被包化胸水(ひほうかきょうすい)は、文字通り胸水が被包化された状態を指します。
つまり、胸膜腔内に貯留した胸水が、胸膜の炎症や癒着によって部分的に区画され、包み込まれた状態を指します。
なぜそのようなことが起こるのでしょうか?
今回は被包化胸水についてまとめました。
被包化胸水(loculated pleural effusion)とは
- 被包化胸水(loculated pleural effusion)は、胸水が通常のように下から徐々に溜まるのではなく、胸膜面にフィブリンが沈着して部分的な癒着を起こすことで、胸水が包まれてパッケージされたような箇所ができる現象。
- 特に、pHの低い膿胸のようにフィブリンが多く存在する場合に起こりやすいとされる。
- フィブリン沈着が進行すると、胸膜が肥厚し、血管が増生し、隔壁も形成され始める(膿胸、器質化期)。隔壁ができるとドレナージが難しくなり、場合によっては手術が必要になる。
被包化胸水の主な原因
- 結核性胸膜炎: 被包化胸水の最も頻度の高い原因は結核性胸膜炎であると報告されている。
- 化膿性感染(膿胸): 肺炎後の膿胸や細菌性胸膜炎では、強い胸膜炎に伴う線維性隔壁形成により被包化胸水を呈する。
- 血胸: 外傷や手術後に胸腔内に血液が貯留すると、フィブリンの線維化により隔壁が形成され、被包化胸水を生じることがある。
- うっ血性心不全: 胸膜炎を伴う場合には分画化され、「Vanishing Tumor」と称される被包化胸水を呈することがある。
- 悪性胸水: 悪性腫瘍の胸膜播種による胸水は、腫瘍細胞や炎症反応に伴う線維組織の沈着により分画化され、被包化胸水が発生する。
被包化胸水のCT画像所見
- 癒着があったり粘度が高かったりする胸水が被包化されると、部分的に胸膜が肥厚したような像として見られる。
- 急性膿胸では、胸膜癒着により胸水が被包化され、肺に向かって凸のレンズ状の胸水貯留を示す。
- 時間が経過すると、フィブリンによる胸水中の隔壁形成(多房化胸水)や胸膜肥厚を認める。
- 膿胸では、胸膜肥厚を伴った液貯留が見られ、内部に液面形成や気泡を伴うことが多い。気泡が隔壁の存在を示すかのように散在すると、さらに特異的所見となる。
- 感染している胸水は、吸収値がわずかに高い傾向がある。
- 胸水を一番厚いところで測って30mm以上あれば膿胸の可能性が高くなる。
- Split pleura sign(スプリットプレウラサイン)は、膿胸に特異的な所見で、胸水を囲む臓側、壁側の両方の胸膜に肥厚と造影効果が見られます(膿胸では68~80%に見られる)。このとき臓側肥厚が強いほど、より疑わしい所見となる。
- 造影増強での胸膜所見の強調: 造影剤を用いることで、胸膜の増強や結節性病変を明瞭に描出し、悪性胸水や移行性胸膜病変との鑑別に有用。
症例 70歳代 男性 発熱、呼吸困難、左側の胸痛、喀痰を伴う咳嗽。
引用:radiopedia
左側胸水があり、それを挟むように肥厚し造影効果を示す胸膜が認められ、典型的なsplit pleura signを示しています。
胸水は肺に向かって凸の分布をしており、通常の胸水の分布とは異なります。このような胸水を被包化胸水といいます。
症例 30歳代男性 鈍的外傷により両側多発肋骨骨折 4週後
引用:radiopedia
血胸に伴って胸膜癒着が生じた結果、右胸水は分葉状に分布しており、被包化胸水を疑う所見を呈しています。
その様子はこの症例では、冠状断像で観察するとよりわかりやすく、多数の被包化された胸水が存在することが分かります。
また胸膜に造影効果を認めていることが分かります。
ちなみに、右大葉間裂沿いにも被包化された胸水を認めており、被包化した葉間胸水であることがわかります。
このように葉間胸水も被包化することがあります。
被包化胸水の鑑別診断
- 胸膜の癒着を伴った膿胸は胸膜腫瘤のように見えることがある。
- 葉間胸水の「丸い感じ」が腫瘤影に似ているため、鑑別が問題になることもある。
参考文献
- Pasricha P, Suri JC, Goel A, Chauhan S. Clinical and roentgenological profiles and etiological correlations of encysted pleural effusions. Respiration. 1990;57(1):40–4. doi:10.1159/000195817.
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- Directive Publications. Encysted Pleural Effusion Managed Conservatively: A Case Report and Literature Review. JRMR. 2025.
- Gonnelli F, Hassan W, Bonifazi M, et al. Malignant pleural effusion: current understanding and therapeutic approach. Respiratory Research. 2024;25:47.
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