
先に結論:中年女性の椎体傍に、椎体に接する扁平な単房性の嚢胞があり、CT値が水に近く造影されないときはミュラー管嚢胞を考える。気管支原性嚢胞とはCT値・形・T1強調像の信号に差が報告されている。確定は切除標本の免疫染色(ER・PR・PAX8・WT1)で行う
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| どんな人に多いか | 報告例は女性が中心で平均47.2歳(Sullivan 2022) |
| 場所 | 後縦隔の椎体傍、T3〜T6の高さに多い(Wojtyś 2026) |
| CTの手がかり | 椎体に接する、扁平な形、低いCT値(平均7.8HU)(Kawaguchi 2019) |
| MRIの手がかり | T1強調像で脊髄より低信号、T2強調像で高信号、造影されない(Kawaguchi 2019、Wojtyś 2026) |
| 確定診断 | 上皮がER・PR・PAX8・WT1陽性(Simmons 2013) |
後縦隔のミュラー管嚢胞(Hattori cyst)とは
ミュラー管(傍中腎管)は、胎生期に女性の卵管・子宮・腟上部をつくる管です。後縦隔のミュラー管嚢胞は、このミュラー管由来の組織に似た上皮で裏打ちされた嚢胞で、2005年にHattoriが縦隔の線毛性嚢胞として報告したことから「Hattori cyst(服部嚢胞)」とも呼ばれます(Thomas-de-Montpréville 2007)。なぜ縦隔にミュラー管型の組織があるのかは、まだはっきりしていません(Wojtyś 2026)。
フランスの施設で手術された縦隔の非腫瘍性嚢胞163例を見直した検討では、9例(5.5%)がミュラー管型の分化を示しました。9例はすべて40〜58歳(平均50.6歳)の女性で、4人は肥満、5人は婦人科の病歴がありました。8例が椎体傍、1例が椎体前にあり、大きさは1.3〜5cmでした。いずれも最初は気管支原性嚢胞か、分類不能の良性漿液性嚢胞とされていました(Thomas-de-Montpréville 2007)。
文献の報告例をまとめた検討では、40人(うち1人は自験例)がすべて女性で、平均年齢は47.2歳、症状の記載がある39人のうち19人は無症状で、ほかは咳・胸痛・嚥下障害・呼吸困難でした。大きさの平均は30.4mmでした(Sullivan 2022)。別の報告では、文献上の報告例は約50例とされています(Wojtyś 2026)。
病理と免疫染色
嚢胞の壁は薄く平滑筋を含み、卵管上皮に似た円柱〜立方上皮(線毛を持つことが多い)で裏打ちされています。上皮はサイトケラチン7、EMA、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PR)が陽性で、サイトケラチン5/6は陰性でした(Thomas-de-Montpréville 2007)。PAX8とWT1の陽性も報告されています(Simmons 2013)。気管支原性嚢胞はERとPRが陰性で、壁に軟骨や気管支腺を含むことが区別の手がかりになります(Wojtyś 2026)。このため、気管支原性嚢胞と診断された過去の症例の中に、ミュラー管嚢胞が含まれている可能性があります。
CT・MRIの見え方
ミュラー管嚢胞は、後縦隔の椎体傍にある単房性で壁の薄い境界明瞭な嚢胞として見えることが多く、T3〜T6の高さに多いとされます。やや扁平な輪郭が、気管支原性嚢胞との区別の手がかりになりうると述べられています(Wojtyś 2026)。CTでは水に近い低い吸収値で、造影されません。MRIではT1強調像で低信号、T2強調像で高信号の液体の信号を示し、ガドリニウムで造影されないのが典型です。内容がたんぱく質や出血を含むとT1強調像の信号が変わることがあります(Wojtyś 2026)。
病理で確かめたミュラー管嚢胞4例と気管支原性嚢胞12例を比べた検討では、椎体への接触はミュラー管嚢胞で4例中4例(100%)、気管支原性嚢胞で12例中6例(50%)でした。短径と長径の比(扁平さの指標)はミュラー管嚢胞のほうが小さく(0.57対0.74)、CT値も低く(7.8HU対44.3HU)、T1強調像での嚢胞と脊髄の信号比も低い結果でした(0.56対1.31)。一方、最大径・最小径とT2強調像での信号比には差がありませんでした(Kawaguchi 2019)。なお、この検討の区分ではミュラー管嚢胞4例のうち3例が中縦隔、1例が後縦隔に分類されており、縦隔の区分の取り方によって「後縦隔」と書かれない場合もあります(Kawaguchi 2019)。縦隔の区分は縦隔の区分(前・中・後縦隔)とはで解説しています。
| 所見 | ミュラー管嚢胞 | 気管支原性嚢胞 |
|---|---|---|
| 椎体への接触 | 4例中4例(100%) | 12例中6例(50%) |
| 短径/長径の比 | 0.57(扁平) | 0.74 |
| CT値 | 7.8HU | 44.3HU |
| T1強調像の嚢胞/脊髄の信号比 | 0.56(脊髄より低い) | 1.31(脊髄より高い) |
| T2強調像の信号比・大きさ | 差なし | |
出典:Kawaguchi 2019(ミュラー管嚢胞4例・気管支原性嚢胞12例、平均値)
症例 50歳代女性 後縦隔のミュラー管嚢胞(CT)

引用:Lee J, Kang MJ, Kim JY, et al. CT Findings of a Müllerian Cyst Originating from the Posterior Mediastinum: A Case Report. J Korean Soc Radiol 2025;86(5):790-795(Fig. 1)(CC BY-NC 4.0)
胸部X線写真(A)では右の傍脊椎線が膨らんでいます。造影CT(B)では、T11〜12の高さの右椎体傍に3.3×1.9×5.4cmの境界明瞭な腫瘤があり、短径と長径の比は0.576の扁平な形です。内部は均一な水の吸収値で造影されず、嚢胞と考えられました。切除標本では線毛のある、または線毛のない円柱上皮で裏打ちされ、ER・PR・PAX8が陽性でした(Lee 2025)。
他の後縦隔の嚢胞との区別
縦隔の嚢胞性病変には、気管支原性嚢胞・食道重複嚢胞・神経腸嚢胞などの先天性の前腸嚢胞、心膜嚢胞、胸腺嚢胞、髄膜瘤、嚢胞性の奇形腫、リンパ管腫があり、神経根の腫瘍などの充実性腫瘍が嚢胞変性して似た像になることもあります(Jeung 2002)。前腸嚢胞は縦隔腫瘤の12〜20%を占め、その中で最も多い気管支原性嚢胞(50〜60%)は気管分岐部の近くに多く、食道重複嚢胞と神経腸嚢胞は後方に多いとされます(Goertzen 2026)。縦隔嚢胞の全体像は縦隔嚢胞性疾患のCT・MRI画像所見にまとめています。
| 病変 | 画像の特徴 | ミュラー管嚢胞との違い |
|---|---|---|
| 気管支原性嚢胞 | 気管分岐部の近くに多い。内容によりCT値が高いことがある | CT値・T1信号がより高く、形が丸い傾向(Kawaguchi 2019)。ER・PR陰性(Wojtyś 2026) |
| 食道重複嚢胞 | 食道の壁の中や食道に接する嚢胞 | 食道との関係が強い。ミュラー管嚢胞は椎体に接する |
| 神経腸嚢胞 | 後縦隔の嚢胞で、椎体の形成異常を伴うことが多い。小児に多い | 椎体の奇形や脊柱管とのつながりを確認する |
| 神経原性腫瘍(嚢胞変性) | 椎体傍の腫瘤、椎間孔の拡大、造影される壁や充実部 | ミュラー管嚢胞は造影されない(Wojtyś 2026) |
| 髄膜瘤 | 椎間孔を通じて脊柱管とつながる | 脊柱管との連続を確認する |
気管支原性嚢胞との区別
最も迷うのは気管支原性嚢胞です。気管支原性嚢胞は内容がたんぱく質や粘液を含むとCT値が高くなり、充実性腫瘤と迷うことがあります。この点は気管支原性嚢胞のCT・MRI画像所見で解説しています。ミュラー管嚢胞は水に近いCT値でT1強調像で脊髄より低信号のものが多く、椎体に接して平たい形であれば、中年の女性ではミュラー管嚢胞を鑑別に入れる根拠になります(Kawaguchi 2019)。ただし、ミュラー管嚢胞もたんぱく質や出血を含むと信号やCT値が変わることがあり(Wojtyś 2026)、決め手は切除標本の免疫染色です。
神経原性腫瘍との区別
椎体傍の腫瘤では、神経鞘腫などの神経原性腫瘍がまず考えられます。神経原性腫瘍の見方は神経原性腫瘍とはにまとめています。60歳の女性の報告では、T4椎体に接する2.6×2.2×3.1cmの右側の腫瘤がMRIで造影されず、椎間孔の神経鞘にも入り込んでいないことから、神経鞘由来の腫瘍は考えにくいと判断されました(Sullivan 2022)。造影されない単房性の嚢胞であることを確かめることが、神経原性腫瘍の嚢胞変性との区別に役立ちます。
症例 60歳代女性 後縦隔のミュラー管嚢胞(MRI)

引用:Sullivan C, Swid MA, Klena JW, et al. Müllerian Cysts of the Posterior Mediastinum: A Case Report and Review of the Literature. Cureus 2022;14(11):e31298(Figure 1)(CC BY 3.0)
胸椎のMRIの矢状断(A)と横断像(B)で、T4椎体に接する右側の嚢胞が見えます(青矢印)。この例は造影されない2.6×2.2×3.1cmの腫瘤で、神経腸嚢胞や重複嚢胞などの良性嚢胞が疑われ、6か月後のCTで大きさや内容に変化はなく、ロボット支援手術で切除されて、ER・PAX8陽性のミュラー管嚢胞と診断されました(Sullivan 2022)。
治療と経過
切除は診断と治療を兼ねる方法とされ、多くは胸腔鏡やロボット支援手術で切除されています。取り残しなく切除したあとの再発の報告はなく、悪性化の報告もこれまでありませんが、報告数が少なく長期の経過はまだ十分にわかっていません(Wojtyś 2026)。画像で悪性を除外できないことも切除の理由に挙げられており(Wojtyś 2026)、悪性の除外と将来の悪性化の予防を理由に切除した報告もあります(Sullivan 2022)。治療方針は呼吸器外科の主治医が決めます。胸痛や咳、飲み込みにくさが続く場合は、医療機関で相談することをすすめます。
よくある疑問(Q&A)
Q1. なぜ女性の縦隔にミュラー管の組織があるのですか?
はっきりした理由はわかっていません。発生の途中でミュラー管型の組織が本来と違う場所に分布したためと考えられています(Wojtyś 2026)。免疫染色でER・PR・PAX8・WT1が陽性になることが、ミュラー管型の組織であることを支持しています(Simmons 2013)。
Q2. CTだけで気管支原性嚢胞と区別できますか?
手がかりはありますが、確定はできません。椎体への接触、扁平な形、低いCT値、T1強調像で脊髄より低い信号がミュラー管嚢胞に多かったと報告されていますが(Kawaguchi 2019)、対象は16例と少数です。確定は切除標本の免疫染色で行います。
Q3. どの高さにできることが多いですか?
T3〜T6の椎体傍に多いとされます(Wojtyś 2026)。ただし、T11〜12の高さにできた報告もあり(Lee 2025)、下部胸椎でも鑑別から外すことはできません。
Q4. 男性にもできますか?
報告の大半は女性で、文献の報告例40人をまとめた検討では全員が女性でした(Sullivan 2022)。中年の女性の椎体傍の嚢胞で、とくに考えたい病変です。
参考文献
- Kawaguchi M, Kato H, Hara A, et al. CT and MRI characteristics for differentiating mediastinal Müllerian cysts from bronchogenic cysts. Clin Radiol. 2019;74(12):976.e19-976.e25. PubMed
- Thomas-de-Montpréville V, Dulmet E. Cysts of the posterior mediastinum showing müllerian differentiation (Hattori’s cysts). Ann Diagn Pathol. 2007;11(6):417-20. PubMed
- Sullivan C, Swid MA, Klena JW, et al. Müllerian Cysts of the Posterior Mediastinum: A Case Report and Review of the Literature. Cureus. 2022;14(11):e31298. PubMed
- Wojtyś ME, Skórka W, Podsiadło M, et al. Rare Posterior Mediastinal Müllerian Cyst Resected by VATS: Case Report and Literature Review. J Clin Med. 2026;15(7):2773. PubMed
- Simmons M, Duckworth LV, Scherer K, et al. Mullerian cysts of the posterior mediastinum: report of two cases and review of the literature. J Thorac Dis. 2013;5(1):E8-E10. PubMed
- Lee J, Kang MJ, Kim JY, et al. CT Findings of a Müllerian Cyst Originating from the Posterior Mediastinum: A Case Report. J Korean Soc Radiol. 2025;86(5):790-795. PubMed
- Goertzen SM, Boster JM, de Groot PM, et al. Foregut mediastinal cysts: a narrative review. Mediastinum. 2026;10:37. PubMed
- Jeung MY, Gasser B, Gangi A, et al. Imaging of cystic masses of the mediastinum. Radiographics. 2002;22 Spec No:S79-93. PubMed
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