
先に結論:凹みの「範囲」と「脊柱管の中身」で原因を絞る
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 何か | 椎体の後ろ(脊柱管側)の面が内側へえぐれる所見。軽い凹みは正常でもある(Larsen 1985) |
| 起こる理由 | 骨の強さと脊柱管の中の圧のつり合いが崩れる。硬膜嚢の拡大、緩徐に育つ腫瘍、骨の側の弱さ |
| 多椎体にわたる | 硬膜拡張(Marfan症候群・NF1・Loeys-Dietz症候群など)、骨系統疾患、先端巨大症を考える |
| 1〜2椎体に限る | 脊柱管内の腫瘍(神経鞘腫など)や嚢胞を探す |
| 注意 | 辺縁がなめらかで硬化縁を伴う凹み(緩徐な圧排)と、ギザギザの骨破壊(悪性や感染)を区別する |
椎体後面の陥凹(posterior vertebral scalloping)とは
scalloping(スカロップ)は、貝殻の縁のような波形のことです。椎体の後面(脊柱管に面する面)が、内側から押されて、えぐれたように凹んで見える所見を、椎体後面の陥凹(posterior vertebral scalloping)と呼びます。X線の側面像、CTやMRIの矢状断像で確認します。
正常でも凹みはある
腰椎の椎体後面は、もともと軽く凹んでいます。腰椎の凹みを定量した研究では、中央部の凹みはL1からL4へ向かって深くなり、L5でやや浅くなりました。外側(神経根が通る所)の凹みは、L1からL5へ向けて深くなっていました。論文では、中央の凹みには脊柱管内の脳脊髄液の圧が、外側の凹みには神経の圧迫が関係すると考察されています(Larsen 1985)。
側弯のある子どもを対象に、腰椎の凹みの程度を比で測った研究でも、NF1のない群で軽い凹みの範囲が見られました(平均1.13)。NF1の群では、31%で比が1.20を超え、強い凹みが目立ちました(Kwok 2002)。つまり「凹みがあるかないか」ではなく、程度と範囲が判断の中心です。
なぜ凹むのか
椎体の後面は、脊柱管の中の圧(脳脊髄液、硬膜嚢の中身、腫瘍)を受け止めています。骨の強さと中からの圧がつり合っていれば形は保たれます。圧が長く強く続く場合や、骨の側が弱い場合には、骨が少しずつ作り変えられて(リモデリング)、凹みが生じます。急に骨が壊されるのではなく、ゆっくり形が変わるため、凹みの辺縁はなめらかで、硬化縁(縁の白い骨の線)を伴うことが多いのが特徴です。
原因は大きく3つ
| 分類 | 主な原因 | 範囲の目安 |
|---|---|---|
| 硬膜嚢が広がる(硬膜拡張) | Marfan症候群、Loeys-Dietz症候群などの遺伝性結合組織疾患、NF1 | 腰椎・仙椎に連続して見られやすい |
| 脊柱管内の占拠性病変 | 神経鞘腫などの腫瘍、嚢胞、脊柱管内の圧が高くなる状態 | 病変のある1〜数椎体に限られやすい |
| 骨の側の異常 | ムコ多糖症などの骨系統疾患、先端巨大症 | 多椎体にわたる |
硬膜拡張:Marfan症候群・NF1
硬膜拡張(dural ectasia)は、脊髄を包む硬膜嚢が異常に広がる状態です。腰椎・仙椎でよく見られ、椎体後面の凹み、脊柱管の拡大、椎弓根の菲薄化、神経根鞘の拡大などを伴います。
Marfan症候群
Marfan症候群83人と、腰椎MRIを受けた対照100人を比べた研究では、硬膜拡張は患者の92%(76人)にあり、対照には1人もいませんでした。18歳未満の12人中11人にも見られ、重症度は年齢とともに強くなる傾向がありました(Fattori 1999)。Marfan症候群の成人の追跡では、硬膜拡張が10年のあいだに新たに出る、または進むことがあると報告されています(Böker 2019)。この研究では、仙椎の高さでの硬膜嚢比のカットオフ値を0.64に上げることが提案されています。ただし、診断基準や測り方は研究ごとに異なるため、数値だけで決めず、画像の全体像で判断します。CT・MRIの詳しい所見はMarfan症候群のCT、MRI画像所見と腰仙部硬膜嚢拡張症にまとめています。
症例 16歳女性 Marfan症候群(硬膜拡張と椎体後面の陥凹)

引用:Radiopaedia(Dural ectasia in Marfan syndrome)
腰椎のT2強調矢状断像で、脳脊髄液(白く見える部分)が広がり、下位の腰椎の椎体後面が凹んでいます。症例ページでは、著明な硬膜拡張と椎体後面のscallopingがあり、Marfan症候群の診断が確定していると記載されています。
NF1(神経線維腫症1型)
NF1の19人に全脊椎のX線とMRIを行った研究では、MRIで24か所のscallopingが見つかりました。後方のscallopingの75%に硬膜拡張を伴い、側方では25%でした。前方・側方のscallopingは、神経線維腫よりも、中胚葉の形成異常(骨そのものの弱さ)が原因であることが多いと述べられています。側弯のある例では、凹みは側弯の凹側に出やすい傾向がありました(Tsirikos 2004)。つまり、NF1では「後方は硬膜拡張」「前方・側方は骨の異常」と考えると整理しやすくなります。
側弯のレントゲンの見方と、MRIで調べたほうがよい側弯については側弯症のレントゲンで取り上げています。若い人で側弯があり、椎体後面の凹みが強いときは、NF1やMarfan症候群などの全身疾患を思い出すきっかけになります。
脊柱管内の腫瘍
神経鞘腫のように、脊柱管の中でゆっくり育つ腫瘍や嚢胞も、椎体後面を押して凹ませます。特に馬尾に大きな神経鞘腫ができた例では、椎体が大きくえぐれることがあります。腰椎の巨大な馬尾神経鞘腫で、L3椎体に非常に大きな侵食を認めた症例では、歩行障害と下肢の筋力低下で受診しています(Iizuka 2014)。
| 見る所 | 硬膜拡張 | 脊柱管内腫瘍 |
|---|---|---|
| 範囲 | 複数椎体(腰仙部に連続) | 腫瘍のある高さ(1〜数椎体) |
| 脊柱管の中 | 脳脊髄液と同じ信号で、硬膜嚢が一様に広い | 脳脊髄液と異なる信号の腫瘤(造影される) |
| 椎間孔 | 神経根鞘が拡大していることがある | ダンベル型に椎間孔へ伸びることがある |
| 全身所見 | 高身長、側弯、皮膚のカフェオレ斑など | 神経症状(疼痛・筋力低下)が前面に出やすい |
脊柱管内の腫瘍のMRI所見や、神経鞘腫のターゲットサインは神経鞘腫とは?脊柱管内・ダンベル型神経鞘腫のMRI画像を参照してください。
症例 35歳 L4レベルの神経鞘腫(椎体後面の陥凹)

引用:Radiopaedia(Schwannoma with vertebral scalloping)
腰椎CTの矢状断像で、椎体の後ろがえぐれています。症例ページでは、右の神経孔とL4椎体の背側縁を侵食する硬膜内外の大きな腫瘤があり、はっきりした辺縁硬化から緩徐に増大する病変と述べられています。生検で神経鞘腫と診断されています。
骨の側の異常:骨系統疾患・先端巨大症
骨そのものが脆い、または形成に異常があると、脊柱管内の圧が高くなくても凹みが生じます。ムコ多糖症VI型の小児14人のMRIの検討では、頸椎の狭窄と脊髄圧迫に加えて、腰椎の後方scallopingが主な骨の変化のひとつとして報告されています(Bulut 2018)。軟骨無形成症やムコ多糖症などの骨系統疾患で、頭蓋・椎体・骨盤・手のどこを見るかは骨系統疾患のレントゲンにまとめています。
先端巨大症(末端肥大症)でも、椎体のscallopingが知られています。骨の添加とリモデリングによる変化と考えられていますが、脊椎の画像の報告は多くありません(Woo 1988)。顔つきや手足の変化がある人で、複数の椎体が凹んでいるときは、思い出しておく所見です。
読影のチェックリスト
| 順番 | 見る所 | 考えること |
|---|---|---|
| 1 | 凹みの範囲 | 1〜2椎体なら局所の腫瘤、複数椎体なら全身疾患や硬膜拡張 |
| 2 | 凹みの辺縁 | なめらかで硬化縁があれば緩徐な圧排。ギザギザなら骨破壊を疑う |
| 3 | 脊柱管の幅と硬膜嚢 | 脊柱管が広く、硬膜嚢が脳脊髄液信号で一様に拡大していれば硬膜拡張 |
| 4 | 脊柱管内の腫瘤・嚢胞 | 造影で濃染する腫瘤は神経鞘腫・髄膜腫など。脊髄造影やCTミエログラフィで補うこともある |
| 5 | 仙骨・椎間孔 | 仙骨前方の髄膜瘤、椎間孔の拡大 |
| 6 | 全身所見 | 側弯、身長、皮膚所見、既往(Marfan症候群・NF1) |
よくある疑問(Q&A)
Q1. 椎体後面の凹みがあれば病気ですか?
いいえ。腰椎では、もともと軽い凹みがあり、凹みの深さは高さによっても違います(Larsen 1985)。病的かどうかは、深さ・範囲・脊柱管の中の所見で判断します。
Q2. 硬膜拡張があれば、Marfan症候群ですか?
硬膜拡張はMarfan症候群でとても多い所見ですが、それだけでは診断できません。Marfan症候群の92%に見られた一方で、NF1などほかの疾患でも見られます(Fattori 1999、Tsirikos 2004)。硬膜拡張は診断の一要素として扱い、大動脈・目・骨格などの所見と合わせて考えます。
Q3. 椎体後面が凹んでいるのに、脊柱管内に何も見えません。どうしますか?
複数の椎体にわたるなら、硬膜拡張や骨の側の異常を考えます。1〜2椎体だけなら、造影MRIで小さな腫瘤が隠れていないか、馬尾の神経根の肥厚がないかを確かめます。日常診療では、既往歴・家族歴・身体所見を確認しておくことが大切です。
Q4. 症状は出ますか?
多くは無症状ですが、強い硬膜拡張や腫瘍では、腰痛や下肢のしびれ、筋力低下が出ることがあります。気になる症状があれば、医療機関に相談してください。
あわせて読みたい:中枢神経血管炎のMRI・血管画像
参考文献
- Larsen JL. The posterior surface of the lumbar vertebral bodies. Part I. Spine (Phila Pa 1976). 1985;10(1):50-8. PubMed
- Kwok ES, Sawatzky B, Birch P, et al. Vertebral scalloping in neurofibromatosis type 1: a quantitative approach. Can J Surg. 2002;45(3):181-4. PubMed
- Fattori R, Nienaber CA, Descovich B, et al. Importance of dural ectasia in phenotypic assessment of Marfan’s syndrome. Lancet. 1999;354(9182):910-3. PubMed
- Böker T, Vanem TT, Pripp AH, et al. Dural ectasia in Marfan syndrome and other hereditary connective tissue disorders: a 10-year follow-up study. Spine J. 2019;19(8):1412-1421. PubMed
- Tsirikos AI, Ramachandran M, Lee J, et al. Assessment of vertebral scalloping in neurofibromatosis type 1 with plain radiography and MRI. Clin Radiol. 2004;59(11):1009-17. PubMed
- Iizuka Y, Iizuka H, Kobayashi R, et al. Giant schwannoma with extensive scalloping of the lumbar vertebral body treated with one-stage posterior surgery: a case report. J Med Case Rep. 2014;8:421. PubMed
- Bulut E, Pektas E, Sivri HS, et al. Evaluation of spinal involvement in children with mucopolysaccharidosis VI: the role of MRI. Br J Radiol. 2018;91(1085):20170744. PubMed
- Woo CC. Radiological features and diagnosis of acromegaly. J Manipulative Physiol Ther. 1988;11(3):206-13. PubMed
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