先に結論:肝膿瘍(かんのうよう)とは
- 肝臓の中に膿(うみ)のたまりができる病気です。細菌によるもの(細菌性)が多く、ほかに赤痢アメーバによるもの(アメーバ性)、免疫が落ちた人の真菌によるものがあります
- 原因(感染経路)は、胆道から(胆石・胆道の腫瘍など)、門脈から(腸の炎症・大腸癌など)、血流から、隣の臓器から、などです。症状は発熱・だるさが多く、右上腹部の痛みが出ることもあります
- 造影CTでは、造影されない膿の部分と、ふちが輪のように造影される所見(rim)が特徴です。治療は抗菌薬と経皮的ドレナージ(アメーバ性はメトロニダゾール)で、まれに破裂して腹膜炎を起こします
- 破裂しやすいのは、膿瘍が大きい(6cm以上)、膿瘍の中にガスがある、肝硬変がある場合などと報告されています(Jun 2015)
肝膿瘍hepatic abscess
- 細菌性と非細菌性(アメーバ性や真菌性)に分けられる。
- 発熱、全身倦怠感を主訴とする場合が多いが、肝被膜に炎症が波及すると急性腹症を来すこともある。
- 主な感染経路は胆道性、門脈性、肝動脈性、隣接臓器からの直達性、外傷性、医原性がある。
- 胆道性経路では多発性が多く、門脈性経路では孤立性発生(右葉に多い)が多い傾向あり。
- Klebsiella、Escherichia coliなどを起因菌とするものが多い。
- 単房性のことも、多房性のこともある。
- 免疫能低下例に多発性の微小膿瘍(microabscess)が認められる場合は真菌性を考慮。
- 経門脈性肝膿瘍の多くは骨盤内や消化管の炎症を先行感染とするが、大腸癌でも肝膿瘍を呈する場合があり、転移と鑑別が問題となる。
アメーバ性肝膿瘍
- 赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)の感染によるもの。
- 経口摂取された嚢子が小腸で脱シストして大腸の腸粘膜に原虫が侵入し、潰瘍性病変を形成することにより感染する。
- 病型には、腸アメーバ症と肝膿瘍を主とする腸外アメーバ症とに大別される。
- アメーバ性肝膿瘍は、大腸の潰瘍性病変から腸間膜静脈を介して血行性に肝臓へと至り膿瘍が形成される。
- ただし、腸炎と肝膿瘍を同時に認めるのは半数程度。
- 孤立性で右葉後区域に多く発生する傾向あり。
- 膿瘍が破裂し、肺や腹腔内に膿瘍を形成することがある。
- 輸入感染症としての症例の増加や、男性同性愛者間(肛門と口唇の接触による感染)での感染例増加が注目されている。
- 症状は、発熱、心窩部痛、悪心、嘔吐、体重減少、腸炎症状(粘血便、慢性下痢。)
- 肝右葉に単発でサイズが大きいことが多い。
- 診断には膿瘍内に赤痢アメーバを検出する(検出率低い)、近年では血清学的検査でのアメーバの抗体価上昇を検出。
- 治療の第一選択はメトロニダゾール。メトロニダゾールは腸管内に残る嚢子には効きにくいため、治療後にパロモマイシンなどの腸管内殺アメーバ薬を追加して再発や感染拡大を防ぎます。
肝膿瘍の治療
- 細菌性肝膿瘍:抗菌薬の点滴が基本で、膿瘍が大きいときや抗菌薬だけで改善しないときは、エコーやCTを見ながら針を刺して膿を出す経皮的ドレナージを行います。原因が胆道の病気(結石・腫瘍など)なら、その治療も必要です
- アメーバ性肝膿瘍:メトロニダゾールの内服・点滴が第一選択です
- ランダム化比較試験10件(1,287人)のメタ解析では、カテーテルを留置するドレナージは針で吸引するだけの方法より治療成功率が高く(リスク比1.16)、点滴の抗菌薬の期間が約4日短く、大きな膿瘍でとくに有利でした(Lin 2023)
肝膿瘍の破裂
肝膿瘍はまれに破裂し、膿が腹腔内に広がると腹膜炎や敗血症性ショックを起こします。大きな膿瘍や肝臓の表面近くの膿瘍、ガスを含む膿瘍(糖尿病の人のクレブシエラ菌による膿瘍など)で注意が必要とされ、緊急のドレナージや手術が必要になります。アメーバ性では胸腔(胸)への進展・破裂も起こります。
肝膿瘍が破裂する原因(危険因子)
どんな膿瘍が破裂しやすいかについては、次のような報告があります。
| 報告 | 対象 | 破裂の頻度 | 破裂と関係した因子 |
|---|---|---|---|
| Jun 2015 | 細菌性肝膿瘍602人 | 23人(3.8%) | 直径6cm以上(オッズ比10.989)、肝硬変(オッズ比4.651)、ガス産生性の膿瘍(オッズ比3.649)、ほかの部位への敗血症性転移(オッズ比1.710) |
| Lee 2005 | クレブシエラによる肝膿瘍140人 | 8人(5.7%) | 破裂例では糖尿病(100% 対 62.1%)、膿瘍内のガス(87.5% 対 23.5%)、肝左葉の膿瘍(50.0% 対 16.5%)が多く、膿瘍の最大径も大きかった(平均7.8cm 対 6.1cm) |
- Jun 2015では、破裂23人のうち20人(87.0%)は肝周囲・横隔膜下・膿胸などの限局した破裂で、腹膜炎は3人(13%)でした。
- CTでは、大きな膿瘍・膿瘍内のガス・肝表面への近さを確認し、肝周囲の液体貯留や腹水、胸水(膿胸)がないかを見ておくことが大切です。
※細菌性の肝膿瘍が人から人にうつることは通常ありません。アメーバ性は、赤痢アメーバの嚢子が口から入ること(汚染された飲食物・性的接触)で感染します。
肝膿瘍のCT所見
- 単房性あるいは多房性。
- 単純では不整な高度低吸収域とその周辺の軽度低吸収域の二重構造として認められる。
- 造影では、中心部の膿瘍腔は造影されない不整形低吸収域として描出され、辺縁(rim)は遷延性に増強される(target sign)。さらに、このrim enhancementの外側に、浮腫と考えられる増強されない領域が見られることがあり、double target signと呼ばれる。
- 膿瘍腔内のガス像はCTで鋭敏に検出されるが、認められる頻度は高くない。
- 細菌性との画像上の鑑別は困難だが、アメーバ肝膿瘍は、右葉後区域に好発し、単発性で、しかも円形または卵円形の形態を呈することが多く、多発する傾向にある細菌性とは異なる。
- アメーバ性は肝外へ進展することがある。胸腔・胸部>腹腔という頻度。肝外へ進展するとより重症度が高い。
症例 50歳代男性

症例 70歳代男性 結腸炎からの経門脈的感染による肝膿瘍の疑い

動画で学ぶ肝膿瘍(70歳代男性 結腸炎からの経門脈的感染による肝膿瘍の疑い)
肝膿瘍のMRI所見
- 膿瘍腔はT2強調像で著明な高信号を呈し、周囲の炎症や浮腫性変化はT2強調像で淡い高信号域を呈する。
- 肝嚢胞との区別にはDWIを用いる。膿瘍では、DWIで高信号を呈する。
症例 50歳代男性 上記一番最初のCTと同一患者

肝膿瘍と肝嚢胞の違い
- 肝嚢胞は壁が薄く造影されず、中身は水と同じ吸収値・信号で、ふつう無症状です。
- 肝膿瘍は壁(rim)が造影され、外側に浮腫を伴い、発熱・炎症反応の上昇があります。MRIの拡散強調像で中身が高信号になるのも膿瘍の特徴です(上記)。
多発肝膿瘍を見たとき考えること
- 多発性肝膿瘍は経胆道性感染が主な原因で、基礎疾患として、胆道系の結石症や腫瘍、胆嚢炎、膵炎や胆道閉塞を伴う膵腫瘍を伴っていることが多い。単発性に比べて高齢者に多い。
- 細菌性の場合は孤立性と同様のCT所見。細菌性の小膿瘍が多発する場合、小さな膿瘍が寄り集まって1つの大きな膿瘍腔へ融合しはじめる「cluster sign」がみられることがある。細菌性肝膿瘍36例の検討では5例(14%)が2cm未満の多発小膿瘍で全例にcluster signを認めたが、真菌性・抗酸菌性の微小膿瘍では認めず、肝転移50例では1例のみであった。
- 一方、免疫抑制状態(白血病、悪性リンパ腫、臓器移植、悪性腫瘍、膠原病など治療中)では、真菌による経動脈性の多発性微小肝膿瘍を生じる場合がある。
- 主な起因菌としては、カンジダ、アスペルギルス、クリプトコッカスなどがある。比較的膿瘍径は小さく、肝両葉に均一に存在することが多い。
- 造影CTでは、リング状あるいは中心性濃染を示す。MRの方がCTやエコーよりも検出率が優れているという報告もある。
肝膿瘍でよくある疑問(Q&A)
Q. 肝膿瘍とはどんな病気ですか?
A. 肝臓の中に膿のかたまり(膿瘍)ができる感染症です。多くは細菌によるもので、胆石などで胆汁の流れが悪くなったときや、腸の炎症から門脈を通って細菌が肝臓に届いたときに起こります。発熱・だるさ・右上腹部の痛みが主な症状です。気になる症状があれば医療機関を受診してください。
Q. 肝膿瘍はなぜ破裂するのですか?
A. 膿がたまって内圧が上がり、肝臓の表面を破って外へ出ることで起こります。膿瘍が大きい(6cm以上)、膿瘍の中にガスがある、肝硬変がある場合などで起こりやすいと報告されています(Jun 2015)。
関連記事:腸アメーバ症の画像診断(赤痢アメーバ、アメーバ腸炎)
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参考文献
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- Jeffrey RB, Tolentino CS, Chang FC, et al. CT of small pyogenic hepatic abscesses: the cluster sign. AJR Am J Roentgenol. 1988;151(3):487-9. PubMed
- Jun CH, Yoon JH, Wi JW, et al. Risk factors and clinical outcomes for spontaneous rupture of pyogenic liver abscess. J Dig Dis. 2015;16(1):31-6. PubMed
- Lee CH, Leu HS, Wu TS, et al. Risk factors for spontaneous rupture of liver abscess caused by Klebsiella pneumoniae. Diagn Microbiol Infect Dis. 2005;52(2):79-84. PubMed
- Lin JW, Chen CT, Hsieh MS, et al. Percutaneous catheter drainage versus percutaneous needle aspiration for liver abscess: a systematic review, meta-analysis and trial sequential analysis. BMJ Open. 2023;13(7):e072736. PubMed
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このページの埋め込みのyou tube動画の00:41の青いフキダシで「肝機能障害を反映した胆嚢漿膜化浮腫」とありますが、どういった機序で起きる変化なのでしょうか。
コメントありがとうございます。
胆嚢壁、特に漿膜下層は疎な結合織なので、肝周囲・門脈系・全身循環の浮腫が出ると水分がたまりやすい部位となり、その結果漿膜下に浮腫が起こるとされます。