎はなかなか難しく、呼吸器の先生に投げ出してしまいますね
通常型だけでも分かるようななりたいので勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
難しいですね。教科書や講義で分かったつもりになっても、いざ画像を前に、じゃあどれに該当するのかと言われたら難しいケースが多々あります。
むしろ間質性肺炎こそ、専門の人にESPRESSO方式で全画像を提示した上で解説してほしいです。
教科書などは一部分だけ切り取って説明しているだけなので、間質性肺炎の現場での読影とかなり解離があります。
特にタバコを長年吸っている人の肺はそれによる変化なのか、間質性変化なのか迷うことがあります。
放射線治療時にも非常に重要になるので、様々なパターンを勉強していきたいです。
アウトプットありがとうございます。
>特にタバコを長年吸っている人の肺はそれによる変化なのか、間質性変化なのか迷うことがあります。
喫煙により、
・肺気腫
・間質性変化
両方起こしますので、混在しているケースも多いですね。
さらに別の原因で間質性肺炎があればもうわからないですね(^_^;)
参考
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/1380
こんばんは、本日もよろしくお願いいたします。
CPFEできました!
2005年のCottin先生によって提唱された、と教科書にあるので、最近の疾患概念なのですね!
肺気腫を伴う肺線維症(idiopathic interstitial pneumonias:IIPs)とも言うこともあるみたいです。
肺高血圧症に関しては、COPD単独やIPF単独よりも頻度が高く、また重症ということなので、所見として見逃さないように次は気をつけます!
特発性間質性肺炎の画像パターン読影は苦手意識があるところなので、トレーニングしたいです!
Twitterのオレガノ先生の「肝静脈の拡張」についてですが、昨日ちょうどIPFの患者さんの聴診で肺高血圧症に伴うⅡ音の亢進と三尖弁逆流性雑音を発見し、肝の上に聴診器を置いて肝拍動を確認してみたところでした。ごろ〜先生から学んでいることと実臨床で、いろいろと知識が繋がってきて嬉しいです!
アウトプットありがとうございます。
>2005年のCottin先生によって提唱された、と教科書にあるので、最近の疾患概念なのですね!
そうですね。CPFEという呼び方を嫌う方もおられるようですね(^_^;)
>特発性間質性肺炎の画像パターン読影は苦手意識があるところなので、トレーニングしたいです!
う・・・。私も苦手意識があります。
放射線科医向けの講義もいくつか受けてきたのですが、1枚スライス出されて「ここにこのような所見がありますので」解説されても、その上下はどうなってるの?といつもモヤモヤするのが間質性肺炎です(^_^;)
>Twitterのオレガノ先生の「肝静脈の拡張」についてですが、昨日ちょうどIPFの患者さんの聴診で肺高血圧症に伴うⅡ音の亢進と三尖弁逆流性雑音を発見し、肝の上に聴診器を置いて肝拍動を確認してみたところでした。
鬼デキレジですね(;゚ロ゚)
今回の症例もとても盛りだくさんで、一粒で三度、いや四度くらい美味しかったです。
国家試験の問題を解く際も”すりガラス影→何となく間質性肺炎”くらいの認識だったので、とても勉強になりました。
今回特に心に残ったのは、
通常型間質性肺炎の特徴は、
・蜂巣肺は胸膜直下優位に認め、時間的・空間的に不均一な分布を見ること。
・蜂巣肺により牽引されることで、気管支が拡張すること。
・既存の肺の構造物で説明できない線状影の集合を網状影ということ。
・(大雑把にまとめると)肺胞を肺の実質と言い、それ以外を広義の実質と言い、肺胞隔壁を狭義の間質と言うこと。
です(^^)
アウトプットありがとうございます。
確かに盛りだくさんですね(^^)
>蜂巣肺により牽引されることで、気管支が拡張すること。
UIPパターンの場合はそうなのですが、牽引性気管支拡張がすべて蜂巣肺により牽引されるわけではない(蜂巣肺を伴わない牽引性気管支拡張も存在する)点は注意しましょう。
KL-6の上昇と膵尾部が大きくなっているように見えたので、間質性肺炎と膵臓がんの合わせ技かと考えすぎてしまいました。
アウトプットありがとうございます。
確かに膵尾部は少し大きく見えますが、正常範囲です。
膵体尾部には形状亜型が知られています。
ちょっと図が見られないのですが関連です。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28374213/
間質性肺炎に関するものを読んでもなかなか頭に入りませんでしたが、
今回のUIPについては、先生の動画解説解説の最後の20~30秒で
すっきり頭に入ってきました。
今回のレントゲン写真も見てみたいです。
アウトプットありがとうございます。
レントゲン写真ですね。
すぐには用意できないのでしばしお待ちください。
お待たせしました。レントゲン画像探したらありましたので追加しました。
ありがとうございました。
両側全肺野にびまん性の小粒状影ですね。中、下肺野は網状、すりガラス陰影でしょうか。
この写真からCTでの陰影をなかなか想像できないです。
胸部救急症例10とともに復習します。
間質性肺炎への苦手意識が相当あり、(誤嚥性などの)肺炎はありそうだけど、背景の肺が・・すごく汚い、当然気腫もあるし、なんだか炎症の瘢痕もすごく残っている・・・という初診の方を救急で見た時に、気になりながらも「肺炎」だけで済ませていた自分が悲しくなりました。かなり気づきが多かったです。ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>間質性肺炎への苦手意識が相当あり
わ、私もです(^_^;)
>(誤嚥性などの)肺炎はありそうだけど、背景の肺が・・すごく汚い、当然気腫もあるし、なんだか炎症の瘢痕もすごく残っている・・・という初診の方を救急で見た時に、気になりながらも「肺炎」だけで済ませていた自分が悲しくなりました。
末梢優に認める網状影や牽引性気管支拡張、蜂巣肺を疑うような所見があれば、間質性肺炎、中でも今回のUIP型を疑う所見です。
間質性肺炎疑いでもいいので、呼吸器科にコンサルトできれば良いと思います。
>かなり気づきが多かったです。ありがとうございました。
よかったです!結構ボリュームがありますが、最も代表的なUIPパターンの間質性肺炎を覚えていただけたらと思います。
こちらこそありがとうございます。