無脾症・多脾症のCT 右側相同と左側相同の見分け方

健診のCTで「脾臓が複数ある」「下大静脈がない」と言われ、内臓錯位症候群の疑いと書かれていました。無脾症や多脾症とは何ですか? 内臓逆位とは違うのですか?
内臓逆位は、臓器の左右が鏡に映したように入れ替わった状態です。内臓錯位症候群(heterotaxy)は、本来は左右で形が違う臓器が、左右どちらも同じ形になってしまう状態を指します。両側とも右側の形になれば無脾症(右側相同)、両側とも左側の形になれば多脾症(左側相同)です。画像では、脾臓の数、下大静脈、腸回転、肝臓・胃の位置を順に見て、全体のパターンから判断します。

先に結論:脾臓の数と、下大静脈(奇静脈連結)・腸回転・肝臓や胃の位置をそろえて見る。ただし、無脾症と多脾症の特徴は重なり合う部分が大きく、ひとつの所見だけでは決められない。成人で偶然見つかる例では、手術や他の病気の画像診断を混乱させないよう、解剖の違いを把握しておくことが大切

項目 ポイント
定義 本来は左右非対称な臓器が左右対称に形成される病態。心房の形で、右側相同(無脾症)と左側相同(多脾症)に分ける(Mishra 2015)
CTで見る所 脾臓(無い・複数)、下大静脈(肝部の欠損と奇静脈連結)、腸回転異常、肝臓・胆嚢・胃の位置、膵臓の短縮、気管支の形
注意 無脾症・多脾症の「典型像」は重なり合う。大動脈と下大静脈が同じ側にあることは、無脾症に特異的とは言えない(Applegate 1999)
成人で見つかる例 多脾症で心奇形のない例がある(Fulcher 2002)。腸回転異常は症状がなくても、症状の原因になりうるため確認する(Zissin 1999)
感染への備え 脾臓がない・あっても働きが落ちていることがあり、感染症に注意が必要。具体的な予防は主治医の指示に従う(Loomba 2016)

内臓錯位症候群(heterotaxy)とは

人の体の内臓は、心臓、肝臓、胃、脾臓、肺など、左右で形や位置が異なっています。内臓錯位症候群は、この左右の非対称性が失われる病態です(Mishra 2015)。胎児期に左右が決まる過程の異常と考えられており、遺伝的な背景を持つ例もあり、家族内で見つかることがあります(Mishra 2015)。

分類は、心臓の2つの心耳(心房の付属部)の形に基づきます。右心耳が両側にある型(右側相同、right isomerism)が無脾症候群、左心耳が両側にある型(左側相同、left isomerism)が多脾症候群です(Mishra 2015)。脾臓は左側にだけ作られる臓器なので、全身が「右側化」すると脾臓ができず、「左側化」すると脾臓が過剰に作られる、と説明されます。

ただし、「無脾症」「多脾症」という名前は典型像を示す目印にすぎず、実際の症例は両者の特徴が混ざります。21例の画像の検討では、無脾症11人と多脾症10人で、脾臓の有無や数、大動脈・胃の左右、肝臓の位置などに、かなりのばらつきがありました。このため、両者は重なり合う連続したスペクトラムであり、まとめて「heterotaxy症候群」と呼ぶのがよいとされています(Applegate 1999)。

無脾症と多脾症の見分け方(早見表)

項目 無脾症(右側相同) 多脾症(左側相同)
脾臓 無い 多数(単一のこともある)
肺・気管支(教科書的な整理) 左右とも右肺の形(3葉)。主気管支が肺動脈の上を越える形(eparterial)が両側 左右とも左肺の形(2葉)。主気管支が肺動脈の下を通る形(hyparterial)が両側
下大静脈 左側にあることが多い。大動脈と同じ側に並ぶ例もあるが、特異的ではない 肝部の下大静脈が途切れ、奇静脈・半奇静脈につながる例が多い
肝臓 正中を越えて左右対称に近い(橋渡し状)例が多い 橋渡し状の肝臓は無脾症より少ない
腸回転異常 多い(ほぼ共通) 多い(ほぼ共通)
心奇形 重い奇形が多く、新生児期から症状が出やすい 無脾症ほど高頻度ではなく、心奇形のない成人例もある
その他の腹部の奇形 (症例により異なる) 膵尾部の欠損・短縮、胆道閉鎖などを合併することがある

この表のうち、無脾症で「右心系の重い奇形が多く、早期に症状が出る」「多脾症で心外の奇形が多い」という整理は、Mishra(2015)の総説に沿っています。画像の頻度は、Applegate(1999)の21例で、無脾症11人のうち、肝臓が正中を越える橋渡し状が10人、脾臓なしが10人、下大静脈が左側にあるのが9人でした。多脾症10人では、橋渡し状の肝臓は5人、脾臓は1個が6人・複数が4人、下大静脈の途絶と奇静脈連結が8人にありました。腸回転異常は、どちらの群でも一貫してみられた所見です(Applegate 1999)。無脾症11人のうち、大動脈と下大静脈が同じ側にあったのは7人でした。これは、無脾症に特異的と考えられていた所見が、実際には一部にとどまることを示しています(Applegate 1999)。

CT・MRIでのチェックポイント

脾臓の数と位置

まず脾臓を探します。左上腹部の本来の位置に脾臓がない、あるいは複数の小さな脾臓が並んでいるときに疑います。多脾症の小さな脾臓は、右上腹部に現れる例もあり、動脈相で脾臓と同じように不均一に造影されることで脾組織と分かります(Yildiz 2013)。副脾は正常の脾臓の近くにある小さな脾組織で、多脾症とは意味が違います。腹部CTの脾臓の見方は腹部CTの脾臓の読影ポイントで整理しています。

引用元の図 多脾症と下大静脈の奇静脈連結のCT

多脾症と下大静脈の奇静脈連結を示す腹部造影CT
引用:Yildiz AE, et al. ScientificWorldJournal 2013;2013:321810 (Figure 9). CC BY・PMC3654276

図:heterotaxy症候群の成人例。a・bは48歳の男性で、左上腹部に多脾(白矢印)があり、動脈相で脾組織と同様に不均一に造影されています。下大静脈は奇静脈に連結し(黒矢印)、右腎静脈が奇静脈に流入しています(矢頭)。肝部の下大静脈は欠損しています。cは49歳の女性で、右上腹部に多脾(白矢印)があり、本来の位置に脾臓がありません。

下大静脈の欠損と奇静脈連結

肝臓の中を通る部分の下大静脈が途切れ、下半身の血液が奇静脈や半奇静脈を通って心臓に戻る形です。多脾症の10人のうち8人にあり、特異的ではないものの、この病態で最もよくみられる解剖の変異とされています(Applegate 1999)。成人の多脾症8人の検討でも、7人に認められました(Fulcher 2002)。CTでは、腎臓より上の高さで脊椎の横に、太い奇静脈(または半奇静脈)が見えます。奇静脈系の解剖は奇静脈とは?下大静脈奇静脈連結(肝部下大静脈欠損)のCT画像と奇静脈系の解剖で詳しく説明しています。

腸回転異常と膵臓

腸回転異常は、無脾症・多脾症のどちらの群でも一貫してみられました(Applegate 1999)。成人でも、多脾症8人のうち7人に、小腸や大腸の回転の異常がありました。膵臓の短縮は6人でした(Fulcher 2002)。CTでは、右側にある小腸、左側にある結腸、上腸間膜動脈と上腸間膜静脈の位置関係の異常、膵鉤状突起の形成不全で診断します。成人で偶然見つかった腸回転異常18人の検討では、全員に鉤状突起の形成不全があり、4人が内臓錯位、7人が多脾症でした(Zissin 1999)。下大静脈の奇形、多脾症、十二指腸の前を通る門脈がある人では、腸回転異常を探すのがよいとされています(Zissin 1999)。

小児の報告ですが、心エコーで下大静脈の途絶が唯一の異常だった無脾症の3人に、腸回転異常が合併していました(Prendiville 2010)。下大静脈の途絶を見つけたら、腸回転の確認につなげる考え方です。

肝臓・胆嚢・胃の位置

多脾症の成人8人では、肝臓と胆嚢が正中に寄る例が5人、胃と脾臓が右側にある例が3人でした(Fulcher 2002)。肝臓が左右対称に近い橋渡し状になることは、無脾症で多くみられます(Applegate 1999)。胃の位置は症例ごとにばらつくため、「胃が右にあるから多脾症」のように1つの所見で決めることはできません(Applegate 1999)。

引用元の図 症例画像の確認(Radiopaedia)

無脾症候群の上腹部造影CT(Radiopaedia症例)
引用:Radiopaedia(Situs ambiguous: asplenia syndrome with bilateral right-sidedness)

図:Radiopaedia症例「Situs ambiguous: asplenia syndrome with bilateral right-sidedness」の上腹部の造影CT(横断像)です。症例ページの所見と合わせて、脾臓の有無、肝臓・胃・大血管の位置を順に確認します。

引用元の図 症例画像の確認(Radiopaedia)

多脾症候群の上腹部造影CT(Radiopaedia症例)
引用:Radiopaedia(Polysplenia syndrome)

図:Radiopaedia症例「Polysplenia syndrome」の上腹部の造影CT(横断像)です。脾臓の数と位置、肝臓・下大静脈・大動脈の関係を見る練習に使えます。

気管支の形(eparterial / hyparterial)

胸部のCTでは、主気管支と肺動脈の位置関係で、右側相同と左側相同を見分ける手がかりになります。正常では、右の主気管支は肺動脈の上を越え(eparterial)、左の主気管支は肺動脈の下を通ります(hyparterial)。右側相同では両側が右型(eparterial)、左側相同では両側が左型(hyparterial)になり、それに合わせて肺葉の数も、両側3葉と両側2葉に分かれます。これは教科書的な整理で、実際の症例は例外もあります。

成人で偶然見つかったときの注意点

成人で見つかる内臓錯位は、多脾症が中心で、重い心奇形や腸閉塞、免疫の異常がない例もあります。19人の成人の検討(内臓逆位10人、多脾症を伴う内臓不定位8人、無脾症を伴う内臓不定位1人)では、心奇形、腸回転異常による腸閉塞、免疫不全のある人はいませんでした(Fulcher 2002)。ただし、この検討は対象が少なく、すべての成人に当てはまるとは限りません。

見つかったときに確認したい点は次のとおりです。

  • 血管の解剖:下大静脈の途絶と奇静脈連結、門脈の走行。腹部の手術や、カテーテルを使う検査・治療の前に重要
  • 腸回転異常:症状がなくても、腹痛の原因になりうる。普段と違う腹痛があるときに思い出す(Zissin 1999)
  • 病気の位置:臓器が普通と違う位置にあるため、胆石や炎症などの病気が起きたとき、画像と症状の場所が合わないことがある。解剖を知らないと診断が混乱する(Fulcher 2002)
  • 脾臓の働き:脾臓がない、または複数あっても働きが落ちていることがある。解剖学的な脾臓の型にかかわらず、重い菌血症のリスクが高いとされる(Loomba 2016)。予防接種や感染時の対応は、主治医の指示に従う
  • 胆道閉鎖との関係:乳児の胆道閉鎖の症例では、多脾症などの脾臓の形成異常を伴う一群(BASM)があり、予後が不良な傾向がある(Davenport 1993、308人中23人が多脾症)

内臓逆位との違い

内臓逆位(situs inversus)は、臓器の左右が鏡像のように入れ替わった状態で、臓器の形は正常です。内臓錯位は、鏡像のような入れ替わりではなく、臓器ごとに位置や数がばらばらになります。詳しくは内臓逆位とは?内臓錯位との違いとKartagener症候群の画像診断をご覧ください。

よくある疑問(Q&A)

Q. 脾臓が複数あると言われました。病気ですか。
A. 多脾症は内臓錯位症候群の一型で、成人では、症状がなく偶然見つかる例があります(Fulcher 2002)。大事なのは、脾臓の数そのものより、下大静脈・腸回転・膵臓などほかの解剖の違いが一緒にあるかどうかです。気になる症状があれば、医療機関で相談してください。

Q. 副脾と多脾症は同じですか。
A. 違います。副脾は、正常の脾臓のほかに、近くに小さな脾組織があるだけの状態で、多くは偶然見つかる所見です。多脾症は、下大静脈や腸回転など、ほかの臓器の左右の形成異常を伴う症候群の一部です(Yildiz 2013)。

Q. 無脾症・多脾症では、感染症に気をつける必要がありますか。
A. 内臓錯位の人は、脾臓の有無にかかわらず、重い菌血症のリスクが高いとされています(Loomba 2016)。小児の検討では、7人(24%)に敗血症が起き、死亡率は44%でした(Prendiville 2010)。予防接種や発熱時の受診のしかたは、主治医の指示に従ってください。

Q. 内臓錯位だと、下大静脈がないと造影CTの読み方が変わりますか。
A. 下半身の血液が奇静脈を通って戻るため、造影剤の流れ方が通常と違って見えます。奇静脈が太く造影されても、腫瘤やリンパ節腫大と間違えないことが大切です。

あわせて読みたい:内臓逆位とは?内臓錯位との違いとKartagener症候群の画像診断

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あわせて読みたい:遊走脾(wandering spleen)のCT

参考文献

  1. Applegate KE, Goske MJ, Pierce G, et al. Situs revisited: imaging of the heterotaxy syndrome. Radiographics. 1999;19(4):837-52. PubMed
  2. Fulcher AS, Turner MA. Abdominal manifestations of situs anomalies in adults. Radiographics. 2002;22(6):1439-56. PubMed
  3. Zissin R, Rathaus V, Oscadchy A, et al. Intestinal malrotation as an incidental finding on CT in adults. Abdom Imaging. 1999;24(6):550-5. PubMed
  4. Yildiz AE, Ariyurek MO, Karcaaltincaba M. Splenic anomalies of shape, size, and location: pictorial essay. ScientificWorldJournal. 2013;2013:321810. PubMed
  5. Mishra S. Cardiac and Non-Cardiac Abnormalities in Heterotaxy Syndrome. Indian J Pediatr. 2015;82(12):1135-46. PubMed
  6. Loomba RS, Geddes GC, Basel D, et al. Bacteremia in Patients with Heterotaxy: A Review and Implications for Management. Congenit Heart Dis. 2016;11(6):537-547. PubMed
  7. Davenport M, Savage M, Mowat AP, et al. Biliary atresia splenic malformation syndrome: an etiologic and prognostic subgroup. Surgery. 1993;113(6):662-8. PubMed
  8. Prendiville TW, Barton LL, Thompson WR, et al. Heterotaxy syndrome: defining contemporary disease trends. Pediatr Cardiol. 2010;31(7):1052-8. PubMed

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