遺伝性の婦人科がん HBOC・リンチ症候群と画像検査の注意点

家族にがんが多く、遺伝性のがんかもしれないと言われました。婦人科のがんも増えるのでしょうか?画像検査で気をつけることはありますか?
HBOC(BRCA1/2)では卵巣・卵管のがん、リンチ症候群では子宮体癌や卵巣癌が増えます。どのがんが増えるかを知っておくと、画像の見方や受け止め方が変わります。

先に結論:遺伝性の婦人科がんは「どの遺伝子か」で増えるがんが違う

症候群 主な原因遺伝子 増える婦人科がん 画像で注意すること
遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC) BRCA1・BRCA2 卵巣癌(卵管癌を含む)。80歳までの累積リスクはBRCA1で44%、BRCA2で17%(Kuchenbaecker 2017) 画像による検診で早い病期に見つかる割合は増えるが、生存への効果は未確定。画像が正常でも卵管の小さな病変は手術の病理で初めてわかることがある
リンチ症候群 MLH1・MSH2・MSH6・PMS2 子宮体癌・卵巣癌(MSH6は子宮体癌のリスクが高い)(Dominguez-Valentin 2020) 子宮下部(lower uterine segment)の体癌はリンチ症候群の割合が高い。卵巣癌は若年・早期・類内膜/明細胞などの組織型が多い

遺伝子に病的バリアントがあっても、全員ががんになるわけではありません。検査の方法や間隔は、遺伝カウンセリングを含めて主治医と相談して決めます。

遺伝性の婦人科がんとは

遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)

BRCA1またはBRCA2の病的バリアントによって、乳癌と卵巣癌のリスクが高くなる状態です。BRCA1保有者6,036人・BRCA2保有者3,820人の前向きコホートでは、80歳までの累積リスクは以下のとおりでした(Kuchenbaecker 2017)。

がん BRCA1 BRCA2
乳癌 72% 69%
卵巣癌 44% 17%
対側乳癌(乳癌診断後20年) 40% 26%

(Kuchenbaecker 2017より。乳癌のリスクは第1度・第2度近親者の乳癌の人数が多いほど高かった)

乳房のハイリスク検診で行うMRIについては乳房MRI(乳腺MRI)の適応にまとめています。

リンチ症候群

ミスマッチ修復遺伝子(MLH1・MSH2・MSH6・PMS2)の病的バリアントによる優性遺伝形式の症候群で、大腸癌に加えて子宮体癌・卵巣癌などが増えます。6,350人の保有者を追跡したProspective Lynch Syndrome Databaseの報告では、遺伝子ごとに次のような違いがありました(Dominguez-Valentin 2020)。

遺伝子 特徴
MLH1・MSH2 大腸癌・子宮体癌・卵巣癌のリスクが同程度に高い。MSH2では高齢になると上部尿路・上部消化管・脳・前立腺のがんも多い
MSH6 子宮体癌のリスクが高い一方、大腸癌のリスク上昇は中等度
PMS2 がんのリスクの有意な上昇は示されなかった

大腸癌・子宮体癌・卵巣癌の診断後10年の粗生存率はいずれも80%を超えていました(Dominguez-Valentin 2020)。

画像検査で注意すること

HBOC:卵巣・卵管がんの検診の限界

英国のUKFOCSS第2相試験では、生涯リスク10%以上の高リスク女性4,348人に、CA-125(ROCAという判定法)と経腟超音波による検診を行いました。検診中または検診終了後1年以内に診断された卵巣癌・卵管癌19例のうち、52.6%がⅠ〜Ⅱ期でした。検診終了から1年以上たって診断された例では18例中17例(94.4%)がⅢb〜Ⅳ期であり、早い病期への移行(stage shift)が示されましたが、生存率を改善するかどうかはわかっていません(Rosenthal 2017)。

また、この試験の19例のうち6例は検診では見つからず、リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)の病理で初めて見つかった潜在癌でした(Rosenthal 2017)。

RRSOで見つかる病変

BRCA保有者のRRSOについてのメタアナリシスでは、病理で何らかの病変が見つかる割合は5%、漿液性卵管上皮内癌(STIC)は1%、潜在癌は3%と推定されました。潜在癌の61.3%は卵管、32.3%は卵巣にあり、81.5%は早期でした(Cheng 2020)。

つまり、術前のCT・MRI・超音波で異常がなくても、卵管の小さな病変は否定できません。画像の役割は、明らかな腫瘤・腹水・腹膜播種などを拾い上げることにあると考えます。卵巣腫瘍の一般的な見方は卵巣腫瘍の画像診断、進展経路は卵巣腫瘍の画像診断の役割と進展経路で確認できます。

リンチ症候群:子宮下部の体癌に注目

子宮体部と頸部の境界付近(lower uterine segment:LUS)から発生した子宮体癌は、子宮体癌全体の3.5%でした。LUSの体癌は体部の体癌より若く、病期が高く、浸潤も強い傾向があり、術前には頸部腺癌と区別しにくいことがありました。そしてLUSの体癌の29%がリンチ症候群(確定または強く疑い)で、子宮体癌全体での1.8%、50歳未満での8〜9%より高い割合でした(Westin 2008)。

MRIでLUSの体癌を定義する試みもあります。矢状断で子宮内腔を底部から4等分し、腫瘍の最も厚い部分が2番目か3番目の区画にあるものをLUSの体癌とすると、587例中59例(10.2%)が該当し、そのうち20.3%がリンチ症候群疑いでした(Yamazaki 2020)。子宮体癌のレポートで腫瘍の中心の高さを書いておくと、遺伝性を考えるきっかけになり得ます。子宮体癌の画像所見は子宮体癌のMRI画像診断を参照してください。

リンチ症候群の卵巣癌

リンチ症候群の卵巣癌747人を集めた系統的レビューでは、診断時の平均年齢は45.3歳(19〜82歳)、遺伝子はMSH2(47%)とMLH1(38%)が多く、組織型は粘液性・類内膜・明細胞の混合型(31%)が最も多く報告されていました。65%はⅠ〜Ⅱ期の早期で見つかっていました(Helder-Woolderink 2016)。若い女性の類内膜・明細胞系の卵巣腫瘍では、家族歴に目を向ける価値があります。

心配しすぎなくてよい場合・注意が必要な場合

  • 病的バリアントがあっても、卵巣癌の累積リスクはBRCA1で44%、BRCA2で17%であり(Kuchenbaecker 2017)、全員が発症するわけではありません。
  • PMS2ではがんのリスクの有意な上昇が示されなかったように(Dominguez-Valentin 2020)、遺伝子によってリスクは大きく異なります。
  • 一方、画像検診で異常がないことは「がんがない」ことの保証にはなりません(Rosenthal 2017、Cheng 2020)。

次にすること

家族歴や本人の病歴から遺伝性が疑われる場合は、遺伝カウンセリングと遺伝学的検査、婦人科・乳腺科での相談が出発点になります。検診の方法・間隔やリスク低減手術の時期は、遺伝子の種類・年齢・家族歴によって変わるため、主治医と相談して決めます。

不正出血、おなかの張り、下腹部のしこりなど気になる症状があれば、検診の予定を待たずに婦人科を受診してください。

よくある疑問(Q&A)

Q1. 超音波やCA-125の検診で卵巣癌は防げますか?

高リスク女性での検診で早い病期に見つかる割合が増えることは示されましたが、生存率を改善するかはわかっていません(Rosenthal 2017)。検診とリスク低減手術の位置づけは主治医と相談します。

Q2. BRCA2なら卵巣癌は心配ないのですか?

80歳までの累積リスクは17%で、BRCA1(44%)より低いものの一般より高い値です(Kuchenbaecker 2017)。

Q3. 子宮体癌の場所がリンチ症候群と関係するのですか?

子宮下部(LUS)の体癌ではリンチ症候群の割合が29%と高かったと報告されています(Westin 2008)。MRIで腫瘍の高さを評価する方法も提案されています(Yamazaki 2020)。

参考文献

  1. Kuchenbaecker KB, Hopper JL, Barnes DR, et al. Risks of Breast, Ovarian, and Contralateral Breast Cancer for BRCA1 and BRCA2 Mutation Carriers. JAMA. 2017;317(23):2402-2416. PubMed
  2. Dominguez-Valentin M, Sampson JR, Seppälä TT, et al. Cancer risks by gene, age, and gender in 6350 carriers of pathogenic mismatch repair variants: findings from the Prospective Lynch Syndrome Database. Genet Med. 2020;22(1):15-25. PubMed
  3. Rosenthal AN, Fraser LSM, Philpott S, et al. Evidence of Stage Shift in Women Diagnosed With Ovarian Cancer During Phase II of the United Kingdom Familial Ovarian Cancer Screening Study. J Clin Oncol. 2017;35(13):1411-1420. PubMed
  4. Cheng A, Li L, Wu M, et al. Pathological findings following risk-reducing salpingo-oophorectomy in BRCA mutation carriers: A systematic review and meta-analysis. Eur J Surg Oncol. 2020;46(1):139-147. PubMed
  5. Westin SN, Lacour RA, Urbauer DL, et al. Carcinoma of the lower uterine segment: a newly described association with Lynch syndrome. J Clin Oncol. 2008;26(36):5965-71. PubMed
  6. Yamazaki H, Takeshita S, Todo Y, et al. Imaging-based definition of lower uterine segment carcinoma to improve the detection sensitivity of probable Lynch syndrome. Jpn J Clin Oncol. 2020;50(3):270-275. PubMed
  7. Helder-Woolderink JM, Blok EA, Vasen HF, et al. Ovarian cancer in Lynch syndrome; a systematic review. Eur J Cancer. 2016;55:65-73. PubMed

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