
先に結論:横隔膜の「どちら側にあるか」を4つのサインで確かめる。1つのサインだけでは足りないことがある
| サイン | 胸水 | 腹水 |
|---|---|---|
| 横隔膜サイン | 横隔膜の外側(胸壁・背中側)にある | 横隔膜の内側(臓器側)にある |
| displaced crus sign | 横隔膜脚の後ろに入り込み、脚を前へ押しのける | 横隔膜脚の後ろには入らない |
| interface sign | 肝臓や脾臓との境目がぼやける | 境目がくっきりしている |
| bare area sign | 肝臓の裸の部分の後ろにも回り込む | 肝臓の裸の部分の後ろには入れない |
胸水と腹水はなぜ見分けにくいのか
胸水は肺を包む胸腔にたまった液体、腹水はお腹の腹腔にたまった液体です。胸腔と腹腔は横隔膜という薄い筋肉の膜で仕切られています。横隔膜は肝臓の上で丸いドーム状になっているため、CTの横断像(輪切り)では、横隔膜の高さに近い断面で、横隔膜の上にある液体と下にある液体が同じ高さに写ります。しかも横隔膜は薄く、液体との境目が見えにくいことがあります。
胸水と腹水の違いは、治療方針に直結します。胸水なら胸腔穿刺や胸腔ドレナージ、腹水なら腹腔穿刺が考えられます(原因や量により異なります)。胸水の原因は胸水とは?原因(心不全など)と漏出性・滲出性の違い、腹水の原因は腹水・腹腔内の液体貯留の鑑別診断で整理しています。
CTで胸水と腹水を見分ける4つのサイン(diaphragm sign、displaced crus sign、interface sign、bare area sign)は、1986年のHalvorsenらの研究で比較されています。右の胸水、腹水、またはその両方がある52人で調べたところ、どのサインも、液体が1種類(胸水だけ、または腹水だけ)のときには信頼できました。一方、右の胸水と腹水が両方あるときは、4つのうちどれも、2つの液体を両方確実には見分けられませんでした。4つを組み合わせて使うと、すべての液体を正しく同定できました(Halvorsen 1986)。この研究は1986年のもので、今のCTは画質や再構成画像が異なりますが、サインの考え方は同じです。
たまり方の違い:形と広がりの目安
4つのサインを使う前に、液体がどこに広がっているかを大まかにつかむと迷いにくくなります。仰向けで撮るCTでは、液体は体の背中側(重力の低い側)に集まります。
| 項目 | 胸水 | 腹水 |
|---|---|---|
| たまる場所 | 肺のまわりの胸腔。背中側の肺の底に三日月状にたまる | 腹腔。肝臓のまわり、肝臓と腎臓の間(モリソン窩)、腸の間、骨盤(ダグラス窩) |
| 近くの臓器への影響 | 肺を押して、肺の底が無気肺になることがある | 腸が液体の中に浮いて見える |
| 横隔膜との位置 | 横隔膜の外側(背側) | 横隔膜の内側(臓器側) |
腹水がたまりやすい場所は、ダグラス窩・モリソン窩とは?腹水がたまる場所とCTでの見方に詳しくまとめています。肝臓の上(横隔膜下)の腹水は、肝臓のドームを取り囲むように広がり、肝臓の裏側(裸の部分)には入りません。この点が、あとで説明するbare area signの根拠になります。
見る順番:まず肺の底と横隔膜の線を確認する
| 手順 | 確認すること |
|---|---|
| 1 | 上から下へ、スライスを連続して見る。肺の底が写っている高さから、肝臓のドームへ進む |
| 2 | 横隔膜の線(肝臓・脾臓を覆う薄い帯)を追い、液体がその内側か外側かを決める |
| 3 | 横隔膜脚(脊椎の前の左右の筋肉の帯)と液体の位置関係を見る |
| 4 | 肝臓と液体の境目がくっきりか、ぼやけているかを見る |
| 5 | 肝臓の裸の部分(bare area)の後ろに液体があるか見る |
| 6 | 冠状断・矢状断の再構成画像で、横隔膜をはさんだ上下の液体を確かめる |
4つのサイン
1.横隔膜サイン(diaphragm sign)
横隔膜の線を境に、液体が横隔膜の外側(背中側・胸壁側)にあれば胸水、内側(肝臓・脾臓の側)にあれば腹水です。肝臓の後ろ側に液体がたまっていて、肝臓と液体の間に横隔膜の線があれば、液体は横隔膜の背側、つまり胸腔にあります。腹水は、肝臓のまわりで肝臓と腹壁の間にたまります。
2.displaced crus sign(横隔膜脚が押される)
横隔膜脚は、横隔膜が脊椎の前に付く部分で、大動脈の左右に帯のように見えます。胸水は横隔膜脚の後ろ(脊椎との間)に入り込んで、脚を前に押しのけます。腹水は腹腔の中にあり、横隔膜脚の後ろ(脊椎側)には入れないので、脚は脊椎に沿った位置に残ります。
3.interface sign(境目のサイン)
腹水は、肝臓や脾臓の滑らかな表面に接するので、臓器との境目がくっきりします。胸水は、横隔膜と肺の底が重なって写る部分容積効果のため、肝臓との境目がぼやけます。
4.bare area sign(肝臓の裸の部分のサイン)
肝臓の後ろ側には、腹膜に覆われず、横隔膜に直接くっついている部分があります。これが裸の部分(bare area)です。腹水はこの部分に入り込めませんが、胸水は横隔膜の後ろ(胸腔側)にあるので、肝臓のすぐ後ろの位置にもたまります。したがって、肝臓の裸の部分より後ろに液体があれば胸水と考えます。
| サイン | どこを見るか | 使いやすい場面 |
|---|---|---|
| 横隔膜サイン | 横隔膜の線と液体の位置 | 横隔膜の線が追えるとき |
| displaced crus sign | 脊椎の前の横隔膜脚と、その後ろの液体 | 脊椎の近くの背側の液体 |
| interface sign | 肝臓・脾臓と液体の境目 | 臓器に接している液体 |
| bare area sign | 肝臓の後ろの裸の部分と液体の関係 | 右側の液体 |
どのサインにも限界があり、単独では間違えることがあります(Halvorsen 1986)。1つのサインで決めつけず、複数のサインが同じ方向を向いているかを確かめます。
症例 35歳女性 全身の水分過剰(胸水・腹水)

引用:Radiopaedia(Nephrotic syndrome secondary to lupus nephritis)
上腹部の造影CTの横断像です。肝臓と脾臓のまわりを、大量の液体が囲んでいます。症例ページでは、胸水(両側)、心嚢液、大量の腹水、皮下の浮腫があり、全身の強い水分過剰の所見と記載されています。ネフローゼ症候群として説明され、その後、全身性エリテマトーデス(SLE)によるループス腎炎と診断されたとあります。

引用:Radiopaedia(Nephrotic syndrome secondary to lupus nephritis)
同じ症例の冠状断です。肝臓のまわりに液体があり、上方には肺の底が見えます。こうした症例では、横隔膜の線を追って、液体が横隔膜の上にあるのか下にあるのかを分けて読みます。
間違えやすい所(ピットフォール)
| 落とし穴 | 内容 |
|---|---|
| 無気肺と肺底部の胸水 | 肺の底の無気肺が弧を描く帯になって横隔膜のように見え、その前方の液体を腹水と誤る。12人で報告されている(Silverman 1985) |
| 横隔膜下の脂肪 | 右の横隔膜の下にたくさんの脂肪があると、横隔膜下膿瘍・肺底部の胸水・腹水・腫瘍・気腹のように見えることがある(Rao 1981) |
| 胸水と腹水が両方ある | 1つのサインだけで両方を見分けることはできない。4つのサインを組み合わせる(Halvorsen 1986) |
| 被包化した胸水 | 形が変わらないため、腹水に似て見えることがある(被包化胸水(loculated pleural effusion)とは) |
Silverman(1985)は、肺の底の無気肺と肺底部の胸水(subpulmonic effusion)の組み合わせで、腹水と間違えやすい画像ができると報告しました。肺底部の無気肺が曲線状の帯になって横隔膜のように見え、その前方の液体が腹腔内にあるかのように見えたとされています。4人では超音波で、横隔膜の上(肺の下)の液体であることが確認されています。Rao(1981)は、右の横隔膜の下の脂肪が増えているだけの6人を報告しています。いずれも、横隔膜の正常なCT像をよく知っておく大切さを示しています。
どうしても迷ったとき
- 冠状断・矢状断で、横隔膜のドームの形をたどる
- 肺野条件で肺の底の無気肺を確認する
- 胸水が自由に動くかどうかは、体位を変えた撮影(側臥位の胸部X線など)で確かめられる。被包化した胸水は動きにくい
- 超音波では、横隔膜サイン・displaced crus sign・bare area signの3つが使える(Halvorsen 1986のレビュー)
CT以外の検査との関係
自由に動く胸水は、胸部X線の側臥位撮影で確かめやすい一方、被包化した肺底部の胸水は腹腔内の液体のように見えることがあります(Halvorsen 1986のレビュー)。胸水の検出では、ベッドサイドの超音波(POCUS)と胸部X線を比べたメタアナリシスで、感度は超音波が94.5%、胸部X線が67.7%でした(Zaki 2024)。超音波は、胸水と腹水の両方を確かめる場面でも役立ちます。
よくある疑問(Q&A)
Q. 胸水と腹水が両方あることはありますか?
A. あります。心不全や、肝臓・腎臓の病気などで全身に水分がたまると、両方にたまることがあります。症例ページでも、両側の胸水と大量の腹水がありました。ただし、両方あるときは1つのサインだけでは見分けられないため、4つのサインを組み合わせます(Halvorsen 1986)。
Q. 横隔膜が見えないときはどうしますか?
A. displaced crus sign、interface sign、bare area signなど、横隔膜以外のサインを使います。冠状断・矢状断の再構成画像も役立ちます。
Q. 左側の胸水と腹水は、どう見分けますか?
A. 左側も横隔膜の線を境に考えます。右側では肝臓の裸の部分を使えますが、左側には肝臓がないため、横隔膜サイン、脊椎の前の横隔膜脚、脾臓との境目が中心になります。Halvorsenらの研究は右側の液体を対象にしていたので(Halvorsen 1986)、左側は特に複数のサインを組み合わせます。
Q. 健診で「胸水」「腹水」と言われたらどうすればよいですか?
A. 液体の場所によって、調べる科や検査が変わります。息苦しさ・お腹の張り・むくみなどの症状があれば、医療機関で相談してください。
あわせて読みたい:FAST(外傷の迅速超音波検査)とは、胸部レントゲンで片側の肺が白い
あわせて読みたい:sentinel clot signとは
参考文献
- Halvorsen RA, Fedyshin PJ, Korobkin M, et al. CT differentiation of pleural effusion from ascites. An evaluation of four signs using blinded analysis of 52 cases. Invest Radiol. 1986;21(5):391-5. PubMed
- Halvorsen RA Jr, Thompson WM. Ascites or pleural effusion? CT and ultrasound differentiation. Crit Rev Diagn Imaging. 1986;26(3):201-40. PubMed
- Silverman PM, Baker ME, Mahony BS. Atelectasis and subpulmonic fluid: a CT pitfall in distinguishing pleural from peritoneal fluid. J Comput Assist Tomogr. 1985;9(4):763-6. PubMed
- Rao KG, Woodlief RM. Excessive right subdiaphragmatic fat: a potential diagnostic pitfall. Radiology. 1981;138(1):15-8. PubMed
- Zaki HA, Albaroudi B, Shaban EE, et al. Advancement in pleura effusion diagnosis: a systematic review and meta-analysis of point-of-care ultrasound versus radiographic thoracic imaging. Ultrasound J. 2024;16(1):3. PubMed
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