CT画像診断において腹水を認めた場合、

  • 「腹水あり。」

と記載をすれば良いのですが、限局的な場合は腹水が存在する腹膜腔の解剖名も記載したいところです。

そこで本記事では、腹部CTで腹水を認めた際の腹膜腔の解剖学的名称とその境界、解剖学的ランドマークをまとめます。

先に結論:ダグラス窩・モリソン窩とは

名前(読み方) 場所 ポイント
ダグラス窩(Douglas窩) 骨盤のいちばん底。女性は直腸と子宮のあいだ(直腸子宮窩)、男性は直腸と膀胱のあいだ(直腸膀胱窩) 腹膜腔で最も低い場所のため、少量の腹水や血液がまずたまりやすい
モリソン窩(Morison窩・肝腎陥凹) 肝臓と右の腎臓のあいだ(右肝下腔) あお向けで上腹部の最も低い場所。外傷のエコー(FAST)で出血を探す代表的な場所
傍結腸溝(右・左) 上行結腸・下行結腸の外側の溝 上腹部と骨盤をつなぐ通り道。右側は液体が流れやすい

腹膜腔は横行結腸間膜を境に上結腸間膜腔(横隔膜下腔・網嚢・モリソン窩)と下結腸間膜腔(傍結腸溝・下結腸間膜腔・ダグラス窩)に分けられます。CTで腹水がどこにあるかを、この名前で表現します。

その前に腹膜腔とは何でしょうか?

腹膜腔とは?腹水とは?

腹膜腔と腹部臓器、後腹膜腔の関係、壁側腹膜と臓側腹膜の解剖

  • 腹膜は、腹腔の内側を覆う漿膜であり、壁側腹膜と臓側腹膜から構成される。
  • この二つの腹膜によって形成される空間が腹膜腔と呼ばれる。
  • 腹膜腔内に液体が貯留したものを腹水と呼ぶ。
  • 健常な状態でも少量の「生理的な腹水」が存在するとされており、臓器や組織の間で摩擦を減らす潤滑剤として機能している。
  • 腹膜腔は連続した一つの体腔だが、臓器やそれらをつなぐ間膜によって複雑な構造を形成しており、それぞれの領域には特定の名称が付けられている。

腹膜腔の分類と名称・解剖

腹膜腔の分類および解剖

  • 腹膜腔はさらに横行結腸間膜によって上結腸間膜腔(Supramesocolic Compartment)と下結腸間膜腔(Inframesocolic Compartment)に大きく分類される。上結腸間膜腔と下結腸間膜腔はさらに上のように分類される。
  • 具体的には、右横隔膜下腔、左横隔膜下腔、網嚢、右肝下腔・肝腎陥凹(モリソン窩・Morison窩)、右傍結腸溝、左傍結腸溝、右下結腸間膜腔、左下結腸間膜腔、直腸膀胱窩(もしくは直腸子宮窩、ダグラス窩・Douglas窩)に分類される。

上結腸間膜腔(Supramesocolic Compartment)

上結腸間膜腔を構成する腹膜腔およびそれぞれの境界は以下の通り。

  • 右横隔膜下腔(Right Subphrenic Space):境界→上は横隔膜、下は肝臓、内側は肝鎌状間膜
  • 左横隔膜下腔(Left Subphrenic Space):境界→上は横隔膜、下は胃・脾臓、内側は肝胃間膜と脾胃間膜
  • 網嚢(Lesser Sac, Omental Bursa):境界→ 前方は胃と小網、後方は膵臓、上方は肝臓、下方は結腸間膜
  • 右肝下腔・肝腎陥凹(モリソン窩, Morison’s Pouch):境界→ 上方・前方は肝臓、後方は右腎(後腹膜)

実際のCT画像で確認してみましょう。

症例 60歳代男性

引用:Radiopaedia

横隔膜下に腹水を認めます。

右が右横隔膜下腔、左が左横隔膜下腔となります。

もう少し尾側のスライスを見てみましょう。

肝鎌状間膜が見えてきて、それよりも右が右横隔膜下腔、左が左横隔膜下腔となります。

また胃の背側に見えてくるのが網嚢となります。

さらに尾側のスライスを観察すると右肝下腔(モリソン窩、Morison’s pouch)の腹水貯留を確認できます。

右肝下腔(モリソン窩、Morison’s pouch)は肝腎陥凹とも呼ばれ、肝臓と右腎臓の間が大まかな目安となります。

ちなみに同部には腹水だけでなく、腹膜ネズミを認めることもあります。(腹膜ネズミは骨盤内で見つかることもあります(Gayer and Petrovitch 2011)。)

関連記事:腹部CTで石灰化をみたときの鑑別診断は?

下結腸間膜腔(Inframesocolic Compartment)

下結腸間膜腔を構成する腹膜腔およびそれぞれの境界は以下の通り。

  • 右傍結腸溝(Right Paracolic Gutter):境界→内側は上行結腸、外側は腹壁
  • 左傍結腸溝(Left Paracolic Gutter):境界→内側は下行結腸、外側は腹壁
  • 右下結腸間膜腔(Right Inframesocolic Space):境界→上は横行結腸間膜、内側は小腸間膜、外側は右傍結腸溝
  • 左下結腸間膜腔(Left Inframesocolic Space):境界→上は横行結腸間膜、内側は小腸間膜、外側は左傍結腸溝
  • 骨盤腔(女性:膀胱子宮窩(Vesicouterine Pouch)、直腸子宮窩(ダグラス窩, Rectouterine Pouch)、男性:直腸膀胱窩(Rectovesical Pouch)※ただしまとめて性別関係なくダグラス窩と呼ぶこともある):境界→上は下結腸間膜腔、前方は恥骨、後方は仙骨
実際のCT画像で確認してみましょう。

    さきほどよりも尾側のスライスを見てみましょう。

    上行結腸と下行結腸を同定します。

    上行結腸よりも右側が右傍結腸溝となりますが、この症例では腹水が大量にあり、右下結腸間膜腔も含まれます。

    同様に下行結腸よりも左側が左傍結腸溝となりますが、この症例では腹水が大量にあり、左下結腸間膜腔も含まれます。

    さらに尾側のスライスを見ると膀胱と直腸の間にも腹水を認めます。

    この症例は男性例ですので、直腸膀胱窩(Rectovesical Pouch)の腹水と判断することができます。

    ※ただし、性別関係なくダグラス窩(Douglas窩)と表現することもありますので、この症例もダグラス窩(Douglas窩)に腹水があると表現しても構いません。

    少量の腹水が貯留しやすい腔は?

    • 少量の腹水は右横隔膜下腔やDouglas窩で観察されることが多い。
    • 左傍結腸溝は狭く横隔膜結腸靱帯により遮断されるため、腹水は右側優位に傍結腸溝を上行する。
    • 左側では左横隔膜下腔に貯留することは少なく、脾臓の側方や左傍結腸溝に見られることがよくある。
    • S状結腸間膜付着部、回腸結腸間膜付着部、ダグラス窩、右傍結腸溝は腹水が停滞しやすく、腫瘍性病変の播種巣が好発する部位として知られている(Meyers 1973)。なお外傷のFAST検査では、液体はまずモリソン窩にたまると教えられてきたが、1,008件の検討では陽性48件のうち32件(66.7%)が右上腹部の像で陽性で、そのうち30件(93.8%)は肝下端から右傍結腸溝上部の領域で液体が見つかった(Lobo et al. 2017)。モリソン窩だけでなく肝下端の周囲まで確認するとよい。

    関連記事:腹膜播種・癌性腹膜炎のCT画像診断のポイント

    症例 60歳代男性 肝硬変

    右横隔膜下腔に少量腹水を認めています。(同部のみに認めました。)

    他、肝硬変を示唆する肝の凹凸や胃静脈瘤あり。

    症例 40歳代女性 スクリーニング

    直腸子宮窩(ダグラス窩)に少量の腹水を認めています。

    少量の腹水を認めるのはこの直腸子宮窩(ダグラス窩)である頻度が最も高いです。

    生理的範囲内の腹水であると判断できます。

    症例 70歳代男性 腸閉塞

    左傍結腸溝および脾臓周囲に少量腹水を認めています。

    腹水のCTでよくある疑問(Q&A)

    Q. 生理的腹水とは?健康な人にもありますか?
    A. 健康な人にもごく少量の腹水があります。健康な8〜13歳の骨盤MRIの検討では、女子の91%、男子の67%に少量の液体がみられ、平均量は女子4.7mL、男子1.9mLでした(Tadayoni et al. 2019)。

    Q. ダグラス窩に少量の腹水があると言われました。異常ですか?
    A. 生殖年齢の女性では、ダグラス窩だけにある少量の液体は生理的なことが多いとされます(Sirlin et al. 2001)。ただし外傷のときは、骨盤内だけの液体でも腹部の損傷を伴う割合が液体のない人より高かった(39.5%対3.7%)という報告もあり(Ormsby et al. 2005)、状況と合わせて判断します。腹痛や発熱、おなかの張りなど気になる症状があれば医療機関に相談してください。

    関連記事:

    関連記事:網嚢・ウィンスロー孔(網嚢孔)とは?場所と腹膜腔の解剖、網嚢内血腫・ヘルニアのCT画像

    実際の画像で確かめるには、画像診断cafeの腹部CTの正常解剖ツールで、スライスを動かしながら構造をタップすると名前が表示されます(無料・登録不要)。全体の見方は腹部CTの解剖にまとめています。

    参考文献:

    1. レジデントのための腹部画像教室 P28-29
    2. よくわかる腹膜腔・後腹膜腔の画像診断 P59-60
    3. Tirkes T, Sandrasegaran K, Patel AA, et al. Peritoneal and retroperitoneal anatomy and its relevance for cross-sectional imaging. Radiographics. 2012;32(2):437-451. PubMed
    4. Lobo V, Hunter-Behrend M, Cullnan E, et al. Caudal Edge of the Liver in the Right Upper Quadrant (RUQ) View Is the Most Sensitive Area for Free Fluid on the FAST Exam. West J Emerg Med. 2017;18(2):270-280. PubMed
    5. Meyers MA. Distribution of intra-abdominal malignant seeding: dependency on dynamics of flow of ascitic fluid. Am J Roentgenol Radium Ther Nucl Med. 1973;119(1):198-206. PubMed
    6. Tadayoni A, Farhadi F, Mirmomen SM, et al. Evaluation of incidental pelvic fluid in relation to physiological changes in healthy pubescent children using pelvic magnetic resonance imaging. Pediatr Radiol. 2019;49(6):784-790. PubMed
    7. Sirlin CB, Casola G, Brown MA, et al. Us of blunt abdominal trauma: importance of free pelvic fluid in women of reproductive age. Radiology. 2001;219(1):229-235. PubMed
    8. Ormsby EL, Geng J, McGahan JP, et al. Pelvic free fluid: clinical importance for reproductive age women with blunt abdominal trauma. Ultrasound Obstet Gynecol. 2005;26(3):271-278. PubMed
    9. Gayer G, Petrovitch I. CT diagnosis of a large peritoneal loose body: a case report and review of the literature. Br J Radiol. 2011;84(1000):e83-e85. PubMed

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