FASTとは 外傷の迅速エコー・見る4か所と限界

救急で外傷の患者さんが来て「FASTをして」と言われました。どこを見て何を探す検査ですか?陰性だったら安心してよいのでしょうか?
FASTは、外傷の初期診療でベッドサイドの超音波を使い、「お腹や心臓のまわりに血液(液体)がたまっていないか」を短時間で探す検査です。見る場所は4か所。ただし陰性でも出血を否定できないので、限界とセットで整理します。

先に結論:FASTは「液体を見つける検査」。陽性なら役に立つが、陰性でも安心できない

項目 ポイント
何を見るか 心嚢、右上腹部(モリソン窩)、左上腹部(脾周囲)、骨盤(膀胱周囲)の4か所に液体(血液)がないか
E-FAST FASTに胸部(気胸・血胸)の観察を加えたもの
数字の目安 腹腔内の液体の感度は74%、特異度は98%(Netherton 2019)。見つかれば確からしいが、ないとは言い切れない
限界 少量の液体、実質臓器や後腹膜の損傷、腸管損傷は見逃しうる。陰性ならCTや繰り返しの検査を考える

FAST(外傷の迅速超音波検査)とは

FASTは、Focused Assessment with Sonography for Trauma(外傷に対する焦点を絞った超音波検査)の略です。外傷の初期診療で、搬入された患者さんのベッドサイドで、数分のうちに行います。目的は、命にかかわる出血が胸やお腹の中にたまっていないかを、おおまかに知ることです。臓器の細かい損傷を診断する検査ではありません。

超音波(エコー)は、液体が「黒く(無エコー)」写る性質を使います。血液がたまっていれば、臓器のまわりの暗い帯として見えます。放射線を使わず、移動できない患者さんにも使え、くり返し検査できる点が強みです。この記事では、外傷での使い方に絞って説明します。

FASTで見るのは、基本的に「体の中で液体がたまりやすい低い場所」です。仰向けの患者さんでは、右上腹部のモリソン窩、左上腹部の脾臓のまわり、骨盤の中が、腹腔内の液体がたまりやすい場所になります(ダグラス窩・モリソン窩とは?腹水がたまる場所とCTでの見方も参考になります)。

FASTで見る4か所

場所 プローブを当てる位置 探すもの
心嚢 みぞおち(剣状突起の下)から心臓を見る 心臓のまわりの黒い帯(心嚢液・心タンポナーデ)
右上腹部(モリソン窩) 右の側腹部で、肝臓と右腎臓の間 肝臓と腎臓の間の黒い帯。右の横隔膜の上下も見る
左上腹部(脾周囲) 左の側腹部で、脾臓と左腎臓のまわり 脾臓の周囲・脾臓と腎臓の間の黒い帯
骨盤(膀胱周囲) 下腹部から膀胱の周囲を見る 膀胱の後ろ(男性は直腸膀胱窩、女性はダグラス窩)の黒い帯

1.心嚢

みぞおちから心臓を見て、心臓と心嚢の間に液体がないかを確認します。外傷で心嚢に血液がたまると、心臓が膨らめなくなる心タンポナーデになり、短時間で血圧が下がることがあります。心嚢液の検出は、メタアナリシスで感度91%、特異度94%と報告されています(Netherton 2019)。

2.右上腹部(モリソン窩)

モリソン窩は、肝臓と右腎臓の間にある腹腔内のすき間です。仰向けでは腹腔内の液体が集まりやすく、FASTで最も液体が見つかりやすい場所のひとつです。腹腔内に生理食塩水を入れた研究では、モリソン窩が最も検出率が高く、次いでダグラス窩、左上腹部の順でした(Güsgen 2026)。同じ画面で、横隔膜の上(胸腔)に液体がないかも確認します。

3.左上腹部(脾周囲)

脾臓の周囲や、脾臓と左腎臓の間を見ます。左側は胃や腸のガスで見えにくいことがあり、プローブを当てる位置を少し背側にすると見やすくなることがあります。脾臓の損傷は出血量が多くなりやすい臓器なので、見落としたくない場所です。

4.骨盤(膀胱周囲)

膀胱の周囲に黒い帯がないかを見ます。膀胱に尿がたまっていると、膀胱が「音の通り道」になり、後ろが見やすくなります。腹腔内に入れた液体の量が少ないとき、骨盤は縦方向(長軸)の断面を加えると検出が上がったと報告されています(Güsgen 2026)。

症例 10歳男児 外傷による腹腔内出血

外傷による腹腔内出血 FAST 右上腹部 超音波像(モリソン窩の液体)
引用:Radiopaedia(Haemoperitoneum)

右上腹部の画像で、肝臓と腎臓の間にある黒い帯がモリソン窩の液体です。症例ページでは、モリソン窩と脾臓の周囲に遊離液体があると記載されています。

外傷による腹腔内出血 FAST 骨盤 超音波像(直腸膀胱窩)
引用:Radiopaedia(Haemoperitoneum)

同じ症例の骨盤の画像です。症例ページでは、右の直腸膀胱窩に、血のかたまり(血腫)にあたる、周囲と同じ程度の明るさ(等エコー)の液体があると記載されています。開腹手術で、腹腔動脈の損傷による腹腔内出血が確認されました。この症例のように、固まった血液は黒くないことがあります。「黒い帯があるかどうか」だけを探すと、血のかたまりを見落とします。

E-FAST:胸部を加えると何がわかるか

E-FASTは、FAST(extended FAST)に胸部の観察を加えたものです。肺の前側で胸膜の動き(lung sliding)を見て気胸を、横隔膜の上や肺の下で胸水・血胸を探します。胸部X線を撮る前に、ベッドサイドで調べられます(血胸の見え方は血胸とは?読み方・原因と胸部CT画像所見も参照)。

観察するもの 感度 特異度
気胸 69% 99%
心嚢液 91% 94%
腹腔内の液体 74% 98%

上の数字は、75研究・24,350人のメタアナリシスの値です(Netherton 2019)。気胸の感度は69%で、胸部の観察が得意な反面、見逃しも起こります。ただし別のメタアナリシスでは、気胸の検出で超音波の感度は78.6%、胸部X線の感度は39.8%と、超音波のほうが高い結果でした(Alrajab 2013)。

FASTの精度と限界

鈍的外傷の34研究(8,635人)をまとめたコクランレビューでは、超音波による胸腹部の損傷の検出は感度74%、特異度96%でした。腹部だけでは感度68%、特異度95%で、胸部では感度96%、特異度99%でした(Stengel 2018)。陽性なら診断に役立つが、陰性で否定する力は強くない、という性質がここに表れています。

陰性でも安心できない理由

理由 内容
液体が少ない 腹腔内に入れた液体が250 mLで感度14.3%、500 mLで37.1%、1000 mLで74.3%、1500 mLで91.4%でした(Güsgen 2026)。少量の出血は見えない
液体が出ない損傷 FASTは実質臓器内や後腹膜の損傷を見つけにくい(Ballard 1999)
骨盤骨折・脊椎損傷 FAST陰性だった患者さんのうち、骨盤骨折の70人中13人、脊椎損傷の32人中1人で偽陰性でした(Ballard 1999)
出血までの時間 液体が少ない時点では見えないため、状態が変わったときや時間をおいて繰り返すことを考える

メタアナリシスの結論も「eFASTは陽性を確かめる(rule in)道具として有用だが、陰性で除外する(rule out)道具としての有用性は示されなかった」でした(Netherton 2019)。Güsgen(2026)の研究は、腹腔鏡手術を受ける35人の成人を対象に、腹腔内へ生理食塩水を段階的に入れて測った実験的な条件のものです。実際の外傷とは異なりますが、「液体が少ないと検出できない」という方向は同じです。

Ballard(1999)は、成人の鈍的外傷でFASTが陰性だった102人(骨盤骨折または脊椎骨折あり)を調べた報告で、1990年代の装置による結果です。骨折があるときは、FAST陰性でもCTで損傷が見つかることがある、という点は今も参考になります。

見間違えやすいもの(ピットフォール)

FASTは、アーチファクト(偽像)や正常の構造を液体と見間違えることがあります。外傷での超音波の落とし穴をまとめた総説では、正常の解剖や変異が液体や脾臓まわりの病変に見えること、アーチファクトが臓器の損傷や胸水、腹水に見えることが指摘されています(Barbera 2021)。

見間違えるもの 確かめ方
胆嚢・腸管内の液体・血管 走査する方向を変え、連続して追い、動きや拍動を見る
膀胱(空のとき、尿が少ないとき) 尿が少ないと骨盤の液体を見落としやすい。見えないときは評価不十分と考える
アーチファクト(鏡面像、サイドローブなど) 走査面を変える、設定を変える、再度検査する(超音波(エコー)のアーチファクト参照)
もともとある腹水 肝硬変などの腹水は外傷の出血と区別できない。病歴と合わせて判断する

Barbera(2021)の総説では、迷ったときの工夫として、複数の走査面で観察する、動きを実時間で見る、水を飲んでもらって胃を確かめる、などが挙げられています。

FASTの結果をどう使うか

FASTの結果 考え方
陽性(液体あり) 出血を疑う。その後の対応(処置・手術・CTなど)は全身状態と各施設のプロトコルで決める
陰性・全身状態が不安定 FASTでは見えない出血源がありうる。くり返し検査し、他の検査を加える
陰性・全身状態が安定 FAST陰性だけでは損傷を除外できない。受傷の状況や症状に応じて、CTや経過観察を考える

FASTは、初期診療での判断を早くするための道具です。陰性の結果だけでCTを省くかどうかは、受傷機転、症状、バイタルサイン(血圧・脈拍)などを総合して、各施設の外傷診療のプロトコルに従って決めます。

子どものFAST

子どもでは、FASTの感度が下がることが報告されています。コクランレビューでは、感度は子どもで63%、成人または混合集団で78%でした(Stengel 2018)。また、全身状態が安定している18歳未満の鈍的体幹部外傷の子ども925人を対象とした無作為化試験では、FASTを加えても腹部CTの実施率(FAST群52.4%、標準診療のみの群54.6%)や見逃し(FAST群で1例、標準診療群で0例)は変わらず、日常的な使用を支持しない結果でした(Holmes 2017)。FASTは、全身状態が不安定な子どもと、安定している子どもで、役割が異なります。

よくある疑問(Q&A)

Q. FASTが陰性なら、CTは撮らなくてよいですか?
A. FAST陰性だけでは損傷を除外できません。メタアナリシスでは、腹腔内の液体の感度は74%で、除外の道具としての有用性は示されませんでした(Netherton 2019)。受傷機転や症状、全身状態を見て、CTや繰り返しの観察を決めます。

Q. FASTで気胸もわかりますか?
A. E-FASTでは、肺の前側の胸膜の動き(lung sliding)を見て気胸を調べます。気胸の感度は69%でした(Netherton 2019)。別のメタアナリシスでは、超音波は胸部X線より感度が高い結果でした(Alrajab 2013)。

Q. 黒い帯がないのに出血していることはありますか?
A. あります。血液が固まると黒くなく、周囲と同じ明るさに見えることがあります(上の症例)。実質臓器や後腹膜の損傷は、液体が見えないこともあります(Ballard 1999)。

Q. 子どもでもFASTは同じように使えますか?
A. 子どもでは感度が下がることが報告されています(Stengel 2018)。また、全身状態が安定した子どもで、FASTが診療を改善しなかった試験があります(Holmes 2017)。年齢や状態に合わせて判断します。

この記事は医療者向けの解説です。ケガのあとに強い腹痛や胸の痛み、息苦しさなどがあるときは、すぐ医療機関を受診してください。

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参考文献

  1. Stengel D, Leisterer J, Ferrada P, et al. Point-of-care ultrasonography for diagnosing thoracoabdominal injuries in patients with blunt trauma. Cochrane Database Syst Rev. 2018;12(12):CD012669. PubMed
  2. Netherton S, Milenkovic V, Taylor M, et al. Diagnostic accuracy of eFAST in the trauma patient: a systematic review and meta-analysis. CJEM. 2019;21(6):727-738. PubMed
  3. Güsgen C, Nada A, Kornek MT, et al. Volume-dependent detection of free intraperitoneal fluid by FAST: a prospective in-vivo study with sequential fluid instillation. Eur J Trauma Emerg Surg. 2026;52(1):271. PubMed
  4. Alrajab S, Youssef AM, Akkus NI, et al. Pleural ultrasonography versus chest radiography for the diagnosis of pneumothorax: review of the literature and meta-analysis. Crit Care. 2013;17(5):R208. PubMed
  5. Holmes JF, Kelley KM, Wootton-Gorges SL, et al. Effect of Abdominal Ultrasound on Clinical Care, Outcomes, and Resource Use Among Children With Blunt Torso Trauma: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2017;317(22):2290-2296. PubMed
  6. Barbera P, Campo I, Derchi LE, et al. Emergency Ultrasound in Trauma Patients: Beware of Pitfalls and Artifacts! J Emerg Med. 2021;60(3):368-376. PubMed
  7. Ballard RB, Rozycki GS, Newman PG, et al. An algorithm to reduce the incidence of false-negative FAST examinations in patients at high risk for occult injury. Focused Assessment for the Sonographic Examination of the Trauma patient. J Am Coll Surg. 1999;189(2):145-50. PubMed

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