BMIPP心筋シンチ 虚血のあとに残る代謝異常を見る

心臓の検査で、「BMIPP(ビーエムアイピーピー)」というシンチをすすめられました。血流を見る心筋シンチとは違うのですか?
BMIPPは、心筋が脂肪酸というエネルギー源をどれだけ使えているかを見る検査です。血流が戻ったあとも、心筋の代謝の乱れは残ることがあり、その「過去の虚血の跡」を見つけられるのが特徴です。血流の検査と並べて、ミスマッチ(ずれ)を読みます。

先に結論:BMIPPは「血流」ではなく「脂肪酸代謝」の画像。血流は保たれているのにBMIPPだけが低い所(ミスマッチ)が、虚血のあとの代謝異常の目印

項目 ポイント
何を見るか 心筋の脂肪酸代謝。安静時の撮影で行え、運動や薬の負荷を必要としない
虚血メモリー 虚血が治まったあとも、脂肪酸代謝の低下が残ること。血流は正常でもBMIPPが低い
血流とのミスマッチ 血流に比べてBMIPPが低い=代謝が傷んだが、生きている心筋(気絶心筋・冬眠心筋を含む)を考える
他の病気での所見 たこつぼ心筋症は心尖部に限ったBMIPP低下、肥大型心筋症は代謝の異常が血流の異常より早い
限界 日本以外では使える国が限られる。BMIPP低下は虚血だけで起こるわけではなく、単独で診断は決まらない

BMIPPとは(脂肪酸代謝イメージング)

心臓は、脂肪酸を主なエネルギー源のひとつにして動いています。123I-BMIPPは、この脂肪酸に似せて作った放射性医薬品で、心筋に取り込まれる量をSPECTで撮影します(Otaki 2024)。血流を見る心筋シンチ(心筋シンチグラフィの見方・読み方)に対して、BMIPPは心筋の代謝を見ます。

心筋が強い虚血にさらされると、脂肪酸を使うはたらきが落ち、糖を使う方向に切り替わります(Yoshinaga 2014)。BMIPPの集積低下は、この変化を画像にしたものです。BMIPPは日本の臨床で広く使われており、負荷検査や造影剤を必要とせず、撮影時間が比較的短いことが利点とされています(Yoshinaga 2014、Otaki 2024)。

検査を受ける人へ

BMIPPは、通常は安静の状態で、注射のあとにSPECTを撮ります。検査の前の食事や飲み物、普段の薬をどうするかは、施設によって異なります。検査施設の案内と主治医の指示に従ってください。胸の痛みや息苦しさなど気になる症状があるときは、検査の結果を待たずに医療機関を受診してください。

どんな場面で使われるか

場面 BMIPPの役割
冠動脈疾患の疑い(心筋梗塞の既往なし) 診断精度は許容できる範囲とされ、血流の検査を補う(Yoshinaga 2014)
救急外来の胸痛(受診時には痛みが消えている) 過去の虚血の痕跡を見つける(Yoshinaga 2014)
血液透析中の患者さん 心血管イベントの予測に有用とする報告がある(Yoshinaga 2014)
心筋症・たこつぼ心筋症 代謝の異常の分布や程度を見る(後述)

虚血メモリーとは

虚血メモリー(ischemic memory)は、強い心筋虚血のあとに、機能や生化学の変化(代謝の乱れ)が長く残る現象です。血流が戻ったあとも、脂肪酸代謝の低下が続くので、「過去に虚血があった」ことを後から見つけることができます(Yoshinaga 2014)。

運動で誘発された虚血のあと、安静時にBMIPPを注射した32人の検討では、安静時のBMIPPの異常は、運動時の虚血を示したタリウムの異常と、早期像で91%、遅延像で94%の患者で一致しました。運動後の同じ日でも、翌日(約25時間後)でも同様に検出できました(Dilsizian 2005)。症状が治まった後でも、虚血の痕跡が代謝の画像に残っていることを示しています。

この性質は、救急外来で、すでに胸痛が消えた患者さんに、「本当に虚血があったのか」を調べる場面で役立つとされています(Yoshinaga 2014)。

血流とBMIPPのミスマッチの読み方

BMIPPは、血流の画像(タリウムやテクネチウム製剤)と並べて読みます。

血流 BMIPP 解釈
正常 正常 代謝・血流とも保たれている
正常または軽度低下 血流より強く低下(ミスマッチ) 虚血メモリーなど、代謝が傷んだが生きている心筋
低下 同じ程度に低下(マッチ) 梗塞・瘢痕を考える

血流の画像に比べてBMIPPの集積が低い所は、代謝は障害されているが生きている心筋を示すとされています(Kudoh 1997)。この「生きている心筋かどうか」の評価を、心筋バイアビリティの評価と呼びます。

気絶心筋と冬眠心筋

用語 意味 BMIPPでの見え方
気絶心筋(stunned myocardium) 虚血のあとに血流は回復したが、収縮の低下が一定期間続く状態 血流は戻っても、BMIPPの低下が残る
冬眠心筋(hibernating myocardium) 慢性的な血流低下のもとで、心筋が生き残るために働きを落としている状態 血流に比べて、代謝(BMIPP)の低下が強い

どちらも、血流の回復で機能が戻る可能性がある「生きている心筋」で、その評価に代謝の画像が使われます。血流再建の前に、FDGとBMIPPとMIBI(テクネチウム製剤)を撮影した30人の検討では、FDGとBMIPPの取り込みの差(代謝のミスマッチ)が大きい部位ほど、血流再建後の壁運動の改善が大きく、この差は駆出率の改善と相関しました(r=0.774)(Sato 2000)。

冠動脈バイパス術後の38人の検討では、血流を回復させたあとの代謝の乱れが、術後の経過とともに改善しました。ただし、術後中期でも13人(34%)に血流とBMIPPのミスマッチが残り、腎機能が低いことと、冠動脈の病変が複雑であること(SYNTAXスコアが高いこと)が関係していました(Morishima 2022)。

症例 冠動脈バイパス術後に、血流とBMIPPのミスマッチが残った例

冠動脈バイパス術後 血流SPECTとBMIPPの極座標表示 下壁のミスマッチ
引用:Morishima M, et al. Serial change in perfusion–metabolism mismatch after coronary artery bypass grafting. Ann Nucl Med. 2022;36(3):244-254 (Figure 3). CC BY 4.0(PMC)

冠動脈バイパス術後17か月(A)と47か月(B)の画像で、左から負荷時の血流、安静時の血流、BMIPPの極座標表示(ポーラーマップ)です。A図では、血流の画像は下後壁の梗塞を示しましたが、BMIPPでは下壁に血流とのミスマッチを伴う高度の低下〜欠損がありました。B図では、血流の欠損は改善しましたが、下壁のBMIPPの欠損とミスマッチが続いていました(Morishima 2022のFigure 3より)。

症例 代謝の低下が回復した例

冠動脈バイパス術後 BMIPPの前側壁の低下と回復
引用:Morishima M, et al. Serial change in perfusion–metabolism mismatch after coronary artery bypass grafting. Ann Nucl Med. 2022;36(3):244-254 (Figure 2). CC BY 4.0(PMC)

同じ論文の別の患者さんです。冠動脈バイパス術後3か月(A)の薬剤負荷血流SPECTは虚血も梗塞もなく、下壁の集積低下は減弱によるアーチファクトと判断されました。一方、BMIPPでは前側壁に軽度〜中等度の低下がありました。術後25か月(B)では、前側壁のBMIPPの集積が回復しています(Morishima 2022のFigure 2より)。

たこつぼ心筋症での所見

たこつぼ心筋症は、突然の胸痛や心電図のST上昇で、急性心筋梗塞と区別が必要になります。BMIPPでは、心尖部に限ったBMIPPの低下が特徴とされます。

たこつぼ心筋症16人と、左前下行枝の急性心筋梗塞12人を比べた検討では、BMIPPの欠損スコア(TDS)は、たこつぼで4.8、梗塞で22.4でした。BMIPPの異常は心尖部以外ではほとんど見られず(非心尖部/心尖部の比0.1、梗塞では1.1)、心尖部ではBMIPPの欠損スコアが血流の欠損スコアより大きくなっていました(3.9対1.8)(Matsuo 2014)。つまり、血流よりBMIPPの低下が強い、心尖部のミスマッチが、たこつぼ心筋症の代謝の特徴です。

肥大型心筋症での所見

肥大型心筋症(肥大型心筋症の画像診断)では、心筋の代謝の異常が、血流の低下より早い段階で現れる可能性があります(Tadamura 1998)。肥大型心筋症28人に、PETとSPECTで酸素代謝・糖代謝・BMIPPを調べた研究では、BMIPPの取り込み低下が、酸素代謝やFDGの取り込み低下よりも多く見られ、代謝異常のもっとも感度が高い指標と考えられました(Tadamura 1998)。

心筋の線維化や瘢痕は、心臓MRIの遅延造影(LGEとは)で見えます。交感神経の機能を見るMIBG心筋シンチとは、見ているものが違います。冠動脈の形は冠動脈CTで評価します。

BMIPPの限界

限界 内容
使える地域が限られる 日本では臨床で使われていますが、日本以外では、規制や供給の問題で使用が限られています(Otaki 2024)
虚血に特異的ではない BMIPPの低下は、虚血のほか、たこつぼ心筋症や肥大型心筋症などでも見られます。低下の原因は、症状・心電図・血流・冠動脈の評価と合わせて判断します
取り込みが見られない人がいる BMIPPを受けた1,258人のうち11人(0.9%)で、心筋にBMIPPが取り込まれませんでした。PETで調べた9人のうち7人では、空腹時に糖の利用が高まっており、脂肪酸から糖への代謝の切り替えが考えられました(Kudoh 1997)
時間の経過 虚血メモリーの検出は、虚血のあとの限られた時間内で検討されています。上の研究は、虚血から30時間以内の撮影でした(Dilsizian 2005)
診断の位置づけ 単独で冠動脈の狭窄を確定できる検査ではありません

よくある疑問(Q&A)

Q. 血流の検査が正常でも、BMIPPだけ低いと言われました。問題がありますか?
A. 虚血のあとに代謝の低下だけが残る「虚血メモリー」の可能性があります(Yoshinaga 2014)。症状や冠動脈の評価と合わせて、医師が判断します。気になる症状があるときは、医療機関に相談してください。

Q. BMIPPの検査で、運動や薬の負荷は必要ですか?
A. 通常は必要ありません。安静の状態で撮影できる点が、利点のひとつです(Otaki 2024)。

Q. たこつぼ心筋症の診断は、BMIPPで決まりますか?
A. BMIPPの心尖部の低下は特徴的な所見ですが、診断は症状・心電図・心エコー・冠動脈の評価などを合わせて行います(Matsuo 2014)。

Q. BMIPPの結果から、心筋の機能が戻るかどうかわかりますか?
A. 血流とのミスマッチは、生きている心筋の目安になります。代謝の画像で、血流再建後の壁運動の改善が大きい部位を示した報告もありますが(Sato 2000)、予測には限界があるため、他の検査と合わせて評価されます。

あわせて読みたい:負荷心筋血流シンチ(SPECT)の見方、核医学検査(シンチ・PET)の種類と読み方まとめ

参考文献

  1. Dilsizian V, Bateman TM, Bergmann SR, et al. Metabolic imaging with beta-methyl-p-[(123)I]-iodophenyl-pentadecanoic acid identifies ischemic memory after demand ischemia. Circulation. 2005;112(14):2169-74. PubMed
  2. Yoshinaga K, Naya M, Shiga T, et al. Ischaemic memory imaging using metabolic radiopharmaceuticals: overview of clinical settings and ongoing investigations. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2014;41(2):384-93. PubMed
  3. Kudoh T, Tamaki N, Magata Y, et al. Metabolism substrate with negative myocardial uptake of iodine-123-BMIPP. J Nucl Med. 1997;38(4):548-53. PubMed
  4. Sato H, Iwasaki T, Toyama T, et al. Prediction of functional recovery after revascularization in coronary artery disease using (18)F-FDG and (123)I-BMIPP SPECT. Chest. 2000;117(1):65-72. PubMed
  5. Morishima M, Kiriyama T, Miyagi Y, et al. Serial change in perfusion-metabolism mismatch after coronary artery bypass grafting. Ann Nucl Med. 2022;36(3):244-254. PubMed
  6. Matsuo S, Nakajima K, Kinuya S, et al. Diagnostic utility of 123I-BMIPP imaging in patients with Takotsubo cardiomyopathy. J Cardiol. 2014;64(1):49-56. PubMed
  7. Tadamura E, Kudoh T, Hattori N, et al. Impairment of BMIPP uptake precedes abnormalities in oxygen and glucose metabolism in hypertrophic cardiomyopathy. J Nucl Med. 1998;39(3):390-6. PubMed
  8. Otaki Y. Underrecognized Utility of (123)I-BMIPP in CAD Diagnosis Outside of Japan. Ann Nucl Cardiol. 2024;10(1):44-48. PubMed

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