重複大動脈弓 乳児の喘鳴・嚥下障害と血管輪の画像

赤ちゃんがいつもゼーゼーしていて、ミルクや離乳食でむせることがあります。「血管輪」という病気を聞いたのですが、どんな病気で、画像ではどう見つけるのですか?
血管輪は、生まれつきの大動脈弓の異常で、血管が気管と食道を輪のように取り囲み、両方を圧迫する病気です。代表が重複大動脈弓です。喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒュー)と飲み込みの問題が出ます。胸部X線と食道造影で疑い、CTなどの断面画像で輪の形を確かめます。

先に結論:重複大動脈弓は、大動脈が左右2本に分かれて気管と食道を取り囲む血管輪。乳児の喘鳴・嚥下障害の原因として画像で探す

項目 ポイント
何か 大動脈弓の先天異常で、気管・食道を圧迫する「血管輪」の代表。右大動脈弓+左の動脈管索(異所性左鎖骨下動脈を伴う型)と並ぶ二大タイプ
症状 乳児期の喘鳴(ゼーゼー)、咳、呼吸困難、むせ・飲み込みにくさ
画像 胸部X線(正面・側面)で気管の圧排や右側の弓、食道造影で食道の圧排。確定はCT・MRIで輪の形を確認
右側大動脈弓との違い 右側大動脈弓は輪を作るものと作らないものがある。弓の一部が閉じた(索状の)重複弓は、右側大動脈弓に似て見える
注意 喘息やクループなどに見えて診断が遅れることがある。胸部X線が正常なら血管輪は考えにくい

血管輪とは

血管輪(vascular ring)は、大動脈弓とその枝の先天的な異常のうち、気管と食道を取り囲んで圧迫するものの総称です(Backer 2016)。最も多いのは重複大動脈弓(double aortic arch)と、右大動脈弓に左の動脈管索(胎児期の動脈管の名残の索)がつくタイプです(Backer 2016)。まれな肺動脈スリング(左肺動脈が右肺動脈から出て気管の後ろを回る)では、気管の狭窄を伴いやすいことが知られています(Backer 2016)。

タイプ 形 特徴
重複大動脈弓 上行大動脈が左右の2本の弓に分かれて気管・食道を取り囲み、後ろで合流して下行大動脈になる 多くは右の弓が優勢で、症状が強いことが多い
右大動脈弓+異所性左鎖骨下動脈+左の動脈管索 右に弓があり、左の鎖骨下動脈が気管・食道の後ろを回り、動脈管索と合わせて輪になる Kommerell憩室を伴うことがある
肺動脈スリング 左肺動脈が気管と食道の間を通る 気管狭窄を合併しやすい
無名動脈圧迫症候群 無名動脈が気管を前から圧迫する 乳児期に限られる

小児の手術を受けた全周性血管輪515人の検討では、右大動脈弓+異所性左鎖骨下動脈+左の動脈管索が62.7%、重複大動脈弓が33.8%でした(Gikandi 2024)。手術を受けた集団の割合なので、症状の出る(出やすい)タイプに偏っている点には注意が必要です。

どんな症状が出るか

重複大動脈弓の小児81人の報告では、受診時の年齢の中央値は5か月で、呼吸器症状が91%(喘鳴が77%)、消化器症状が40%で、最も多かったのはミルクや食事のときのむせでした。優勢な弓は右が72%で、心臓の奇形の合併は18%でした(Alsenaidi 2006)。

圧迫される臓器 症状
気管 喘鳴(吸うときの音)、咳、繰り返す呼吸器感染、息苦しさ
食道 むせ、飲み込みにくさ、固形食を嫌がる、体重の増えが悪い

症状が軽かったり非典型だったりすると、喘息、クループ、気管支炎などとして扱われ、診断が遅れることがあります。ある症例報告では、生後5か月から喘鳴や咳を繰り返し、気管支炎様の症状や肺炎として治療されたものの、専門施設への紹介までに症状の始まりから1年7か月かかりました(Davila-Flores 2025)。

子どもの喘鳴・咳のレントゲンの見分け方は子どもの喘鳴・咳のレントゲン、クループや気道異物など上気道の病気は子どもの上気道閉塞のレントゲンで整理しています。

画像診断の進め方

胸部X線:正面と側面の両方を見る

症状のある血管輪の小児41人(手術で確認)の胸部X線を調べた研究では、正面像で右大動脈弓が85%、気管の遠位部の圧排(切痕)が73%、右側の下行大動脈が66%に見られました。側面像では、気管後方の濃度上昇が79%、気管の前方への弯曲が92%、気管の狭小化が77%でした。正面と側面を合わせると、全員に少なくとも1つの異常があり、症状のある血管輪で胸部X線が正常だった患者はいませんでした。この研究では、症状のある小児で胸部X線が正常なら、血管輪に否定的と結論づけています(Pickhardt 1997)。

症例 2歳男児 胸部X線(気管の切痕)

重複大動脈弓 2歳男児 胸部X線正面像 気管の切痕
引用:Davila-Flores D, et al. Arch Peru Cardiol Cir Cardiovasc 2025 (Figure 3) PMC、CC BY 4.0(加工なし)

安静時の喘鳴、繰り返す呼吸器感染、飲み込みにくさのある2歳の男児の胸部正面像です。心臓の拡大や肺血管の異常はなく、気管の中央から遠位1/3あたりに切痕があると症例報告に記載されています(Davila-Flores 2025)。本症例は後述する重複大動脈弓でした。

食道造影:食道が外から押されている

食道造影では、血管輪による食道への圧排が、固定した外からの圧迹として見えます。手術を受けた血管輪8人の検討では、胸部X線の異常が7人、食道造影での固定した外からの圧迹が6人にあり、CT血管撮影ですべての診断が確認されました(6人が重複大動脈弓、2人が右大動脈弓+異所性左鎖骨下動脈+左の動脈管索)(Ganie 2016)。

ただし、食道造影が正常でも血管輪は否定できません。先ほどの症例報告では、1歳ごろに水溶性の造影剤を用いた食道・胃・十二指腸の造影が行われましたが、明らかな異常はなく、CT血管撮影で初めて診断がつきました(Davila-Flores 2025)。1例の報告であることを踏まえ、症状が合うときは食道造影の結果だけで安心しないことが大切です。

CT血管撮影・MRI:輪の形と気管の状態を確認する

現在、血管輪の診断は、血管と気管の状態を正確に描き出せるCTで行うのが最も確かとされています(Backer 2016)。心臓の合併奇形の確認に心エコーが、気管の軟化や狭窄の評価に気管支鏡が使われます(Backer 2016)。

見る点 確認すること
大動脈弓の数と左右 弓が左右2本か、1本か。どちらが太いか(優勢弓)
頭頸部の枝の出方 左右の総頸動脈・鎖骨下動脈がそれぞれの弓から出ているか、異所性の鎖骨下動脈がないか
下行大動脈 どちら側を下るか(右側・左側)
気管・食道との関係 輪が気管・食道を取り囲んでいるか、気管の最小径と狭窄の長さ
Kommerell憩室 鎖骨下動脈の起始部に憩室(膨らみ)がないか(Backer 2016)
弓の細い部分・閉鎖部 一方の弓が細い、または一部が索状に閉じていないか(下記)

症例 2歳男児 重複大動脈弓(3D-CT血管撮影)

重複大動脈弓 3D-CT血管撮影 右・左大動脈弓と気管の圧迫
引用:Davila-Flores D, et al. Arch Peru Cardiol Cir Cardiovasc 2025 (Figure 2) PMC、CC BY 4.0(加工なし)

前出の男児のCT血管撮影を3次元に再構成した画像です。A(前方から)は上行大動脈から右と左の大動脈弓が出ています。B(右後上方から)は2本の弓が気管と食道の周りで全周性の血管輪を作っています。C(気管の再構成)は矢印の部位で気管の遠位部が外から強く圧迫されています。気管支鏡では気管の遠位部の約50%の狭窄が確認され、手術では優勢な左の弓を残して右の弓を離断し、1年後には症状が消えていました。図の中の略号は原著ではスペイン語で書かれ、図の説明文の英語略号(RAA・LAA・Desc. Ao.など)に対応しています。

右側大動脈弓との違い

右側大動脈弓は、大動脈弓が気管の右側を通る変異です。右側大動脈弓(right aortic arch)の記事にまとめているように、鏡像型の枝分かれを示すものと、異所性左鎖骨下動脈を伴うものがあります。血管輪との関係は次のとおりです。

項目 重複大動脈弓 右側大動脈弓
大動脈弓の数 左右2本(一方が細い、または閉じている場合もある) 右に1本
血管輪 全周性の輪を作る 輪を作るもの(異所性左鎖骨下動脈+左の動脈管索など)と、作らないものがある。症状が出ることも出ないこともある
気管・食道の圧迫 症状が出やすい。乳児期から目立つ 輪になるときだけ圧迫される
画像の手がかり 左右の弓が気管・食道の前後を囲む 左の弓が見えない。左鎖骨下動脈の起始と憩室の有無を見る

異所性左鎖骨下動脈は異所性左鎖骨下動脈(左鎖骨下動脈起始異常)にまとめています。

「右側大動脈弓に見える」重複大動脈弓がある

重複大動脈弓の一方の弓が閉じている(閉鎖)と、造影CT・MR血管撮影では、閉じた部分に造影剤が流れないため、画像で見えません。このため、閉鎖の位置によっては、鏡像型の枝分かれを持つ右側大動脈弓や、異所性左鎖骨下動脈を伴う右側大動脈弓に似て見えます(Priya 2020)。重複弓の閉鎖は全周性の血管輪、右側大動脈弓は症状が出ることも出ないこともあり、この区別が重要です(Priya 2020)。

胎児で右側大動脈弓が見つかった例の多施設研究とメタ解析では、出生後の経過観察(24か月以上)で血管輪の症状が出た割合は25.2%、手術を受けた割合は17.1%でした。出生後の最初の2年間に経過観察が必要とされています(D’Antonio 2016)。

治療と経過の目安

症状のある血管輪の治療は外科手術(輪を切って気管・食道の圧迫を取り除く)が基本です。重複大動脈弓の81人では、手術は生後6か月(中央値)で行われ、術後の5年生存率は96%でした。乳び胸(リンパ液が胸腔にたまる合併症)が9%にありました(Alsenaidi 2006)。

術後の症状については、フォロー時に呼吸器症状が残っていた割合が54%、消化器症状は6%でした。術後の気管狭窄が14%、気管軟化が7%に記録されており、長く圧迫を受けた気管の発達異常が残る可能性が指摘されています(Alsenaidi 2006)。一方、手術を受けた全周性血管輪515人では、追跡できた453人のうち94.7%で、症状がすべて消えたと報告されています。術後の乳び胸は5.4%で、10年後までの再手術のリスクは9.6%でした(Gikandi 2024)。

見落とさないためのポイント

  • 乳児の喘鳴や嚥下障害が長引くときは、喘息やクループ以外に血管輪も考える
  • 胸部X線は正面と側面の両方を見て、気管の圧排・右側大動脈弓・右側の下行大動脈を確認する
  • 食道造影が正常でも、症状が合うときは血管輪を否定せず、CT血管撮影を考える
  • CTでは弓の数だけでなく、細い弓・閉じた弓、鎖骨下動脈の起始、Kommerell憩室、気管の狭窄を確認する
  • 「右側大動脈弓」と判断したときも、閉じた左の弓がある重複大動脈弓の可能性を考える

よくある疑問(Q&A)

Q. 赤ちゃんの喘鳴で、血管輪を疑うのはどんなときですか?
A. 喘息やクループとして治療しても良くならない、繰り返す、むせや飲み込みにくさも伴う、といった場合です。重複大動脈弓の小児では、呼吸器症状が91%、消化器症状が40%にありました(Alsenaidi 2006)。

Q. 胸部X線が正常なら、血管輪は否定できますか?
A. 症状のある血管輪の小児41人の検討では、正面と側面を合わせると全員に何らかの異常がありました(Pickhardt 1997)。ただし、診断の確認にはCT血管撮影などが必要です。気になる症状があれば医療機関を受診してください。

Q. 食道造影が正常でした。血管輪はないのですか?
A. 食道造影が正常でも、CTで血管輪が見つかった報告があります(Davila-Flores 2025)。症状が続くときは、担当医に断面画像の検査について相談してください。

Q. 手術のあとも咳や喘鳴が続くことはありますか?
A. あります。重複大動脈弓の術後のフォローでは、呼吸器症状が54%で残っていました。長期間気管が圧迫されたために、気管の発達に影響が残る可能性があります(Alsenaidi 2006)。一方、手術後に症状がすべて消えた人も、追跡できた全周性血管輪の94.7%と報告されています(Gikandi 2024)。

お子さんの呼吸や飲み込みが気になるときは、小児科や医療機関に相談してください。

あわせて読みたい:CPAM(先天性肺気道奇形・旧CCAM)のCT

参考文献

  1. Backer CL, Mongé MC, Popescu AR, et al. Vascular rings. Semin Pediatr Surg. 2016;25(3):165-75. PubMed
  2. Alsenaidi K, Gurofsky R, Karamlou T, et al. Management and outcomes of double aortic arch in 81 patients. Pediatrics. 2006;118(5):e1336-41. PubMed
  3. Pickhardt PJ, Siegel MJ, Gutierrez FR. Vascular rings in symptomatic children: frequency of chest radiographic findings. Radiology. 1997;203(2):423-6. PubMed
  4. Ganie IS, Amod K, Reddy D. Vascular rings: a radiological review of anatomical variations. Cardiovasc J Afr. 2016;27(1):30-6. PubMed
  5. Priya S, Nagpal P. Atretic Double Aortic Arch: Imaging Appearance of a Rare Anomaly and Differentiation From Its Mimics. Cureus. 2020;12(7):e9478. PubMed
  6. D’Antonio F, Khalil A, Zidere V, et al. Fetuses with right aortic arch: a multicenter cohort study and meta-analysis. Ultrasound Obstet Gynecol. 2016;47(4):423-32. PubMed
  7. Gikandi A, Chiu P, Crilley N, et al. Outcomes of Patients Undergoing Surgery for Complete Vascular Rings. J Am Coll Cardiol. 2024;84(14):1279-1292. PubMed
  8. Davila-Flores D, Villasante-Villalta C, Montesinos-Segura R, et al. Vascular ring due to double aortic arch as a cause of stridor and dysphagia in infancy: a case report. Arch Peru Cardiol Cir Cardiovasc. 2025;6(4):253-257. PubMed

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