
食道裂孔ヘルニアとは、胃などおなかの臓器の一部が、横隔膜の穴(食道裂孔)を通って胸の中(縦隔)へ上がった状態です。健診のバリウム・胸部X線・CTで「ヘルニア」と書かれたとき、研修医のハジメくんと一緒に、どこを見て何型かを考え、どの型に注意するかを整理します。
先に結論
- 食道裂孔ヘルニアとは、胃の一部が横隔膜の穴(食道裂孔)から胸へ上がった状態。ほとんどはⅠ型(滑脱型)で、症状がなければ経過観察が多い。
- 画像では、胸部X線で心臓の影に重なるガスと鏡面像、CTで横隔膜より上・心臓の後ろの胃として見える。
- Ⅰ型は逆流性食道炎と結びつきやすい。Ⅱ〜Ⅳ型(傍食道型)は胃のねじれ・詰まりに注意する。
目的から読む: 食道裂孔ヘルニアとは / 分類(Ⅰ〜Ⅳ型) / バリウム・胸部X線 / CT所見 / 逆流性食道炎・症状 / 注意が要る型 / 指摘されたあとの対応
食道裂孔ヘルニアとは?横隔膜の穴から胃が胸へ上がる状態

食道裂孔ヘルニアの意味
胸とおなかの間には、横隔膜(おうかくまく)という筋肉の膜があります(場所は「横隔膜はどこにある?」)。食道はこの横隔膜の穴=食道裂孔(しょくどうれっこう)を通って、おなかの中の胃につながっています。
この穴がゆるんだり広がったりして、おなかの中にあるはずの胃などが胸の中(縦隔)へ入りこんだ状態が食道裂孔ヘルニアです(Kahrilas 2008)。「ヘルニア」は、臓器が本来の場所から飛び出している状態をさす言葉です。
食道裂孔ヘルニアの分類(Ⅰ〜Ⅳ型):つなぎ目の位置で分ける


食道裂孔ヘルニアは、どこが・どのように上がっているかで4つの型に分けられます(Kahrilas 2008)。
| 型 | どうなっているか | 頻度 | 主な問題 |
|---|---|---|---|
| Ⅰ型(滑脱型) | 食道と胃のつなぎ目(噴門)ごと胸のほうへ上がる | 最も多い | 逆流性食道炎・胸やけ |
| Ⅱ型(傍食道型) | つなぎ目は正しい位置のまま、胃の上の部分(胃底部)が食道の横から胸へ上がる | Ⅱ〜Ⅳ型を合わせても 全体の多くて5〜15% |
胃のねじれ(捻転)・詰まり・血流障害 |
| Ⅲ型(混合型) | Ⅰ型とⅡ型の両方の特徴をもつ | ||
| Ⅳ型 | 大きな穴から、胃以外のおなかの臓器も胸へ入る |
Ⅰ型は、診断の基準によって北米の成人の10〜80%にあるとされるほどよくある変化です(Kahrilas 2008)。健診で言われるのも、多くはこのタイプです。
健診のバリウム・胸部X線での見え方

バリウム検査(胃透視)
バリウムを飲んで撮る検査では、胃の一部が横隔膜より上にふくらんで写ります。Kahrilasらは、バリウムを使った造影検査は傍食道型の診断に「ほぼ常に」役立つとしています。滑脱型は、ずれが2cmを超えればバリウム検査や内視鏡で診断しやすい一方、それより小さいずれは、つなぎ目が動くため検査のタイミングで見えたり見えなかったりします(Kahrilas 2008)。
胸部レントゲン
大きなヘルニアでは、立って撮った胸部レントゲンで、心臓の影に重なるガス(空気)の影や、液体との境目の水平な線(鏡面像)が見えることがあります(Kahrilas 2008)。健診のレントゲンで「心陰影に重なる透亮像(とうりょうぞう)」などと書かれるのはこのためです。心臓の影については「心陰影の拡大(心拡大)とは?」も参考にしてください。
症例 70歳代男性 食後のもたれ感と吐き気。逆流性食道炎の持病あり
胸部X線の正面像です。心臓の影に重なるように、下のほうに丸く黒っぽい(空気を含む)影があり、その中に水平な線(空気と液体の境目)が見えます。お腹にあるはずの胃の一部が、横隔膜の穴を通って胸の中へ上がってきた食道裂孔ヘルニアの典型的な見え方です。
食道裂孔ヘルニアのCT所見:横隔膜より上・心臓の後ろの胃

CT
CTでは、横隔膜より上、心臓の後ろ側の縦隔(じゅうかく)に、胃の一部が袋のように見えます。心臓の石灰化を調べるCT(冠動脈石灰化スコア)など、別の目的のCTで偶然見つかることもあり、胸の痛みの原因になることもあると指摘されています(Kerut 2017)。縦隔の場所は「縦隔とは?」で解説しています。

関連:「バリウム検査後のCTで見える高吸収」・「胸部CTの読影・見方の基本」
逆流性食道炎との関係と症状(胸やけ)

ヘルニアの大きさと食道炎
Ⅰ型(滑脱型)の一番の問題は、胃酸の逆流(胃食道逆流症)と結びつきやすいことです(Kahrilas 2008)。胃食道逆流症の患者さんを調べた研究では、食道炎の重さを最もよく予測したのはヘルニアの大きさで、次が下部食道括約筋(食道の出口を締める筋肉)の圧でした(Jones 2001)。ヘルニアが大きいほど、ただれ(びらん)を伴う食道炎になりやすいということです。
注意が要る型:傍食道型(Ⅱ〜Ⅳ型)と胃のねじれ

機械的な合併症
傍食道型は逆流を起こすこともありますが、より重要なのは機械的な合併症です。症状がある場合、多くは胃の血流障害や、胃の部分的・完全な詰まりによるものです。胸の中で胃がねじれる(胃軸捻転)と、急に胃が詰まり、はまりこんで戻らなくなったり(嵌頓)、穴があいたり(穿孔)することがあります(Kahrilas 2008)。
症状がない傍食道型は手術か経過観察か
症状がない・軽い傍食道型で、急な症状が出て緊急手術が必要になる確率は、1年あたり約1.1%と見積もられています。このため、症状がない人ではすぐに手術とは限らず、経過観察も妥当な選択肢とされています(Stylopoulos 2002)。米国内視鏡外科学会(SAGES)の2024年の指針でも、症状がないヘルニアの手術は、条件を満たす一部の人に提案しうる、という扱いです(Daly 2024)。
根拠(もう少し詳しく)
- Stylopoulos 2002 は、症状がない・軽い傍食道型の仮想の患者集団で、待機的な腹腔鏡手術と経過観察を比べた決定分析です。待機的な腹腔鏡手術の死亡率は1.4%、全国データでの緊急手術の死亡率は5.4%(それまでの論文の17%より低い)で、経過観察のほうがよいと予測されたのは83%の患者でした(Stylopoulos 2002)。
健診で食道裂孔ヘルニアと言われたあとの対応(治療・手術の目安)

型と症状ごとの対応の目安
- 症状がない滑脱型:多くは経過観察。次回の健診で指摘が続いても、それだけで治療が要るわけではないことが多い
- 胸やけ・呑酸(すっぱいものが上がる)がある:消化器内科で評価。警告症状(飲みこみにくさ・出血・体重減少など)がなければ胃酸を抑える薬を試すことが多く、警告症状がある・薬が効かない場合は内視鏡を検討(Katz 2022)
- 傍食道型・大きいヘルニア:消化器内科・消化器外科で、手術が必要かどうかを検討
- 急ぎの評価:急な強い胸やみぞおちの痛み、くり返す嘔吐、食べ物がつかえて飲みこめない(胃のねじれ・詰まりを考える)
症状がない場合の手術は、年齢や体の状態をふまえて外科と相談して決めます(Daly 2024)。
よくある勘違い
Q. 健診で書かれたり書かれなかったりするのは、悪くなったり治ったりしているから?
いいえ。小さな滑脱型は、食道と胃のつなぎ目が動くため、撮るタイミングで写ったり写らなかったりします(Kahrilas 2008)。病気が出たり消えたりしているわけではありません。
Q. 薬を飲めば、食道裂孔ヘルニアは自然に治る?
横隔膜の穴そのものが薬で閉じるわけではありません。症状がなければ治療は不要なことが多く、胸やけには逆流を抑える治療が行われます。
Q. 心臓の後ろの袋状の影は、縦隔の腫瘍?
中に空気や液体、胃のひだがあり、下へたどると横隔膜の穴を通っておなかの胃に続いていれば、食道裂孔ヘルニアを考えます。胸部X線では心臓の影に重なるガスと鏡面像が手がかりです。
今日のまとめ
- 食道裂孔ヘルニアは、胃の一部が横隔膜の穴から胸へ上がる状態。型は大きさではなく食道と胃のつなぎ目の位置で分ける。
- X線では心臓の影に重なるガス、CTでは横隔膜より上・心臓の後ろの胃。つなぎ目は冠状断でたどる。
- Ⅰ型は逆流性食道炎、Ⅱ〜Ⅳ型(傍食道型)は胃のねじれ・詰まりに注意。症状がなければ経過観察が多い。
▶ ほかの所見も調べる:健診・人間ドックの画像検査で言われやすい所見一覧
参考文献
- Kahrilas PJ, Kim HC, Pandolfino JE. Approaches to the diagnosis and grading of hiatal hernia. Best Pract Res Clin Gastroenterol. 2008;22(4):601-616. PubMed
- Jones MP, Sloan SS, Rabine JC, et al. Hiatal hernia size is the dominant determinant of esophagitis presence and severity in gastroesophageal reflux disease. Am J Gastroenterol. 2001;96(6):1711-1717. PubMed
- Stylopoulos N, Gazelle GS, Rattner DW. Paraesophageal hernias: operation or observation? Ann Surg. 2002;236(4):492-500. PubMed
- Daly S, Kumar SS, Collings AT, et al. SAGES guidelines for the surgical treatment of hiatal hernias. Surg Endosc. 2024;38(9):4765-4775. PubMed
- Kerut EK, Balart JT. “Diagnosis” of a hiatal hernia from a CT coronary artery calcium scan. Echocardiography. 2017;34(10):1515-1518. PubMed
- Katz PO, Dunbar KB, Schnoll-Sussman FH, et al. ACG Clinical Guideline for the Diagnosis and Management of Gastroesophageal Reflux Disease. Am J Gastroenterol. 2022;117(1):27-56. PubMed
症例画像は各図の引用元のとおりです。
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