小腸炎を引き起こす病態の鑑別診断についてまとめました。

画像所見は非特異的なものが多く、基礎疾患や、食事歴、服薬などの問診が診断のてがかりに非常に有効となります。

小腸炎の鑑別診断

スライド31

小腸炎の鑑別診断ではウイルス性、細菌性以外に以下のものを鑑別にあげましょう。

  • 血管炎に基づく虚血性腸炎:膠原病(SLE)、血管炎
  • 好酸球性腸炎(食餌性アレルギー)
  • Henoch-Schonlein紫斑病
  • アニサキス腸炎
  • MRSA腸炎

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血管炎に基づく虚血性腸炎

  • 血管炎はあらゆる大きさの血管に壊死、炎症を引き起こ疾患で、消化器については、麻痺性イレウス、腸間膜虚血、粘膜下層の浮腫と出血、腸管穿孔と狭窄が出現する。
  • 病変血管の大きさや部位によって臨床症状の程度が異なる。
  • 若年患者の腸間膜虚血・まれな消化管部位(胃・十二指腸・直腸)の病変・小腸から大腸を同時に障害する・泌尿器病変合併などの場合には、血管炎を疑う必要がある。
障害血管の大きさ・疾患・臨床症状
Vessel size 疾患 臨床症状
Large 巨細胞性血管炎・高安動脈炎 腸間膜虚血
Medium 結節性多発動脈炎・川崎病 動脈瘤破裂による腸管内腔や腹腔への出血
Small [ANCA関連血管炎]
Wegener肉芽腫症・Churg-Strauss病・顕微鏡多発血管炎[免疫複合体による血管炎]
Henoch-Schonlein紫斑病・SLE・サイログロブリン血管炎・リウマチ性血管炎・ベーチェット病・シェーグレン症候群・Goodpasture症候群
潰瘍・狭窄病変の形成、穿孔はまれ

 

SLE腸炎(ループス腸炎)

  • 若年から中年の女性に見られることが多い。
  • 腹痛、嘔吐、下痢などを主訴とする。
  • 消化管病変は、食道から直腸までさまざまな区域・範囲に及ぶ。なので小腸限局というわけではない。
  • SLEによる下部消化管病変=血管炎に基づくループス腸炎 and/or 蛋白漏出性胃腸症。
  • ループス腸炎は壊死性血管炎によって腸管壁に虚血・出血・梗塞が生じると類推されている。
  • 小腸型、大腸型に分かれる。
  • 小腸型では、急性発症の虚血性腸炎様。大腸型では多発潰瘍を形成する。
  • 治療はステロイド、免疫抑制剤。

画像所見

  • 小腸壁の壁肥厚と層状濃染。多発する広範囲な血管支配領域に及ぶ。
  • 大腸壁にも見られることあり。
  • 泌尿器領域疾患(ループス腎炎、膀胱炎、水腎症)の合併が高頻度。
  • ループス腸炎の10%にループス膀胱炎あり。逆にループす膀胱炎には腸炎が必ず見られる。
  • 膀胱炎では膀胱壁肥厚所見あり。
  • 水腎症は排尿筋の攣縮とそれに続く膀胱尿管逆流や膀胱尿管移行部での線維化が類推されている。
  • 血管炎による腸炎+膀胱炎は、他に結節性多発動脈炎、Henoch-Schonlein紫斑病でも認められる
  • 腹水を伴うのも特徴。
SLEの腹部症状
  • 腹膜炎、漿膜炎
  • 尿毒症
  • 膵炎
  • イレウス
  • 蛋白漏出性胃腸症
  • 腸炎
  • 膀胱炎、腎炎、水腎症
  • 肝脾腫大
  • 後腹膜リンパ節腫大
  • intestinal pseudo-obstruction

好酸球性腸炎 eosinophilic enteritis

  • アレルギー性腸炎。(食餌性アレルギー)
  • 胃十二指腸〜小腸にかけて広範な壁肥厚と層状濃染が見られ、腹水を伴うことが多い。
  • 末梢血の好酸球やIgEの上昇が見られる。
  • 確定診断には組織の好酸球浸潤の確認が必要。
  • 粘膜優位型、固有筋層優位型、漿膜優位型に分類されるが、漿膜優位型では超音波やCTで腹水と腸管壁の肥厚が確認できる。

症例 50歳代女性

引用:radiopedia

空腸に広範な粘膜下層の肥厚を認めています。

また腹水貯留あり。

好酸球が限局的に増加した大腸内視鏡生検、骨髄生検での好酸球増多、および腹水中の好酸球の上昇を認め、好酸球性腸炎と診断されました。

Henoch-Schonlein紫斑病(HSP)

  • 小児に好発。
  • 全身性の小血管炎を主徴とする疾患。
  • 先行する気道感染によるアレルギー反応が病因といわれる。
  • 皮疹は特徴的であるが10-20%の症例で出現が腹部症状より遅れる。
  • そのため、小児の急性腹症では紫斑がなくても念頭におく必要がある。
  • 胃十二指腸から小腸にかけて複数箇所のスキップして区域性、多発性の壁肥厚と単純CTで粘膜の高吸収(血管炎を示唆)、造影にて層状濃染が見られる。
  • 画像所見は非特異的であるため、紫斑がない場合は、D-dimerや第ⅩⅢ因子などの血管炎指標の評価が診断の一助となることがある。
  • 強い症状の割に腸管の穿孔や閉塞は少なく、通常は2週間程度で後遺症を残すことなく治癒すると言われる。

症例 50歳代男性

引用:radiopedia

遠位の十二指腸〜空腸に粘膜下層の肥厚を認めています。

(年齢は非典型的ですが)Henoch-Schonlein紫斑病による十二指腸空腸炎と診断されました。

アニサキス腸炎

  • 摂取した魚介類に寄生していたアニサキスが消化管に噛みつくことで発生する。
  • サバやイカなど。
  • 胃、十二指腸、空腸に多い。
  • 寄生虫によって誘導されるアレルギー反応が変化の主体となるため、細菌性やウイルス性の腸炎とは機序が異なる。
  • 局所のアナフィラキシー反応を反映して腸管の高度浮腫、腸間膜浮腫、腹水貯留といった血管外への液体漏出を主体とした変化が見られる。
  • 通常の腸炎ではこの変化は少ない。非特異的な腸炎像の中で、比較的特徴的である。
  • アニサキス腸炎では、高度炎症による内腔狭窄の結果、腸炎症状よりも小腸閉塞による症状が前面に出てくる場合もある。
  • 幼虫は1週間程度で死滅するので、対症療法で様子を見ても大丈夫。(穿孔などしなければ)
  • 胃では、穹窿部から胃体部の大弯側が好発部位。
  • ELISAキットによる抗アニサキス抗体の測定もしくは、内視鏡による直視下での虫体を確認して診断する。認めた場合は、摘除する。

症例 40歳代男性 胃アニサキス症

gastric anisakiasisgastric anisakiasis1

胃壁の著明な肥厚を認めており、急性胃炎を疑う所見。内視鏡にてアニサキスが確認された。

MRSA腸炎

  • 第3世代セフェム系抗生物質投与後にMRSAが増殖し、これが産生する毒素により発症。免疫力が低下した患者に発生。
  • 主として小腸に病変を形成し、麻痺性イレウスを起しやすい。
  • 臨床症状からは偽膜性腸炎との鑑別は困難。大腸病変は小腸に比べて頻度が少なく、程度も軽いことが多い。

非特異的部位に認められる感染性腸炎

スライド42

腹水を伴いやすい腸炎

  • O-157腸炎
  • 偽膜性腸炎
  • 好酸球性腸炎(アニサキスはここに含まれる)
  • ループス腸炎

の4つ。

腸管壁肥厚が強い傾向にある疾患

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参考文献)画像診断2001年6月 腸管虚血の画像診断 P629-636

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